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欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
50/112

準備フェーズ3

次回は多分無双回

 上條と大樹はそれぞれの武器を構え、向かい合って対峙していた。

 上條は黒い柄に長い穂、つまり長い刃がついた槍を使っている。

 大樹も上條と同じくリーチの長い武器であるハルバートを使用し、それを軽々と構えていた。


 向かい合った二人は特段何も話すことなく、しかし、同時に駆け出した。

 そして、お互いの武器のリーチ内まで距離がお互いが近付いた所で、先に攻撃を繰り出したのは上條だった。


 上條はその足を軽く緩めると同時に突きを放つ。

 大樹はそれを読んでいたのか焦る様子もなく、ハルバートをくるりと回して縦に持ち、その柄でその突きを逸らした。

 そして、上條が槍を引き戻すのとほぼ同時に大樹は薙ぎ払うかのように片手でハルバートを振るう。


 上條は槍を引きながらも、後方へと飛び上がって退がりその薙ぎ払いを避ける。

 そして、また二人の間に距離があき、しばしの睨み合いの時間が生まれた。


「魔術を使ってもいいんだよね?」


「当然」


「それじゃあ、お言葉に甘えて……『渦風(うずかぜ)』」


 上條から放たれた魔術は直径4m程の竜巻を生み出す三等級の魔術だ。

 竜巻とは言っても、それは空に向かって伸びるのではなく、重力を無視して、上條の手から横向きに大樹に向かって伸びていった。


「相変わらず、メチャクチャな魔術だな」


 しかし、見慣れていることもあり、大樹は横に大きくステップして躱すが、そこに上條の槍が突き出される。


「予想通り……なんだよッ」


 大樹は突き出された槍の柄をハルバートの柄を振ることで叩き、その矛先を強引に逸らした。

 そして、そのまま大樹は振られたハルバートをくるりと回して正位置まで持ってくると、上條に向けて大振りで斜めに振り下ろす。


「メチャクチャなのは大樹だろ!ッ」


 大樹がハルバートを振り下ろすタイミングで槍を引き戻した上條は辛うじて体を逸らすことでその振りを躱した。

 そして、その流れのまま躱した体勢が戻り斬る前に片手で槍を突き出した。


 バシン、と少し重い乾いた音が闘技場に響き渡った。

 それは、大樹がその槍を掌で叩き、逸らした音だった。

 無理な体勢で繰り出した上條の攻撃は、大樹がただ手を振るうだけ逸らされた。

 ここで体勢を崩した上條に大樹は優位に立つことになった。

 当然、この優位な状況を捨てることなく、大樹はハルバートを両手で持ち、そのまま上條に突きを放った。


「『爆風(ばくふう)』」


 だが、上條もその隙のことは百も承知だった。

 魔術に体勢は関係ない。上條は大樹が突きを放つ前に既に魔術の構成を終えていた。

 だがそれは相手を攻撃する意図だけではなかった。

 まるで爆風のような猛烈な風は確かに大樹を一瞬怯ませた。

 そして、上條はその風に合わせてまるで吹き飛ばされるように後方へと飛び退いた。

 避ける、というよりは緊急回避的なものだったようで、上條は土俵ギリギリまで飛ばされて、着地も手と膝をついて、なんとかといった様子だ。


「後少しだったんだがな。その逃げ方は初見だな」


「流石にみんなの前で簡単に負けるのは癪だしね。あまり使いたくない方法だったけど仕方ない」


「じゃあ手札を一つ斬らせる事には成功したみたいだな。悪いが、そのまま押し斬らせてもらうぜ」


 そういうと、大樹はハルバートを後ろ手に持ち、上條へと駆け出した。



 その戦いを眺めている三人はというと、二人の戦いに驚きを隠せないでいた。


「こんな高いレベルの戦いを見られるとは思いませんでした……」


「私もあの魔術のあんな使い方は初めて見た。これなら、学生の中でも上位に入る……かも」


 茜は驚きの声を漏らし、雫でさえ頷きながらそう零した。


「凄いね……。これが大学生のレベルなのかな」


 上條と大樹は雪より一つ上の学年だ。つまり、雪達よりはしっかりと対人戦闘訓練を行なっているはずだ。

 とは言えたった一つしか変わらないのだから、その一年で大きく実力が変わるとは雪も思えなかった。

 高校生の魔術師見習いが対象の部活に、対人戦闘を行う競技がある。

 もしかしたら、二人ともそれをやっていたのではないかと雪は思っていた。そうであればこの実力も納得だ。


 大学生になりたての雪にとっては対人戦闘とはほぼ未知のものだ。

 ほぼ毎日師匠と手合わせをして貰ってはいるが、師匠の本気なんて当然見たこともないし、戦闘と呼べるものではなく、スパーリングのようなものだった。

 それでも少なくとも、上條と大樹の実力が学生の平均より上であるだろうと何となくは分かったが、他の学生の戦いとはどんなものかは想像つかなかった。


 そんな軽い会話をしていると、不意に甲高い金属音が鳴ったことで、雪のそんな思考は止まり、目の前の戦いに再び意識を向ける。

 二人の戦いはいつの間にやら、お互いの武器のリーチを活かした距離での打ち合いになっており、ちょうどハルバートの穂先と斧の間で上條の槍が地面に抑えつけられていた所だった。


