表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
70/112

修と雫2

しばらくの間少し投稿遅れます

「カバー……お願いします」


 雫はそう言うと、修の返事も待たずにそのまま足を進める。

 雫は極度の集中状態に入っているのだ。決して失礼な態度を取っているわけではないことは修も理解している。


「空より来たる恵み……」


 雫はゆっくりと前に進みながら、詠唱と共に魔法陣を構築し始めた。


「詠唱……?」


 その雫の行為に修は首を傾げる。

 雫が持つ杖の先頂点に構築されているのは二重円の魔法陣。つまり、二等級魔術だ。

 雫の実力があれば、二等級程度の魔術で長ったるい詠唱など全く必要ないはずだ。それに、今更二等級魔術が調停者もどきに効果がないことは雫もよくわかっているはずだ。


 それにしても長い詠唱だと、修が疑問を持った瞬間、ポツリと一滴の水滴が落ちた。

 そしてその小雨はやがて修と雫、そして調停者もどきがいる辺りを濡らし始めた。


「雨……?いや魔術か!」


 雨にしては範囲が狭すぎる。修はすぐこの雨が雫の魔術によるものだとわかった。

 そして今や雫の杖に浮かんでいる魔術は二重円にも関わらず、随分と大きなものとなっていた。


「ちょっと待て……。まじかよ……」


 修には雫が構築している魔術に心当たりがあった。

 それは現代においては骨董品、時代遅れとも呼ばれる魔術だ。


「確かにそれならダメージは与えられそうだけど、原初魔術とは……」



 少し時代を遡れば、原初魔術が使われていた時代では、魔術師の多くは護衛に囲まれて後方から遠距離攻撃()()をする役割であった。

 理由は単純で、原初魔術の場合は、魔法陣が目立ち、詠唱に時間がかかり、そして詠唱中は魔術師が無防備になるからだ。

 勿論、一度使ってしまえば、魔術の効果は絶大であったし、人が兵器そのものであるという理由で運用コストも低かった。

 しかし、技術も進歩し、銃火器がある程度発展してくると、高い技能と才能を必要とする魔術師という存在は使い勝手が悪く、替えも効きづらいため、徐々にその数を減らして行った。


