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欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
49/112

準備フェーズ2

 大学にはアリーナとスタジアムの他に、闘技場と呼ばれるスペースもある。

 アリーナやスタジアムと違い、ここは授業などで使われていない時、予約制ではあるが学生でも簡単に無料で使うことができる。


 そんな闘技場の控え室に四班のメンバーは集まっていた。


「設置者ごと埋めて設置する!?葛西さんの師匠はとんでもないこと考えるな」


 大樹は雪の師匠の提案を聞いて、驚きを隠せなかった。


「まぁ理には適っている気はするけど、でもスパイクって地中では動かないんじゃないの?」


「師匠曰く先端の部分が出ていればいいらしいので、浅めに掘って、穴の蓋は少し工夫するだけでいいだろう、だそうで……」


「もうなんか、ゲート内で起動させてからの方がいいんじゃないか?」


「大樹それは無理だよ。スパイクは起動した場所で周囲のスパイクとリンクするから。それ以外の場所だとリンクが繋がらないんだ。いわゆる現代のネットのような自動接続型だと魔力を食い過ぎてすぐ動かなくなるらしいから」


「あ、私もその仕組みを師匠から聞きました。スパイクが起動した時だけ異様にうるさいのと光るのはそのリンクをするためらしいです」


「じゃあ本当に埋めるつもりか?」


「他に良案があればそれを採用すればいい。それに、まだ平さんの師匠の意見を聞いていない」


 四班は事前に手分けして情報を集めることに決めていた。理由は一人で様々な方面の情報を集めてもどれも中途半端になりそうだったからだ。


 師匠から意見とアイデアやアドバイスを貰う役割に選ばれたのは雪と茜だ。

 二人が選ばれたのはその師匠の特徴からだ。


 茜の師匠は守部涼香(もりべりょうか)という癒し手として名のしれた魔術師だ。

 彼女は外界で積極的に活動している魔術師であるため、外界についても特に詳しい魔術師の一人だ。

 雪の師匠である修に関しては、名前を知るものはこの班でも一人もいなかったが、毎日のように外界に出ている、という雪の発言があり、それならばとその役に雪が選ばれた。


 とは言え他に選択肢があるかと言うとそうでもなく、大樹の師匠は外界での探索活動より著名人の護衛などを主に行なっている魔術師であり、上條の師匠もどちらかといえば研究や政治面に強い魔術師であった。

 雫の師匠である響子に関しては、四班の師匠陣の中では群を抜いて有名で、外界でも活動している魔術師ではあったが、指揮や作戦云々よりも、最前線で暴れ回っている印象を全員が抱いていたため、選ばれなかった。


 それに、弟子側からしても、全員の師匠からアイデアを貰っても選択肢だけが増えて悩むだけになりそう、と言う考えから二人に絞られた。

 その道のプロである師匠陣であれば、誤った方法など教えるわけがないという師匠への信頼も理由の一つだ。


「守部さん……私の師匠は葛西さんの師匠の案を採用すればそれで十分なはずと言っていましたよ?」


「「「え?」」」


 雪と大樹と上條から同時に気の抜けた声が漏れる。


「あれ?私は知りませんでしたが、有名な方じゃないんですか?」


 茜も首をかしげる。

 茜自身、魔術師に詳しくなく、それこそ響子などの有名人を辛うじて知っている程度であった。

 そのため、自身が修の名前を知らないのは当たり前として、自分の師匠がそう言っていて、かつ葛西家の娘の師匠なのだから、それなりの有名人なのだろう何の疑問にも思っていなかった。