 上條は槍が抑えられるもすぐさま武器を収納して、再召喚を試みた。

 しかし、大樹もそれにすぐ対応し、ハルバートを引き上げると横なぎに振るう。

 上條はそれを後ろに飛んで避けると、槍を再召喚してすぐさま突きを放った。

 そして、それを逸らすために、大樹もハルバートを叩くように振り、ハルバートの斧の側面と槍の穂先がぶつかりあう。

 様々な高さや角度からお互いの武器が突き出され、金属音が鳴り響くその激しい打ち合いが十数手にも及んだところで、お互いが後ろに飛び距離を置いた。


「すごい……」


「本当ですね……」


 見習いとは言え、身体能力の強化のため常人を凌駕するスピードと力強さで行われたその打ち合いは、雪と茜に感嘆の言葉をもたらした。


「長引きそうだから、そろそろ締めにするか」


「そうだね……」


 お互いにまだ体力の余裕はありそうだが、大樹のその言葉に上條は頷く。

 そして、一呼吸置いて、上條の魔術から戦いは再開した。



「『鎌鼬(かまいたち)』」


 鋭いほぼ不可視の刃を飛ばす魔術だが、その詠唱と魔術が行使される時の虹色の光、そしてその刃に含まれる魔力を見ることがさえできれば避けることは難しくない。


 しかし、大樹はそれを躱すことはせず、ハルバートで払うように散らして見せた。


「『渦風』!!」


 そして続け様に上條は魔術を大樹へと放つ。

 流石に渦風となると大樹もそれを打ち消すことはせず、回避をとった。

 しかし、単に躱すだけではなく、斜め前にステップし、その距離をも詰める。


「ウラァッ」


 その唸り声と共に大樹のハルバートが上條へと突き出される。

 上條はそれを体を捻ることで躱す。槍で受け流すにはその距離は少し近すぎたからだ。

 しかし、武器のリーチにさして差がないはずの大樹はさらにもう一歩、上條との間合いを詰める。

 そのまま、大樹はハルバートを横薙ぎし、躱すには距離を詰められすぎていた上條は槍を広く握り、その柄の中央部分でハルバートを弾き返す。


 武器が魔力で強化されていなければ、とっくに曲がるか折れてしまうような扱いだが、まだ武器の破損は見られない。

 とは言え、上條の劣勢は続く、息つく間もない大樹の連撃で徐々に上條は土俵の端へと追いやられていく。


 この結界は物理結界であり、リングアウトなどは出来ない。そのため、上條は壁際に追い詰められているのと同じ状況であった。


 大樹はハルバートをまるで軽い武器のように振るっている。

 斬り払い、斬り上げ、突き、そのどれもを高速に、かつ少ない予備動作とモーション、隙の中で連続で繰り出していた。

 決してハルバートが軽い訳ではない。

 大樹の身体能力強化のおかげで軽々と扱えているだけであり、その重さが乗った速い攻撃を捌くのは簡単ではない。

 そのため、

 そのため、上條は攻撃を防ぐのとこれ以上後退しないようにするので手一杯だった。


 しかし、その攻撃も全て重い攻撃である訳でない。

 その窮地の中、上條はその軽い攻撃を見極めて、槍で強めに弾いて見せた。


「こんのッ」


 この反撃には流石の大樹もスムーズに次の動作につなげることが出来ず、その反動で少し後方へと押し戻された。


「『風雷(ふうらい)』」


 その隙に上條は魔術を放った。

 雷を纏った(うね)る風が大樹へと襲いかかる。


「くらうかよ」


 大樹はその魔術に対して、大振りでハルバートを振り下ろした。

 そして、ハルバートの刃と魔術が触れた瞬間、少しの衝撃波と共に魔術が打ち消された。


「『旋風(つむじかぜ』」


 魔術が打ち消されても上條に動揺せず、次なる魔術を油断なく放った。

 ちょうど、武器を構え直そうとしていた大樹は足元から生まれた小さな竜巻に巻き込まれ、体勢が崩れる。


「まずっ……」


 そして、その体勢が崩れた大樹に向けて上條は渾身の突きを放った。


 パリン、とガラスが割れるような音と共に大樹の姿が描き消え、土俵横の小さなスペースに転移していた。


 自分が負けたことを悟ると、大樹は大きく肩を落とした。


「二連勝だね」


 上條はそう言って槍を収納すると、結界が消えた土俵の中から外へと飛び降りてくる。


「勝てると思ったんだがなぁ」


「いいところを見せようとするからだよ。よし、みんなお待たせ」



 肩を落とす大樹を横目に、上條は観戦していた三人に声を掛けた。


「凄かった」


「お疲れ様」


 戻ってきた二人に雫と雪は労いの言葉をかけた。


「お二人とも凄かったです!あと、魔術を武器で消すのは、実際には初めて見ました」


 意外と冷静な二人とは違い、茜は少し興奮した様子でそう言った。


「あぁ、あれか。相当練習は必要だが、魔力さえ纏えば出来るぞ。まぁ、ここだからできるだけで、本番だとリスクがデカすぎてやれないけどな」


 茜の言葉に大樹は肩をすくめて答えた。

 実際に今回は上手くいったが、練習の段階ではその成功率は散々であった。

 それに大樹が言うように、実戦でやるとなると躱した方がリスクも魔力の消費的にも低いため、それを使う場面は限られるのも事実だった。


「僕も初めて使っているところを見た位だからね。密かに練習してたんだね」


「まぁ、折角師匠がいる訳だからな。お願いしたら、すぐ教えてくれたぞ」


「まぁ、僕たちのことはいいんだ。三人はどうする?」


 上條の言葉に三人は顔を見合わせる。

 選択肢は二つだ。一対一を三回行うか、二対一を行うか、だ。

 普通であれば一対一を三回ではあるが、それだと雫の実力が高すぎると言う問題があった。

 しかし、その問題もたった一声で解決した。


「私が一人で、雪と平さんがチームで、一対二をしよう」


 少しの間を置いて誰も言い出さなかったそれを、雫が自ら言い出したからだ。

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