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欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
59/112

外界演習5

 五人の前に現れたオオクチは四匹だ。

 その移動速度はカタツムリやナメクジと変わらず、随分とゆったりしたもので、未だに五人とオオクチの間には距離があった。


「皆さん、オオクチの攻撃手段はあの触手です。あの触手で相手を絡め取ったり、硬質化させて突いて来たりします。威力も高いのと、触手だけは動きが速いので気を付けてください」


「はいよ」


 茜の言葉に先頭に立っている大樹が応える。

 流石というべきか、茜はオオクチに関してもしっかりと知識を持っていた。

 探索者以外にとってはオオクチはそこまで名の知れた外獣ではないため、茜の外界の生物の知識はプロレベルと言っても過言では無かった。


「くるよ!」


 オオクチの口が少し開くのと同時に上條の注意が飛ぶ。そして、その言葉通り、一匹のオオクチから大樹に向けて高速で触手が突き出された。


「あたるかよ!」


 大樹はその触手を難なくかわすと、その手に持つハルバートを触手へと振り下ろす。

 いくら硬質化された触手とはいえ、肉体を強化している大樹の一振りを弾ける訳も無く、簡単に触手は断ち切れた。

 大樹はそのままハルバートを持ち直し、そのオオクチへと一歩踏み出すも、オオクチはまるで痛みなど感じていないかのように同じように触手を突き出した。


「チッ」


 大樹は舌打ちを一つ打つと、その触手を躱すため、後方へと大きく飛んだ。

 しかし、ここでオオクチの攻撃は大樹の想定を上回っていた。


「マズっ」


 その触手は大樹が想定していたよりも随分と長かったのだ。

 空中に飛んだことで動きが取れない大樹は毒突きながら、ハルバートを構えようとするも間に合いそうにない。



 そして、その触手が大樹の体を貫かんとしたその寸前、一つの斬撃が触手を切断した。

 その斬撃を放った上條は大樹と並ぶように立ち、油断なく槍を構えた。


「大樹、油断しすぎだよ」


「わりぃ。助かったぜ」


 流石に触手をこの短時間で二度も切られたからか、そのオオクチは少し怯んだように後退した。

 しかし、もう既にこの時にはそのオオクチの運命は決まっていた。


「『氷波(ひょうは)』」


 雫の小さな声が響くと同時に、雫の足元からまる波が立つかのように氷が突き出し、オオクチへと向かう。

 移動速度の遅いオオクチがそれを躱すことなど当然叶わず、オオクチは氷の波により真っ二つになった。


 そして役目を終えかのように氷の波が砕け散ると同時に、残りの三匹へと上條、大樹が詰め寄る。


「『鎌鼬』」


 不可視の刃が先制攻撃とばかりに残りの三匹のうち、前に出ている一匹の目を切り裂き、紫色の血液が飛び散る。

 そのまま上條はそのオオクチに詰め寄るとその目玉の中心に槍の一撃を突き刺した。


「まずは一匹ッ!」


 その上條の後ろから飛び出すように大樹が前に出る。

 それに合わせて残り二匹のオオクチから大樹に向けて触手が突き出される。


「『水断(みずたち)』」


「『結界』」


 しかし、それを読んでいたかのように雪と雫の魔術がそれぞれの触手に放たれる。

 結界は並び立っていたオオクチ二匹の少し前に展開されると、二本まとめて触手の動きをしっかりと食い止め、その触手を地面から噴き出した高圧の水の刃が切り落とした。


「ナイスカバー」


 大樹はそのまま雪が出した結界を踏み台にして、オオクチを飛び越し、後ろからハルバートを横薙し、二匹まとめて真っ二つにした。


「よし!いっちょ上がり」


「ナイス連携でした!」


 宣言通り戦闘に参加しなかった茜が後方で飛び跳ねて勝利を喜んだ。


「周囲も……敵はいないね」


「うん。安全」


 油断なく周囲を見渡していた雫と上條は安全を確かめると、武器をしまった。


「それにしても、慎重に戦い過ぎたかな……?」


 雪はそう言うと剣の召喚を解除する。


「初戦だから仕方ない。それに焦って怪我するよりはマシ」


 雫は杖の召喚を解除するとそう言った。


 オオクチ程度であれば、単体どころか二、三体居たところでプロの魔術師にとっては取るに足らない存在である。

 魔術師見習いであっても、二体までであれば問題なく対処できる者も少なくない。師弟制度に合格しているような魔術師であれば大半が可能であろう。


「実際万が一もありえるからね。効率とかは徐々に考えていこう。平さん、オオクチって何か換金できる部位はある?」


「あー、すみません。私も換金部位までは調べていませんでした。確かにこう言う場合は必要な知識ですよね」


「いや、大丈夫だよ。どのみち今回はお金云々より、しっかり依頼を達成することが目的だからね」


「荷物も増えるし、不衛生」


「確かに臭そうだもんね」


 雪は紫色の血を流しているオオクチの死体を見てそう言う。

 この後すぐに食事を取れと言われたら困るくらいには気持ちの悪い光景だ。


「それよりみなさん。ここ結構設置に良さそうじゃないですか?」


 茜はあたりを見渡しながらそう言う。


