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欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
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駄弁る帰り道

「まさか演習の内容が、魔獣の討伐とかじゃなくて、魔光杭(ルミナススパイク)設置になるとはなぁ」


 真は先程の話を思い返してそう呟いた。

 五人は講義室から出てちょうど帰路についている所だ。

 厳密には帰路というより、浩也の家に遊びに行く、の方が正しい。

 今日は雪を含めて全員が師匠との修行が無い日で、更に話が盛り上がりそうな話題もあることから、いつも通り、浩也の家で駄弁る流れになったのだ。


「それってあれでしょ?スパイクって呼ばれてる、外界で通信するためのやつよね?」


「そうだよ。俺たちが前回使っていたGPSもあれで現在地を特定していたからね」


 スパイクとは外界でのGPS機能や通信を支える装置で、地球でいう電波塔や基地局と同じ役割をしている。

 要は通信のやりとりをこの杭を介して行っているのだ。

 一度設置すると周囲の魔素を利用して作動し続けるため、機器の物理的な寿命が来ない限りノーメンテナンスで良いという優れたものだ。

 しかし、いくつか弱点がある。

 特に問題なのが、魔素を集める素材が透明で、そこから魔法陣の光が漏れることと駆動音だ。

 特に、夜になると淡く光っていて音を出すそれは結構目立ってしまう。

 そして、それが原因で魔獣や外獣にスパイクが壊されたり、持っていかれたりしてしまっていた。


「でも結構高価なものじゃないの?それを学生に任せていいのかな?あれって浩也の家の製品でもあるんだよね?」


 雪がそう浩也に訊ねると、浩也は首を縦に降った。


「うちの作ったやつも使われている、と言うのが正解かな。ちなみに値段で言うと一本七、八十万位だったね」


 それを聞いて雪は嫌そうな表情を浮かべた。


「まぁ、そんな顔しないでよ。値段は置いておいて、仮に依頼を失敗した場合でも今回はお咎めなしって言われてたからね。それにしても……」


 そこから先の言葉を濁した浩也に雫以外の三名が首を傾げる。


「それにしても?」


 その先を聞こうと凛が言葉を繰り返すも浩也は首を横に振った。


「……いや、こんな高価なものを学生によく持たせるなって思っただけだよ」


「そうよねー。あんがい人気のない仕事なのかもしれないわね。それより、一番の問題は行く場所よね」


「そうだなぁ。僕達、全班がそれなりに近い目標地に設定されているみたいだけど、あの辺りは危険なのかな?浩也と雫は知ってる?」


「私は行ったことないけど、ゲート以外に安全な地域なんてないって教えてもらってる。ただ、そんなに危険なエリアではないのは確か」


「俺も雫とおなじだよ。今回の場所は前回に比べたら結構ゲートからも遠いけど、本職の人からすれば近場扱いだからね。それこそ、俺たちの師匠なら日帰りする位だと思うよ」


 その雫と浩也の言葉に、雪はほっと息をついた。

 しかし、めざとくそれを見ていた雫が釘を刺すように口を開いた。


「でも、ゲートから遠い位置は人の数も少ないから常に状況が変わると言われている。安全が約束されているわけじゃない」


 ゲートから離れた場所であっても、魔術省と傭兵管理局によって拠点が所々に設置されている。

 しかし、それでも人の手と目が十分にあるわけではなく、かつゲートから離れれば離れるほど情報の数も値段も上がり、その情報の更新頻度も低くなる。

 ゲートから一日掛からない程度の距離であればまだまだ情報は豊富だが、それでも予行演習と同じ様にはいかない。


「油断大敵だね。ちゃんと今回も調べなきゃ。師匠にも話を聞いた方がいいよね?」


「そうすべき。全部師匠のサポート前提で考えられていると思う」


「難易度的にはそうだね。一応、駆け出しの探索者が行なっているような内容だから、難易度的には高くはないね」


 何せやることは簡単だ。

 指定されたポイントにいき、指定された深さまでスパイクを打ち込み、手順に従って起動するだけだ。


「なーんか含みのある言い方ね、さっきから」


 凛がどこかフワフワしている浩也の言葉につっこむと浩也は困ったような笑みを浮かべ頬をかいた。


「いや……。まぁそうだね、俺の憶測だから言わないでおこうと思ったけど、一応言っておいた方がいいかもね」


 そんな浩也の言葉に、雫を除く三人はまた首をかしげた。


「なんか問題でもあるのか?」


「うん。スパイクの設置は確かに駆け出し探索者の仕事なんだけど、正確には設置者の護衛という形なんだ。設置者はその時々で変わるけどしっかりと外界での活動経験を積んだ人なんだよ」


