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それぞれの星

「坊主、一番初めに見るのはワシのところじゃ」


言い出したら聞かないドワンの所へ行く。状態は魔神ゲイルだ。神ゲイルで行くと、「いいよ、大丈夫だよ」とか甘やかすだろうし、魔王ゲイルなら生物の事を考慮せず無理矢理にでも望み通りに進めてしまうだろう。バランスは重要なのだ。


ちなみに神ゲイルと魔王ゲイルがくっついているときは考え方の振れ幅が大きい。これでイラッとすることを生物にされたらニコニコしながらプチっとやるかもしれん。笑いながら怒る人みたいなもんだ。



ぼーっとしとらんで早く見ろとドワンに急かされる。


ふむふむ、ドワーフのみの世界か。これ絶対発展しないだろう。


「おやっさん、ドワーフだけで発展するわけないじゃん」


「なぜじゃ?」


「おやっさん、他のドワーフが作った武具を買う?」


「買う訳がなかろうがっ」


「だろ?物が売れない世界でどうやって商売が成り立つんだよ。それぞれが勝手に狩りして塩だけで焼いて食って不味そうな酒飲んでるだけじゃないか。欲求が満たされないからあちこちで喧嘩してるし。全員が自分だけの世界だと想像してみろよ」


「ぐぬぬぬっ」


「誰かが自分の作った物を欲しがってくれないと喜びもないだろ?人族を混ぜないと文化が育つわけないじゃないか」


「しかし、人族の魂は汚魂になるやつが出てくるじゃろが」


そう、ドワーフ達はプライドが高く頑固だが、生き方はまっすぐだ。喧嘩で相手を死に到らしめてしまうこともあるが、それをしたら物凄く後悔して反省する。そして独りでとじ込もって長い人生を悔いながら逝くのだ。そうすることで自動洗浄で落としきれるぐらいの汚れになり汚魂になることはない。


「汚魂は今、自動廃棄も出来るから別にいいよ。発展には時間かかるけどね」


欲が強い程、魂の成長が早く発展にも貢献する。しかし、そういう魂は汚れやすく汚魂になりやすい。欲が薄い者は汚れにくいけど、昇華するまで魂が成長せず壊れてしまう。何も成さずに終わるのだ。


改めて魂が昇華するまで育てるのが難しいというのがよく分かる。カスの作ったシステムはよく出来ている。


ドワーフ達だけの世界では魂が昇華するまで育たない。誰にも認められないのに魂が昇華するほどの物を作りあげるのはほぼ無理なのだ。


「おやっさんも自分のやってた事を誰にも喜ばれる事もなく、認めてくれる人もいなかったらやりがいないだろ?それに作った物を使ってくれる人が居ないとより良い物を作ろうと思わないんじゃない?」


「それはそうじゃが・・・」


「旨い物も知らなければ、今食ってるもので満足しちゃうから旨い物も旨い酒も生まれない。欲は必要なものなんだよ」


「確かにワシも坊主と出会うまであの飯とエールで満足しておったな」


「だろ?人族の方が欲が深いから発展には必要なんだよ。ただ上手く導いてやらないと戦争になってドワーフ同士で殺しあったりするかもしれないからおやっさんは皆を導いてやらないといけない。実体化オプションがあるからある程度育ったら指導しに行ってあげなよ。それでおやっさんが神と崇められてお供え物が届くようになるから」


「よし、わかった。ドワーフと人族の割合はどれぐらいがいいと思うんじゃ?」


「どうだろうね、取りあえず寿命をあわせてみたら?ドワーフが平均300歳まで生きるとして、人族は60年ぐらいだろ?だからドワーフ1に対して人族5ぐらいで試してみて」


「うむ、わかった。旨い新しい酒が出来たら飲ませてやろう」


「楽しみにしてるよ」



次はシルフィードの星


ドワンと同じくこっちはエルフのみの星を作ってた。心のどこかでハーフエルフであった事が嫌だったのだろうか?そう思うと心がチクッとする。俺はハーフエルフのシルフィードが好きだった。けど、本人はハーフエルフが嫌だったのかなと思うと悲しい。


