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欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
36/112

弟子達の予行演習3

誤字などありましたら報告をお願いします。


「『閃光』」


「『旋風つむじかぜ』」


「『澎湃ほうはい』」


「『壁列へきれつ』」


 眩い閃光が、渦巻く竜巻が、地面より滲み出て逆巻く水が、そびえ立つ土の壁が一角竜の足を止めるべく現れる。

 しかし、それでも一角竜のスピードが落ちるのは一瞬のことだ。

 この様な緊迫した状況で、しかも走りながら魔術を使うことに慣れていない四班のメンバーの魔術は辛うじて行使できている様なぎりぎりのものだった。

 それでは硬い表皮に覆われている一角竜達を完全に止めるには至らない。

 唯一、雫の魔術だけは一角竜達にも効果が出ているが、多勢に無勢には変わりない。



「これっ……。いつまで……走ればいいんれすか」


 意外にも、一番最初に悲鳴を上げたのは茜だった。

 四班の中で唯一格闘戦闘を行う彼女だが、短期決戦型であったようで、息も絶え絶えになって、その走る速度も落ちている。


 四班はここまでずっと魔術を使いながらショッピングモールの中を駆け回っている。しかし、行くとこ行くとこの出口は崩れていた。

 すり減る体力と魔力、そして集中力。

 どんどん限界が近づく四班とは対照的に未だに諦める気配が一向に見えない一角竜達の勢いとその数は増えていた。


「おい、不味いぞ」


 そんな先の見えない逃亡劇にも終わりが来た。

 本来であれば出入り口として機能していたそこは、謎の樹木に覆われて完全に塞がれていた。


「くっそ……またか。皆、引き返そう」


 珍しく舌打ちをした上條の言葉に、既に別の逃げ道を探していた雪が首を横に振った。


「そうは行かないみたい……」


 逃げ道は先程自分達が走ってきていた二股に分岐している通路のみだ。

 向かって左から逃げてきた五人は右側を進めばまだその逃亡劇を続けられる筈であったが、一角竜達がそう悠長に待ってくれるわけがなかった。


 既にその逃走路は塞がれつつあり、膝に手をついて息を切らせている、完全にガソリン切れの茜を見る限り、そこを無理やり押し通るのは難しそうだった。


「『霜渡(しみわたり)』」


 雫の魔術が一角竜達と五人を隔てるように、通路一面を氷で出来た低い剣山が覆う。

 特段賢いわけではない一角竜だが、既に五人を追い詰めていることを認識しているのか、それともその魔術を恐れているのか、凍った通路を無理に進もうとはしなかった。


「これで時間は稼げる」


「助かったよ天野さん……」



 とりあえずは、と雫の魔術で急場は凌いだが、今のところ手詰まりな事には変わりなかった。

 とは言え、その小柄な体躯に見合わず余裕そうな雫以外の班員達にはちょうど良い休憩の時間ができた事も事実であった。


 未だに危険な状況である事には変わりないが、これからのプランを組み立てるなら今しかない。


「天野さん。あの魔術はどのくらい持つ?」


「普通なら一、二分。一応、今も継続して魔術を使ってるから、まだ暫くは大丈夫。でも、結構きつい」


 その雫の言葉通り、確かに彼女の手のひらには魔法陣が現れたままになっている。


 一部の魔術を除き、魔術を維持するのは例え低級の魔術であっても神経を使う。魔力云々より精神的な負荷が高く、求められる技術も高い。


 そのため、今それをやっている雫や以前それをやってみせていた上條の技術は、見習いの中では間違いなく上位に入ると言えるだろう。


「それでどうする」


 大樹は武器を構えたまま、一角竜達からは目を逸らさない。


「あの上を飛び越えていく、のは無理ですよね」


 茜は自分の意見を即時撤回した。

 飛び越えるにしても後続が多過ぎて、どこまで越えればいいか分かったものではない。


「その木を燃やすとかどうなんだ?」


 出入り口を塞いでいるのは、互いに絡み合うように幹をその天井まで伸ばしている紫色のマダラ模様が入った木だけだ。


 大樹の案に上條が首を横に振る。


「五等級の火関連の魔術ならまだしも。僕達の魔術では威力が足らないし、火がついたとしても燃え尽きるまでに時間がかかりすぎる」


「確かにな……。これは本当に平さんの案を実行するしかないか」


「爆弾でもあるなら、木ごと吹き飛ばせるんですけどね……」

 

