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欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
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外界演習8

 スパイクを設置するのが初めての雪であっても、それが正しく起動したと言うことは目に見えてわかった。

 スパイクの先端、その中に収められている水晶が柔らかに発光を始めた。

 それと同時に雪の手にも少しの振動が伝わり、微かな駆動音が少しずつ雪の耳にも届き始めた。

 そしてそれは徐々に激しさを増していき、気がついた時にはスポーツカーのエンジンの様な音が耳栓をした雪にも届いていた。

 その音と光は止まる事を知らず、加速していく様に大きくなっていた。そして、突如スパイクが強い閃光をその先端から放ち、雪の視界を覆い尽くした。


 その強い光に思わず目を手で覆った雪がその次に見た光景は完全に光を失ったスパイクの姿だった。


「あ……れ……。もしかして、壊れちゃった?」


 雪の心に不安がよぎる。

 どう見ても今のスパイクは停止している様にしか見えない。

 慌てて雪が手元のタブレットの画面を見るも「接続が解除されました」という文字が浮かんでいる。


「なんで……」


 雪は慌ててケーブルを差し直すも、スパイクと接続することは叶わず、タブレット上の表記にも変化は見えない。

 正常に動作しているのであればスパイクと接続を出来るはずだ。しかし、何度ケーブルを差し直しても一向に接続に成功することは無かった。


「なんで……。ここまできたのに……」


 これじゃ、みんなに顔向けできないと、雪の心に絶滅が広がった。

 演習が始まって、ここに来るまで雪はほとんど何もしていない。正確にはスパイクを安全に運ぶことも大事な仕事の一つではあるが、雪にとってはやって当たり前のことだった。

 そんな雪にとっては、こうやって皆で外界に出て、スパイクを起動するということが唯一の仕事であり、今までの自分の努力の証明となる大きな目標となっていた。

 それを失敗してしまう事は、雪自身が自分の存在なんて不要で、努力なんて無駄だったと思ってしまうほどには大きな出来事であった。

 勿論、実際はそうではなく、スパイクの起動の成否に起動者は一切関与しない。何せ、ただボタンを押すだけなのだから。

 しかし、今この瞬間だけは、客観的な事実よりも雪の主観だけが唯一の事実となり得た。


「これじゃ……今までやってきたことも無駄……」


 と、雪の心が絶望に染まり、折れかけたその瞬間、突如、雪の頭上を覆っていた氷が砕け散った。

 雪が慌ててそちらを見ると、そこには本来ここにいないはずの自信の師匠の姿があった。


「し、師匠どうしてここに……」


 あまりの驚きに絶望云々なんて吹っ飛び、雪は耳栓を外しながら、慌てた様子で言う。

 そんな雪に修は手を差し出した。


「葛西さん!早くそこから出てきて。まずいことになった」


「え、どう言う……」


「いいから。話は後だ」


 雪が修の手を取り、外に出るとそこには武器を手にした仲間達と、先程までは存在しなかったものが存在していた。


「なにあれ……」


 雪はその異様な光景に思わず息を呑んだ。

 その一つ、それはこの辺り一帯の地面に浮かび上がっている特大の魔法陣だった。大きすぎて全体を把握することは難しいが、雪が今見ただけでも間違いなく六等級以上の魔法陣であることは確実だった。

