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欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
43/112

弟子と師匠の手合わせ2

 修の手は未だにポケットの中に突っ込まれている。

 しかし、雪は油断なく、その手に持つ剣を左から右へと横に凪いだ。

 修が一歩下がったことでその剣は空を切るが、それは雪の予想通りだ。慌てる事なく、今度は右から斜めに斬り下ろす。


 ガンッ、という鈍い音が響き、雪の剣は弾かれた。しかし、雪はそのことに驚きはしない。

 その弾かれた反動のまま大きく後ろに跳んで下がると、先程まで雪がいた場所に修の横蹴りが通り抜けた。


「よく躱したな。さっきの学びが活きてるじゃないか」


「警戒……してましたから」


 修は息一つ乱さず、随分と余裕な様子を見せているが、雪はそうではない。

 さっきの攻防だけでも神経を使い、精神的な疲れを感じていた。それに、次に修がどう動くか、自分はどう動くか、という事を頭をフル稼働させて考えていたため、気の休まる暇はなかった。


 そして、軽い会話で一呼吸置くと、雪はまた修との距離を詰める。

 雪は縦、横と連撃を続けるが修はスルスルとその剣閃の合間を縫うように躱してみせた。

 その攻防は三十秒は続いただろうか、いくら身体能力を強化しているとは言え、さすがに雪のスタミナも切れ始め、明らかに動きが悪くなっていた。


「っはぁはぁ……」


 雪は一度修から距離を取ると、その荒い息を治める為、大きく、ゆっくり呼吸をする。


 三十秒間も剣を降り続けられるのは、魔力による身体能力の強化のおかげだ。

 雪は魔術師ではない普通の女性と比べれば鍛えているが、それでも数十秒もロングソードを振り回せるかと言えば難しいだろう。


「うん。悪くはないけど、スタミナ切れにならないように戦ったり、それを気付かせない立ち回りを学ばないとな」


 肩を上下させながらその息を整えている雪に修は声をかける。

 見習い魔術師としてもスタミナが少し足りていないことは明白だったため、修は軽く講義を行うことで、休憩を与えることにした。


「わかり……ました……」


 荒い息をしているが、顔はしっかりと上がっている雪に、修は満足そうに頷き、講義を始める。


「それと、葛西さんは少しスタミナが足りていないな。魔術師にとってスタミナは命だ。身体能力を強化できるから、並の魔術師でも数十分位は楽に戦える」


 それこそ兵吾や響子などはやれと言われれば数時間戦ってみせるだろう。それだけ、魔術とは人間に可能性を与えてくれるモノなのだ。


「葛西さんは強化の魔術の扱い方をしっかり学んで鍛えるのは勿論、強化の魔術は本来の体力を強化しているわけだから地の体力もしっかりあげないといけないからな」


 今の雪に関して言えば、立ち回りと戦い方、そしてスタミナの全てが足りていない訳だ。

 逆にいうとその部分は伸びしろでもある。

 そして、立ち回りと戦い方は経験が、スタミナに関しては努力の方がものを言う。

 雪は努力をできる人間で、経験に関しては修が与えられる為、この問題は時間が解決すると修は思っていた。



 そうして、軽い講義を終えて、雪は息を整えることができた。

 当然まだ手合わせが終わった訳では無いし、このままでは終われないと思っているのは雪自身だ。


 再度、剣を構え直し、先程と同じように身体能力を強化する。

 今度はより長い時間戦えるように、身体能力に回す魔力を増やし、修への距離を詰める。

