雪&茜 vs 雫2
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「『誘水』」
雫のその静かな詠唱と共に、雫を中心として地面から水が湧き出てくる。
そしてものの数秒で雫を中心に5m程の水溜まりができた。
「平さん、あの水には基本的に触れないでね」
「な、なんでですか?」
「あの水は雫が自由に操作できるから、触れたら体が凍るか切り裂かれるよ」
その言葉に茜は雪の方を向いて、なんとも情けない表情を浮かべた。
「それじゃあ近づいて攻撃できな……」
「『結界』!!」
その茜の言葉を遮るように雪は魔術を行使した。
少し小さな結界が茜の前に現れると同時に、その結界に無数の水滴が付着した。
正確には弾丸ほどの威力を持った、水が茜を狙って飛んできていたのだった。
「ふぇ……」
結界の一部に穴が開いているのを見て、茜は情けない声を出した。
「平さん。本当に雫は本気みたいだから油断は厳禁だよ」
雪は雫から目を離さずにそう言う。
先程の攻撃を防げたのも、雪が常時雫から目を離さなかったからだ。
雫は茜へと向けていた掌を下ろすと、その手に少しくすんだ茶色をした木製の杖を召喚した。長さは雫の身長の半分程あり取り回しは悪そうだった。
特徴と言えば、その先端には複雑な装飾を施された台座のようなものがあり、その杖に拳ほどの大きさの青い水晶がついている所だろうか。
「平さん。もう一度最初の作戦通り」
それを見て、雪は小声で茜に沿う指示を出す。
茜がそれに頷くのを横目に見て、雪は合図を出した。
「行くよ……『閃光』!」
雪の魔術行使と共に二人は駆け出す。
今度も雪が先頭で雫へと迫る。
今度は「氷壁」を雫は使わなかった。しかし、雫には閃光の効果はなかったようで、雫は手に持ったその杖の上部の青い水晶の上に魔法陣を構築していた。
「来るよ!」
「はい!」
「『氷牙』」
雫の魔法陣が輝き、魔術が行使されると同時に、魔法陣から氷で出来た狼のような動物が飛び出し、雪へと向かってくる。
雪はそれに怯むことなく距離を詰め、飛び掛かってきたそれを剣で一刀両断にした。
ガラスが割れるように砕けたその向こうでは、また雫の魔法陣が揺らいでいた。
「『通雨』」
通雨のごとく雪の頭上に黒い雲が生まれた。
雪はそれを見た瞬間全力で回避をする。
そして、雪がその雲の下から抜け出した瞬間、その場所に凄まじい勢いで水が降り注いだ。
その地面を見てみれば、まるで銃弾を打ち込まれたかの様な痕が無数についていた。
そして、そのタイミングで茜が雪の後方から飛び出す。
茜は低い体勢のまま飛び出すと、雪の足元の水たまりの手前で足を踏み切る。
身体能力強化の効果がある今、茜はその一足で簡単に雫に攻撃できる距離まで飛べるはずだが、茜はそうしなかった。
「『空踏』」
雫との距離の半分の所で茜の詠唱共に茜の足が宙を蹴った。
そのまま、茜は鋭い右のストレートを雫へと見舞う。
「『氷結晶』」
雫はそれを躱すことはせず、雫の上半身を覆うほどの氷の結晶を生み出すことで受け止めた。
「まだっ」
茜はもう一度宙で足を踏ん張ると、その氷に二度三度と拳を打ち付け、その結晶を叩き割る。
そして、やはりその結晶を割った先では雫が魔法陣を構築して、茜を見据えていた。
「『氷柱』」
「『結界』」
雫が詠唱すると同時に、雪も茜の後方から魔術を行使する。
茜の鼻先ぎりぎりに半透明の結界が現れ、雫の手から飛び出してきた氷柱が茜に当たる寸前で何とか止まった。
茜はそれでも引かず、更にその雪の結界を使って飛び上がり、空中で雫の頭部へと強烈な蹴りを放った。
「ッ」
雫はそのまま攻撃が来るとは思っていなかったようで、何とか杖でその蹴りを受け止め、その衝撃で少し後ろによろけるも、すぐ魔術を構築する。
「平さん、引いて!」
