佐伯先生の外界講座2
引き続き修正や訂正を入れてますが、文章量が大幅に増えている話もあるので良かったら見てやってください。
「外界とはなんなのか」
その問いに本当の意味で正確に答えられる人は居ない。
一つ言えることは、今、この地球上に存在する場所でない、ということだけだ。
その正体については、さまざまな議論が交わされ、多くの説が唱えられているが、今のところ有力なのは、未来の世界説と並行世界説だ。
その根拠は外界の環境にある。
地球と外界はその荒廃具合を除けば、非常によく似ている。
一日は二十四時間で季節も地球のものとリンクしている。
空も海も普通に青く、太陽と月も存在するし、気温もこちらと同じ位だ。
さらに、各国にあるモニュメント的な建造物が一部存在していたり、地形が酷似している場所があったり、何らかの繋がりがあることは間違いなかった。
そのため、その二つの説が有力ではあるのだが、それでも説明できないことは多いし、違いもある。
その荒廃具合を除いてそれを挙げるとすれば、大気中の魔力の量と外界由来の生物や物質だろう。
大気中の魔力である魔素は、魔術師にとっては欠かさないものだ。
それは、保有魔力の回復源となるだけでなく、それが多ければ多いほど魔力の威力も効果も上がる。
そして、その魔素が多いため、外界では多くの魔獣が生まれ、強力な外獣が多くいると言われている。
魔獣と外獣はどちらも基本的には外界にしか存在しないものだ。
魔獣は生物、と言うよりかは精霊や霊と言った方が近い存在だ。それは魔力が物質化して生まれた存在で、本来は無生物に分類される。
血の代わりに魔力が体中を巡り、その肉体すらも魔力で出来ている。
魔獣にはコアと呼ばれる魔力が結晶化したものである魔石を中心に生まれるため、臓器のない彼らにとってはそれが脳であり、心臓だ。それが壊された時点でその存在は消滅し、魔石のみが残されることになる。
一方で、その肉体を維持出来ないほどの損傷を肉体に負うか、魔石を壊されない限りは、首を落とそうが、四肢を落とそうが、再生してしまう厄介な特徴もある。
さらに、繁殖方法も魔獣によって変わるため、魔獣という一つの生物種としてまとめるには随分と幅の広い生態系になっている。
一つ安心できる点といえば、魔獣は自然と地球で生まれることはないし、長時間存在することもできない点だ。
何故なら、魔獣は魔力でできた存在であるため、飲食の代わりに魔素や魔力を必要とするため、魔素の薄い地球ではその体の維持が難しいからだ。
当然ながら魔素の濃い外界ではかなりの数が生息していて、しかも保有魔力を目的として生物や他の魔獣を捕食するものも多いため危険な存在であることには変わりはない。
しかし、魔獣は危険な存在ではあるが、倒せば魔石を手に入れられるため、探索者達にとってはなくてはならない存在でもある。
そんな魔獣に対して、外獣はれっきとした生物である。
死んでも魔石は落とさないし、肉もあるし血も通っていて、子を成してその数を増やしていく。
ただやはり、その姿や生態は地球のものとは違っている。
まず、第一に地球の生物と比べると、たとえ草食であっても攻撃性が非常に高い事が一番の違いだろう。
その魔素の濃度が要因なのか、それとも別の要因なのか、その理由はいまだに明らかになっていないが、本当の意味で無害で安全な外獣なんてものはかなり稀だ。また、そう言った無害で安全な外獣でも、漏れなく何かしら尖った能力を持っている。
例えば姿を消せたり、探知能力がずば抜けていたり、などだ。
ただ、一つ言えることは、今のところ発見されている外獣に関しては何らかの能力を魔力によって発揮していると言う点だ。
魔術ではない何かで魔力を使う生き物、それが外獣だ。
「ということで、今回は魔獣の核を特定し、的確に攻撃する実習を行います」
あらかた外界と魔獣、外獣についての説明を終えた佐伯がそう言った。
九十分の講義の半分を使った座学は終わり、ここから半分は実技となる。
これは、佐伯の講義ではよくあるパターンであった。
「では皆さん、まずは実習の班ごとに分かれて下さい」
そう言って佐伯はスライドに各班の着席位置を示した図を出した。
