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欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
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外界演習3

 四班がスパイク設置エリアに到着した途端、雨は本降りに変わり、台風かと思える程の強い雨と風が朽ちた街に降り注いでいた。

 雨具を用意して四班だが、流石にこの強さでは雨宿りを行うしかなかった。


「これは今日中に設置は無理そうだな」


 朽ち果てたビルの中、所々ヒビが入っている窓ガラスの向こう側を眺めて大樹はそう言った。

 雨宿りを始めてかれこれ一時間は経っている。雨が降るまでは非常に順調に進めていたため、時間はまだ四時過ぎだが、この雨がすぐ降り止むとは思えなかった。


「まぁ、目標地点まで来れたからとりあえずよかったんじゃない」


 上條は大学側から支給されているGPS内臓のタブレット型の端末をいじりながらそう言う。


「タブレットの状況はどうですか?」


 茜がタブレットをいじっている上條にそう尋ねるも、上條は首を横に振った。


「ダメだね。魔素や魔力は雨とかの影響を受けにくい筈だけど、これほど強い雨だと流石に影響を受けてしまうのかもね」


「外界ってところも関係するのかな」


「それも可能性としてはありますね」


 タブレットも他の通信機器の例に漏れず、周囲のスパイクとの魔力通信で位置情報を取得している。

 四班の持つタブレットは先程からスパイクとの接続状況が悪く、現在位置の取得がしっかり出来ていなかった。

 そのため、少なくともナビ機能に関しては、少し前からまともに使えない状況であった。

 ただし、このタブレットは外界探索用にカスタマイズされたものだ。その中にインストールされているアプリやその他仕様も市販のものより優れている。そのため、他にもまだまだ使い道はあった。

 例えば、現在四班が雨宿りに入ったこの建物の場所もしっかりとマーク付けしてあるし、コンパスの機能もあるため、地図としてもまだまだ使える。

 とは言え、この設置ポイントから離れると途端に地図の内容は薄くなるため、地図として活用できるのはここ位だが。


「一応現在位置は分かってるから何とかなる」


 雫は廃墟に転がっていたチェアに腰掛け、足をぶらぶらとさせながらそう言った。

 元々ここはカフェか飲食店だったのか、無数のテーブルと壁面のフェイクレザーで出来たソファ、そしてチェアがあり、長いカウンターが備え付けてあった。

 幸いにもソファーもプラスチックでできたチェアも魔術で簡単に綺麗にできた。そのため、四班のメンバーは各々チェアやらソファーやらに座っていた。


「これからどうするの」


 雫がタブレットの問題解決を諦めた上條に声をかけた。

 上條は顎に手を当てて少しの間思案する。


「設置箇所を探す必要はあると思う。ただ、スパイクは周囲のスパイクと接続できる環境じゃないといけないから屋外に設置しないとね……」


 そこまで言うと上條は外の様子をチラッと見る。


「スパイク担いで、この大雨の中で探しに出るしかないか?」


「それは避けたいですね……。葛西さんの負担もありますし」


「平さんありがとう。でも、私は大丈夫だよ」


 雪はそう言って茜に笑いかける。

 しかし、その言葉と裏腹に、雪はしっかりと疲れも感じていた。

 刃狼に出会ったことを除けば、戦闘もしていないし、ここまでただ歩いてきただけだ。とは言え、しっかりと舗装されていない道をスパイクを担いで半日以上歩き続けた訳であるから疲労が無いとは言えない。

 一応、雪はその有り余る魔力を活用し、肉体の強化をずっと行っていたため体はそれなりに元気だが、精神的な疲れが大きかった。



「とりあえず、スパイクはここに置いておく予定だから安心して。タブレットに設置の可否を確認するアプリが入っているからね」


「へぇー。そんな便利なアプリもあるんだな」


「森本さん……今朝、ちゃんと佐伯先生が説明してましたよ」


「マジか!?全然聞いてなかった」


 そんな大樹に茜が苦笑いを浮かべる。


「スパイクを置いていくってことは今日はここで野営するの?」


 雪の質問に上條は頷く。


「一応、ある程度は掃除したから意外と居心地も悪くないと僕は思っているんだけど。皆はどうかな」


 その上條の返答に雪は店内をあらためて見渡す。

 この店内の安全が確保されてすぐに上條が行ったことは埃の除去をはじめとした簡単な清掃だった。

 得意の風の魔術を使って埃をあら方外に噴き出すと、自身と雫の水の魔術を使ってテーブルとチェアやソファーの汚れを簡単に落としたのだった。

 そのお陰で、この場所は意外と居心地の良い場所になっていた。

 金属で出来ているであろう銀の扉は頑丈そうだし、扉近くの壁には左右共に窓がついていて、外の様子も伺える。


「このままここで良いと思うぞ」


 その大樹の返事に他の三人も同意したように頷く。


「それじゃあ決まりだね。あとは、スパイクの設置場所を探しにいく件についてだけど……」



「明日に場所探しも設置もまとめて行うじゃダメなんですか?」


 茜の提案に上條は首を横に振った。


「難しいかな。もし天気に恵まれたとしたら、時間的には結構ギリギリになるけど可能だとは思うけど……」


「でも明日晴れるとは言えないだろ?」


「そう言うこと」


 残念ながらね、と上條は付け足すように言う。


「じゃあ行くしかないね。私たちの班だけ大雨で様子見てて失敗しましたは流石に嫌かな」


「私もそれは避けたい」


「この雨の中で動くのは避けたかったが、仕方ないな……」


 大樹は外の様子を見てそう言う。

 外ではいまだに大ぶりの雨が降り続いていた。とは言え、風はかなりおさまっているようで、窓の外から見える雨は横殴りでは無くなっていた。風がないのであれば、雨具をつけていれば、びしょ濡れになることは避けられる。