その言葉を聞く前に既に茜は退避行動に移っており、すぐに雪の隣へと戻ってきた。
「葛西さんさっきは助かりました……」
「お互い様だよ。私こそありがとう」
お互い、雫から目は逸らさずそう言い合う。
雫はと言うと、魔術を構築したものの既に茜がひいていたこともあり、その魔術を使わずに魔法陣を消していた。そして、少し崩れていた体勢もしっかり元に戻っていた。
「やっぱり近接戦闘はそんなに得意じゃなさそうです」
「そうだね。狙うとなるとそこしか無いね」
ようやく二人に勝機がしっかりと見えた瞬間であった。
「それじゃあもう一度……行くよ」
その言葉に茜がうなずくとともに、雪は雫へと駆け出す。
「『氷弾』」
氷の弾が打ち出されるも、流石にまだ距離があるため、雪は斜めに軽いステップを踏んでそれを躱す。
「『雹来』」
その雪かま踏んだステップの先を狙って、雫の魔術が放たれた。
雪はその無数の雹を魔力を込めたロングソードを宙に振って、その魔力を放出することでかき消す。
一部消しきれず、被弾したものもあったが、雪の結界はいまだに健在で、雪はそのままの勢いで、水溜りを避けるように飛び上がって、雫へと剣を振り下ろす。
雫は特に表情を変えないまま、後ろに軽く飛んでその攻撃を躱す。
しかし、雪の剣が地面にぶつかると同時に魔力が放出され、雫にもその魔力の波動が襲いかかる。
「『水膜』」
その雫の魔術で魔力の波動と共に飛び散った小石や砂塵がまるで雫の周りを撫でる様に逸れていった。
しかし、雪たちの攻撃はそれだけでは終わらない。
その魔力の波動に続いて茜が飛び出してくる。
「『纏』」
「『氷壁』」
魔力を纏った茜の拳が雫が、作った氷の壁をいとも簡単に打ち破り、先程雪の攻撃を防いだ見えない壁に打ち付けられる。
そして、少しの拮抗の後、水を散らした様な音と共に宙で止まっていた茜の拳が最後まで振り抜かれる。
「届け!」
「甘い」
しかし二段構えの壁に阻まれた拳に大した力もスピードも無く、雫は簡単にそれをステップで避けると、あっという間に魔法陣を構築する。
「『水牢』」
「えっ……」
その詠唱と共に、少し小さくなっていた雫の足元にあった水の全てが浮き上がり、まるで意志があるかのように茜を覆い尽くそうと動き出した。
「『結界』」
そして、その水が茜を完全に覆いつくす前に先に茜を囲ったのは雪の魔術だった。
茜は結界越しに水に包まれることになったが、今のところ問題はなさそうであった。
「その魔術ずるい。でも……。『ほうは…』」
「させないよ。」
雪はそう言うと、茜にトドメを刺そうとした雫へと一気に距離を詰めて剣撃を見舞う。
「『氷壁』」
雫は雪の剣を杖で受けることはせず、魔術をもって防いだが、その雪の攻撃で氷の壁は簡単に砕け散る。
「『氷弾』」
間髪入れず打ち出された魔術も雪は危なげなく躱し、雪は雫に距離を取らせない。
そのまま前進し、薙ぎ払うように剣を振るう。
雫は予想していたのか慌てることはなく杖の腹で剣を受け止める。
その剣を落ち着いて受け止めた雫ではあるが、体格差もあってかやはり少し後ずさってしまう。
雪はこの機を逃さず畳み掛けるように連撃を放つ。
雫は最初こそそれを危なげなく防いでいくが、やはり徐々に押される形へとなっていく。
そして幾度かの打ち合いの末、ついに雫が大きく体勢を崩した。
「今だ!」と雪は内心で声を上げ、ここぞとばかりに力を込めて剣を振り上げる。
「『澎湃』」
「えっ」
雪が剣を大きく振り上げたその瞬間、仰け反った反動で床に片手をついていた雫の手元に魔法陣の光と、その詠唱が聞こえた。
こんな体勢とタイミングで、と言う困惑から雪の動きが一瞬止まった。
「葛西さんっ!」
「マズッ……」
いつのまにか茜の周りから消えていた水が、目の前の雪の足元近くまで移動していた。
雪は剣も手放して、その水から距離を取ろうと大きく飛び退く。