 そんな事実もあり、魔術師達にも変化が求められた。

 前線でも使用することができ、使い手が極端に制限されない魔術が必要になったのだ。

 そして出来たのが現在使われている現代魔術だ。

 原初魔術と現代魔術の違いは様々あるが、根本的な仕組みに大きな違いがある。

 それは、現代魔術が()()()()を生み出すのに対して、原初魔術は()()()()()結果が生まれる点だ。


 簡単に言ってしまえば、現代魔術はゼロからいきなり十(結果)を作り出す技術で、原初魔術はゼロから一つずつ工程を経て十(結果)を生み出す技術だ。

 その為、何も無い所から理屈をすっ飛ばして結果を生み出す現代魔術に比べて、原初魔術は少ない魔力で高い威力や効果を生み出すことが出来る。

 ただしその代償として、全ての工程を理解する必要があり、時間がかかっている分だけ魔力配分や魔法陣の構築の精密さがより求められる為、高い技術が必要になる。


 雫はそんな魔術を持ち出してきた訳であるから、雫が修に求めた「カバー」の内容は至ってシンプルだった。


「時間稼ぎか……」


 時間稼ぎとは言っても、雫の立ち位置は調停者もどきの攻撃範囲内だ。

 恐らく魔術の射程の問題でここまで近づいたのであろうが、こうなると修に求められていことの一つに雫の護衛も加わる。

 つまり、修は雫の魔術の準備が終わるまで時間を稼ぎつつ、更に無防備な雫を守り通さなければならないのだ。


「ま、やるしかないか……」


 修は楽な道を探すことを諦め、調停者もどきへと目をやる。

 ちょうど調停者もどきは体勢を立て直しており、その視線が無防備状態で魔術を使っている雫へと向いた所だった。


「お前の相手はこっちだよ!」


 修はすぐさま雫を追い抜くと、無詠唱で『結界』を行使し、調停者もどきの体全体を覆う。

 そして、修は続け様に手のひらを突き出すと、調停者もどきの頭上に魔法陣を構築していく。

 そして、ものの数秒で魔法陣を構築してみせると、修は魔術を行使する。


「『圧壊(あっかい)』」


 その言葉と共に魔法陣から鈍い音がし、調停者もどきを地面に押しつけるように圧力がかかる。

 調停者もどきの魔術障壁は時折青白い光を放っていて、修の魔術に抵抗しようとする様子は見せるが、、その身体はググッと地面へと押し込まれていく。


 修は更に足場の様に結界を生み出すと、調停者もどきの頭の高さまで上がっていく。

 そしてその手に鋼をそのまま槌の形に切り出しかのような無装飾な大槌を召喚する。


「そのまま沈め」


 修は大槌を大きく振り被ると、調停者もどきの頭部へと全力で振り下ろす。

 しかし、それも見慣れた青白い光を放つ魔術障壁によって阻まれ、調停者もどきの頭上数センチのところで止まる。

 修は魔術の効果が効いている間に、その体を翻して少し離れた位置へと着地すると、息を一つ吐く。


「そうは簡単にじゃないか……」


 修は苦い表情でそうこぼすと、大槌を召喚を解除し、チラリと後方の雫の様子を確認する。


 雫は先程の場所からは動いておらず、目を閉じたまま魔法陣の構築に集中している。

 その肝心の魔法陣はまるで直接描かれているように、文字やら線やらがどんどん追加されていっており、その魔法陣の中の空白が埋まりつつあった。


「もう一息ってとこか……」


 修はそう呟いて視線を前に戻すと、調停者もどきに掛かっていた魔術もちょうど切れた所で、調停者はその沈んでいた体をゆっくりと持ち上げていた。


「魔術を打ち消す効果じゃなく、物質的なダメージを防ぐ感じか……。魔法陣の場所さえわかればいいが、どうせ内側だろうな」


 修はそう呟いたのち、手に漆黒の刀身を持ったロングソードを召喚し、調停者もどきを見据える。


「時間稼げば良いだけだからな」


 修はそう呟くと、調停もどきに向かってゆっくりと歩き出す。

 それに対し、調停者もどきも修に顔を向けると、その手に握られた大剣を大きく振りあげた。


 そして、その手が振り下ろされると同時に、修が一気に速度を上げて駆け出す。

 駆け出した修にその巨大な剣が振り下ろされ、地面を抉り、土煙が上がる。大剣を簡単に躱していた修が砂塵の影から現れると、結界で足場を作って使って調停者の胸の辺りまで登っていく。


