地位も立場も
「げっ!!あいつが主催かー……。」
「この綺麗な声はクレアさんですね。」
翌日俺とレインは街の清掃業務の仕事をしていた。
正直働く必要は全く無いのだが、契約を交わした(どっかの巫女様が)仕事は断ると違約金が発生するため、1日だけ行ってあとはフケようと思ってる。
そう思っていた矢先に雇い主が知り合いとなるとサボりづらいんだよなぁ……。
俺の中の良い人の部分が出ちゃう。
「アンタ今、心にも無いこと思ってるわね?」
「心の中でくらい思わせてくれよ。」
相変わらずソールは暇そうに朝一番でレインを訪ねてきたので、そのまま拉致って俺達の仕事に連れてきた。
ていうかこいつが主な原因なんだから全部お前がやれよ。
「皇帝の娘であり、巫女であるこの私が街の清掃業務をどうしてやらなきゃいけないのよ。」
「周りの目を気にしないでそういうこと言ってるからお前は友達がいないんじゃないのか?」
「事実を言ったまでよ。」
その事実は周りのそういう作業をしなければ食っていけない連中にとって良いめでは見られないんだよ。
10数人単位で集められた周りの冒険者等の冷ややかな目がキツイ。
「説明は以上になりますぅ。それでは皆さん、お願いいたしますねぇ。」
全然説明聞いてなかったわ。
「とりあえず街のゴミを拾って貰った袋に入れ、あまりにも汚い場所は水の魔法が使える方を呼んでくださいって仰ってましたよ?」
「流石レイン。頼りになるな。」
「……んじゃあちゃっちゃと終わらせましょう。アタシ達の区分はこっちでしょ?」
そう言ってソールがズカズカと裏路地の方へ入っていく。
「待て待て待て。お前命狙われる可能性あるんだからあんま1人で行動すんなよ。」
「安心してください。私がレインさんは見ておきますからぁ。」
「ああ、すみません!!ありがとうございます!!って何サラッと参加してんだよ。」
声をかけられて振り向いたらそこにはクレアが笑顔でレインの手を引いていた。
「そんな怖い顔しないでくださいよぉ。ほらぁ、早く巫女様追わないと悪い人に捕まっちゃいますよぉ?」
「あーもう!!じゃあ、頼んだからな!!」
「はぁーい。」
気の抜けた返事を背に、俺はソールを追った。
「本当は私が一成さんと一緒が良かったんですけどねぇ。」
「ど、どうしてですか?」
「面白い人でしょう?一成さん。私、ちょっと気に入っちゃってますよぉ?」
「だ、ダメですよ!!」
「ふふっ。貴女の事も、気に入ってますけどねぇ。」
「全く、1人で行くなって言ってんだろうが。」
俺はあっさりとソールに追いつき、真面目にゴミ拾いをしているソールに背後から声をかけた。
「大丈夫よ。アタシは1人でも。アンタはレインを見ててあげなさいよ。」
「んや、クレアが横から入ってきてな。任せてきたよ。」
「そう。」
テンションの浮き沈みが激しいヤツだな。
さっきまでと打って変わって表情が暗い。
「何かあったのか?」
「……。」
無視かーい。
それとも原因は俺か?
そんな事を思いながらせっせとゴミを集めていると、ソールが口を開いた。
「時々思っちゃうのよ。アタシは巫女だから皆に必要とされてるだけだってね。」
俺の方を振り向きもせず、手を止めずにソールは続けた。
「アンタさっき流石レインって言ったわよね?アタシは全部が出来て当たり前。流石なんて言われたことは1度もないわ。」
「あー、俺、地雷踏んでた……?」
「いいのよ。アタシのただの思い込みだしねー。でもアンタにはレインが居るし、レインにはアンタが居る。お互い支え合っているのを見たら、ちょっと寂しくなっちゃっただけ。」
「お前にもルシウスが居るだろうに。」
俺がルシウスの名前を出した途端に今まで動かしていたソールの手がピタリと止まる。
あれ?
更に大きい地雷踏んだか?
「アイツはね……。アイツは巫女としてアタシが大事なだけよ。その他大勢と何も変わらない。アイツにとって、アタシはただの世界を救う巫女様以外何者でもないわ。」
「……贅沢な悩みだな。」
そう言って俺は立ち上がり、タバコに火をつけながらソールを見下す。
「お前がベリアル共に拉致られた時、お前を発見したルシウスの顔はとてもそれだけの感情で動いているようには見えなかったぞ。」
ソールも立ち上がり、顔を伏せたまま俺の方向を向く。
「それに巫女だからと言っていたが、別にそれで良いじゃねぇか。俺なんてこの世界に来た時からどうやら世界中の嫌われ者だったらしいぞ?地位も立場も全部利用して、たとえ周りの人間が腹の中では自分を良く思っていないとしても、最終的に自分が幸せならそれで良いんじゃねぇのか?」
「一成……。」
「世界を救った後帰ってきて、最後にルシウスも残らなかったとしたら、俺とレインのところに来れば良いだけだ。」
「救った後……ね。考えたこともなかったわ。」
ソールは伏せていた頭を上げ、少しだけ晴れやかな顔を見せた。
それでもまだ少し寂しそうな表情は残っていたが、多少は良くなったようだ。
「さぁ、この辺りはだいたい終わったわね!!そろそろレイン達と合流しましょうか。」
「そうだな。」
元に戻ったソールに俺も少し笑顔を見せつつ、俺達は来た道を戻り、レインとクレアの元へ戻った。
着いて開口一番、レインが俺に向かって問うてきた。
「一成さん!!私とクレアさん、どちらがタイプですか!?」
「え、レイン。」
「ははっ!!アンタのそういう所、私は好きよ。」
ソールが俺の背中を平手で強く叩くと、レインの前へ駆けていく。
「え、ソールまで一成さんを!?」
「大丈夫よレイン。アイツ好きになるのなんて、余程の物好きだけだから。」
ソールがレインに小声でボソッと何か言っていたが、失礼な事と言うのだけは分かったぞ。
おかげでレインがホッとしたように見えたから大目に見てはやる。
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