表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
53/112

戦いの結末

演習本番は間も無くです

「葛西さん!勝ちましたよ!私たち」


 土俵の結界が解除されるや否や、茜はすぐにその脇で待っていた雪の元へと駆けて行き、雪へと抱きついた。


「うわっ」


 あまりの勢いに雪は驚いたような声を上げるが、すぐに笑みを浮かべ、茜を労う。


「やったね平さん!正直、雫に勝てるなんて思ってもなかったよ」


 二人ともまるで何かの大会に優勝したかの様な喜び方ではあるが、二人にとって雫とは本当にそれほどの存在なのだ。


 一方で、その二人を眺めている雫はいつも通り、無表情でぼーっと立っている。

 負けたと言うのに悔しさどころか、なんの感情も浮かんでいない様だが、雪が見ればその本心を読み取ることができたであろう。


 雫は表情こそ変わらないが、その内心は悔しい気持ちでいっぱいだった。それこそ、その場に無言で立ち尽くしてしまうほどだ。

 親友である雪との戦いが終わったと言うのに、雫が何の言葉も雪にかけていないこともその証拠だ。


 実力的には格下である()()()に負けたからではない。その敗戦そのものが悔しいのだ。相手が誰でもそれは変わらなかった。

 普段感情の起伏が薄い雫にとって、これ程までに心が動かされる一つが魔術であり、それ程までに大切なものだった。


「……はぁ」


 しかし、雫もいつまでもへこたれている程子供ではない。誰にも聞かれない位の小さなため息を一つ吐くと、三人を待っている上條と大樹の方へと足をすすめた。



 雪と茜もひとしきり喜んだ後、男性陣の方へと意気揚々と帰還する。

 そして、結界を作動する端末の前に全員が集まった。


「えーと」


 そうして端末前に集まったが、三人を待っていた上條は頬をかきながら微妙な笑みを浮かべ何かを言いづらそうにしていた。

 その隣では大樹も同じ様な表情を浮かべている。


「どうしたの?」


 そんな二人に雪は首を傾げる。

 何も変な事は起こっていないはずだ。

 強いて言えば、雪と茜があの雫に勝ってしまった事くらいだろうが、それであの表情は出ないはずだ。

 もしかして、ちょっとした手合わせで勝った位なのに、少しはしゃぎ過ぎたかな、と恥ずかしさを感じていると、上條は何かを決心したように小さく頷いた。


「うん……。まぁ一応、三人には言っといた方が良さそうだね」


 その言葉に更に雪と茜からクエッションマークが生まれる。


「どうしたんですか?」


「まぁ、あれだ。葛西さんと平さんの反則負けってことだな」


 その疑問には上條の言葉を引き継ぐように、大樹が随分と言いづらそうに答えた。


「えっ!?」


「何でですか!?」


 予想外の大樹の言葉に、思わず雪と茜は大きな声でそう返してしまった。あれほど喜んだ後にそうくれば仕方ないだろう。


「反則なのは葛西さんの魔術の使い方だね」


「魔術の使い方?そんなおかしな魔術……まぁ「結界」は特殊な魔術だけど、違法性のあるものじゃないよ?」


「いや、魔術じゃなくて使い方なんだよ。最後に天野さんの足を止めていた魔術って葛西さんのでしょ?あれって術者が死んでも残り続けるもの?」



「あ……そう言うことですか」


 雪はその上條の言葉で自分達の敗因をしっかりと理解した。


「え?どう言うことですか?」


「あの魔術はその形を維持するのに魔力の供給が必要なんだよ。私は退場しているのに外から魔術を維持しちゃってたって所が反則だったみたい……」


「あ……そう言うことですか」


 退場していると言うことは、少なくとも戦闘不能の状態であると言うことだ。

 つまり退場者が生存者をサポートすることは出来ないはずであり、その行為は反則となる。


 何かに物理的にでも精神的にでも干渉し続ける魔術の場合、その多くは術者による魔力供給が必要だ。

 術者なしでも残り続けるタイプの魔術は自立型と呼ばれていて、総じて等級が高い。

 そのため魔術師見習いが使うには難易度が高すぎるし、恐らくそれが使えるのであれば見習いに留まっていないだろう。


「結界」も同様で、雪が使っているものも魔力供給が途切れると消滅してしまう。

