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欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
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師匠達の打合せ

次回から演習に入ります

 学生達が演習に向けて必死に準備を進めている中、その護衛にあたる師匠達も、入念な打ち合わせを行なっていた。

 当日の自分達が護衛を担当する班が向かう場所、取りそうなルート、そして注意が必要なポイントや外界の生物云々なだ。

 学生達がとる行動を完全に予測することは不可能であるため、準備に限ってしまえば、師匠達の方がよほど大変であった。

 演習前の最後の打ち合わせ日に佐伯がもたらした情報は護衛役の魔術師達に少なからず動揺をもたらすこととなった。


異常現象(アノマリー)が起こっている?」


 そんな素っ頓狂な声を上げたのは、今回修と同じく学生達の護衛を担当することになっている男性魔術師だ。



「それはいつものことでは無いのですか?」


 他の魔術師が続けてそう言うと、今回護衛に参加する多くの魔術師達はその言葉に頷く。

 一方で、それに佐伯は静かに頷くも、やや渋い表情を浮かべていて、護衛担当の魔術師達は首を捻るばかりだ。


 外界の環境やそこで起きる現象は地球からすれば異常なものばかりであり、それは周知の事実だ。

 地球で当たり前に起こる現象が外界では起きなかったり、逆に地球では起こり得ないような事が外界では普通に起こったりする。


 その中でも更に特異な現象であったり、ゲート周辺などの人間が活動する範囲で頻発していたり、外界での人類の活動に大きな支障を起こす可能性のある現象は「異常現象(アノマリー)」と呼ばれている。


 異常現象にはその危険性や規模を示す指標としてレベルが与えられており、それは災害の警戒レベルと似通ったものだ。

 レベル1であれば早期警戒で、レベル2であれば避難、退避、レベル3は特別警戒となり命の危険が極めて高い状況となる。

 そして、最上位のレベル4は国家消滅規模の危険であり、全魔術師に出動命令が下る。


 とは言え外界の性質上、「異常現象(アノマリー)」自体はそれ程珍しいことでは無い。

 それこそ、毎日数個の異常現象が報告されており、外界で活動する者たちは必ず内容を確認こそすれど、基本的にはそこまで深く警戒する者は稀だ。


 慣れ、と言うよりは、災害と同じで何が起こるか分からないから、ある程度の備えはしておいて、それが起こったら起こったでどうにかするしかない、と考えている者がほとんどだからだ。

 だからこそ魔術師達にとって、佐伯の反応は過剰では無いかと思わせる結果となっているのだった。


「ちなみに、佐伯さんが気になさっている異常現象はどんなものなのでしょうか?」


「通信障害ですな。今の所はレベル1の異常現象ですが、ここ一月の間に普段の二倍発生しておりまして、原因は今の所掴めておりません」


 その佐伯の言葉に、やはり多くの魔術師は唸るしかなかった。

 たしかにそう言われると、異常だとは思えた。

 しかし、おかしい点はない、危険は無いと言い切れないが、仮に自分達がその情報を知ったからと言って過度に警戒するかと言われれば否だ。


 それに、レベル1の異常現象であれば、本当に気にする程でもない異常現象だ。

 稀に一気にレベルが上がることもあるが、そのタイミングに遭遇してしまったら運が悪かった、と言うしかない。


 そもそも普段の二倍とは言え、通信障害自体もそれなりの頻度で起こるものだ。

 嵐が発生していたり、魔獣や外獣などがスパイクを壊してしまっていたりなど、いろんな面で安定しているとは言えない外界では通信障害に繋がる要因が多すぎるのだ。

 とは言え、外界での重要なライフラインの一つでもある通信設備の復旧は迅速に行われるため、今の所、大きな問題にはなっていない事実もある。


 基本的に、ここに集まっているようなクラスの魔術師達が佐伯の言葉を軽視することはない。

 そんな魔術師は基本的には徒弟制度の師匠になんて選ばれないし、今回の護衛役になんてなおのこと選ばれない。

 それ程にまで現役時代の佐伯の功績、名声とは凄まじいものであった。

 しかし、それでも今回の話は幾ら何でも不可解すぎた。

 何故わざわざそんな話を深刻そうに自分達にするのか、何が狙いなのか、護衛役の魔術師達のほとんどはその意図が掴めず困惑していた。


「佐伯さんはどう言った点からそうお考えなのですか?」


 そんな中、柔らかい声色なのにやけに通る声でそう聞いたのは、もう一つの基礎クラスを受け持つベテラン魔術師の杉山麗華(すぎやまれいか)だ。

 年の程は三十代後半から四十代前半で、そのパンツスタイルのスーツ姿がよく似合っているカッコいい女性であり、女性人気も厚い。

 見た目には随分と若く見えるが、実のところ佐伯とあまり変わらない年齢であったりする。


 そんな彼女の質問に佐伯は、佐伯の手元にあった資料を配り、その説明をする。


「通信障害は基本的になんらかの外的要因かスパイクの不良が発生した際に起こっております。時間が足りず、五年間しか調べられておりませんが、今の所、例外は一つしかありませんでした」


