表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
44/112

異界化

割と真のキャラだけふわふわしていたりしなかったり

「この子本当に大丈夫……?」


 凛は隣で熟睡している雪の頬を軽く突くと友人達に問いかけた。

 食堂の一角である為、寝転がっているわけではなく、テーブルの上に伏せって寝ている状態だが、指でつつかれても雪は身じろぎ一つもしない。

 その真面目さゆえか、それとも育ちの良さか、雪は授業中はもちろん、例えお昼休憩の時間であっても、人前で寝るなんてことは滅多にしなかった。


 しかしここ最近は、少しでも睡眠時間を確保しないといけないとばかりに、簡単な食事をすると早々に睡眠に入ってしまうのだ。今日もおにぎりひとつを食べてすぐ寝に入った。


「ほぼ毎日師匠の家に通って訓練しているらしい」


 その小柄に見合わず目の前に多くの皿を並べている雫が黙々と動していた手を少し止めてそう言った。


「それは私も聞いたけど、オーバーワークじゃない?」


「まぁどうだろうね。詳しくは雪も教えてくれないから分からないけど、嫌々には見えないしね」


「どうだろうな。雪はその辺り真面目だし、師匠に言われればやりそうだとは思うな。僕なら毎日は流石にキツイけど」


「私は師匠となら毎日でも平気。でも週に四日までで止められた」


「私なんて週に三日よ?それが雪は毎日よ毎日!雪のとこの師匠はどうなってるのよ」


 いつも通りの過保護を見せる凛に他の三人はもはや呆れ顔すら見せない。


「別に傷まみれになっているとか、やつれてるとかでも無いな」


「むしろ充実してそうな感じが強いね」


「うー。でもさー」


 真と浩也が立て続けにそういうも、凛は不服そうに唸る。


「雪も納得してるんだから、私達が口を出すことじゃない。そもそも、いつまでも保護者面してる凛がおかしい」


 いつの間にか目の前の料理全てを食べ切っていた雫はいつも通りの眠そうな表情で凛にそう言った。


「まぁ、雫の言う通りだな。僕らもそろそろいい大人だし。それに、雪の問題を解決できるわけでもないんだから」


 実際、四人とも魔術面で雪のサポートをしようと何度か試みたことがあるが、それも全て空振りだった。

 ここ数年は雪自身が四人のその申し出を断るようになったため、そもそもサポートを行おうとすらしていない。


「名が知られている訳ではないみたいだけど、雪の師匠もプロの魔術師だからね。そこは安心していいんじゃない?」


 そう浩也が軽く言うと、凛はここぞとばかりテーブルに乗り出し、向かい側に座っていた浩也に指を突きつけた。


「そ、こ、な、の、よ!何で雪に有名じゃない魔術師が付いているのかが分からないから心配なの!」


「凛、行儀悪い」


 雫に襟首を掴まれて、割と激しめに凛は強制着席させられたものの、凛のターンはまだ続く。


「だって葛西家よ葛西家。それこそ最初の師匠は有名人だったじゃない」


「いやまぁ、そうだったけど……」


 確かに、一度は師匠に決まった魔術師は、雪が元々希望していた人物で、知名度もあった。


「葛西家の娘なら普通それなりの魔術師がつくと思うじゃない」


 いわゆる暗黙の了解的な部分だ。

 ここにいる四人は、それこそ一般家庭出身の真でさえも、師事する魔術師が初めから決まっていた。もちろん、それまでの積み重ねという部分もあるが、それでも家の力や権力からは切っても切り離せない。

