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欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
37/112

弟子達の後始末

過去の投稿の誤字脱字修正と一部加筆をしているので、更新が遅れています。

 「リンクマジック」という海外で考案、開発された魔術がある。


 この魔術はその名の通り「繋げる」ことを目的とした魔術だ。

 では、何と何を繋げることが出来るのかと言うと、魔力を持つことが出来るモノ同士であれば何とでも繋げることが出来る。

 魔法陣の構築が難しいというデメリットと繋げる個体ごとの魔力の波長を知る必要があるという手間はあるが、それを持ってしてもリンクマジックの有用性は揺るがない。

 しかも、リンクマジックは一度魔法陣を刻んでしまえば、大気中の魔力である魔素でも効果が続くため、術者にとっても非常にエコだ。


 とは言え、魔法陣の構築の難易度が高いだけで六等級に位置付けられているこの魔術が、ネットワーク網やGPSが発展した現代で既存の道具にとって代わることはない。


 それでは、この魔術がどこで、誰に、重宝されているのかと言うと、それは外界探索をする魔術師達だ。


 具体的に外界でどのように利用されているのかというと、たった今、修達が使っている無線機のような通信をする機器や、探索している者同士の位置情報の共有に使われている。

 要は、インターネットやGPSの存在しない外界で、それに代わるものとして利用されているのだ。


 そして、そのリンクマジックは弟子達の不始末に追われる師匠達をやはり大いに助けていた。


「そっちは、大丈夫か?」


 一角竜からの逃走劇を始めた四班を修は追いながら、無線を使って響子へ連絡を取る。

 響子は一角竜と学生達の逃走劇がはじまるや否や、一角竜達のヘイトを散らす為に一角竜の巣があるであろう地下へと突撃していったため、今は修の側にはいない。


「ちょっと待って。あぁもう!なんでこんなにいるの!」


 そんな週の問いかけの返事の代わりに聞こえたのは、イライラ、というよりは泣き言といった声色で叫んでいる響子の声だった。

 修も一応安否を尋ねては見たが、あの程度の数の一角竜ごときに響子が遅れを取ることなんてカケラもないと確信してはいたので、慌てることはない。


「えぇっと、風音さん、どの位で上がってこれる?」


「何?ごめん、一角竜の鳴き声で聞こえなかった。もう一回言って」


 修の耳にも一角竜の鳴き声やら唸り声やらが無線機を通じて微かに聞こえていた。

 軍用であるため、マイクの性能も高いはずであるが、それでも他の音を拾ってしまう程には響子がいる場所はうるさいのだろう。


「どの位で集合できるんだ」


 少しだけ先程よりボリュームを上げて、修はそう繰り返した。


「あー。結構間引いたから今から行く」


「了解。そろそろ学生達のガソリンが切れそうだから早めに合流してくれ。位置確認用のリンクマジックは維持しておくから」


 響子に限ってはリンクなんて必要ないかも知れないが、繋いだままの方が手間は省けるだろう。

 仮になくても、イノシシ系魔術師と呼ばれる響子の探知能力と隠密能力は、この国どころか世界でもトップを争うレベルであるため、自力で辿り着けるとは修も思うが。


「にしても、あんな攻撃しながら逃げたら余計追われるに決まってるだろうが……」


 現在、修は二階から学生達とそれを追う一角竜をバレない様に追跡している。

 追跡している間にも修はこっそり魔術で一角竜の足止めをしているが、一角竜達は仲間の竜が倒れようが気にもせず学生達五人を追いかけている。

 どうやら、学生達はずいぶん一角竜達の怒りを買ってしまっているらしい。


 質は良くないが、それでも結構な数の魔術が学生達から一角竜達に放たれているが、その距離は広がらないし、一角竜の数も減っていない。

 それもそのはずで、足止めを目的とした魔術を選択せず、一対一の相手を打ち倒す魔術ばかりを使用しているのだから、この数を相手だと焼け石に水だ。


 元々まともに魔術を使えない雪と天才である雫だけが、それぞれの魔術の質は違えど、状況的に正しい魔術を使用しているお陰で、彼らは未だに一角竜達に食い殺されずにはいるが、それも時間の問題だろうことは明白だった。


