表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
68/112

外界演習11

 雪とキメラの距離はそう遠くない。それこそ雪が全力で強化魔術を使えば、瞬く間にその距離を詰められるほどだ。

 茜の容態が心配だし、師匠達にもそれを伝えないといけない。そう考えると、サッサとこの戦いを終わらせるに限るのだが、いかんせん今の実力では全力で強化魔術を使ったところで制御しきれない。

 それに、キメラが何の魔術を使ってくるかわからない以上、二次災害が起こるのは本末転倒だった。


 そんなことを今更になって雪は一瞬思ったが、すぐにその余裕は無くなった。走り出してすぐにキメラの触手が数本動きだそうとしていたからだ。


「雫!」


 だがこれは予想通りだ。

 雪は慌てずに雫の援護を求める。

 その雪の声とほぼ同時に、その数本の触手が雪に向かって突き出される。緩慢な動きのオオクチからは想像できない様な鋭さだ。


「『水薙(みずなぎ)』」


 当然ながら雫がそれを黙って見過ごすはずがない。

 触手が伸びたその瞬間に、雫は魔術を行使した。

魔術が行使されると同時に、魔法陣からレーザービームのように打ち出された水が触手を薙ぎ払うように切断する。

 そして、雪はその隙を逃さずキメラを自身の間合いの内側に収めた。


「『結界』」


 雪はあらかじめ用意していた魔術を行使し、ちょうどキメラのオオクチの部分に結界を置くとそれを踏み台に一歩高く上がる。

 そして、コンパクトな腕の振りでキメラの上体に向けて、剣を右から左へと振り下ろすように振る。


 バギっというまるでガラスにヒビが入ったような音が鳴り、雪の剣はキメラの防御魔術によって防がれる。

 雪はすぐに剣を引き、触手の攻撃が来る前にそのままキメラを飛び越える形で、その後方へと跳ぶ。

 そのまま空中で軽業師のように体をひねると、キメラの背中を正面で見る形で着地した。


 しかしもともと陸上での機動力に乏しいオオクチだ。その体は全方位を攻撃できるように出来ていて、キメラも当然それを駆使する。

 まるで背中にも目がついているかのように、キメラの無数の触手が着地したばかりの雪へと襲いかかる。


「『水薙』」


 しかしそれもまた、先ほどと同様の雫の魔術によって切り落とされた。

 そして、いよいよもってキメラの触手による攻撃手段が失われた。


「雪、今」


「分かってる……よ!」


 雪は雫にそう返しながらキメラへと飛びかかり剣を振るう。しかし、その剣もキメラの防御魔術によって防がれる。

 しかし、雪は自分の攻撃が防がれたにも関わらず小さく笑みを浮かべた。


「読み通り」


 キメラ本体が襲いかかって来ることを除けば、魔術を使ってしまっているキメラに別の攻撃方法はない。だから雪は引くことをせず、その防御魔術を破らんと魔力を剣に込め、さらに力を入れる。

