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退屈な店番

「客が来ねぇんじゃどうしようもないんだよなぁ…。」


 異世界ハローワークでの最後に紹介された仕事。

 店主の女であるルビィが城下以外に店舗を出すということで、その準備で忙しいからと店を任された形だ。

 残っている商品は売れ残り同然の物なので売上の半分を俺に報酬としてくれるという破格の条件なんだが、何よりものこの店立地が悪い。

 帝国で商売するなら基本は大通り。

 少し入った裏通りはほぼ貧民街であり、そこで店を構えるというのは危険と隣り合わせな上に売上は期待できない。

 で、この店は半分貧民街に片足を突っ込んでいるのだ。

 強盗に襲われた事は両手両足では数え切れない。

 売上は大通りの店の半分以下。

 店主は早々に見切りを付けて早い内から他の事業に切り替えていたこともあり、最近やっと違う町で店を構えることが出来るだけ金を貯めたらしい。

 暇なので表の通りを見ていると、貧民とは思えない着飾った服装をした男が店に入ってきた。


「相変わらず暇そうだな、この店は。」


「……誰だアンタ?」


「おっと、僕のルビィは居ないのかい?」


 そういえば言っていたな。

 たまに大通りに店を構える奴らが茶化しに来るって。

 このデブもその1人か。


「店主は別の店舗出すんだとよ。」


「何ぃ!?彼女は僕のフィアンセなのに僕に黙って別の店舗だって!?」


「へー。」


 興味が無い。


「全く!!そんな事より僕と彼女の出会いを聞きたいかい?」


「営業妨害だから帰ってくれ。」


 空気が読めないにも程があるな。

 他に客が居ないのが余計にしんどい。


「彼女と出会ったのは、そう。月の綺麗な夜だった。」


「いい加減にしねぇとお前のみぞおちに拳を突き出すぞ。」


「普通そこは警備隊に突き出すぞじゃないのかい?分かった分かった。彼女が居ないのなら日を改めるよ。」


 そう言ってデブはそそくさと帰って行った。


「どっと疲れたな……。」


 タバコに火をつけ、陶器の器に灰を落としているだけでその日の仕事は終わってしまった。




「って言うことがあったんだが?」


「ルーファスの奴、まだそんな事言ってたのね。」


 営業終わり、店でルビィと今日あったことを話した。

 ルビィは呆れ顔でため息をつきながら事の経緯を話し出す。


「アタシ昔はお金無くてね。お店開くためにルーファスの親にいくらか融資してもらったのよ。そのお金は無事に完済出来たんだけど、それにつけ込んでアタシを息子の嫁にするって言い出してねぇ……。」


 俺がタバコに火をつけて陶器の器に灰を落とすと、「それ、商品だから。」と言われて灰皿を取り上げられてしまった。


「アイツらから離れる為にも別の町で店開くことにしたんだけどね。ほんと、嫌にやるわ。」


「結婚すればいいじゃねぇか。デカイ店も金も手に入るだろう。」


「アンタ他人事だと思って適当言ってるでしょ。」


 バレたか。


「優秀なのはルーファスの親。アタシは商人よ?今持ってる金よりもこれから生み出す金の方が大事なの。1年で2件店を潰してるルーファスに、その才能は全くもって無いわ。」


「まぁ、言ってることは分かる。俺も元経営者側だったからな。だがどうするよ。このままだとアイツが連日来て結構迷惑何だが?」


「んー……。アタシ的にはこの店も畳むし別に良いっちゃあ良いのよね。契約も歩合制にしてるからお金発生しないし。」


「おいおい、タダ働きさせようってのか?勘弁してくれよ。」


「流石にそれは可哀想だし、アイツらを諦めさせてくれたら別でお礼するから頼まれてくれない?多分お金より価値がある物を提供できると思うけど?」


 そう言うとルビィは背負ったカバンから1本のインゴットを取り出した。


「これね、アタシが今主にやってる商売の方の商品。簡単には手に入らない物よ。」


 そのインゴットは白銀に輝き、手に持つと異様に軽い。

 まるで外側だけ銀紙を貼った紙箱の様な軽さである。


「何だこれ?」


「加工前のオリハルコン。黒曜石とは真逆の世界で最も魔力を伝達しにくい素材。今は外側の世界にしか存在しない非常に希少価値の高い物よ。」


「魔力伝達しにくいんだったら武器や防具として使いづらいだろう。クズ素材じゃねぇか。」


「分かってないわね。魔力を伝達しにくいということは、敵の魔法を遮断できるって事よ。黒曜石は魔力と魔力のぶつかり合いだけど、これは相手の魔力を貫通して一方的にこちらの物理攻撃を押し付けられるのよ。」


 つまりユイの能力みたいなものか。

 そう言われるとかなり優秀な素材だな。


「面白そうな素材だが、なんでそんな物俺に?」


「商売の基本は情報収集でしょ?アンタが前の大会の時決勝まで進んだのは知ってるわ。アンタならこの素材を有効活用出来そうだから譲ろうと思ったのよ。」


「本音は?」


「仕入れたのは良いけど、性質上自分の魔力も伝達しにくいから扱いが難しすぎて買い手がつかないのよ。」


「正直でよろしい。悪くない素材だし、今回の件とりあえず手は尽くしてみる。」

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