「その一つとは?」


「五年前の魔獣の異常発生(スタンピード)が起こった時です」


「五年前の異常発生と言えば……」


 そう一人の魔術師が呟く。

 五年前と異常発生とくれば、ほとんどの魔術師が一つの事件を連想するだろう。


「異界化……か」


 後方の席に座っていた修は小さくつぶやいた。

 隣に座っている兵吾も渋い表情を浮かべ、そのすぐ近くに座っていた響子もその目を閉じていた。


 この国にとっては、非常に大きな国際的な功績と評価を得ることになった一方で、大きな被害をもたらした事件でもある。

 その当事者となってしまった三人にとっては辛い思い出しか残らないものだ。

 特に修と響子にとって異界に連なる一連の事件は、二人の心に大きな穴を開けた事件でもあった。

 そんな三人を他所に話は進む。


「異常発生と異界化との因果関係は不明ですが、少なくとも異常発生が起こった数週間前から原因不明の通信障害が発生していたことは事実です。そして、結局、その通信障害は異常発生が起こったことで、「異常発生による魔獣被害が原因であった」というようにまとめて理由づけられました」


「まぁ、それは……随分陰謀くさいですね」


 麗華はすこし言葉を選びながらそう言った。

 麗華は先程の自分の言葉をかき消すかのように、そのまま言葉を続ける。


「佐伯さんは開催日の変更か中止を考えているのですか?」


「それは無理でしょうな。これはあくまで私の勘の域を出ない。これを持って大学と魔術省に中止や変更を掛け合うには根拠として弱すぎます。依頼の手配やゲートの手続きも済んでしまっていますから」


 この話というのはあくまで、佐伯が独自に調べ、たった一例を取り上げて因果関係があると言っているだけだ。

 そうでなければ、レベル1の異常現象が起こっているだけであり、もうここまで準備が進んでしまっている外界演習を、それだけの理由でキャンセルもしくは開催を順延するのは難しかった。


「では、どういった狙いで今回の話をされたのですか?」


 麗華と佐伯のやりとりはまるで台本があるかのようにスムーズに続いていた。

 それは事前に打ち合わせをしていた訳ではなく、麗華が佐伯の話がうまく進み、ここにいる魔術師達全員に伝わるようにと考えて話しているからだ。


 麗華と佐伯はそれなりに長い付き合いになる。

 お互いこの国の魔術師にとっての激動の時代を生き抜いてきており、男女の仲になったこともある。

 結果として、二人ともそれぞれ自分の道を進むこととなったが、決して二人の間の信頼感が消えた訳ではなかった。


 佐伯が与太話に近いようなこの話をわざわざ持ち出すと言うことは、その言葉以上の何かがあると麗華は確信していたのだ。

 そして、決め手は佐伯も異界化事件の当事者の一人であることだ。

 今回の異常発生にそれが関わっている時点で、佐伯の話の信憑性は大きく高まった。


 となれば、注意喚起と言う形だけでも、護衛役の魔術師達に伝えることで何か変わるかもしれないと麗華は考えていた。

 事実、麗華のサポートや、麗華が佐伯の話を信用している様子がなければ、いくら()()佐伯の言葉だとしても、今回の件は与太話と思われても仕方なかっただろう。


「正直なところ、狙いと言う程のものではありません。皆さんもうご存知の通り、外界の異常発生に対して我々が出来ることは少ない。ただし、だからといって情報も得ず、何も備えをしないのは愚か者がすることです」


 外界での活動は情報が全てであると言うことは、外界で活動するもの達にとっての常識だ。

 例えそれがどんな眉唾話であっても、外界という特殊環境では「ありえない」ということが「ありえない」のだ。


「ですから、今回は護衛役の皆さんに警戒していただきたい、三つの点をお伝えいたします。まず一つ目、魔獣の数が極端に多かったり、少なかったりしていないか」


 佐伯は指を一つ立てて、先ほどよりもゆっくりとしたテンポでそう言った。

 そのまま、佐伯は二本目の指を立てる。


「そして二つ目、魔素の濃度が極端に高いか低い場所がないか」


 そして、佐伯はゆっくりと最後の指を立てた。


「三つ目。スパイクに異常がないか」


 佐伯は上げていた指を下ろすと、ゆっくりとした口調で話の締めに向かう。


「何れかが当てはまった場合、即座に私か杉山さんに連絡して、各自最大限の警戒を行なってください」

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