 勿論、修は自立型も使用できるし、「結界」はそういった変更も出来るように設計されてはいるが、雪には難しすぎた。


「まだ天野さんに勝つには実力が足りなかったですね……。鍛錬あるのみです」


「残念だったね。惜しかったのに」


 そう雪は言ったものの、実の所、今回の結果に大満足であった。

 雪自身、魔術師としての戦いで雫に勝つどころか、マトモに相手してもらえるとすらつい最近まで想像にもしていなかった程だ。

 それが蓋を開けてみれば、二対一ではあったが、雫にあと少しで勝てるというところまで来れた。

 何より、少しでも雫から本気を引き出せたことが嬉しかった。


「とりあえず……勝敗は置いておいていい戦いだったし、僕たちもお互いの戦い方とかをよく知れたんじゃない」


「ま、そう言うことだな。これで本番に向けてちゃんとした話し合いが出来るんじゃないか?」


「あ……そうでした。すっかり頭から抜けてました……」


 上條と大樹が言う通り、そもそも今回の手合わせは勝敗を目的としたものではない。

 演習本番に向けて、班員全員がそれぞれのスキルや魔術、戦い方を改めて共有、把握することが目的だ。

 実の所、上條と大樹は勝ち負けを全く意識していなかった訳ではないが、基本的には自分の戦い方や魔術をなるべく皆んなに見せることを意識していた。

 それは雫も同様で、今後使うことになるであろう魔術は可能な限り使うようにしていたし、よく使うものに関しては繰り返し使用するようにしていた。

 勿論、三人とも手の内を全て曝け出して、全身全霊をかけて勝ちに行くという訳ではなかったが、それでも許される範囲、出来る範囲で本気で戦っていた。


 一方、雪と茜にとって、こういった設備を使った、しっかりとした手合わせそのものが初めてだ。

 そんな中、数的優位こそ雪と茜にはあったが、天才魔術師見習いである雫と戦うことになったのだ。

 それがわかった瞬間に、二人から本来の目的なんて消え去っていた。

 二人にとって雫とは、そんな実力のお披露目会を出来るような余裕を持てる相手ではなかった。



 雪は今までの付き合いから雫の強さを嫌というほど見てきているし、茜も雫のファンという点ではさまざまな情報を知っていて、映像も見ている。

 そんな二人にとって、この人数有利なんて、あってないようなものであった。

 実際にそのパワーバランスは、雫が優位という意味でイーブンとは言えない状況であった。


「そうだね。私も見る事はあったけど、実際にちゃんと雫と戦うのは初めてだったから勉強になったよ。負けちゃったのは悔しいけどね」


「……次は負けない」


 雪の言葉に雫は小さく頷くと、自分にしか聞こえないほどの小さな声でそう呟いた。


 当然、雫も全身全霊をかけた本気という訳では無かったし雪と茜は反則技を使った訳ではあるが、それでも彼女の気持ち的には負けたものと同じだった。

 試合に勝って勝負に負けた雫とその逆の雪と茜。

 実力的に上位の雫が悔しがって、雪と茜が喜ぶのも仕方がないことだろう。


「でも次はみんな味方なんだから、心強いね」


「たしかにそうですね。でも、正直必死すぎてあまりみなさんの魔術とかを覚えきれてないんですけど」


 茜が申し訳そうに言うも、上條が笑顔で首を横に振った。


「実はそういうこともあるだろうと思って今回の戦いを全て録画するように設定してあるよ」


 上條は結界の起動に使っていた端末をコンコンと叩きながらそう言った。


「そんなことまで出来るんだね。そのデータは移せるの?」


「勿論外部端末にも移せる。あぁ、もし他人に見られたくない魔術とかが有ればすぐ消去するけど、みんな大丈夫?」


 上條が全員の顔を見回してそう言うが、全員頷きを返した。


「よし。問題なさそうだから、とりあえずデータを移して控室で確認しようか」



 そういうと上條は控え室へと歩き出し、他の四人もそれに続いた。


 控え室は大きなものでは無く、こじんまりしたものだが、各種設備はしっかりと整っていた。

 勿論ホワイトボードもプロジェクターも設置されており、試合前のミーティングを行えるようになっている。


 そのプロジェクターを使って、上條は自分達の戦いの映像を流し、五人の作戦会議は始まった。


演習本番はもう間もなくだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