天野邸2
多忙のため更新が遅れてます。
すみません
「ウチのお父さんがごめん」
天野邸の応接間で、雫が深いため息と共に謝罪の言葉を述べた。
「そんな、全然良くしてくださいましたよ」
「おう、フレンドリーだったしな」
茜と大樹は大きく手を振ってロイを擁護する。
「実際に僕たちも緊張が解れたしね。お父さんのおかげだよ」
茜と大樹の反応と、上條の言葉に雫はほっとした様に息を一つ吐いた。
「ん。なら良かった」
「まぁ、色んな意味でいつも通りだったよね」
結局、家に入った途端に雪達は様子を見に来ていた雫とその母親と顔を合わせることとなった。
二人は執事服姿のロイを視界に入れるなり、すぐにまたかと言うリアクションを取った。
そのまま雫はロイを完全に無視して雪達を応接間へと案内し、雫の母親は雪達に軽く挨拶をするとロイの首根っこを引っ張って奥の部屋へと消えていった。
「いつも通りなんですか……」
「うん。否定できないのが悲しいけど」
「流石に大の大人が首根っこを掴まれて引き摺られていく姿なんて初めて見たぞ」
大樹が腕を組み、そのシーンを思い出しているかの様に宙に視線を向けながらそう言う。
「しかも引き摺ってたのは天野さんのお母様だし、お父様は笑顔でこっちに手を振ってらしたし……」
上條も何とも言えない表情を浮かべている。
良いか悪いかは別として、天野家が一般的な魔術の名家という枠組みから大きく外れる雰囲気を持つ家なのは間違いない。
中堅という言葉がしっくりくる上條の家であっても、客前でここまでアットホームな雰囲気は出せないだろう。
「昔から変わらないね」
雪は柔らかい笑みを浮かべながらそういう。
思い返してみても、天野家は雫とその両親が揃うといつも騒がしくて楽しかった思い出ばかりだ。
「とりあえず、みんな座って」
いまだに立ったまま会話を続ける四人に、雫は大きな木製のテーブルとチェアを指差してそう言う。
「そうだね。座ろっか」
雪がそう言って最初に木製のチェアに腰掛けると、続いて左右隣に茜と雫が腰掛け、その向かい側に上條と大樹が腰掛けた。
「にしてもやっぱり名家ってのはすごいんだな」
大樹はチェアのクッション部分の柔らかさを確かめながら、部屋中を見回す。
三十帖は優にありそうなこの部屋は、全体的にベージュや白といった柔らか色を基調としている。
その中には食器などが飾られている棚や絵画を始めとする装飾品と、ソファーとローテブルがあり、そして雪達が座っているチェアが合わせて十脚と、それに合わせたサイズの大きな淡い茶色のテーブルが置かれている。
「大樹、ここまで立派な応接間がある所は本当に限られるからね。うちなんて全然だっただろう?」
「優馬のとこも大概だろうが。まぁ、流石にここと比べると何な」
大樹はいったって平凡な家庭の出身だ。
別に貧しいわけではないが、応接間があるような家に住んでいるわけではない。
「それで、ここに集まったのってあの演習の話をするためってことで良い?」
話が一区切り付いたところで、雪がそう雫に問いかける。
「ん。あの話をできる相手は皆しか居ないから」
当然それは両親にも話せないと言うことだ。
特に雫と雪に至っては、立場上絶対に聞けないと、向こうから先に言われた程だ。
「確かにそうですよね……。あんな取り調べをされたのは初めてでした」
犯罪者の様な扱いを受けたわけではなく、あくまで被害者と言うこともあり丁重な扱いをされていた感覚は全員があるものの、あの場の空気感が好きかと言うとそれは違うと断言できた。
「確かにそうだな。魔術省の人は表情も口調も優しい問い詰められてる気分になったしな」
「実際にあの場で嘘をついたり隠し事をしたりするのは今後を考えるとかなりまずいからね」
それにしても国が魔術師の扱いと管理にかなりの力を入れていることは周知の事実だ。
それこそこの国では資格を持たないものは魔術を使えても魔術師と名乗らせてもらえないし、公の場で使おうものなら即座に逮捕される。
