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欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
42/112

弟子と師匠の手合わせ1

戦ってたりする方が話を書きやすいですね

 修との師弟関係が始まってから、今までで一番の緊張を雪はしていた。

 握っている愛用のロングソードを持つ手は震え、その鼓動の音が修に聞こえるのでは無いかと思えるほど心臓が高鳴っていた。


 プロの魔術師かつ自身の師匠との初の手合わせへの期待か恐怖か、それとも喜びか、その緊張がどこから来ているのか、雪には判断つかなかった。

 それでも自分の全てを見せて、盗めるものは盗もうと心に決めていたが、いざ修と相対してみるとどこか自分の体が自分のもので無いような感覚がしていた。

 そして、既にこの手合わせが『結界』のデモンストレーションということも雪の頭から抜け落ちていた。


「こないならこちらから行くぞ、と言いたい所だけど、今回は先手を取ってほしいから打ち込んでこい」


 少しの逡巡の後、雪は両手で剣を構えたままぎこちなく修への距離を詰める。

 一方、修は余裕な面持ちで、武器すら持たず、右手に至ってはポケットに入りっぱなしだ。


 そうして徐々に距離を詰めていき、一歩踏み出してロングソードを突き出せば、その斬っ先が修に届来そうな所まで来たところで、雪は息を一つ吸う。

 そして、思い出したかのように、魔力で身体能力向上をし、一歩踏み込み、その剣を斬り上げるように振るった。


 常人であればなんの抵抗もすることができずに斬り裂かれていただろう剣尖の速度だが、修は余裕を持ったまま一歩だけ下がり、体を逸らす事でその剣先を躱す。

 しかし、雪の攻撃は止まらない。

 今度はその斬り上げた剣を斜めに振り下ろすが、修更に一歩下がり体を傾け、その剣の下を潜るようにして避ける。


「ッ!」


 雪は止めていた息を吐き振り下ろした剣の勢いをそのままに、後ろへと手を引き、体ごと渾身の突きを放った。


 その剣は丁度体を起こしたばかりの無防備な修に向かって伸びるが、その剣が修に届く寸前、

 雪の剣の斬っ先が何か硬質なものに当たり、はね返された。


「えっ!?」


 予想外の展開に思わず声が漏れ、雪の体が一瞬膠着する。

 そして、修は当然、その隙を逃さない。


 修は一気に雪への距離を詰めると、はね上げられた雪の腕を押し掴み、もう一方の手で雪の腰を引いた。


「あっ……」


 足がはね上げられた感覚と共に、雪の視界が宙を向く。そして、雪の気の抜けた声と共に、その体は優しく地面へと転がされていた。


「とまぁ、こんな感じだな。大丈夫か葛西さん」


 天井を見つめる雪は、ただただ何も出来なかった事しか理解できなかった。突きが弾かれた瞬間、気がつくと体が宙に浮き、視界が回り、倒されて天井を見ていた。


「……何が起こったのか全然分かりませんでした」


 まだ倒れたまま宙を見上げる雪の視界に修の手が突き出される。雪は感謝をひとつ述べて、その手を掴み起き上がった。


 まだ何がなんやらわかっていない様子の雪に、修は昔の自分を思い出し、少し懐かしさを感じていた。

 修も最初の頃はこうやって師匠代わりの魔術師になすがままにされていた。


「説明をするとだな、まず葛西さんの剣を弾いたのはこれだ」


 と修は魔術を行使する。

 そして、雪の目の前に現れたのは薄く小さな透明の板だ。


「これって……」


「そう。さっきも見せた『結界』と同じものだな。ただ、さっきのはもっと見えづらくしてあったけどな」


「これで剣を弾かれたんですよね……」


「そうだ。これは四等級位の魔術を防げる強度があるから、魔力が通っていなかった葛西さんの剣を弾けたわけだ」


「でも師匠、これを咄嗟に使うのってかなり難しい気がするんですけど……」


「まぁ、そうだな。かなり特訓しないとだめだな」


 そうあっさり言う修に雪は一瞬苦笑いを浮かべるも、ふと、この手合わせ自体デモンストレーションだったことを思いだした。


「師匠、その魔術って他にも使い方があるってことですよね?」


「そうだ。そろそろ緊張も解れてきた頃だろ?もう一回と言わず、数回手合わせしよう。それでこの魔術の使い方を見せられるはずだ」


 修はそう言うと、雪から距離を取る。

 そして、先ほどと同じように特に武器などは構えずに雪と相対する。


「それじゃあ、第二戦目だな。いつでもかかってきな」


「はい。お願いします」


 二回目となる手合わせだが、雪には先程のような体の固さは感じられなかった。

 もちろん多少の緊張はあるが、悪く無い感覚だった。

 先程は緊張でよく見えなかった修の姿もよく見えるし、手に握る剣の感触もしっかりしていた。


「よしっ」


 自分にしか聞こえないくらいの小さな声で雪は呟くと、剣の感触を確かめるように、一度ぎゅっとその持ち手を握る。

 そして、雪は先程とは違い体に魔力を通わせ、身体能力を強化する。


 身体能力が向上した雪の一歩目で修との距離は一気に詰まる。