「言われてみれば、確かに良さそうだね」


 先程の気味の悪い通路を抜けた先のこの場所はかなり開けた場所となっている。

 この辺り一面には特に木もなく、背の高い草むらもなく、野原のようになっている。


 すぐ近くに大木が立っている大きな池には水棲の生物がいそうではあったが、その大部分が丸石などで囲われていて、簡単には陸には上がって来れそうになかった。


「今見る限り周りも他に魔獣とかもいないしな」


 大樹もあたりを見渡してみるが、野原には一切の存在が見受けられなかった。


「よし、じゃあみんなちょっとだけ周りの警戒をお願い。設置できるか確認してみるよ」


「了解です!」


 そういうと、上條はオオクチとの戦闘前に地面に置いておいたバックパックからタブレットを取り出すと、そのままその場で操作をする。


「えーと……うん。……よし、ここは設置できる」


 上條は少し端末をいじったのちそう明るい声で言った。


「やった。第一候補ですね!」


「良かった。これでひと安心できるね」


 トラブルが続いた中、ようやくの前進に茜と雪は安堵の息をついた。



「よし、このまま予定通り、来た道を戻って候補を探してから帰ろう」


「警戒だけは怠らないで」


「そうですね。あの道は気味悪いですし」


「変な声もしたからね」


 上條の言葉に、茜と雫、雪は頷く。

 先程通った道は相変わらず薄暗く、今いるこの野原とは真逆の雰囲気を醸し出していた。

 そして、いざ戻ろうとした所で、雪は池のほうを向いたまま立ち尽くしている大樹に気が付いた。


「あれ?大森さんどうしたの?」


 その雪の質問に、他の三人も大樹の様子に気がつき振り返る。


「……あれ見ろよ」


 大樹が乾いた笑いを零し、池の方を指差す。

 四人は池の方を見てみるも、特段先程と変わった所はなかった。


「大樹、特に変わったところは何も無いよ?」


 大樹のおかしな様子に上條が怪訝な顔をしながらそう言う。


「あの池にいるカモメっぽいのをよく見てみな」


 大樹が指差す先、水面に浮かんでいるそれを雪は注意深く見てみる。

 そのカモメは先程よりずいぶん近い位置まで来ており、その姿もそれなりに鮮明には見えた。確かに、ずいぶん太い首をしていて、殆ど身動きもせず水面に浮かんでいる点は地球のカモメとは違っていた。


「確かにちょっと変わった形をしてるけど、外界では普通じゃ……」


 雪が言い切る前に、珍しく雫から驚きの声が漏れた。


「何あれ……」


「え?どう言うことですか?」


 茜も何も分からない様子で、雫に問いかける。


「あれ、触手」


「「へ?」」


 茜と雪の声が綺麗にハモる。

 ちょうど、その声に合わせるかのように、空から成人男性位の大きさがありそうな、一匹の大型の鳥がそのカモメに擬態した触手へと急降下する。

 そして、その大きな二対の鉤爪が触手もどきを捕らえようとしたその瞬間、多くの触手を携えた巨大な口が水中から突然飛び出し、その鳥を飲み込むと、水中へと消えていった。

その生物には確かに大きな一つの目が備わっており、先程戦ったオオクチと似通った姿、特徴をしていた。


「………」


 あまりの衝撃的な光景に、五人とも声も出せず、その場に立ち尽くしてしまった。


「あれ何なの?」


「見た目はオオクチ」


「にしてもデカすぎねぇか?」


 大樹は茜に顔を向けるも、茜も小刻みに小さく首を横に振る。


「長命だからある程度大きくなるとは知っていますが、さすがにあのサイズまでなるって話は聞いたことありませんよ。それに、カモメに擬態できるというのも聞いた事ないです」


「異常個体ってやつか」


 外界では先程のオオクチのように、異常に巨大であったりと通常の個体とかけ離れた能力や姿を持つ外獣が度々発見される。

 それが外界の生物の特徴であるのか、それとも他の要因か、その理由は定かにはなっておらず、こういったことも外界が危険である理由の一つであった。


 少しの間四班に沈黙が広がったが、上條が手を一つ叩くことで、その空気は消え去った。


「いつまでも驚いていても仕方ない。とりあえず、第一候補は見つけられた訳だから帰る準備をしよう」


「うん。そうだね。今の所あのオオクチが私達を攻撃してくる様子も見えないしね」


 雪が池の方向を見ながらそう言う。

 雪の視線の先では、相変わらずその巨大なオオクチが水面に触手を幾つか出したまま、その巨体を水中に隠し、獲物を待っていた。


「そう言えば、異常個体の報告とかは必要なんでしたっけ?」


 茜が外界探索の知識が豊富な雫に向かって問いかける。


「義務では無いけど、報告すると報酬が出る時がある」


「おぉ、それはいいな。帰ったら報告しようぜ」


「大樹。帰った後のことより、ちゃんと安全に演習を終えることが先だからね」


 大樹が嬉しそうにそう言うのを見て、上條は軽く笑いながら大樹を嗜めるようにそういった。


「よし。とりあえず、またあの気味の悪い道を通るんだ。全員、もう一度気を引き締めて帰ろう」 


 上條の言葉に全員、もう一度気を引き締めた。

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