「雪の師匠は有名じゃない。けど、普通じゃないのも確か」


「まぁ、守部さんがそう言っているのなら、実力のある魔術師なんだろうけど……」


「俺も全く聞いたことのない名前だったからな。で、実際のところどんな魔術師なんだ?」


「いや、私もあんまり分からないんだ……。師匠の話題が出る度にこの話になるけど」


「魔術省直属の魔術師と守部さんから聞きましたよ?」


「そりゃ結構なエリートだな」


 魔術省直属の魔術師であるという情報も全く知らなかった雪の表情に呆れた笑顔が浮かんだ。

 あまりにも弟子である自分が師匠のことを知らなさすぎ、というか、修が自身のことを何も言わなさすぎて、その秘密主義にほんの少しだが、苛立ちが浮かんだ。

 少なくとも師匠側は雪の情報をかなり知っているのに不公平だと感じたのだ。


「今度絶対問い詰める……」


 らしくない表情を浮かべながら俯き加減で拳を握り、決意を固める雪に上條は苦笑しながら話を進める。


「とりあえず葛西さんの師匠は信頼できるってことなんだから、その方向で進めよう。とりあえず決めないといけないのは具体的にはどうするか、と誰が埋まるかだね」


 その上條のことばに、雪を除く視線が一瞬で大樹に集まり、大樹は狼狽える。


「お、俺か!?」


 その体躯から自分にはならないだろうと余裕を見せていた分だけ、その動揺は大きい。


「まぁ、いわば汚れ仕事なわけだから、男性陣がやるべきだと思うんだ」


「森本さんなら最悪穴が崩れても大丈夫」


「わ、私もちょっとやりたくないので、森本さんにやってほしいかなぁ……なんて」


「何でそこで優馬にならないんだよ……。俺の扱い雑じゃねぇか?」


 何だか少し心に傷がついた森本だが、女性陣はあれだし、上條はリーダーという役割もあることから、仕方ないか、と思い直した。


「まぁ、俺がやるか……」


「あ、いえ。これは私がやるよ」


 とそこで待ったをかけたのは意外にも雪だった。


「え?葛西さん……本当にいいの?」


 茜が心配そうにそう訊ねるも、雪は大きく頷いた。


「私の師匠の案だし、なんなら私って戦力的には皆よりかなり劣るから、適役だと思う。上條くん、設置自体は難しくないんだよね?」


「そうだね……。確か、魔力を流して、魔法陣を起動させて、あとは側面にあるモニターで他のスパイクとのリンクを確認した後にスイッチを押すだけ、のはず」


「つまり、他のスパイクとのリンク接続が出来るまでの間が肝になるということだな?」


「そうだね。数分は掛かってしまうらしいからね」


「でも葛西さんの師匠の案だと音と光はほぼ出ないように出来るんですよね?それなら何も来ないんじゃないか?」


「実際にやってみないと分からない。でも全て遮断するのは難しそう。あと、雪は耳栓した方がいい」


「じゃあそれの検証は別日にでもやろう。今日はせっかく借りれたんだから、互いの実力と魔術の再確認を模擬戦形式でやろう」


 そういうと、上條は控室の外側にある闘技場を指差した。



 闘技場はその名の通り、戦いを行うためのスペースだ。

 完全屋内型のこの闘技場には縦横40mほどの土俵が四つ設置されていて、この時間は他に誰も使っていないようだった。


 魔術師と戦いとは切り離せないものであり、当然、学生達も現場に出る前にある程度は戦いのスキルというものを磨いておいた方が良い、というのが通説だ。

 高校生までは部活動にでも入っていない限り対人戦闘訓練というものはほぼ無いが、大学となると話は変わる。


 どの大学でも対人戦闘訓練は必修科目として取り入れられている。

 その理由の一つに、戦い慣れをしてもらいたい、というものがある。

 勿論、外界での戦いはその多くが魔獣や外獣を相手にしたものであり、対人戦闘とは勝手が違うが、それでもやっておくに越したことはない。


 そして、大学で必須科目となっている理由には、大学の全ての闘技場、アリーナ、スタジアムに設置されている専用結界の存在がある。

 その名を「箱庭」という。


 箱庭の効果は凄まじいもので、箱庭の範囲内であれば、自動的に保護結界が体に付与され、それが破れた瞬間指定された地点へと転移してくれる、というものだ。

 その箱庭専用のタグを装備し、安全のために四等級以下の魔術使用に限ると言う制限はあるが、それでもこの魔術の有用性が薄まることはない。

 箱庭の中であれば、安全に実戦と同様の戦いを行うことができる時点でこの魔術の存在は、特に魔術師見習いにとっては何物にも変え難いものなのだ。


 ただし、勿論デメリットはある。

 利用者から見ると「痛みボケ」はその筆頭に上がるだろう。

 箱庭が付与する保護結界は魔術と物理的な攻撃を全て遮断してしまう。

 当然、デコピンくらいの威力のものでも結界の被付与者には一切届かず、代わりに結界の耐久度が落ちるだけだ。

 つまり、どれだけダメージを受けようと、結界がある限りは常に万全の状態で戦えるわけだ。

 しかし、実戦ではそうはいかない。

 魔獣の爪が掠っただけでも皮膚は裂け、痛みを感じる。その痛みに慣れていなければ、実戦では使い物にならない。


 それ以外ではコストの問題がある。

 まず、「箱庭」は国の認可を受けた者しか設置できず、その設置にかかる費用はかなり高い。

 幸い、六等級という高い難易度の魔術であるものの、設置のための専用機材があり、その方法も確立されていることから、しっかりと学習と訓練さえすればそれほど人を選ばない魔術ではあるため、設置作業に掛かる費用はそれほど高くない。

 しかし、問題は機材である。

 その規模にもよるが、機材は数百万から数千万円程掛かるため導入コストは非常に高い。

 また、ランニングコストもそれなりに高く、定期的なメンテナンスが必要だ。

 そのため、基本的には個人保有は非常に難しいものであった。


 とは言え、コストの問題は学生には関係ないし、「痛みボケ」に関してもやりようはいくらでもあるため、それほど細かいことを考えてこの施設を使う学生はほぼいなかった。



「とりあえず、まずは僕と大樹から手合わせしようかな」


 そう言って上條はネックレス型のタグを首にかけ、もう一つを大樹へと手渡す。

 大樹はそれを受け取ると上條から少し距離をとって向かい合うように位置に着いた。


「少しドキドキしますね!」


「まぁ、何というか俺たちからするといつも通りなんだけどな」


 茜の楽しげな声に大樹は少し恥ずかしそうな様子で頬を掻いた。


「それじゃあ、天野さん、結界の起動をよろしく」


「ん」


 雫は小さく頷くと、待合室の壁面にある操作パネルを操作する。

 すると、少しの駆動音の後、結界が土俵の周りを囲むように現れ、そのスペースをすっぽり覆う。


「それじゃあ、今回も勝たせてもらうよ」


 上條は土俵の結界と自身と大樹の周りに結界が張られたことを確認すると武器を召喚してそう言った。


「今回もってもまだ一戦勝ち越してるだけじゃねぇか」


 そう言うと大樹も武器を召喚して構える。


「それじゃあ、いくぞ」


 上條と大樹の手合わせが始まった。


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