「そろそろ行き止まりだがどうする……」


 どうしてこうも四班はツイていないのかと修は気の毒に思う。

 先ほどから行くとこ行くとの全ての出入り口が崩れてたり、外界産のよく分からない植物が蔓延っていたりしていた。


 そして今度はいよいよ本当の意味での行き止まりだ。

 彼等の目の前の出入り口は外界産のツヤツヤとした紫と黒のマダラ模様が表面にある樹木が塞いでいた。

 その名を紫黒曜樹(むらさきこくようじゅ)といい、火への耐性が非常に強いが、一度燃えるとまるでオイルに火をつけた様に燃え広がり、毒性の紫色の煙を出すという厄介な性質を持つ樹木だ。


 そんな厄介な樹木で逃げ道を塞がれ、そして背後では、未だに数の減る気配が見えない一角竜達が通路を完全に埋めていた。


「そろそろ限界か……」


 少し離れた位置にいる修から見てもほぼガソリン切れの少女もいるし、あの天才と魔力馬鹿の雪以外は余裕が殆どなさそうだった。


 念のため、魔術を待機状態にさせながら、修は学生達の様子を伺う。このまま、一角竜の足を止められないようなら、修が手を出さざるを得ない。


「霜渡か。相当現場慣れしてるな。あの子は」


 しかし、そんな状況まで追い詰められた四班の命を永らえさせたのは、やはり天才魔術師見習いである雫の魔術だった。

 修から見ても、下手な新人魔術師よりもよっぽどいい動きと判断をしていた。


 雫の魔術のおかげで、氷の剣山が四班と一角竜の間に広がり、一角竜の足がしっかりと止まる。


 大小異なる大きさの氷の剣山の前では、流石の一角竜も無傷では進めないし、追い詰めていることを一角竜も理解しているから無理はしない。


 凍っている範囲で安全な足場など存在しないこの魔術は、人間に対しても効果的な足止めになるため、割とよく使われる魔術でもあった。

 とは言え、場数を踏んだ、外界での経験値や知識が豊富なプロにとって、というだけであり、新人や見習いが使う様な魔術ではない。

 見習いの段階でその魔術を選び使えているあたり、雫が天才の名に恥じない判断力と技術を持っていることを修は疑いようもなかった。

 その実力は実際にプロとしても十分通用するだろう、と修は雫を評価していた。


 そして、その霜渡を挟み、一角竜と四班の睨み合いが始まったところで、修は後方に響子の気配を感じ、響子と繋いでいたリンクマジックを解除した。


 修は労いの言葉をかけようと、後方から音もなく近づいて来ていた響子へと振り返る。

 しかし、その響子の姿を見て、修は一瞬、言葉を失ってしまった。


 そして、その一瞬の間に気がついた響子はその修の反応に、その猫目を細くして、いわゆるジト目で修を睨む。


「…………」


「えーと。随分とアレだな……」


 修は彼女から少し目を逸らしつつ、言葉を探す。

 響子が自らその役割を買ったにしろ、出発前にはツヤもあり整っていたそのダークブラウンの髪は、随分とボサボサになって泥も所々付いている。

 そして、肌に密着してしまうほどびしょ濡れになった服には恐らく返り血であろう赤い染みと泥が無数に付いていた。


 薄着でボディーラインが分かり、本来であれば目に毒、となる所だが、今の姿ではみすぼらしさが勝ってしまって、修は言葉を探すのに必死だった。

 響子は腰に手を当てて、何も言わずに修の言葉を待っている。勿論、表情は変えずに。


「‥‥お疲れ様」


 昔の関係性ならいざ知らず、今の関係性において相応しい言葉を見つけられなかった修は情けないと思いつつも、恐ろしく無難な言葉を選んだ。


「…………」


 予想通り、修のその反応と言葉がお気に召さなかった響子の目はさらに細くなる。

 自分よりは幾分小柄なとは言えども、この状況で、無言の響子から睨まれていると、修でも圧を感じざるを得なかった。

 いくら響子が美人とは言えども、睨まれて喜ぶ趣味は修には無い。


「……すまん」


 大人しく謝ると、当然と言わんばかりに響子は鼻を鳴らして、睨むのをやめた。そして、少し距離を置いて修の横に並び、何やら話し合いをしている学生達を見下ろした。


 修は最近回数が増えつつあるため息を小さく吐くと、響子と同じように学生達の様子を見る。

 そのタイミングで、ちょうど話し合いが終わったのか、学生達は雪一人を出入り口側に置いて、何故か一角竜の牽制に回り出した。