 そうしてもなお、簡単には障壁は破れなかったが、雪の狙いはそれではなかった。


「『騒めく世界に静寂を……』」


 雫の詠唱が紡がれると、オオクチの下に魔法陣が浮かび上がる。

 雪はそれを確認するとその場から飛び退くも、オオクチの体でそんな機敏な動きをすることは出来ない。

 そして雪が飛び退いて、間も無く、雫の魔術が完成した。


「『絶界(ぜっかい)』」


 そして、雫の詠唱と共に、魔法陣が一瞬強く輝く。そして、その光が収まると同時に、一瞬にしてキメラが凍りついた。


「雪」


 そして、その氷像を作り上げた雫が雪に攻撃を促す。

 キメラはあくまで氷付にされただけでトドメを指す必要があった。


「うん。わかってる」


 雪は氷漬のキメラのトドメをさすには少し派手だが確実に倒し切る上では最適な魔術に心当たりがあった。

 少し慎重に魔法陣を構築し、氷漬けになったキメラに向けて掌を向ける。


「『火花(ひばな)』」


 雪が魔術を行使すると以前に比べるとかなり小規模な爆発がキメラを中心にして二度おこり、キメラの氷像は粉々になって消えた。


「雫援護ありがとう」


「ん。大丈夫」


 雪は雫に笑いかけてそう言うと、雫は口元に小さく笑みを浮かべるとそう返した。

 二人がかりで、しかも雫が五等級の魔術を使ってようやく倒せた強敵であったが、そんな強敵を倒したとは言え、これ以上それに浸っている余裕は今の二人にはなかった。

 お互い言葉を交わすなり直ぐに師匠達に助けを求めるため、その視線を師匠達がいるはずであろう場所に向けた。


 その瞬間、恐ろしい勢いで何かの物体と共に赤色の光線が二人の視線を横切り、少し先の木々を吹き飛ばした。

 あまりの突然の出来事に、雪も雫も驚きから唖然とその光景を見るしか出来なかった。

 そして、少し土煙が薄まったところで、その中から立ち上がるような人影が映る。


「痛ったぁ……。聞いてないわよ……」


 土煙が晴れた後に現れたのは、土埃まみれで、所々に傷を覆っている響子の姿だった。



「響子大丈夫か!」


 そしてそこに、上條と大樹、そして修が駆け寄ってきた。

 その修の背中には恥ずかしさからか、小さく丸まって、借りてきた猫のようになっている茜が乗っていた。


「あの、私はもう大丈夫ですので……」


「あ……すまん」


 茜が顔を真っ赤にしながら言うと、修はゆっくりと茜をおろす。

 そんな修の元にツカツカと響子が歩み寄る。


「あの感じは絶対調停者でしょ。出るなんて聞いてないわよ!!」


 学生達が抱いていたクールなイメージはどこへやら。響子は体の土埃を乱雑に払いながら、修へとさらに詰め寄る。


「だから出る可能性はあるって……伏せろ!!」


 そう修が叫んだ瞬間、先ほどと同じ方向から同様の赤い光線が打ち出されてくる。

 修は叫びながらもロングソードを召喚し、その刃を光線の先端に向かって振るう。

 高速で迫り来る光線に寸分違わず刃先が合わされる。そして、その瞬間、まるで光線が剣に弾かれるようにして空中へとそれて消えていった。

 光線に質量なんてものは無いはずだが、修は靴跡を残しながら、後ずさることとなった。


「ッはぁ!重すぎなんだよ!」


 修はそう言いながらその光線が飛んできている先を睨む。なぜかそこには砂塵のようなものが舞っていて、時折その中を青い稲妻のようなものが走っている。


「響子!とりあえず、『塵雷(じんらい)』で足止めしているから、もし抜けてくるようなら少し相手を頼む。その間にこの子をもう少し治療する」


「簡単に言うけど……!!もう!そんなには持たないからね!」


 そういうと響子は砂塵のギリギリ手前まで移動していく。

 修はそれを見送るとすぐに茜の元へと移動する。


「平さん以外の皆は少しの間辺りを警戒してくれ」


「「「「了解」」」」


 修の指示に返事を返し、改めて周囲を警戒し始めた学生達を横目に修は痛みに顔を顰める茜の前に跪く。


「平さん。話は聞いてたな?」


 その問いかけに茜は頷く。


「よし。とりあえず治療を行うから傷を見せてくれ」


「はい……」


 茜が脇腹を抑えていた手を外すと、深く抉れた傷口が姿を現した。


「思ったより深いな……。仕方ない。少し痛むが我慢してくれよ」


「はい……」


 茜が恐る恐る頷くのを見ると、修は自身バックパックから白い布を取り出した。


「あの……それは?」


「あー。悪いことは言わないからそれを咥えておいてくれ」


 曲がりなりにも治療をする役割を担っている茜である。その言葉が意味することを瞬時に察して顔色がサッと青くなる。

 とは言えそれ以外の選択肢がないのは事実であるため、一瞬の逡巡の後、おとなしくタオルを咥えた。


 修はそれを確認するとその傷に向かって掌を掲げる。

 そしてすぐその掌の先に魔法陣が現れた。複数の(ふち)があり、その構成も複雑であるため、それなりに等級の高い魔術だと茜は一目で分かった。


「それじゃあいくぞ」


 修の言葉に茜は恐る恐る首を縦にふる。


「『活性』」