「シルフィ・・・」


「何?」


心の奥底に隠れていたコンプレックスみたいなものを覗いてしまったようで切ない。


「俺はハーフエルフのシルフィが好きなんだ」


そう言ってギュッと抱き締めてしまった。


「本当?」


「うん。だからエデンは様々な種族が居ただろ?色々な種族が混ざってるのが当たり前に暮らせるところが俺の理想なんだ」


「エルフの私とハーフエルフの私がいたらどっちを選ぶ?」


「どっちも選ぶよ」


「うふふっ 嬉しい答え」


「おほんっ。喜ばしい事ではあるが、親の前でイチャつくのはあまり良いものではないな」


「わっ!グリムナさんここにいたの?」


「この星はシルフィードと共同でやってるからな」


グリムナが居たのぜんぜんっ気付かなかった。また人前でイチャイチャしてしまった。


「グリムナさんはエルフだけの世界がいいの?」


「その方が安全だろ?兄ちゃんみたいなものを生み出したくない。それにじっちゃん達のような人生も送らせたくはないのだ」


そうだよな。グリムナはエルフ達の悲劇と辛さ、ハーフエルフの悲哀を目の当たりにしてきたからな。そうか、これはシルフィードだけが生み出した星ではなかったか。そう思うと少しほっとした。



「しかし、エルフだけの世界とはつまらんな。お前が来る前のあの里時代とちっとも変わらん」


「人族を追加するつもりなの?」


「いや、そうすれば同じような歴史を辿るだろう。お前みたいなイレギュラーな存在が居ないことにはな。エデンは良かった。安心して暮らせたし皆も楽しそうだった。俺は見送るのに疲れて外にはあまり出なかったがな」


その気持ちはよく分かる。何度経験しても、生まれ変わると知っていても別れの辛さは変わらないのだ。


「本当はこの星の生物達にもエデンで暮らすような経験を積ませてやりたいんだがな」


「グリムナさんが皆を導けば?」


「争いは避けられるかもしれんが、お前が与えてくれた楽しみを作ってやることは無理だな。俺にそういう能力はない」


ただ、方法は考えてみるとのことだったので人族を入れることは検討するようだ。



アーノルドとアイナの星は分かりやすく面白かった。


「父さんなにこれ?」


「あぁ、面白ぇだろ?魔物の星だ。お供えとか別に無くてもいい。食いたきゃお前の所に行くからな。もう少し強ぇ魔物が生まれたら討伐にいくつもりだ」


「え?育てて殺すの?」


「魔物相手なら魂の管理も不要だし思いっきり暴れられんだろ?」


「早く育たないかしら、腕が鳴るわ」


アイナもトンファーをブンブン振り回して楽しみしている。


アーノルドとアイナは10代後半の年齢設定なのだろうか?今の俺の見た目は30前後だから二人とも歳下に見える。これは二人が冒険者全盛の時の歳なのだろう。


自分でも驚いたのだが、ちょっと若いアイナにときめいてしまったのは心の奥深くにしまっておく。この頃のアイナはめっちゃ可愛い。血の繋がりが無くなった事によって母ではなくなったのもあるだろう。エイブリックの心に楔を打っただけの事も、アーノルドがベタ惚れになったのも良くわかる。


「ゲイル」


「何、母さん?」


「惚れちゃダメよ」


とウインクされた。こんなんされたらちょっとヤバい。悪魔の囁きみたいなものだ。


「ゲイル、アイナに手を出したら許さんぞ」


そんな顔すんなよ、アーノルド。母としての記憶があるからときめいたとしても無理です。


あの腹の記憶も・・・・いでででででっ


あ、俺とアイナはまだちゃんと繋がってたわ。そう思うと腹をつねられた感覚も少し嬉しかった。



「なぁ、ゲイル何があかんの?全然サバもタコも育たんねけど」


「当たり前だ。サバが食う餌ないだろが。タコも同じだ。面倒臭がらずに海の中にいる生物を育てろ。サバもタコも食うもん無いだろうが。植物もちゃんと植えてやらんと海に栄養がいかないから何を入れても育たんぞ」