 雪は一角竜に背を向けると、何やら慎重に手元を操作している。

 修はその動きに心当たりがあった。


「あの子……指輪を解除して何をするつもりだ?」


 修が知る限りでは、この場面で指輪を解除した所で、雪にはこの状況を打開できる魔術なんて使えないはずであった。


 そして少しした後、雪は指輪の解除に成功したのか、その両手を前に突き出し、魔法陣を構築し始めた。


「あの子、随分時間をかけて魔法陣を構築していたけど……あれって二等級位の魔術よね」


 魔術師見習いとしても常識外れに遅い魔法陣の構築に、雪の事情を知らない響子が首を傾げる。

 その魔術が何か分からなくても、魔法陣の形をを見ればその等級位はどんな魔術師にも分かる。


 そのチグハグさに響子が首を傾げている一方で、雪がたっぷり時間をかけて「火花」という魔術を構築した事に修も首を傾げる。


「あれをあの子が使ってるのは一度も見たこと……」


 とそこまでいって修は雪についてのある一つの文言を思い出した。


「まてよ、暴発事故って……。おいおい、ここでそれはまずいだろ」


 突然慌て出した修にぼんやり雪を見ていた響子が狼狽える。


「え?何よ?どういう事」


「響子。今すぐプロテクト系の魔術を待機させてくれ。それで、あの子が魔術を使う寸前に出入り口の周囲にかけてくれ」


「え?いきなりどういう事」


「後で説明するから、とりあえず頼むぞ。等級も高めのやつを頼む」


 冷戦状態の二人だが、その修の焦り方を見て響子は困惑しながらも魔法陣の構築を急いで行う。


「あの馬鹿弟子め……」


 修は指輪の遠隔操作を行う。

 かなりの離れ業ではあるが、リンクマジックを利用して指輪の設定の変更と指輪を介して魔術の制御を行うつもりだった。


「ねぇ、修……ちょっとあれは不味くない?」


 雪が魔力を込め続けている魔法陣の異変に気がつき、響子は顔を引き攣らせた。

 魔法陣が紅く発光して、動くなんて響子も見た事の無い状態だった。


「あれ、暴発するから。俺たちにかかってるから」


 修はそんな響子の言葉に投げやりな返事を返すと、魔術の制御に集中する。流石に遠隔で他人の魔術の制御の補佐をするのは修にとっても初めてだ。

 加えて、雪の魔術制御はやはり粗く雑で、やることが多かった。


 そして、その言葉に響子が「どういう事」と返そうとした時、その時が来た。


「響子!!」


 修は響子に合図を出し、同時に雪の魔力の制御と並行して学生達を保護するための魔術を行使する。


「『火花』」


 雪の言葉と共に爆音が一つショッピングモールに響いて、樹木を粉々に吹き飛ばす。響子の魔術の保護があってなお、その出入り口周辺の壁も一部が消し飛んだ。


 そして、その魔術はそれだけでは止まらない。修の制御のおかげで、正しく発動したそれは甲高い爆発音と重低音と共に二発、三発と入口の外まで連鎖し、ショッピングモールの外側まで吹き飛ばしていた。


「あれって本当に火花なの……」


 爆風の余波により塵と埃などで更にみすぼらしさが増した響子は、そんなことも気にせずに唖然としながら呟く。


「そうだな……。暴発じゃなくて良かった……」


 そして、響子と同じように爆風の余波で塵と埃にまみれた修も自らの姿を気にもせず、安堵の息をつく。


「指輪を通じて他人の魔術の制御なんて無茶が上手くいって良かった……」


 とは言え本当に無茶なことをしたせいか、修は頭痛が酷かった。これ程までに脳を酷使したのは久々だった。

 とりあえず、上手くいったからいいものの、暴発の方が起こっていれば、この辺りが吹き飛んでいた可能性がある。

それ程に危険な賭けだった事に他の学生達は勿論、雪本人も気が付いていないだろうことに修は重いため息をつく。

 自分達が警護していることは内緒であるため、一体どのように雪に指導すればいいか、頭を悩ませる未来が修には見えていた。


「とりあえず……学生達は無事みたいね」


 修と響子の魔術のおかげで傷ひとつ汚れひとつつかなかった学生達は雪の成果を一通り讃えたあと、足早にショッピングモールから出ていった。


「俺たちも崩れる前に外に出よう」


 いかにも崩れそうな出入り口を見ながら、ボロボロな二人は足早に学生達を追って外を出た。


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