 そして、どちらかと言うと雪の意識が向いているのはもう一つの方だった。

 それは、ユラユラと揺れる雪よりも大きい人型の黒い影の様なものだ。

 人型とはいっても手足は以上に長く、顔と思わしき部分にはその黒い体より黒い穴が一つ空いている。

 それは数十体も現れていて、足元にある魔法陣に向けて手を伸ばして、魔法陣から何かを吸い取るような動きをしている。


「魔法陣を食べてるの……?」


「葛西さん、とりあえず今はあれにちょっかいをかけるなよ……」


「はい……」


 雪が修の警告にそう返事した瞬間、聞き覚えのない声が雪の耳に入ってきた。


「修……。これあの時と一緒よ」


 不思議に思い雪がそちらを向くと、そこに居たのは雫の師匠の風音響子だった。

 修がいるだけでも意味がわからないのに、その上に有名人である風音響子まで居るとなるといよいよ持って意味がわからなかった。

 そんな色々なことが重なって困惑気味の雪を置いて、二人の話は続く。


「異界化だろ……」


「うん。あの時と同じなら遅かれ早かれこっちにも襲いかかってくるわ」


「分かってる。とりあえず今のうちに学生たちにに指示をしておこう」


「雫ちゃん!皆んなこっちに集まって!」


 響子の掛け声で辺りを武器を構えながら警戒していた全員が三人の元に集まってきた。


「雪!大丈夫だった?」


 一目散に雪の元へと駆け寄ってきたのは雫だった。

 雫は表情が乏しいながらも、その顔に心配を浮かべながらそう言う。


「うん。大丈夫。でも……」


 雪はさきほど這い上がってきたスパイクの設置場所にチラりと目をやる。

 そうしている間にも他の三人も集まってきていた。


「葛西さん無事でよかった」


 上條は雪の姿を見つけると、柔らかい笑みを浮かべてそう言った。

 スパイクの設置成功云々よりもまず自身の身の無事を喜んでくれる仲間たちに雪は申し訳なさを強く感じた。

 もちろんそれを隠すつもりはない。雪は申し訳なさから少し伏せ目がちに言葉を紡ぐ。


「ごめん……。スパイクなんだけど壊れちゃったみたい…」


「気にすんな、こんな事起こってる時点で誰も気になんてしないからよ」


「スパイクなんかより、葛西さんが無事で良かったです」


 それにすぐ応えたのは茜と大樹だ。

 二人とも全くスパイクのことなんて気にした様子はない。


「うん……。ありがとう」


 雫は自分でも単純だとは思いながらも、そんな皆の言葉で少し肩の荷が降りた気がした。

 とは言え、また改めて仲間のみんなには謝らないと、雪が思っているとすぐ側で雪を見上げていた雫が雪の袖を引く。


「雪、切り替え」


「うん。分かってるよ」


「皆揃ったわね」


 そんな様子を温かい笑みを浮かべながら見ていた響子は手をパンパンと二度叩いて皆の注意を自分へと向けさせた。


「私たちのこととか色々聞きたいはあると思うけど、とりあえずまずは安全を確保することが先決だから私たちの指示に従ってね。修」


「はいよ。とりあえず、あそこにいる黒いのは魔力を喰う存在だ。ちなみに今は下の魔法陣にご執心だが、そのうち俺たちの魔力を目当てに襲ってくる」


「では、今の間に逃げる……って言ってもそんな簡単には行かなさそうですね」


 上條は辺りを見回しながらそう言ったが、自分たちの周りに溢れかえっているその黒いヒトガタを見て苦笑を浮かべた。

 こっそり移動するにしても何処かしらでそれらの近くを通る必要があるのは明白だった。


「あれの真隣をゆっくりすり抜ける方が余程リスクが高い。一応あれは一体程度であればあなた達にともっても大した障害にならないわ」


 そんな上條の表情を見てか、響子がそう補足説明を入れる。


「と言う事だから、作戦は簡単だ。アレが魔法陣に気を取られているうちに、さっさと駆け抜ける。具体的には進路上にいるやつだけ蹴散らしてあとは無視。足を止めないことが重要だからな」


「あの、師匠」


 そんないかにもシンプルな作戦を提示した修に雪はおずおずと手を上げる。


「葛西さんどうした?」


「その……こちらから攻撃を仕掛けてあの数全て相手にするハメにならないんでしょうか」


「当然あいつらは一体でも危害が加わればほぼ全てが反撃態勢に移る可能性は高いな」


 その言葉に学生達は唖然とした表情を浮かべる。

 質問した雪は諦めた様な表情を浮かべている。


「それは……かなり不味いんじゃ無いですか?風音さんと日比谷さんなら問題無いかもしれませんが、僕達じゃ……」


「だから修は言ったじゃない。足を止めないことが重要だって。安心して。私たちが極力進路上のは蹴散らすし、危険な攻撃は防ぐから。あなた達はただ真っ直ぐ私たちについて走ること、撃ち漏らしを警戒してくれれば良いわ」


 頬を引き攣らせながらも何とか四班のリーダー役である上條が修に考え直してもらおうとそう言うも、アッサリと響子に却下された。


「ま、と言うことだ。ルートとかを選定するから少しだけ待ってくれないか?」


 修は学生達にそう言うと、響子と打ち合わせを始めた。


「本当にこの中を進むつもりなんだ……」


 真面目にものすごい案を実行しようとしている二人の魔術師を見て上條が頬を引き攣らせながら呟く。

 周囲を見てみると、修の言葉通り真っ直ぐ駆け抜けたとしても、少なくとも数十体とぶち当たるし、何ならその近くにも黒いヒトガタはたむろしている。

 師匠達の実力を疑う訳ではないが、少なくとも自分達もしっかりと回避行動は取らないといけないだろうなと言うことは簡単に想像ついた。


「ってアレ……?増えてないかアイツら」


 大樹が指差す先には黒いモヤが漂っており、それが球体になったかと思うと徐々に輪郭を持って黒いヒトガタへと変貌した。

 どうやら理由は不明だが、魔法陣の中心あたりからどんどんそれは増えていっている様だった。


「ほんとうにやるんですか……」


 少し恐怖の浮かんだ顔で茜が泣き言の様にポツリとこぼす。

 雪よりも小柄な茜から見れば黒いヒトガタは随分大きく見えるだろうし、こんなわからないモノの中を突き抜けるなんて恐怖以外の何物でも無い。


「平さん。諦めて」


「……ここから抜けるのはその方法しか無さそうだもんね」


 雫と雪は自分達の師匠のことをたった数ヶ月の付き合いしか無いが、ある程度理解していた。

 たまに無茶苦茶な事を言うが、それは師匠達の経験から来るモノであったため、結果としては間違っていないことしかなかった。

 そんな訳で、二人はやると言われた瞬間に覚悟を決めていた。


「ま、やるしか無いな」


「ここまで来たら流石にね」


 大樹と上條も軽く笑って覚悟を決めた様にそう言った。



「よし。じゃあ皆準備はできたか?」


 打ち合わせは終わったのか、修が学生たちにそう問いかける。

 いつの間にかその手には銀色の盾を携えていた。


「ん。大丈夫です」


「私も行けます」


「はい。いつでも」


「いけますよ」


 即答する四人を横目に全然いけません何て到底言えない茜は小さく首を縦にふる。


「 まぁ、そんな心配しなくて大丈夫だ。前はあの子が全て潰すし、後ろには俺がつく。時々入る横槍も俺も可能な限り潰すから、最低限の自衛だけしてくれればいいよ」


 そんな茜の様子を見て修は軽く笑って茜を安心させる様にそう言った。


「じゃあ私が先頭でその後ろに男子二人。真ん中に葛西さんと雫ちゃん。修の前に平さんの順番で進むからね。臨機応変に位置は変わって良いけど、離れすぎるとカバー出来なくなるから気をつけてね」


 その響子の指示に首肯を返し、全員が位置につき準備をする。

 準備とは言ってももう全員武器を手に持っているため、立ち位置を整え、覚悟を決める位だ。

 その準備はすぐに整った。


「よし、じゃあ。行くぞ」


 修の言葉で、響子が駆け出した。


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