 先ほどより上がった移動速度からは、確かにその効果は見えたが、修からすると随分と勿体ない魔力の使い方をしていると言わざるを得なかった。

 修がやれば雪の半分くらいの魔力で同じことができる。


 距離を詰めた雪はまず修の胴体へとそのスピードに乗ったまま突きを放つ。

 そのスピードも相まって、ポケットに手を突っ込んでいる状態では簡単には躱せないはずだが、修は体を捻ることで簡単に躱す。

 だが雪もそれで終わりではない。そのまますぐに剣を引き、手首を器用に返すと右から左へと薙ぎ払う用に剣を振るう。

 修は体を捻っているため、躱すことができない状態だが、剣は修に届くことなく、また、何かに止められる。


「やるね。今のは危なかった」


 修が楽しそうにいうも、雪はそれに対して表面上は大して反応を見せず次の動きへと移行しようとしていた。

 雪は素早く結界の半分まで切り込みを入れていた剣を引いて、今度は下から上へと斬りあげる。

 しかし、その時点で、修は既に体勢を整えており、先程の手合わせと同じように、一歩下がることでそれを躱す。


 雪は軽く息を吐くと共に更にその距離を詰めると、剣を振るう。

 縦、横、下、とさまざまな方向から雪の剣は修へと襲い掛かるが、それも全て修は躱してみせた。

 しかし、その連撃のおかげか、雪は気が付けば修を壁近くまで追い込んでいた。



 この機会を逃すわけには行かなかった。

 恐らくこのタイミングで修は結界を使ってくるだろうことは簡単に予想がついた。

 雪だからこそ更に身体能力のために魔力を使い、結界ごと断ち切ることにした。


「くっ……」


 そして、ガンっという音共に雪の剣は結界に阻まれるが、予想さえできていれば問題なかった。

 剣は弾かれたものの、雪はぐっと力を込めてその反動を可能な限りを抑える。

 その視界の先に修の手が伸びてきているのが映った。


「まずっ……」


 咄嗟の判断で剣から手を離し、それを回避することに全力を注ぐ。半ばダイブのような形で後ろに飛んだ。

 その甲斐あって、修の手から逃れられたが、形勢逆転には変わりない。


 雪は急いで体を起こし修の姿を探すと、修はちょうど床に転がっていた雪の剣を拾っている所だった。


「やっぱりいい剣だな」


 雪は慌てて剣の再召喚を試みようとするが、剣はうんともすんとも言わず、修の手に収まったままだ。


「なんで……」


「ん?ああ、こういう魔道具の魔法陣の起動は簡単に阻止できるんだ」


 もっとも、そんなことを簡単にできるのは魔術師の中でも割と上澄みの者たちのみであることは雪には伝えない。

 それが出来る者がいるという知識だけを与えることが重要だからだ。


 雪の剣は市販品ではあるが、その中でもかなり高価なもので、ある程度のプロテクトは施されている。とはいえ、剣という物質を他の場所から取り寄せているという仕様上、その魔法陣の動作条件は割と繊細だったりする。


 修やったのは魔法陣の起動を、魔力を流すことで妨害しただけだ。いわゆる、不発状態にしただけだ。道具に物理的に魔法陣が刻まれているからこそ出来る技ではある。


「もちろん、無手でも戦えるだろ?」


 修は立ち位置を変えて壁面からサッと移動すると、そう言った。

 その修の雪は言葉を返さず、代わりに行動で返した。

 普通の人間とは比較にならないほど強化している身体能力で雪はすぐに体勢を立て直すと、剣を持っている時よりもさらに速く修へと詰め寄る。


 修は剣をクルリと回し地面に突き刺すと、雪から放たれた右の拳を手を添えることによって逸らす。そのまま横殴りに飛んできた拳を、少し柔らかめに作った結界によって防ぎ、逆に雪に足払いを掛ける。

