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欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
33/112

弟子達の予行演習1

 四方を高い壁に囲まれた空間に、所狭しと建物が立ち並ぶ。それでいて、建物の高さは四方の高い壁を越えない高さであるため、過度に光が遮られることもない。

 外界にあるゲート前の街、外街と呼ばれているそこは、魔術師達に留まらず、観光客やそこで働く人々が集まって、首都圏の駅前に引けを取らない程の賑わいを見せていた。


 雪は何度来てもここが本当に外界の中だとは思えなかった。しかしこの場所はれっきとした外界であり、ほんの一歩でも高い壁から外に出ると途端に荒れ果てた風景が広がる。


「ほんと、よく外界でこんな所を作ったなと思うよ」


「ほんとよねー。ホテルとかもあるからね」


「魔素濃度も高い。空気も綺麗」


「わざわざここで病気の療養をする人もいるらしいし」


「私はこんな所で療養したいとは私は思わないけど……」


「とは言っても命が狙われている海外の要人とかがって話だけど、どこまで本当かは分からんな」


「まぁ、確かにセキュリティは厳しかったわね」


 ゲートの利用には資格か臨時発行の許可証が必要だ。資格を取るには、傭兵管理局に所属したり、魔術師協会所属だったり、何らかの公的機関に所属してから、適性検査と身元調査を受けて初めて発行される。

 当然、プロでは無い学生達に資格はないため、今回は臨時の許可証を発行して入場している。それでも、その許可証発行のため、随分と書類やらを書かされ、それなりの費用も取られた。

 そして、入場にも空港の税関よりも厳しい検査を通ってようやくこちら側に来ている。

 正直こちらに入るだけで雪はクタクタになっていた。


 学生達と共にゲート出入り口の人混みが多い場所を抜けてから、佐伯が学生達に声をかける。


「さて、それでは皆さん。ここからは各班に分かれて頂き、目標を討伐して来てください。ただし、事前に説明したとおり今回は慣れてもらうことが目的です。大きな怪我だけはしないように気を付けてください」


 暗に小さい怪我位なら我慢しろと言われているようにも感じていたがそれは事実であり、それは参加を決めた時点で学生達も承知の上だった。


「じゃあ四班はこっちに!」


 自然と四班のリーダーとなっている上條が手を上げて声をあげる。


 四班の目標は、一角竜(ホーンレックス)と呼ばれる外獣(けもの)の討伐だ。名前こそ竜とあるが、その実はイグアナの頭部に黒い角が生えている様な生き物だ。

 体長こそ3メートル程あるが、プロの魔術師にとっては問題なく狩れる相手だ。とは言え見習い魔術師にとっては強敵とは言えずとも、少なくとも慎重に戦う必要がある相手だ。


 魔獣と外獣の違いはシンプルで、死んだ時に消えるか消えないかだ。その点、死んでも消えない外獣は人間やその他動植物と同じような肉体を持っていると言うことであり、つまり、外界の原生生物ということになる。


「僕達の目標の一角竜は南門から出て一時間ほどの場所に生息地がある。それほど危険じゃない相手とは言っても群れに襲われたらどうしようも無いから気を付けよう」


「おう。っても一時間か。その途中に危険な地域があるんだよな?」


「一杯ある。それを避けたりするのも、今回の予行実習の目的」


 外界は魔境だ。安全なエリアからほんの十分進むだけで非常に危険なエリアに変わることが多々ある。

 そのため、外界で活動するプロの傭兵や魔術師達にとっては、そのエリアを把握するための知識や技術は戦いの技術と同じレベルで重要だ。

 その危険なエリアも単純に危険な動植物、魔獣の生息地というだけではない。例えば、空気中の魔力の素である魔素濃度が一部分だけ異常に高くなっていたり、次元に穴がいて別の場所に飛ばされたり、とバラエティーに富んでいる。


 勿論、見習いに自己判断で危険エリアの把握や回避をさせるのはリスクが高すぎるので、今回と本番ではある程度のルートが指定されている。加えて、外界におけるGPS機能がついた、電子マップを表示する機器も配布されている。それは周辺の危険地域などがが記載されている優れものでもある。

 ただし、全てを網羅しているとは言えないし、外界におけるGPSとは衛星を利用した物ではなく、各所に魔術師や傭兵達が設置した魔術装置を利用しているため、魔獣や外獣によって破壊されることも少なくは無い。


「ここからは気を引き締めていかないと……」


「雪は私が守る」



 ======


 そんなこんなで南門に向かった四班だが、外界に来るゲートと比べると随分とあっさり壁の外に出ることができた。

 そんなあっさり具合に反して、やはり、外街の外の風景は中と比べると一変しており、随分と荒廃している。

 そんな荒廃しきった風景を見て雪は改めて気持ちを引き締めた。

 自身の師匠などは散歩するかの様に外界に出ているが、今回は師匠同伴では無いのだ。というか本来勝手に外界に出入りするのは違法なのではないかと思っているが雪は気にしないことにしている。