 当然、そんな物を持ってきているわけはない。

 しかし、それに近しい力を持つ者なら一人いた。


「あの……」


 恐る恐る雪が手を上げる。


「ん?どうしたの葛西さん」


「私、多分それできます」


「へ?」


 何を言ってるんだ、と言わんばかりの反応を上條と茜は見せた。


「雪は前から爆発物系魔術師って言われてた」


 そんな雪の案のあとを押すように雫が補足する。


「爆発系魔術師?なんだそれ」


「違う。爆発()系魔術師。昔小さな小屋を吹っ飛ばしていたから多分行ける」


「あぁ、なるほど。暴発させるのか」


 上條は察しが良かった。

 先程雪が見せた剣を使った魔力放出とも似ているが、暴発の場合はその威力が違う。

 魔法陣を介してるだけで、その威力は二倍以上にもなるだろう。とは言え、その消費量も馬鹿にならないが。


「私、魔力だけは有り余ってるから……。無理やり低級魔術を行使すれば多分暴発の方が起こると思う」


「……そこに賭けるか。皆もそれで大丈夫?」


 上條の問いかけに、全員が頷く。


「それじゃあ、葛西さん、よろしく」


 雪は頷くと、慎重に魔力を放出しながら指輪の赤いラインをなぞる。


「出来た……」



 修が想定しているよりもかなり多い量での放出ではあったが、指輪のロックの機構は問題なく解除され、赤い宝石が青色に変わる。


 もし、雫がこの光景を見ていようものなら間違いなく、一年に一回も見れないおおはしゃぎした姿を見ることが出来ただろうが、残念ながら雫は魔術の維持で忙しい。


「それじゃあ……やるね」


 その言葉に皆は雪から距離をとる。


 雪が使用するのは今まで一度も成功したことのない二等級の魔術だ。連鎖的に小規模な爆発を起こすそれは、二等級の魔術ながら見た目が派手で人気のある魔術だった。

 今までの雪の経験上、魔力を減らそうとすると、シャンパンを開けたような小さな破裂音がするか、何も起きないという結果になり、めいいっぱい魔力を込めると、何も起きないか、大爆発という結果になることはわかっている。


 今回は失敗を目的として魔術を使うとは言えども、狙った結果を出さなければならない。

 慎重にやらないといけないことには変わりなく、また、博打であることも事実だった。


 これから使うのはもう雪が何回も失敗した魔術だ。

 その魔法陣の形や本来使わなければいけないであろう魔力の量はよく分かっている。イメージだけはいつも完璧だった。


 雪は一つ息を吐いて目を瞑る。

 間違っても不発にさせてはならない。今まであれだけ暴発していたのに、いざ、わざと暴発させるとなると随分難しいことのように雪は感じた。


 心の中で決心を決め、雪は両手を突き出すと、その掌に魔法陣を構築しだした。

 その形や大きさ、さまざまな模様や文字をしっかりとイメージしながら、頭の中で描いていく。普段よりも丁寧に、普通であれば一秒あればできるところをもう数秒かけて魔法陣を構築していく。