 調停者もどきはその修の姿に気がつくや否や、空いている左手を薙ぎ払うように振るう。

 当たってしまえば即死するだろうその轟音と共に迫り来る一撃を修は躱す素振りを見せず待ち構える。

 しかし、その手のひらは突如、空中で不自然に止まる。

 よく見ると修の足元には魔法陣が浮かんでいた。


「こっちにはもっと便利な技があるんだよ」


 『結界』に魔術障壁の効果を付与したものを修は使ったのだった。

 手を振るう程度の攻撃であればそんなには強度はいらず、無詠唱の魔術でも十分であった。

 結果として、調停者もどきはここぞとばかりに力を入れて魔術障壁に圧をかけ続けているが、結界はいまだに健在だ。


「それじゃあ、少しはプロらしい仕事でもしておくか」


 修は足元の魔術障壁用の魔法陣を維持しながら、もう一つその手に魔法陣を構築する。

 そして、魔法陣を構築しながら結界の範囲ギリギリである調停者もどきの手前まで足を進める。


「よし、やるか」


 修はその言葉と共に魔法障壁を解除する。


 調停者もどきは突如全体重を込めて叩き潰さんとしていた障壁が消えたことによって前のめりになりながら、地面に手をつくことになった。


 土煙が上がる中、修は足場として結界を使い上へとあがりながら、魔法陣を構築する。そして、調停者もどきの頭上に来たところで、その足を止め、魔術を行使した。


「『走査』」


 修の手のひらから水滴が一つぽつりとこぼれ落ちる。

 そのまま、その水滴はつんのめっている調停者もどきの頭上の上に落ちた。

 その瞬間、水滴は蜘蛛の巣を張るかのように水色の線を広げて、調停者もどきの体全体をなぞると消えた。


「走査」の名の通り効果によって、魔術が得た情報を受け取った修は呆れたような顔を浮かべる。


「いやまぁそうだとは思ったけどな……。そんな安直な」


『走査』で調べたものは魔術障壁の魔法陣のありかと魔術障壁の穴だ。その結果が示したのは、術式は調停者もどきの体内で、そして、魔術障壁の穴は先程から赤い光線を放っていたあの目の部分であった。

