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欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
29/112

魔術大学4

「それじゃあ、僕たちも自己紹介しましょうか」


 後席に座っていた雪達と話す為に、椅子に後ろ向きで座り直した上條はそうやってごく自然に会話を切り出した。

 先程、講義前に雪と話していた時もそうだが、今回も慣れた様子で上條が話を進める。

 あまりにも自然にその場を仕切ってしまうものだから、違和感なく彼の言葉に耳を傾け、流れを委ねてしまっていた。

 雪の身近なところで言えば、浩也も同様だろう。少なくとも、雪には真似のしようがない彼等の優れた才能の一つだ。


 雪がそんな風に上條のリーダーシップに感心していると、早速上條が先陣を切って自己紹介を始める。


「とりあえず、言い出しっぺの僕からいくべきだね。二年の上條優馬といいます。よろしくおねがいします」


 上條は軽く会釈すると、少し間を置いて隣に座っている大柄な男子生徒を肘で突く。

 そうすると、大柄な男子生徒は自分を指差して、次は自分か、と目で上條に問いかけた。間をおかず上條がそれに頷くと、その男子生徒はその流れに慣れた様子で、咳払いを一つすると自己紹介を始めた。


「俺は森本大樹(もりもとたいじゅ)。優馬と同じく二年生だ。ちなみに優馬とは昔からの顔見知りだ。よろしく」


「ちなみに大きな樹と書いて大樹(たいじゅ)だから「だいき」と間違わない様に」


 そんな上條の補足に大樹は肩をすくめる。


 背も高くがっしりとした体つきをしている大樹にピッタリの名前だと雪は思った。

 全体的に短く刈り上げた髪型と少し鋭い目つきは、もう少し顔付きに貫禄が出てくれば歴戦の戦士にも見えるだろう。


「……」


 そんな事を他人事のように考えながらジロジロと大樹を見てしまっていた雪だが、頬を搔いて困惑した様子の大樹と面白そうに雪を見ていた上條に気が付き、自分がどんな行動をとっていたのかを遅ばせながら気が付いた。


「あ、す、すみません。森本さんが名前の通りだなと思って」


「別に構わないんだが……。というか、それは褒められてるのか?」


「えーと。ははは」


 咄嗟に出た本音にそこまで深い意味は無いが、大樹の質問への上手い返しが見つからず、雪は笑って誤魔化した。

 別に悪い意味ではない事くらいは大樹も理解してはいるが、大樹も微妙な表情を隠し得ない。


「それじゃあ、オチがついたところで次は大樹の前の……」


「オチってなぁ……」


 大樹は微妙な表情を浮かべた。


「……あ、は、はい!すみません」


 そんな上條のご指名に少し遅れて自分のことだと気が付いたのは、黒いミディアムボブと頬にある薄いそばかすが特徴の少し小柄な女学生だ。


「えーと……。何でしたっけ」


 そして、少し宙を見つめて考えた後、彼女は俯き加減で申し訳なさそうに上條にそう問うた。

 どうやら話を全く聞いていなかったようだった。この様子なら大樹の名前の件も同様だろうな、とオチまで付けたのに話を聞いてもらえていない大樹に、雪は少し同情した。


「自己紹介をよろしくね」


 上條は申し訳なさそうな表情をしている彼女を気遣う様に優しい口調でそう再説明する。


「あ、は、はい。そ、そうでした。自己紹介ですよね。すみません。……私は平茜(たいらあかね)と言います。よろしくお願いします」


 茜はあたふたしたしながらそう答えた。

 どこか落ち着かない様子の茜だが、雪はその原因に心当たりがあった。


「平さん。もしかして、雫に話したいことでもある?」


「え!?あぁ、えっと……」


 先ほどから茜がチラチラと何度も雫のことを見ていたことに雪は気が付いていた。

 そして、雪はその光景をこれまで何度も見てきていたため、茜がどうしてそんな態度をとっていたのか、何となく察しがついていた。

 皆の視線を集める中、茜はほんの僅かな逡巡の後、決心した様に顔を上げると恥ずかしげにポツポツと話し始める。


「あのー、私実は天野さんのファンでして……」


「「へ?」」


「私?」


 少し驚いたような表情を見せる大樹と上條の一方で、雪は納得の表情を浮かべた。当本人の雫はというとコテンと首を傾げていた。


「はい……。同年代でこんなすごい子がいるのかと憧れていて、このタイミングで一緒の班になれるとは想像もしていなかったもので」


「あぁ、そういう」


 上條と大樹もその言葉で納得したように頷いた。

 つまり、茜は憧れの人と一緒に活動することができることになったことで、自己紹介どころでは無くなっていたということだ。


「すみません、こんな話で時間をとってしまって。皆さんの足を引っ張らない様に頑張りますので、よろしくお願いします」


「ん。一緒に頑張ろう」


 雫のその言葉に茜は感激の表情を浮かべたのを見て、上條と大樹は興味深そうな表情をしている。


「それにしても、ファンか……。すごいね」


「そうだな。そこまで人気があるとは知らなかった」


 二人とも雫の名前と評判自体は知っているが、「ファン」なんてものがいるとまでは思っていなかったのだ。

 一方で雪にとっては熱量や度合いは場合によって様々とは言え、度々見かける光景だ。

 何せ雪の周りには、雫に限らず同じようなのが後三人もいるのだから仕方ない。

 ちなみに、人気は浩也がダントツで続いて凛が来てその次に僅差で雫、そして真の順だ。残念ながら、世間的な人気と言う点では雪は入っていない。


「じゃあその流れで、皆名前も顔も知っていると思うけど、天野さん、自己紹介をよろしく」


 話のキリが良いところで、上條は雫に自己紹介を促す。


「ん。名前は天野雫。これからよろしく」


 最低限の内容だけを述べた、かなりシンプルな自己紹介だが、雫であればそれで問題ない。

 もとより見習いの中ではとびぬけて高い知名度があるし、それこそ雫以上に雫のことに詳しい者だっているぐらいなのだから。


「それじゃあ、最後に……」


「はい」


 ようやく雪の順番が来た。

 いつもなら、やはり友人達の話題から入るため、場が盛り上がりに盛り上がった後で雪の番が来るものだから、やりづらいことこの上なかったが、幸いなことに、今回は茜のおかげか、この班員達の落ち着いた空気感のおかげか、やりづらいと思わせるような雰囲気はなかった。


「葛西雪と言います。どうぞよろしくお願いします」


そして雪の自己紹介が終わったところで、タイミングよく終業を告げるチャイムが講義室に鳴り響く。


「自己紹介は終わりましたか?それでは皆さん、次はアリーナに集合ですのでお間違いなく」


佐伯はそう告げると講義室から出ていった。

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