しかし、それでは遅すぎた。
雪が飛び退くのと同時に、天をつくように渦巻きが巻き上がり、それに掠ってしまった雪は大きく跳ね飛ばされてしまった。
雪は跳ね飛ばされて反動で何度か地面を転がるも、何とか途中で受け身を取って土俵を囲う結界間際で止まった。
「終わらせたと思ったんだけど」
雫はその魔術が消えると同時にその場からゆっくりと立ち上がり、そう言った。
「葛西さん大丈夫ですか!?」
結界を内側から破って外に出た茜は急いで膝をついている雪に駆け寄る。
「大丈夫。衝撃以外のダメージは全部結界が防いでくれたから。でも……」
雪の結界の耐久度はあと僅かなのは明らかだった。
それこそ、どんな軽い攻撃でも食らってしまえば即退場になる可能性もあった。
「葛西さんどうしますか……」
「大丈夫。今度こそアレをやろう。ちょっと卑怯だけどね」
何故だか特に動きを見せず二人を見ている雫を視界に収めながら雪はそう言って、飛ばされた剣を再召喚する。
元々実行するつもりであった作戦ではあるが、ここまではうまくタイミングが合わず実行できていなかった。
それに、この安全が約束された結界の中でだからこそできる作戦である、と言うところもどこか雪と茜の実行する気持ちを鈍らせていた。
「いくよ……」
「はい」
そして、二人はまた雫へと駆け出す。
雪を先頭にして、その後ろに茜が続くという先程同じ形だ。
「『閃光』」
「また同じ……。『霜渡』」
雪から放たれた眩い光を雫は目を逸らす事で食らわないようにし、同時に二人を近づけまいと魔術を行使する。
雫と雪達を隔てるように瞬く間に地面が凍りつく。
「『火花』」
「『氷壁』」
雪はその雫の魔術に対して、予行演習でも使った魔術を行使するも、既に魔術を使うことを読んでいた雫は氷壁を生み出した。
火花は雪があの演習から、密かに練習し続けていた魔術の一つだ。
今では予行演習の時よりも規模も小さく二発しか爆発は連鎖しないが、徐々に成功率は上がっていた。
そして今回はその練習の甲斐あってか、「火花」はしっかりと発動する。
それは二等級魔術とは思えない爆音を伴って、凍り付いた地面の一部と、雫が作った氷壁を崩してみせた。
その崩れた氷壁の向こう側では、やはり雫は次の魔術を準備していた。
しかし、雪もしっかりと雫へと距離を詰めていて、もう数本進めば剣が届く位置まで来ていた。
しかし、雫は慌てずに魔法陣を構築する。
一方で雪は魔術を行使せず、純粋に雫への距離を詰めるのみであった。
そのため、どちらの方が早く攻撃を繰り出せるか、と言う勝負になっていた。
とは言え、スピード的に雫の方が早いのは一目瞭然だった。
「『氷弾』」
その結果は予想通り雫の勝ちだった。
いち早く魔術の詠唱まで終えた雫は、少しの違和感を感じながらも魔術を行使した。
ちょうどそのタイミングで雪も魔法陣を構築していたが、もう間に合わないタイミングであった。
「『結界』」
そして、雪の魔術はなんとか行使されるが、やはり既に手遅れだった。
雫が放った氷の塊は何の障害もなく、吸い込まれるように雪を守っていた土俵の結界にぶつかり、ガラスが割れるような音と共に雪の姿が雫の直ぐ目の前から掻き消えた。
その呆気ない最後に雫は違和感を覚え、しかし、その瞬間に気がつく。
「平さんは……」
雫は慌ててあたりを見回し、そして自身の上空のずいぶん高いところから飛び降りてくる茜の姿を見つけた。
「『流纏』」
茜の拳に魔力がうねる魔力が纏わりついているのが見えた。
魔術では間に合わないことを察して、雫はその場から離脱しようとする。
「何で……!?」
しかし、雫の足は微動だにもしなかった。
雫は自分がまんまと騙されたことに気が付き、そしてその瞬間にガラスの割れるような音が一瞬聞こえ、自分の体がグン引っ張られるような感覚を覚えた。
戦いは終わった。