「ッッ!!!!!」


 修が魔術を行使すると同時に、茜が悲鳴にならない声を上げる。茜はあまりの痛みに体をよじるが、修はその肩を抑えることでその動きを止める。

 真面目に辺りを警戒する雪と雫を他所に、茜の様子を横目に見ていた四班の男性陣は気の毒そうな表情を浮かべると目を逸らした。


 その間にも修はすぐさま別の魔術を行使する。


「『組成(そせい)』」


 その言葉共に茜の抉られたような傷が、丸で逆再生されたように塞がっていき、完治したとは言えないものの、茜の傷はある程度塞がった状態になった。


「よく耐えたな。おつかれ」


「あ……りがとう……ございます……す」


 茜は疲労困憊、息も絶え絶えと言った様子で辛うじてそう返した。

 茜がこれまで感じた痛みを遥かに上回る痛みだった。時間にすると僅か十数秒だが、よく耐え切ったと自分で自分を褒めてあげたい位だった。

 何にせよ、ジンジンとする痛みは未だにあるが、治療前と比較すれば格段にマシな痛みであった。少なくとも、ある程度は自分で動ける位にはマシになっていた。


「修!まだかかる!?抜けて来るわよ!」


 とそこに少し焦ったような響子の声が修に届く。

 その声に反応して、四班の班員は響子の方に顔を向けると同時に、その顔に驚愕を浮かべた。

 響子が構えるその正面、雷光が走るその砂塵についに先程の攻撃をした主の影が映っていたのだ。


「何あれ……」


 雪から驚きの声が漏れる。

 その砂塵に浮かぶ影は通常の魔獣や外獣にしては随分と巨大だった。

 恐らく身の丈5メートルはあるだろう、ヒト型のシルエットをした何かはその手に剣のようなものを握り、その頭部と思われる部分の中央には目と思われる一つの赤点が怪しく光っていた。


外界(ココ)にあんな大きい魔獣なんていましたっけ」


「俺は聴いたことねぇな……」


「私も無いなぁ……」


「僕もだよ」


 そんな呑気な内容の会話であるが、そう言っている本人達の顔と声はがひどく引き攣っていた。

 その影に向かって何度も雷光がぶつかり、煩わしそうにその影も動いていることから、まだ足止めは効いていることは確かであったが、もうそろそろ抜け出して来ることは想像できた。


 一方で師匠陣は、顔を引き締めると、小声でその対策を練り始めていた。

 一目散に逃げることも考えたが、過去の経験上、それは得策では無いことは何となく想像がついていた。


「あれまともにやって勝てると思う?」


「勝てないとは言わないがかなり難しいな」


「そうよね……。あれが出た原因に心当たりは……」


「魔法陣だな」「魔法陣ね」


 二人とも心当たりしかなかった。

 いまだにあの存在が何なのか、そもそも何で出て来るのか、どこから現れるのかも全く明らかになっていないが、そのキッカケは大体同じだった。


「となると、そのキッカケはスパイクか……」


「あまり考えたくは無い原因ね」


 もし仮にこの一連の問題の原因がスパイクにあるとしたならば、それは今後の魔術界を揺るがしかねない事実になる。

 どんな理由があるにせよ、どう転んでも魔術師にとっていい結果にならないのは明白だった。


「仕方ない……。ここは俺が引き受けるよ」


 修は溜息混じりにそういう。


「じゃあ私は魔法陣の方ね。学生達はどうするの?」


「そちらに全員と言いたい所だが……」


「リスク分散ね。じゃあ、雫ちゃんを貸してあげる。ヘタな新人魔術師より実力はあるから自衛位なら何とかできるわ。あとは私が引き受ける」


「合流地点はあの場所で。じゃあ任したぞ」


 響子は修の言葉に軽く手をあげて応えると、学生達のもとへと歩いていく。


「みんな聞いて。雫ちゃん以外の四人は私についてきて」


「はい」


「え……雫だけ?何かあったんですか」


 響子の言葉にすぐ返答をした雫の一方で雪が困惑の声を上げる。


「ごめんなさい。説明している余裕はないの」


 響子はそんな雪に申し訳なさそうな表情でそう言う。


「私も師匠の方に……」


「葛西さん」


 それでもなお、雪は食い下がろうとするが、その言葉は師匠である修によって遮られた。


「葛西さんのタイプなら風音さんの動きはかなり参考になるはずだ。勉強してこい」


 少し拗ねたような表情を見せた雪だが渋々と頷いた。


「…‥分かりました」

 

 そのやりとりを何とも言えない表情で見ていた響子は雪が頷いたのを見るなり、四人に声をかける。


「やることは道中移動しながら説明するわ。とりあえず、私についてきて」


 そう言うなり響子は四人の返事を待たずに走り出す。


「あ……。みんな、行こう」


「おう」


「葛西さんも行きましょう」


「あ、うん。師匠、雫をお願いします」


「おう。任された」


 雪はその修の返事に軽く頭を下げると、響子の方へと駆けて行った。


「さて、俺たちもやるか」


「はい」


 そうして、それぞれの戦いが始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