まったく、海にサバだけ入れるとか笑かすわ。


「ちょっと一緒にやってぇな。あんたとウチの仲やろ?お礼に匂い嗅がしたってもええで」


「今のお前は無臭だろうがっ」


「そうなん?」


「ダンの匂いはするか?」


「そういやせぇへんな。ダン、ウチの匂いって無いん?」


「ねぇぞ」


二人は俺に指摘されるまでその事に気付かず、いたしてもなかったような気がする。種として子孫を残す必要もないからそういう欲求も湧かないし、お互いを男女として魅き付けるものもない。


「なぁ、元の匂いってどないしたら出るん?」


「いや、俺もそれ知らないわ」


めぐみは焼き鳥とか焼き肉の匂いから始まり、その後はずっとリンスだった。その後に女の子の匂いがしたのは女体化したからだったのだろう。シルフィードは初めっから匂いも身体も昔通りだった。


そういや皆匂いがないな?


ん?存在するものは気に入った魂が望む姿になれるんだったよな?ということは俺が皆の姿を作ってるのか?


アーノルドやアイナが若い姿だったのは全盛期はさぞ凄かったんだろうなという思いがあったからかもしれない。仲間の中で人の魂を持ってるのは俺だけだ。


ちょっと気になる。



(なぁダン)

(なんだよ?)

(お前、神になってからミケとした?)

(なんだよ急に?)

(いや、お前達の身体って昔のままか?それともマネキンボディか?)

(なんだよそれ?)

(いや、出来る身体かそうじゃないかを聞いてんだよ)

(なんでそんな事を聞くんだよっ)

(いや、二人がそれで問題ないならいいんだけど・・・)



本人達が問題ないなら別にいいんだけどね。



ミーシャはマリアと星を共同管理していた。ちゃんと餌になる草木と肉になる動物はいたけどそれだけだった。


「そっか、ぼっちゃまあったまいい!自分で取りに行けばいいのよね。かーさま、これでお肉取り放題だよ」


「その代わりここには50年ぐらい戻ってこれないぞ」


「50年ぐらいなら大丈夫。じゃ、かーさま行こっ♪」


「あっ、ちょっと・・・」


最後まで話を聞かずに行ってしまった。お前ら、自分でさばけるのか?それに調味料とかどうすんだよ?


「かーさま、牛から行こう!」


「じゃ頑張ってね」


「はい?」


それから50年程、ミーシャ達はマリアが炎で丸焼きにした物を味付け無しで食べることしか出来なかった。


ゲイルが二人を甘やかし続けた結果であった。



ミグル達の所とベントの所は面倒臭いから行くのを止め、ジョンの所に向かう。


「あら、ゲイル。来てくださったのね」


「ジョンがどんな星作ってるか気になってね」


「ゲイル、どうだ俺の星は?」


人族だけの星か。妙に規律の取れた世界だな。魔法無しの世界だけど争いは無さそうだ。もしかしたら星の管理者の性格とかに左右されるのか?そんなシステム無かったはずだけどな。


「ジョン、これどうやったんだ?」


「苦労したぞ。一つ一つ魂を厳選してな、きっちりと規則を守る魂だけを生まれ変わらせた結果だ」


そんな事をしていたのか。確かに綺麗な魂だけしかない。でもロボットの世界みたいだな。見ていてもまったく楽しくない。


マルグリッドもつまらなさそうだ。


「ゲイル、今日遊びに行っていいかしら?」


「いいよ。ブリックやチュールも来てくれたから料理のバリエーションあると思うから」


「じゃ、後でね」


マルグリッドはジョンと結婚した頃のまんまだな。匂いも・・・・


え?


慌ててジョンの匂いを嗅ぐと無臭だ。マルグリッドだけ昔のまんまの匂いがする。少し香水の混ざった女の人の香り。もしかして俺が望んだのだろうか?それに対してジョンは無臭。


「あら?ゲイルは男の匂いも嗅ぐのかしら?」


マルグリッドには俺が匂いを嗅ぐ習性があるのを知っている。


ミケから匂いを感じなかったのはミケの匂いも好きだったけど、女性としてのそれじゃない。俺はマルグリッドを女性として見ていたのだろうか?



これ、ヤバいかもしんない・・・

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