そしてどこからか、彼の頭より一回り程大きい銀色の立方体を取り出し、それぞれのテーブルへと魔術で移動させて配置した。
「二人とも久しぶり……って言っても一週間ちょっとくらいかな」
「よお」
「こんにちは」
「うん。そんなに空いてない」
雪と雫が指定の席に向かうと、そこには上條と大樹が既に座っていた。
「すみません、遅くなりました」
そして、雪と雫が席に着くと同時に茜も合流した。
「では移動も終わったようですので、皆さんその立方体をご覧下さい」
佐伯の言葉に従い、生徒達はその金属質な立方体に目をやる。
恐らく魔具であるということは雪にも分かるのだが、その正体はさっぱりわからなかった。
「今から皆さんにやって頂くのは、ちょっとしたお遊びですが、今後魔獣と戦うとなると、必要になるスキルを鍛えるものになります」
佐伯はその足を教壇側から一番手前である一班のテーブルに向けて進めながらそう言った。
そして、一班の席回りに着くと、そのテーブルに置いてある立方体を手に取った。
「この立方体の中には魔石が入っています。その立方体は表面に刻まれている線の下を一定間隔で動いていきます。こ先程の説明と合わせて何の訓練か分かりますか?」
そう言って佐伯は浩也へと視線を向けた。
その視線に浩也は首肯で返し、口を開く。
「魔獣の魔石の場所を見つけるための訓練ですよね。どう使えば……いや、どうやれば良いですか?」
「まず、皆さんはこの立方体の中央にあるスイッチを押してもらいます。既にもう魔力は込めていますので、それで起動します」
そう言うと、佐伯は立方体をくるっと回して、スイッチのある一面を生徒達に見せると、そのスイッチを押した。
そうすると、立方体に刻まれたその線が青色に薄く輝いた。
「あとは、簡単です。もう既に中の魔石は移動していますので。その位置をそれぞれ自由に特定して、このように魔力を流すだけです」
佐伯は立方体の側面と上部を器用に持つと、それぞれの面の線上に指を置く。
そうすると、青色に光っていたラインが紅色へと変わった。
「このように上下と左右の二点から特定できると紅色に、一点からなら緑色に色が変わります。では、まずは皆さん試してみてください。何事も実践あるのみですから」
その佐伯の言葉を皮切りに、各班の生徒達はその立方体に挑み始めた。
四班の中で一番最初に挑戦したのは、実質この班のリーダーの役割を担っている上條だった。
四班の誰も最初に挑戦しようとしないところを察すると、上條がサッと立方体を手に取った。
「魔石が入っているってことは魔力感知すれば良いってことか……」
魔術師の魔力の質はそれぞれ個人差がある。
魔力の波の速さや高さ、その細かさまで様々な違いがある。
そのため、魔術師は自分の魔力を放出することで、自分の魔力と異なる波を感知することが出来る。
とは言え、その精度の良し悪しは術者の実力によって変わるし、見習いの段階でそれを鍛える者など稀だ。
よって、優秀なこのクラスであっても多くの者がその場所を当てることに苦戦していた。
「一応、一点だけなら何度か挑戦すれば分かるんだけどなぁ」
「俺は全然ダメだ」
「私も全然分からないよ……」
四班は雪、大樹、そして上條が苦戦していた中、雫と茜は割とあっさりその場所を特定できていた。
しかも雫に至っては二点の特定に成功している。
「私は一点からなら行けますけど……流石雫さんは凄いですね」
「師匠に教えてもらってた」
そんな二人を横目に、雪が周りの班を見回してみると、どこの班も成功している者は一人か二人であり、雪の友人で言うと、浩也と真は成功していたものの、凛はダメであったようだった。
「凛ってこういうのは苦手そうだもんね」
「自他共に力で押すタイプだから仕方ない」
凛と雪はその技量は違えど、同じタイプの魔術師だといえる。小技は使わず、力を持って制圧していくタイプだ。
つまり、今のところ、雪の完全上位互換が凛である。
「何人かの方は成功していますが、皆さん苦戦しているようですね」
講義室内を歩き回りながら様子を見ていた佐伯は一班の前で一度立ち止まりそう言った。
そして、「失礼」と一言言うと、テーブルの上にあった立方体を手に取る。
「中にある魔石の場所を特定する一番の方法は何だと思いますか?」