世界で見てもここまで厳しく魔術師を管理しているのは僅かだろう。
そして、その資格を取得する上で人間性という部分も大きな評価対象だ。
そのため、信用情報に傷がついていると資格修得の上でかなり不利になるわけだ。
「でも、私達で情報共有って言っても新しい情報は無いと思うんですけど……」
「演習中はずっと一緒にいたわけだしね」
「確かにそうだな」
そんな茜の疑問に上條と大樹が頷く。
「はい」
そんな中、雪がその手を真っ直ぐに上げる。
「葛西さんどうしたの?」
「一応、私の個人的な興味にはなるかもだけど、雫と師匠と私たちが別れた時の話を聞きたいかな」
その雪の言葉に、上條がポンと手を叩く。
「色々ありすぎてわすれていたけど、そう言えばそうだね。あの大きな魔獣を倒した訳だよね」
その上條の言葉で、他の三人も砂塵の向こうに映った巨人の影を脳裏に映す。
「ん、私も話すならそこからだと思ってた。雪の師匠の謎も少しは解けるかもだし」
「まず、あの巨人なんだけど。魔獣ではなかった、と思う」
歯切れの悪い雫の言葉に皆が首を傾げた。
「確信は出来ないってことだよな……。一体どんな奴だったんだ?」
「一言で言うなら、騎士の姿をした巨人サイボーグ」
「全く分からん」
「右に同じく」
真顔で断言した大樹に上條も即座に同意する。
当然、雪も茜も同様のリアクションを取った。
「じゃあ、ちゃんと説明する。大きさは七、八メートルくらいで、見た目はさっき言った通り銀色のフルアーマを着た騎士の様な姿」
「じゃあ砂塵の向こうに見えたままの大きさだったってことだね」
「大きなサイズの魔獣とか外獣はいっぱいいますけど、鎧を着ているのは聞いたことありませんね。というより、世界初だと思います」
外界に住む生物の知識が豊富な茜がはっきりと言い切った。
「あと、それは負傷してて、中からコードとか管とかが出てた」
「なんだそりゃ」
「じゃあそれはロボってこと?」
その雪の問いかけに雫は首を横に振る。
「血も出てたし、肉の部分もあったからロボットじゃないと思う。それに魔術障壁まで使ってた」
「「「魔術障壁も!?」」」
雪と茜と大樹の三人が同時に驚きの声を上げる。
話だけでもそれがどれだけトンデモ生物なのかが理解できたからだ。
「となると、自然な生物じゃないと考えるのが普通になるわけだ……」
一方で上條は顎に手を当てて冷静にそう言う。
「でも、ロボットにしろサイボーグにしろ、そんな技術を持ってるところなんてあるのか」
そんな大樹の疑問に皆が顔を見合わせる。
五メートルを超える巨体の生物に何らかの人工的改造を加えて、鎧まで着せて、更には魔術障壁まで備え付けてある。
そんな「兵器」を製造できる国や企業などは、フィクションの中だけの存在だ。
もし仮に本当に出来るものがいるとするならば、今頃世界中はそのニュースで持ち切りだろう。
「ま、無いよな」
皆の反応を見て、大樹はそう結論付ける。
「また謎が一つ増えちゃいましたね……」
茜の一言に雪達も微妙な表情を浮かべる。
「でもヒントはある」
そんな雫の一言に皆が一斉に雫の顔を見る。
雫はいたって無表情のまま続きを話す。
「雪の師匠がそれをみて調停者って呼んでた」
「調停者?」
雪は首をかしげる。
少なくとも雪が知る上では、修の口からその言葉を聞いたことはない。
「この様子だと葛西さんは聞いたことないみたいだな。平さんは知らないのか」
その大樹の問いかけに、茜は首を横に振った。
「すみません。聞いたことないです」
「一度ネットで調べてみてもいいかもね」
出る可能性はひくいけどね、と言いながら上條は携帯端末を操作する。
「調停者ってワードだと今回のこととは関係のないページばっかりだね」
上條はページをスクロールしながらそう皆に告げた。
「ん。ほかのワードと合わせる?」
「例えば外界とかか?」
ぽんぽんと適当なワードが全員から上がるも候補は無数にあった。
