ハルさんと シッシーと あまったれ小僧
ハルさんと シッシーと あまったれ小僧
紫陽花の花が雨にぬれそぼって咲いています。
雨どいからは、途絶えることなく雨だれの音が聞こえてきます。
いよいよ梅雨入りが始まったと、今朝の天気予報が伝えていました。
「あ~。雨の日はやだねえ。畑にも行けないし、シッシーも来られないし。早く止まないかな」
すると、ヘックショイ。玄関の方から大きなくしゃみとともに、聞きなれた声がしました。
「ハルさ~ん、来たぜ~」
格子戸を開けてみると、全身ずぶぬれのシッシーがやって来ているではありませんか。
「シッシー、あんた、こんな雨の日にまで……」
「雨の日ほどたいくつなことはねえな。ハルさん、畑から、初なりの野菜をとってきたぜ」
シッシーの足元に並べられた、ピーマン、なす、きゅうり。雨に濡れていますが、どれもみずみずしくてみごとなできばえです。
さあ、これらを使って、何をごちそうしようかしらとハルさんが首をひねったときでした。
どこからか歌声が聞こえてきたのです。
♪ 雨、雨、止め、止め、ばあさんが
窓辺でため息。かったるい。
ピチピチ、ジャブジャブ、ランランラン
わ~い!
いたずらっ子たちが、はしゃぐような歓声が、いっせいにあがりました。
「ばあさん? 失礼な。あたしゃハルさんだよ」
ハルさんが、外に向かって叫ぶと、今度はこんな歌声が聞こえてきました。
♪ 雨、雨、ふれ、ふれ、シッシーが
畑でおしっこ。ばっちいな。
ピチピチ、ジャブジャブ、ランランラン
わ~い!
「にゃろう! 見てやがったな」
シッシーが怒ると、声の主たちはまたまたうれしそうに、わ~いと歓声をあげました。
「シッシー、いったい何なのさ?」
「雨だれ小僧たちさ。たいくつなもんで、こちらの気をひくために、わざと失礼なこといったりするんだ。雨だれというよりもあまったれさ」
「ははあ、なあるほどねえ」
はるか昔を思い出したハルさん。思わずクスリと笑いました。
「あたしが小学生のときにさ、いやなことばっかりあげつらってからかう男の子がいたんだよ。ムキになればなるほど、面白がってさ。その子もきっとあまったれだったんだね」
「おい、あまったれえ、おまえら、もっと歌え、歌え」
シッシーが、やけになってはやしたてると、今度はちょっと低い声で、こんな歌声が聞こえてきたのでした。
♪ 雨、雨、ふれ、ふれ、ハルさんのお昼の手料理食べたいな。
ピチピチ、ジャブジャブ、ランランラン
「ハルさんのご飯はあまったれにはやらねえぞ」
「あまったれではござらんが……」
すかさず返事して、ぬっと玄関に入ってきたのは、何と天狗様!
「あら、まあ、天狗様、シッシーがご無礼なことを。どうぞお許しください」
「ごめんなさいっ」
息をひそめて、成り行きを見守っていたあまったれ小僧たちが、いっせいに笑いだしました。
♪雨、雨、ふれ、ふれ、シッシーが
天狗とオレラをまちがえた。
ピチピチ、ジャブジャブ、ランランラン
や~い!
あまったれ小僧たちは歌い続け、シッシーは怒り、天狗様は笑い、ハルさんもだんだんと楽しくなってきました。
ハルさんの畑で初なりのきゅうりを酢の物にして、なすは、からりと天ぷらにして、ピーマンはきんぴらにすることに決めました。
「こんな雨の日も悪くないもんだね」
台所に立ちながら、ハルさんの口からも自然に歌声が流れ出てきました。
♪雨、雨、ふれ、ふれ、ひさしぶり
みんなでお食事、うれしいな。
ピチピチ、ジャブジャブ、ランランラン