 これがゲームであれば、まるで狙って下さいと言わんばかりに光っている目を攻撃しただろうが、ここは現実だ。

 流石にそんなあからさまに弱点をアピールするなんてあり得ないだろうという修の常識が崩れた瞬間だった。


「まぁ、外界だしな……」


 修は誰に向けてか、誤魔化すようにそう言った直後、そのままトンっと調停者もどきの顔近くまで飛び降りると、一瞬で魔法陣を構築する。


「『侵蝕』」


 魔法陣からドロドロとした黒い何かが伸びて、そのまま調停者もどきの魔術障壁に張り付く。


「んで……『同化』と」


 修はそのまますぐさま魔法陣を新たに構築すると、それを行使した。

 すると、先程まで調停者もどきの魔術障壁に張り付いていたモノが溶けるように消えた。


「そろそろ大丈夫かな……っと危ね」


 雫の様子を伺っていた修に、まるで羽虫を払いのけるよう、調停者もどきの手が振るわれる。

 修は危なげなくその調停者もどきの手を躱すと、雫の後方までそのまま下がる。


「準備は出来たみたいだな」


 修は雫の様子を見てそう呟いた。

 いつの間にやら雫は三つの魔法陣を周囲に構築していた。

 足元、杖の先、そして雫の正面。それぞれが雫の体より少し大きいほどのサイズの魔法陣だ。

 もし仮にこれを現代魔術の手順で行ったとすれば、彼女はプロの魔術師の中でも上位陣に食い込む実力を持つことになる。

 そんなレベルの魔術を魔術師見習いの彼女が使えるのが原初魔術の最大のメリットだ。

 勿論、簡単なわけでは無いが、現代魔術で同じことをすること比べれば格段に難易度は下がる。


「原初魔術『絶対零度(ぜったいれいど)』」


 雫の詠唱をきっかけに三つの魔法陣が虹色の燐光を帯びる。

 そして、突如雫の足元から前方の地面が一気に凍りついていき、その範囲にあるもの全てを凍り付かせていく。

 それは、あの巨体であっても変わりはない。

 魔術はあっという間に調停者もどきまで到達するとその体を一瞬で氷漬けにした。


「やった……」


「おっと」


 控えめな喜びの声をあげるなり、ふらつく雫を修が慌てて支える。


「初めて成功しました……」


 雫は額に大量の汗を流し、少し荒れた呼吸で満足そうにそう言った。


「大手柄だな」


 修は雫に労いの言葉をかけると、前方の光景を眺める。

 先程までは夏の暑さすら感じられた場所が今では一面凍りつき、寒さすら感じる。

 修の眼前にはその上にあるもの全てを凍りついた、幻想的な光景が広がっていた。


「さて、あれはどうするか」


 凍りついた調停者もどきと少し沸いてきていたヒトガタ共々どちらもまるで微動だにしていない。

 ヒトガタはともかく、調停者もどきをこのままにしておくのは少しリスクが高い。


「大丈夫……です。まだ続きがある……」


 雫はそういうと自らしっかりと体を支える。


「あぁ、あれか」


 修の視線の先には杖の上に一つだけ残った魔法陣があった。

 雫はその杖を両手で少し上に上げると、そのまま杖の先を凍りついた地面に打ち付けた。


「『氷解(ひょうかい)』」


 その一言を皮切りに、凍りついたもの全てが粉々に崩れ落ち、凍りついた地面も全て文字通り氷解した。


「すみま……せん。限界……」


 そういうと今度こそ雫は倒れ込みそうになるが、今度も修がその体を受け止めた。

 それに合わせて雫の杖は召喚を解除され、消えていった。


 雫はグッタリしているが、しばらく時間が経てば復活するはずだ。

 あくまで一度に大量の魔力を使った事による、一時的な魔力欠乏症で命に別状はないはずだった。 

 勿論、この状況に陥ってしまっているのは探索者としては失格であるが、今回に限っては仕方ないだろう。あんなモノに出会うことなんてそうそう無いのだから。

 それに、雫は天才ではあるがまだ学生だ。それを考えると雫の働き振りは及第点と言えると修は考えていた。


「これは仕込みなんて要らなかったな」


 修は腕の中の雫から視線を外すと、粉々になった調停者もどきの慣れの果てに目をやりそういう。


 修は先程の一連の動きで、調停者もどきの魔術障壁に穴をあけて、そこに自身の魔力を紛れ込ませ、障壁を修復させた。

 そして、雫の攻撃に合わせて雫の魔術が通るように、魔術障壁に再度穴を開けていたのだ。


 先程の魔術の威力であれば、魔術障壁に穴を開けるくらい出来るであろうし、魔術の性質的に少しでも穴を開けられるのなら魔術を本体に通すことが可能なはずであった。


「まぁ、少なくとも調停者では無いな」


 修はあたりに散らばっている、氷漬けにされ、砕かれたグロテスクな成れの果てを見て呟く。

 修が異界で遭遇し、コアの付近で戦うことになったソレとくらべると今回の調停者もどきは「もどき」と呼ぶにも弱すぎた。

 魔術障壁の強度はそれなりではあったが、所詮それだけであり、知能も無いようであった。


 修も最初はその異様な姿にもしやと思ったが、途中からそうでは無いことはほぼ確信していた。

 そうでなければ、雫に出番をあげることなんてしなかったであろう。


「とりあえず響子の様子を見に行くか」


 修はそう呟くも、腕の中で半分抱き抱えた状態の雫のことを思い出した。

 寝ているようには見えるが、実質気絶しているような状態だ。

 修の手を少しでも空けるのならおんぶするのが一番だが、あれは気絶状態だと反り返って逆に危ない。


「まぁ……スカートと言うわけでもないし」


 修はそういうと、雫の膝下からその体をグッと持ち上げた。いわゆるお姫様抱っこ状態だ。


 雫はベージュのホットパンツにスパッツを履き、襟なしの白いシャツに薄手の紺色のローブを羽織っている。ローブさえなければ探検家のような服装だから、この格好でも問題はないと言えばない。

 雫としてはよく知らない男性にお姫様抱っこをされているのは抵抗があるかもしれないが、このまま起きるのを待っているようでは日が暮れてしまうかもしれない。


「響子になんか言われそうだな……」


どうやら響子は雫のことを随分と可愛がっている様子であったし、小言の一つや二つくらい間違いなくあるだろう。

 そんなことから、あまり取りたくない手段ではあるが、わがままを言っている場合ではない。


「……行くか」


 文句を言われたらその言い訳はそのとき考えることにして、修はため息一つ吐くとその足をすすめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