「全員で考えられそうなものをくっつけて調べてみようか」
その上條の言葉に全員がうなずき、自身の携帯端末で検索を始めた。
そしてしばらく全員が検索したのち、大樹が諦めたように携帯端末を放り出した。
「無理だ!なんもでねぇ」
「私もです……」
「僕もめぼしいものはないね……」
「私も」
次々と諦めの声が上がる中、雪だけがまだ携帯端末を真剣な眼差しで操作していた。
「雪は?」
そんな雪に雫が声をかけると雪は驚いたように顔を上げた。
「え?あ、ごめん。ちょっと気になったのが見つかったから……」
「どんな内容?」
「別に正体がわかったわけではないんだけど、もしかしたら異界関連なのかなって」
その言葉に茜がコテンと首を傾げる。
「どうして異界が関係するんですか?」
「んー」
雪はその理由濁らせる。
なぜなら、その理由が、修があの異界化事件の生存者ということであり、果たしてそれを言って良いものか判断がつかなかったからだ。
修が異界からの生存者であることを雪に教えてくれたのは浩也であり、その情報のソースまでは聞いていない。
そのため、それが公開されている情報なのかそうじゃないのかの判断をつけられなかったのだ。
「雪、それは言っても大丈夫。調べれば出てくる」
悩む雪に雫が助け舟を出す。
「あ、そうなんだ」
「調べれば出る……あぁ、なるほど」
その言葉を聞いて雪だけでは無く、上條まで納得した様に頷いた。
「ん?どういうことだ?」
「私にもさっぱり……」
その茜と大樹の疑問に答えるべく、上條が一応の話して良いかの確認をアイコンタクトで雪にする。
雪はその視線に頷くと、上條はそれに合わせて話を始めた。
「魔術省のデータベースを見て知ったんだけど、葛西さんの師匠、日比谷修さんはあの異界事件の生き残りなんだ」
「「へ!?」」
茜と大樹が声を揃えて驚く。
異界化事件とはそれほど大きな事件であり、その生き残りとあればかなりの少数に当たる。
特にあの事件の生き残りの魔術師とあれば名の知られている魔術師ばかりだ。
「と言うことはやっぱり凄い魔術師だったんですね?」
茜はそう雪に話しかける。
茜の師匠が信頼していたり、この前は背信者を撃退し、更には刃狼まで引き連れていたと言うトンデモを繰り返していたのだから、逆にそうで無ければおかしい話ではあった。
「凄い魔術師なのは確かなんだけど、その割には知名度が低すぎるのが不思議だから困ってるんだけど……」
雪は軽くため息をついてそう言う。
「日比谷修」とネットで調べてみても、出て来るのは他人ばかりだ。
それこそ異界化の生き残りについてもネットでは一部の個人名以外は一切出ていない。
それを見つけるには、上條の様に魔術省に赴き、公開されているデータベースなどから見つけるしかない。
「その話は置いといて、私が気になったのは異界で出たらしい魔獣の話なんだよね」
「その魔獣の名前が調停者?」
その雫の問いかけに雪は頷く。
「うん。そうだとすると、その魔獣の名前が一般的には知られてなくて、師匠が知っているって条件に合うから」
「確かにね。その説は濃厚だね」
「ただ、それ以上については何も書いてない。昔色々異界についても調べたけど、詳細な情報は全く出てなかったし」
あの異界化事件は世間一般に広く認知されている事件ではあるが、その詳細には謎が多い。
当然ながら魔獣らしきものが出ることは情報が公開されているが、それがどんな魔獣で、どのように、どれくらい、どんな時と場所に出るかは一切公にされていない。
「まぁ、これに関してはこれ以上調べるのは難しそうだな」
「ひとつ気になるんだけどよ、調停者と背信者って名前が似てるけど関係あるのか?」
その大樹の疑問には当然誰も答えられなかった。
「まぁ、これに関しては僕たちで解決するのは無理に近そうだね」
「ん。仕方ない」
「となると、次の話題は何ですか?」
「そりゃ、葛西さんの師匠についてじゃねーか?流れ的に」
そして、話は修の話題へと移っていった。