「じゃあ、設置者は引率の役割もあるってことだよね」


「ということは、その引率役がいない僕達の場合、その難易度は随分高くなる、ということか」


「でも、私たちが向かう地域はまだ近場なんでしょ?生徒だけで危険な事はさせな……」


 と凛はそこまで言って予行演習の内容とその結果を思い出した。

 外界に度々仕事に来ている浩也と雫の班ですらあの様だったのから、安心できる要素なんて一つもない。


「させられてたわね……。そういえば」


「一応講師陣が近辺には居るようにするらしいけど……」


「でもまぁ、今の所、死亡者どころか、大きな事故もないらしいし、大きな問題はないと思うよ」


 客観的に見れば、中々に危険なことを学生達にさせているわけだが、それでも魔術大学が非難されたり、演習が取り止めになったことはない。

 大きな理由は二つだ。

一つは目は、結局、現地での経験を超えるものは何一つもない、という点だ。

 外界という特殊な環境下である以上、地球で何をしたところで別物には変わりない。

 トラブルの種類も、それを防ぐための下準備も、外界しか起こりえないし、する必要のないことが多々ある。

 それを学び、身につけるには実地で活動するしかない。


 もう一つは、やはり影の護衛である師匠達の存在であろう。

 徒弟制度の師匠達は皆、魔術師の中でも上位の者達だ。

 それこそ、今回の演習の師匠陣に至っては、国を代表する魔術師達が揃っている。

 そんな魔術師達が護衛している環境下で、外界での依頼を受けられる経験なんて他ではできない。

 つまり、魔術大学の外界演習とは、この世界で考えられる上で、最も安全に外界での仕事を経験できる機会なのだ。

 魔術師の親もほとんど魔術師である以上、そんな高待遇で魔術師見習いに外界の経験をさせます、と言われて断る者など一人もいない。


「今回もある程度の情報は予め用意されるらしいし、準備期間も十分ある。何より俺たちには師匠もいるからね。脅かすような事を言ったけど、そこまで怯える必要はないよ」


 浩也はそうあっさりと言ってのけた。

 勿論、浩也は今回の演習が言うほど簡単ではないことは十分に理解している。

 ただし、ここで不安を煽る必要は無いと判断した上での言葉であった。


 外界での活動のみならず、実際の戦いの場では、警戒心やある程度の緊張感は大事だが、不安感に関しては全く必要のないものだ。

 それにしてもその技が精神状態に影響されやすい魔術師という職業だ。

 しかも、見習いはまだ技術も精神力も未熟だ。そのため、不安を煽ることは余計なリスクを生むだけで、何一つとしてメリットはなかった。


 ただ、浩也は油断によるデメリットも大きいと思ったため、とりあえず情報だけは共有する事にしたのだった。


「それも踏まえて師匠にちゃんと相談しないとね。あと班員のみんなにも連絡しといたほうがいいかな」


「そうだな。僕も一応共有しておこう」


「私もしておくわー」


 五人は一度立ち止まって、浩也と雫以外が各班のメンバーに連絡を送っていると、凛が突然疑問の声をあげた。


「あれ?スパイクを設置する依頼ってことだけど、要はそれさえ出来ればいいのよね?護衛なんて必要?」


「そう考える人が最初は居た、というか最初は単独で設置する人が多かったんだよ」


「なら問題ないじゃない。なんで今の形になったわけ?」


「スパイクって設置に特別な技術を必要とせず、設置後は半永久的に動作するんだけど、その分サイズが大きくて、それを持ってるとかなり戦い辛いっていう運搬面での問題が一つ」


 スパイクのサイズは直径30センチ、長さ60センチの円柱だ。

 いくら魔術師がその身体能力を強化できるとはいえども、邪魔なことには変わりない。


「私も一度、設置に同行したけど、起動時の音がかなりうるさいし結構光るから目立つ」


「それが二つ目だね」


 雫が述べた事実に浩也は苦笑を浮かべ、他の三人は嫌な顔をした。


「スパイクってその仕様上、魔術にすれば六等級くらいの規模と難易度なんだよ。それにサイズの小型化を優先しているから、廃熱とか、魔素の吸収能力とかで駆動音も結構あるんだ」


「じゃあ、近くに魔獣とか外獣がいたら寄ってくるってことよね?」


「そうだよ。それが単独での設置作業が無くなって、護衛に魔術師がついている理由だよ」


「あーなるほどな。魔術を使って音と光を消すのか」


 真は顎に手をやり、納得したように頷いている。


「ん。音を遮断する魔術と囲いを作るような魔術で光と音が外に漏れないようにして作業する」


「なんか工事現場みたいだね……」


「事実そうだよ。杭を埋めるのにも、しっかり地面に差し込む必要があるからね」


「ということは、その辺りの魔術も使えないとなると、結構大変だったりする?」


 雪の質問に浩也と雫は同時に頷いた。


「実際やると大変なんだね。スパイク設置の作業って……」


「まぁ、僕達は一班五人構成だから、人手は足りているし、その点は安心だな」


 今の話を聞くと、スパイクの設置係、壁役、遮音役と三人いれば最低限安全な体制をとれる。

 さらに二人いるのだから、人数で言えば、通常よりも安全であることは事実であった。


 雪がその事実にホッとしていたところで、凛がまたもや首を傾げて、言った。


「でもあれよね。音を遮断するような魔術って等級高くなかった?」


「三等級に一つあった気がする」


「三等級のマイナーな魔術を覚えている人っているの?」


 これから演習までに生徒達が準備することはかなり多そうであった。

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