 そして、次が雪にとって最難関である魔術の供給だ。

 雪は有り余っている自身の魔力をめいいっぱい、しかし途切れさせないように丁寧に魔法陣に注ぎ込む。

 そして、雪が知る魔法陣の魔力供給の許容範囲を超えてもまだ魔力の供給を止めずに続ける。


 その魔法陣は雪が魔力を注ぎ込むごとに赤く光りだし、壊れた時計のように小刻みに左右に動き始めていた。


「ちょっとやばくないかアレ……」


「皆んなこっちに逃げた方がいい」


 雪のすぐ後ろにいた雫以外の三人もどう考えてもおかしいその魔法陣の様子に慌てて距離をとりながら退避する。

 そして、それは野生の動物でもある一角竜も同じだった。雪の魔法陣が赤らみ出した辺りから慌てて元の道を押し退けあって退避しだした。


 極度に集中している雪はこの動きに全く気がついてなかった。


「これ、俺たちあれで死ぬんじゃ……」


「どのみち今更声かけても一緒。少しでも制御が上手くいくのを祈るしかない」


 一角竜が退避したことで魔術を止めた雫は遠い目をしている。


「とりあえず、僕達も自衛しよう。天野さんは葛西さんも庇えるような魔術はある?」


「ある」


「じゃああれが暴発したらすぐそれを使ってほしい」


「了解」


 そして、急ぎ全員がさまざまな防御系の魔術を準備したところで、雪がその閉じていた目を開いた。


「『火花』」


 雪が魔術名を紡ぐと、一瞬その場に張り詰めたような感覚がその場の四人を襲った。

 そして、一息、と言うには随分短い一瞬の間が空いて、恐ろしいほどの爆発が出入り口ごとその不気味な樹木を文字通り消しとばした。


 そして、それだけでは止まらない。連鎖的に同規模の大爆発が出口の先に向かって三つ四つと起こり、その先に通路ごと吹き飛ばしてようやく収まった。


 その場を一瞬の静寂が包む。

 そして、吹き飛ばされて辛うじて残っていた出入り口付近の壁のカケラがぱらぱらと崩れ落ちる音共に、雪はその場に座り込んだ。


「ゆきっ!!」


 雫が慌てた様子で雪に駆け寄る。

 何とか、その暴風から身を守り切れた三人も遅れて雪の元へと向かう。


「雪、大丈夫!?」


 雫にしては珍しい感情の強くこもった声に雪は何とか、という様子で頷く。


「大丈夫。ちょっと急に魔力を無くしちゃったから、立ちくらみがしただけ。一角竜は?」


「とっくに逃げてったよ」


 何とか立ち上がった雪に上條が笑顔で返す。


「それにしても凄まじい威力だな。さすが、葛西のご令嬢だな」


「本当ですね……」


 大樹と茜は随分と大きくなった出入り口を眺めている。


「みんな……ちょっと急いだ方が良いかもよ……」


 とそこで戦い終わりの余韻を浸らせるまもなく、どう聞いても普通ではない地響きのような鈍い音が鳴り出し、引き攣った表情の上條が出入り口の上部を指差す。

 指差した先の壁は大きく天井まで亀裂が入り、どう見ても倒壊する寸前であった。


「ちょっと待て。洒落にならないぞ」


「雪走れる?」


「うん。大丈夫」


「皆んな早く出よう」


 全員が出入り口へと向かったのを確認して、雫はもう一度後ろを振り向く。


「雫。早くいくよ!」


「うん」


 雫は雪の声に頷くと駆け足で崩れかけた出入り口へと向かった。




「なんとか助かったな……」


 爆心地のような光景になっている外の通路を抜けて、ようやく五人は足を止めて一息つくことが出来た。

 結局、五人が出入り口を抜けてから間もなくその出入り口は大きな音を立てて崩れてしまった。

 もう少し出るのが遅かったなら間違いなく瓦礫の下敷きか、ショッピングモールの中であの山のような数の一角竜との追いかけっこが始まっていただろう。


「本当にもう懲り懲りだよ、こんなの……」


「未だになんで生きてるか分からないです……」


「にしても「火花」ってあんな威力に出来るんだな……」


「相当魔力入れ込んだからかな。たまたまだよ」


「うん。初めて成功してるとこ見た」


「雫!?」


 そうこうしていると、不意にピピピと電子アラームが鳴り響いた。

 その音の発信源は結局上條が持っていたGPS端末からだった。


「どうやら時間切れみたいだね」


 上條はガッカリしたというより、どこか安堵した表情をしている。

 それは他の皆も同じで、この疲労感の中、改めて一角竜を探す気力はかけらも残っていなかった。


「まぁ、帰るか……」


「結局目的達成はしてないですけど、いいんでしょうか」


「これは予行演習だから多分大丈夫」


「そうだね。依頼も受けてないし」


「まぁ、反省会は必要だろうけど、とりあえず今は無事に帰ることに集中しよう」


「帰るまでが遠足ってか」


 目標達成、とは行かなかったが、学べる物も多くあった。

予行演習と考えれば、十分な収穫だとはいえるだろう。

 結果として、思ったより随分といい雰囲気で四班は予行演習を終えた。





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