 10メートル近くあった距離はその一歩で大きく縮まり、二歩目、三歩目で剣先が届く距離になった。

 雪はその無防備に立ち尽くす修の体へと、避けられることを前提にコンパクトさを意識して剣を薙ぎ払う。


 修は余裕の表情を浮かべたまま、その剣へと手を添わせるように動かす。

 手に触れたとは思えない、引っ掻く様な音と共に雪の剣が逸らされる。

 今度は雪にもしっかり見えていた。

 修の手から出ていた虹色の燐光と、剣の刃先が修の手の手前で何かに止められていたことが。

 言葉に表せば単純だが、その魔術の構築速度と判断能力は雪には到底できない高みにあるものだ。


 しかし、雪は自分の師匠のトンデモにも少し慣れてきていた。それに、それを使ってくるとも分かっている。だから雪は内心の驚きを表面にはださない程度に留めることができ、幾分スムーズに次の動作に移れた。


 雪は逸らされた剣の勢いをそのまま利用し、体を一回転。

 回転斬りの要領で斬りかかる。


「痛っ!」


 しかし、ガンッという剣のぶつかる音共にその回転斬りは止められる。

 そして、勢いとスピードに乗っていたその剣を急に止められたことにより、剣は雪の手を離れていった。


 雪が手を抑えながら顔を上げると、そこには小さな切れ込みが入った、半透明の一抱えほどある立方体が雪の前に浮いていた。


「腕は大丈夫か?」


「ありがとうございます。大丈夫です。強化していたので怪我にはなっていません……」


 修のその言葉に雪は手を捻ったり手を開いたり閉じたりするも、痛みは無かった。

 いつの間にやら拾っていたのか、雪の剣を修は差し出しながら、雪へと感想を聞く。


「それなら良かった。それでどうだった?」


「厄介だと思いました……。何も無い所からいきなり出てくるのが……」


「それがこの魔術の強みの一つだな。相手を混乱させられるし、不意をつける。ただこれの対処自体は簡単だし、戦いに慣れた人であればすぐに対応してくる。どう対応するか分かるか?」


 修の言葉に雪は難しい顔をして頭を回す。

 それは突然現れる壁だ。加えて目にも見えない。それの対処をしろと言われても、目にも見えないし、いつ出るかも分からないものをどうこうするなんて雪には出来ない。

 だから、悩んだ結果雪が出した答えはそれを斬り裂ける程の力を入れるとか、魔力を武器に付与する、というものだった。


 雪がそれを修に伝えると、くすりと修は笑った。

 何か可笑しいこと言ってしまったのかと、雪は少し恥ずかしがると、修は気にしなくていいと手を振った。


「少し俺の知り合いに考え方が似ててな。難しく考えすぎているのに答えが簡単になるあたりよく似ていると思ったんだよ。話を戻すが、それは正解の一つだ。そもそも弾かれなければいいわけだからな」


「他にも答えがあるんですか?」


「あぁ。すごく簡単なことで、単純に思い込みを無くすこと。あとは、魔術の兆候を見逃さないことだ。こっちは対魔術師戦闘に大事なことだな」


「思い込み……。確かにしていました」


 雪は先程の戦いを思い返すと、確かに思い込みをしていたことに気がついた。

 修が無手だから、剣を弾くことも受け止めることもできない、そしてどこか反撃のことも頭から飛んでいた様だった。


「魔術師に限らずだが、一見、無手や無防備に見えても、そうじゃないことは多々あるだろ?要はわざと隙を見せるというやつだな。特に魔術師なんてそれが顕著だ。何せ、魔術を使えるわけだからな」


 雪のような見習いや新米魔術師は、その経験と技術の低さから、魔術を使用することで隙が生まれたり、使う兆候が目立つことが多い。

 しかし、修たちのような熟練したプロの魔術師はそう言ったものが非常に少ない。


 そして、そんな高い技術を持つ彼等が対人戦闘を行うと、その技術力の差も小さくなってくる。そうなると、いかに相手にバレず、不意をついて立ち回るか、という読み合い、騙し合いの方が重要になってくる。

 いかに膨大な魔力を持ち、強力な魔術を使えようとも、その点が不得手だと何も出来ないまま終わってしまう、なんてことはよくある事なのだ。


 ただ、この時点では修は雪に血生臭い対魔術師戦闘のあれこれを、これ以上、直接的に指導するつもりはまだ無かった。勿論、実際はその点も含んでいるのだが、雪にはそうとは伝えない。


「とまぁ、これが『結界』の基本的な使い方だ。どうする?まだ続けるか?」


「はい。お願いします!」


 修の挑発的な笑みに、雪は若干悔しさを滲ませた表情を浮かべると、剣を握り直して、そう言った。

 何も出来ずに、修に負けて悔しい、というのも多少はあるが、どちらかというと、修に何も見せられていないことの方が、雪は悔しかった。


 雪は先程の修の言葉を思い返す。

 思い込みをせず、魔術の気配を逃さない。

 その二つだけを強く意識する。


「いつでもどうぞ」


 両手をポケットに突っ込んだまま修は言う。

 その修を視界に入れながらも雪は油断することはなく、ロングソードをぐっと強く握った。

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