 雪はそれを間一髪で躱し、修に掴みかかろうとするが、修はそれを掻い潜るように抜けて、雪の背面へと回る。


 雪は少し低くなった体勢をいかして、床に手をつき、回し蹴りの要領で足払いをするが、それを修は後ろへと飛び退くことで躱した。


「なんだ、剣よりよっぽど得意そうじゃないか」


「兄から仕込まれましたから」


「なるほ……ど」


 修が色々納得していると、その隙を狙ってから雪の蹴りが迫り来ていた。

 修は体を逸らして避ける。


「……意外と強かだな」


「これも兄から」


 成る程どうして無手だと随分と洗練された戦い方になるのだな、と修は楽しげな表情浮かべる。

 その戦闘スタイルは修よりも響子の方が近い。

 修と響子の師匠が同じこともあって、二人の戦い方の根っこの部分は同じだが、それでもその戦闘スタイルはかなり違う。

 修はあれやこれやとさまざまな技を繰り出し、力よりテクニックと手数で圧倒するタイプに対して、響子は力と速さで押し切るタイプだ。

 雪はどう考えても後者側だった。

 こうなると修より響子の方が師匠としては合っているのでは、となるがそれはそれだ。それに、修が響子のように戦えないわけでは無い。


「それじゃあ、結界の話は置いといて、葛西さんに一つ見本を見せよう」


 そう言うと、修は一気に雪への距離を詰めた。

 それは先程の雪の速度とは比較にならないほど早い。


「はやっ………」


 その速度のまま、貫手が放たれる。

 ほぼ感覚のみで雪はそれを躱すも、立て続けに修の左手が飛んでくる。

 雪はそれを何とか手で弾くも、弾いた側から違う手が飛んでくる。そのやりとりを繰り返すたびに、雪はどんどんと後退していき、そして、体勢も崩れていく。

 息つく暇もないとはこの事だった。呼吸もさせて貰えない程の速度で攻撃は繰り出され、そしてふっと修の姿が雪の視界から消えた。


「あっ」


 服が掴まれる感覚に、雪の声が漏れた。そして、それとほぼ同時に雪の視界が宙に向いた。

 そして、またもや気がついたときには、雪は地面に倒されていた。


「参考にならないですよ……師匠」


「これでも文字通り死ぬ思いで訓練したからな。葛西さんはも今後この位のことは出来てもらわないといけないからな」


 最初の貫手からして、雪にはほぼ見えていなかった。あとはもう感覚のみで捌いていたに過ぎない。よくここまで持ったものだと自分を褒めたいくらいだった。


 倒れた雪を上から覗き込むように見ている修は随分と楽しそうだった。


「なんでそんな楽しそうなんですか……」


 こちらとコテンパンにされて落ち込みそうなのに、と雪が小さく文句を言うと、上から手が伸びてくる。

 雪はそれを掴んで立ち上がり、その手を伸ばした修と顔を合わせる。


「葛西さんは剣を使う時も無手と同じようにもっとしなやかに、軽やかに動くべきだな。もちろんその膨大な魔力を使った力技も大切だけどな」


 雪は修の後方に突き立ったままの剣へと視線をやる。

 少しばかりの逡巡の後、雪はそう修に尋ねた。


「……師匠、長剣って私に合っている武器だと思いますか?」


「そうだなぁ……」


 今の雪に合っているかと聞かれれば修の答えは「ノー」だ。

 しかし、そう簡単に答えられるものでもない。

 家族から貰った大切な品であると言うのもあるが、ここから雪に合う武器を探すのが難しいことと、今はそこに労力を割くよりも魔力の制御そのものに注力したいと言うのが理由だ。


「師匠はどんな風に武器を選んだんですか?」


 どう答えるか悩む修を見かねてか、雪がそう訊ねる。


「俺か?俺もなかなか決まらなくて、色々使っている内に全部そこそこに使えるようになったな」


「じゃあ、私も色々と試してみてもいいですか?」


「いや、今はダメだな。色々な面で遠回りだし、全部が中途半端になる」


「でも、長剣は私に合っていないんですよね?師匠の反応を見ればわかります。だから、将来を見越して師匠の様に色々な武器を使うのが良いと思うんです」


「まぁ、それはそうだが……」


 上手く話が流れたのかと思いきやそうでは無かったらしい。

 それに、雪の言うことも一理ある。

 いずれは雪に合う武器を本格的に探す必要があるだろう。


「それに師匠がやっていることを教える方が指導も簡単だし、私も目標が目に見えるので、メリットばかりだと思うのですが」


「……分かった。いずれは色々試してみよう。ただし、外界演習が終わってからだ。それで良いな?」


「ありがとうございます!頑張ります」


 雪は小さくガッツポーズをして喜ぶ。

 修としてはもっとゆっくりと、どっしりと進めたいところではあったが、弟子の意見を聞くことも大事だ。

 それに、弟子が満足しているなら、今はそれで良いやと修は雪の喜ぶ顔を見ながら思った。

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