「それにしてもこんなの貸してくれるなんて大学も太っ腹だな」


 大樹は上條が手に持つ外界対応のGPS付きの端末を覗き込んでそういう。


「でもこれ高価な物なんですよね……。壊さない様にしないといけないですね」


 茜も同様にその端末を見ながらいう。本来であれば、後衛である彼女が持つのがベストなのだが、値段を知っていた茜が持つのを断固拒否したため、上條が持っている。


「本当は平さんに持って欲しいんだけど……。まぁ、戦闘の時だけ渡すからよろしくね」 


 茜は渋々と言った様子で頷いた。


 四人は比較的和やかに会話しながら歩みを進めているが、それはまだここが壁の周りで危険性が低いからだ。


「それにしても、本当にここは何なんだ?一応地球なんだよな」


「違う世界線の地球、とは言われているけど詳しくは分かっていないらしいね。僕達の次元と()()一致する建造物とかも発見されているし」


 外界の風景はその荒廃具合と海の中の様な深い青色の空以外は何一つ雪達のいる次元と変わらない。

 太陽もあれば、星も月もある。雨も雪も降る。ただ、違うのは外界に人類はおらず、そこに生息している動植物も変わった特徴を持ったものばかりだ。


「と、お喋りはここまでか」


「そうだね」


 大樹と上條が揃って足を止めると、大樹はハルバート、上條は槍を召喚して構える。


 その視線の先、20メートルほど向こう側には小鬼(ゴブリン)と呼ばれる身長100cm程のヒトガタをした二足歩行の緑色の肌をした魔獣が七、八匹たむろしていた。

 その頭部にある二本の小さなコブと黄色い目が特徴のその魔獣はどんな所にでも巣を作り繁殖するため外界における害獣の代表格として知られている。


 縄張り意識が高く、気性が荒いが、噛みつきやその鋭い爪で攻撃してくる程度なので魔術師にとっては危険でもなんでも無い。その数が少ない時は。


 そんなゴブリンも放置しすぎるとスタンピードと言われる大繁殖が起こることがある。その際にはプロの魔術師でも数の暴力で食い殺されることがあり、数が増えた時の危険性は高い。


 とは言え今回はたった数匹で、魔術師見習いにとっても何の障害にもならない。


「じゃあまず俺たちから行こうか」


 その上條の言葉に大樹は頷くと、まだ戯れあってるゴブリンへと恐ろしい速度で突進し、ハルバートを横に薙ぎ払った。

 その恐ろしいスピードに手前で戯れていた三匹のゴブリンはなす術もなく魔石へと姿を変えられた。


 それに気がついた残りのゴブリンがギィーギィーと耳障りな声を上げ、大樹へと向かおうとする。


「『風切(かざきり)』」


 滑らかな上條の詠唱と共に無形の刃がそのうち、一番前の一匹を魔石へと変えると、残りの二匹を素早い突き二回で綺麗に倒してしまった。


 一分もかからない戦闘というより蹂躙を見て、二人のその技術に茜と雪のみならず、あの雫さえも舌を巻いた。


「す、すごいです!お二人とも」


「うん。戦い慣れている」


「二人とも凄いんだね……」


 三人に褒められて、大樹は気恥ずかしそうにしている。一方で、上條は随分とそういうことに慣れた様子で軽く手を挙げて応えると、辺りをある程度警戒した後、武器をしまった。


「一応男の意地として、ある程度はいいとこ見せたいからね。とりあえず、気は抜かずに進もうか」


 上條の言葉に四人は引き続き、目的地へと足をすすめる。


 五人は暫く周囲を警戒して足を進めたが、何事もなく目的地周辺へと到着してしまった。


「何も出なかったね」


「ん。元々そんな危険なエリアでもないし、ルートも決まってるから」


 本来であれば、二、三回は戦ってメンバーの実戦での実力把握や連携について確認したかったのが雪を除く全員の気持ちではあったがこうなっては仕方がない。


 とは言えここからがこの演習の本番でもある。

 あくまで目的地は生息地であって、ピンポイントで場所が指定されている訳ではない。ここからは彼らの自らの力で対象を探し出して狩らなければならない。



「一角竜は暗くて湿った所を好みますので、条件に合う所を探しませんか」


 さて、これからの方針を決めようかというところで、そんな知識を披露したのは意外にも茜だった。


「へぇー。平さんは外獣に詳しいんだね」


 上條は随分と感心した様子を見せた。

 外獣で、しかもあまり知名度もない一角竜の生態なんてモノは自ら学ばなければ知り得ない知識だからだ。


「私がこの世界に入った理由は外界の動植物が好きだったからなんです。本当は研究者でもいいんですけど、現場に出られるのはやはりこっちですので」


「平さん、一角竜の生態のことまで知ってるのは凄い」


「こ、光栄です!天野さん直接褒めてもらえるなんて……」


「となると、建物内でも地下とか、水辺が近い所を探すのが良さそうだね」


「そうだね。あの先のあたりの建物とかどうなのかな。道路が陥没して水溜まりができるから」


 顔を真っ赤にしてワタワタしている茜をよそに、他の四人は条件に合う建物を探していた。


 雪が指差したその建物は雪たちの世界の大型のショッピング商業施設の外観とよく似ていた。その周辺の道路はところどころ陥没しており、その道のりの途中には道路の半分以上が水没している所もある。


「葛西さんの案で行こうか。あと、今度は葛西さんと天野さん、それと平さんを中心で戦って欲しい。本番を迎える前にお互いの実力は把握しておきたいからね」


「……そうだね。雫カバーよろしくね」


「ん。任して。平さんもよろしく」


「は、はい。頑張ります。天野さんには傷ひとつ付けさせません」


 相変わらずの茜の雫信者っぷりをスルーしつつ、五人は目的の商業施設跡地へと足をすすめた。

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