「魔術師が見習いを選ぶにあたって、その方法や基準は問わない」というのはつまり、合法的にそこを通すために作られたルールなのだ。


「それと直接繋がるわけじゃ無いけど、響子さんは、雪の師匠と親しいらしい」


「どういうこと?」


 雫の一言に、凛は少しトーンダウンして、首を傾げた。

 無名な魔術師とあの風音響子との繋がりがまるで見えないからだ。


「皆が気にしているから私も雪の師匠について響子さんに聞いてみた」


「そしたら?」


「なんか動揺してた」


「え?どういう関係?」


「分からない。その後はぐらかされたから。でも下の名前で呼ぶ関係みたい。「修」って呼んでいたから」


「もう!どういうことよ!」


 余計ややこしくなってしまった雪の師匠の正体に凛は頭を抱えた。


「あの風音響子の知り合いとなるとちょっと話は変わるな」


 真のその言葉に浩也も頷く。


「徒弟制度の師匠を務める位だから、雪の師匠ももちろん優秀な魔術師ではあるんだろうけど…。風音響子さんは優秀な魔術師の中でも飛び抜けているからね」


 疾風迅雷とは、まさに彼女の為にあるのではないだろうか、という戦いっぷりで風音響子は有名だ。

 そして、その激しい戦い方に反して、普段はクールである点が女性人気がとりわけ高い理由の一つであった。

 かくいう雫もそう言った部分から彼女のファンになった一人でもあった。


 修であれば、響子がクールなどあり得ないと断言して見せるが、それは修が彼女のことをよく知っているからだ。

 彼女がその姿を見せる相手というのは昔馴染みなどとかなり限られる為、当然ここの四人が知るはずもない。


 そのため、ただの知り合いならまだしも、名前で呼び合う関係で、かつその関係性をはぐらかす相手なんて、四人がその正体に今以上の興味を持つのも仕方ないことだった。


「あ……」


 とそこで浩也が彼にしては珍しい少し間抜けな声を出して、手をポンと打った。


「思い出した」


「思い出したって、雪の師匠について?前も聞いたことあるとは言っていたわよね」


「そこに出てくる名前って今有名な魔術師ばかりだからすっかり忘れていたけど……」


「勿体ぶるわね。いったい何なのよ」


「異界化だよ」


「異界化って、五年前の富士山のあれのことだよな」


 この国で異界化と言われれば、一つの事件しか浮かばないだろう。

 それは魔術師のみに留まらず、世界中の多くの人々から注目を集め、それと同時に魔術師の必要性、外界の恐ろしさを知らしめた事件だ。


「私そういうのってあまり興味がないから、触りのとこしか知らないのよね。浩也はそのあたり詳しいでしょ?せっかくだから教えてよ」


「相変わらずというか、なんというか……」


 真は思わずこめかみを抑えて、そう呟いた。

 少なくとも魔術師が言っていいセリフではなかった。


「まぁ、今に始まったことじゃないから。異界化ってのは……」


 と浩也は呆れた表情を浮かべながらも異界化の説明を始めた。


「五年前、富士山麓で突如外界へのゲートが複数出現するという事件が起こった。

 魔術省と防衛省はすぐさま周囲十キロメートルの立ち入りを禁止し、魔術師と軍を派遣した。

 麓の町付近にもゲートが出現していたが、幸いにも、魔獣や外獣はそれほどゲートを通ってきておらず、また対応も早かった為、それほど多くの被害はまだ出ていなかったらしい。

 でも、問題はここからだった。

 当時の技術と研究では、天然のゲートを塞ぐ方法が、それが持つ魔力と同程度の魔力をぶつけて強制的に閉じるという力技しかなかった。

 でも、当然、そんな簡単に複数のゲートを閉じられほどの魔力を集められるわけなかった。そこで考案されたのが連鎖式という仕組みを使った魔術だった。

 連鎖式は「火花」と同じ仕組みで、空気中の魔素を連鎖的に誘爆させる魔法陣の一種だ。

 魔術研究所と何名かの魔術師が主導となって、たった一日で仕上げたその魔術は、確かに正しく作用し、全てのゲートを閉じることに成功したんだ」


 ここまで話して、浩也は一口水を飲んだ。

 そんな浩也に凛は話を急かす。


「異界化の話は?」


「まぁ、待ってよ。ここまでは軍隊や市民にとって一番の地獄だった時間の話。ここらかが異界化の本番で、主に魔術師達と国の首脳陣達とって、地獄となった時間だよ」


 浩也はそういうと、またゆっくりと話し始めた。


「その魔術によって、最後のゲートも含めて複数のゲートを一斉に閉じることが出来た。たしかにゲートを閉じることはできたんだ。でも今度はもっと最悪なことが起きた。

 最後のゲートが閉じた時、今度はそのゲートを中心として、突然、ドーム状の黒い(かすみ)が広がり、半径十キロメートル範囲を覆ったんだ。

 正体不明の球体状の黒い靄が発生して、その範囲内を隔離して、そして数時間後にその内部を文字通り()()させる。これが、異界化と呼ばれる現象で、その内部を異界と呼んでいるんだ」