「よし、行くと決まったのなら早めに動こう。皆んなこっちに集まってくれるかな。大樹はこのテーブルを動かすの手伝ってくれないか?」


「はいよ」


 上條と大樹は二つのテーブルを一つに合わせ、女性陣もその周りに集まる。

 そして、全員が集まったところで、上條はテーブルの中央に地図を表示したタブレットを置いた。


「まず、僕たちが今いるのがここだ」


 上條はそう言うとマップ上の一点を指差す。


「そして、スパイク設置は他のスパイクと接続できる場所に設置しないといけない」


「どのくらいの距離なら接続できるんだ?」


「五百メートル位までなら、と言う話だね」


 上條がマップを操作し、表示範囲を広げる。周辺には結構な数のスパイクが既に設置されており、設置場所にはあまり困らなさそうであった。


「これなら意外と簡単に見つかりそうだね」


「そうでもない。この辺りは市街地だからコンクリートの地面しかないから難しい」


「あ、そっか。でも魔術でいけそうだけど……」


 雪は四班の面々を見回してそう言う。


「確かに俺でも穴を開けるくらいはできるが、その後は出来ないぞ」


 大樹の言葉に他のメンバーも頷く。


「僕もスパイクを設置出来るような穴をきれいに開けるのは難しいね。可能性があるとしたら天野さんかな。どう?」


「私は出来なくはない……けど、成功率の方が低い。私が使える魔術の中だとそれにピッタリのものはないから、魔術改変が必要になる」


 魔術を本来設定された形から変えることを魔術改変というが、当然その変化の大きさやその内容によっては難易度が跳ね上がる。

 それこそやろうと思えば一等級魔術を七等級魔術と同等の難易度にすることすら可能だ。


「それじゃあやっぱり僕たちは埋めやすい所に設置するしかないね」


「となるとこの辺りだとどこになるんだ?」


「うってつけの場所といえばここかな」


 上條が少し地図をスクロールした場所にあったのは緑色に塗られた広大な場所だった。


「えっと……ここって森か何かなの?」



「あぁごめんごめん。説明なしだとそうだよね。ここ自然公園みたいな場所なんだよ。多分手入れなんてされてないだろうから森みたいになっているかもしれないけど」


「公園……?なんでわかるの?」


 特にマップ上に公園とわかる表記は無いため雪は首を傾げる。


「まぁ、あれだよ。目標地点の周辺に関しては軽く予習してきたんだ」


 特に表立ってリーダーと任命された訳ではないが、間違いなくこの四班のリーダー役をしているのは上條であると、本人も他の四人も分かっている。

 だからこそ上條はその責任感からある程度、個人的に情報を買ったりしていたのだった。


「流石上條さん!」


「本当頼りになるね。ありがとう」


「助かる」


「どういたしまして……。それより、本題なんだけど、行ってみないと何とも言えないけど、一応ここが本命と思って良いと思うんだけど、どうかな」


 上條は女性陣三人の言葉に少し照れたように頬を掻くと、そう言った。


「良いと思う。第二候補はどうする?」


 雫の質問に上條はマップを設置予定エリア全域が映るサイズまで縮小させた。


「そこが問題なんだよ。目ぼしい場所がありすぎる、というか行ってみないと分からないんだ」


 マップを見ると確かに何処にでも設置できそうではあるが、マップを見るだけでは何処が設置に適しているかまでは分からない。


「じゃあ実際に行くしかないな。それにしてもいく場所は決めておかないとじゃないか?」


「それなんだよね。あまり遠くまで足を伸ばすのもアレだしね」


「建物が密集しているところは避けた方がいいんですよね?きっと」


「おそらく繋がりにくいとは思うけど、実際の所は分からないね」


「選択肢が多いのも悩みものですね」


 うーん、と茜と大樹、上條は唸る。


 今ここで決めるには判断材料が何一つなく、恐らく何処を通っても結局は運次第というのも、決め手にかける理由の一つであった。


「場所を決めるというか、ルートを決めるのはどうかな?」


 そんな中、あまり難しく考えていなかった雪がそう提案した。

 その言葉を聞いた上條は、ぽんっと手を打つ。


「あぁ、確かにそうだね。難しく考えすぎていたよ」


「ん?どう違うんだ?」


「いく場所を決めるんじゃなくて、この場所と本命の場所までの往復のルートを決めてそのルート沿いの地点をチェックする」


「成る程な。その方がシンプルでいいな」


「ほらこれが最短ルートだよ」


 上條が公園までの往復の距離を青いラインで結んだものを全員に見せる。


「公園までは二キロ程だから、少し寄り道しても良いと思うから、少し調整しようか」


 そうしてルートが決まったのが三十分後。

 雨はまだその強さを維持していた。

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