佐伯の問いに答えるものは直ぐにはいなかったが、スッと一つの手が上がった。
「桐原さん、どうぞ」
意外にも手を挙げたのは凛であった。
真や浩也、雪までもが驚いている辺りその珍しさを窺い知ることができるだろう。
桐原凛とは適当にこなしているようで、成果だけはしっかり出すタイプであった。
同じ天才と呼ばれる者でも、優等生である浩也とは違ったタイプの天才だ。
当然、今までも授業中に発言するなんてもってのほかで、授業中に騒ぎこそはしないものの、真面目に授業なんて聞いていないと周りからも見られていた。
「恐らく魔眼が一番適しています。六等級魔術の」
「そうですね。『魔眼』と名付けた者のネーミングセンスはさておき、例えどんなに大きな魔獣であろうとも、この魔術を使いこなせば必ず魔石の位置は正確に特定できるでしょう。しかし……」
「……戦闘中には使うのは難しい、ですか?」
「その通り。この魔術の弱点は六等級という魔術自体の高い難易度だけではなく、その使い勝手悪さも関係あります。となると、皆さんに相応しい魔術ではないことは明白です。では六等級魔術を使わずに、どうすれば魔石の位置を探れるか、が問題です。皆さんはどうやって探りました?」
では、と言って、佐伯は一班の浩也へと視線を向ける。
その視線に浩也は頷くと、それに答える。
「魔力感知を行いました。自分の魔力を放出して、流れに抵抗や歪みがあった場所が魔石であるはずですから」
その浩也の答えに佐伯は満足そうに頷く。
「百点満点ですね。それに実際に感知しているところを見させて貰いましたが、そちらも百点満点でした。ですが、正解はそれだけではありません。環さん」
「は、はい!」
環という白髪の少女は急に名前を呼ばれたことで、慌てながらも返事する。先ほども質問をしていた生徒だ。
「環さんは違うやり方を試していたみたいですが、どんな方法を使いましたか?」
「ソナーです。……音の反射で場所を確認しました」
その佐伯の問いに恥ずかしさからか、白い肌を赤く染めて少しモジモジしながら小さな声で環は答えた。
「ありがとうございます、環さん。ちなみに環さんは魔石の位置を完全に把握していました。さて、この話から私が何を言いたいか分かりますか?」
今度も佐伯の質問に誰からも手が上がらなかった。
その事に佐伯は楽しそうに笑みを浮かべながらヒントを出した。
「なに、そんなに深く考える必要はありません。ヒントはそうですね、外界で生き抜くためには何が必要か、ということです」
そこで雪が手を挙げた。
そのヒントと今までの修の教えから、雪には一つの答えが浮かんでいた。
「では、葛西さん」
「はい。固定概念を持たず、様々な手段や答えを持つという事でしょうか」
「百点満点。その通りです。外界で生き残ることや魔術師として大成するためにすべき事は多くありますが、今から出来てかつ重要な事は、答えは一つではないことを知っておくことです」
そう言うと、佐伯の手に持った立方体から、バチッと電気が走った。
「今私は電気と磁気で魔石の位置を探りました。このように魔石を見つけるだけでも様々な方法があります。さらに言うと、そもそも魔石など探す必要すらないのかもしれません」
佐伯はそれぞれのテーブルの上の立方体を魔術で浮かせて、教壇の上のテーブルへと移すと、自らも教壇へと戻っていく。
「魔術師にとってイメージとアイデアは命です。何故なら、それこそが魔術の全てだからです。固定概念は魔術師を弱体化させ、その限界を決めてしまう毒です。一人前の魔術師たるには、まず、固定概念を捨て去り、無数の選択肢、アイデアを持つ必要があります。魔術師にとって答えとは、あるものではなく、創り出すものだと覚えておいてください」
雪の師匠、修も確かにそうであった。
例えば、「結界」と言う魔術は型にはめるとはめないでは大きくその効力が変わる魔術だ。
それを身に持って実感している雪にとって、この話はひどく説得力のあるものだった。
「さて、今日は最後に皆さんが演習で行う依頼内容をお伝えします。残りちょうど一月ほどの猶予があります。トレーニングや調査を行い、本番に備えてください」
その言葉に、講義室内に少し緊張感が漂った。