「凛がツッコミそうだから先に言っておくが、その靄は触れないからな」


 浩也が話を区切るのを見計らって真が補足を入れる。


「じゃあ、外からはどうしようもないってこと?」


 その凛の言葉に浩也は頷く。


「今の所そうだね。あと、正確には霞に触れることも出来るけど、触れた瞬間、その場から消えることになる。人でも物でも。消えた人や物がどうなったのかはいまだに分かっていない。消滅しているのか、どこかに飛ばされたのか……」



「触れないのと同じじゃない!あと、消滅、ってさっき浩也は言ったわよね?でも生き残りがいるじゃない」


 その凛の質問に答える形で浩也はまた話を続ける。


「この異界化が特に注目を集めた理由がそれなんだ。あの異界化事件に巻き込まれたのは、魔術師約百名、国軍百五十名、そして富士野市の半分と避難が遅れていた住民達だった。そのうち、生存者は富士野市住民全員、国軍百四十名、そして魔術師が二十名。

 凛がさっき言ったように、あの事件では内部消滅は起きていない。それは異界化の解除方法がそこで初めて発見されたからだよ。

あの事件について詳しいことは殆ど公表されていないんだけど、異界内部のどこかにあるコアを破壊すれば異界化は解除されるということと、その周辺にはとてつもなく強力な魔獣がいたということのみ公表されているんだ」


「えっと、ツッコミ所が多いけど、とりあえず本題だけ聞かせて。つまり、雪の師匠って……」


「そう。生き残った二十名の魔術師の内の一人だよ」


「なんでそんなこと忘れていたのよ!」


「そう言われると返す言葉もないんだけど……」


「あのな凛。浩也の兄貴が巻き込まれていたんだからその印象が強くなるのは仕方ないだろ」


「あー。お兄さん。ハジメさん、そう言えばそうだね」


 一ノ瀬肇(いちのせはじめ)と言われれば、あの一ノ瀬家の長兄で、この国の魔術師界を代表する魔術師の一人だ。

 とは言え雰囲気は浩也とは結構違い、浩也が柔らかく、話しやすい雰囲気なのに対して、ハジメは寡黙であり、いつも鋭い目つきをしている。

 浩也とハジメは兄弟だけあって、似たような顔立ちであるが、その雰囲気と表情、性格から兄弟にはとても見えないと周囲からよく言われていた。

 とは言え、寡黙で厳しいが面倒見の良い人物でもあり、また魔術師としての腕も非常に優れているため、悪い噂などは全く聞かない人物でもある。


「まぁ、それもあるんだけど、亡くなった人も生き残った人も有名な名前が多すぎたってのが本当のところだよ。凛の師匠も、雫の師匠もそうだね」


「そう言えばそうだったわ……。亡くなった人で有名な人って誰がいるの……って流石に聞くまでもなかったわ」


三枝渚(さえぐさなぎさ)、だろ?十八歳で既に日本で一番の魔術師と呼ばれて、数々の実績を立てた天才。そして、異界化を世界で唯一終息させた魔術師」


 真のその言葉に凛は頷く。


「私も昔憧れていたから流石に知っているわ。雫もでしょ?」


 その凛の問いかけに、今度はカップのアイスクリームを食べている雫が頷く。


「まぁ流石に彼女の名前を知らない人はいないからね。連鎖式も彼女が考案したみたいだし、日本の魔術師と聞くと、いまだに彼女の名前が一番に挙がるからね」


「そう言えば……」


 雫がアイスクリームを食べていたその手を止めて、ポツリとこぼした。


「え、また?今日はよく出でくるわね」


「響子さんと三枝渚さんは顔見知り、というか随分仲良かったみたい」


 またもや飛び出した爆弾情報に凛はぐったりとする。


「どこでそれを知ったの?」


「師匠の家にツーショットで写っている写真が数枚飾ってあった。流石にどういう関係かは聞けなかったけど」


「ということは、雪の師匠も三枝渚さんの知人の可能性は高いね」


「もう!どうなっているのよ雪の師匠は!」


 結局、分かったのは長崎兵吾、風音響子、三枝渚というこの国を代表する三人の若手魔術師と繋がりのある無名の魔術師ということのみ。

 四人の中では、修はまだまだ話題に事欠かない人物になりそうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