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欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
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魔術大学3

「それでは、皆さんにお配りした用紙の四ページ目をご覧下さい」


 雪がページを捲ると、三枚目の上部には大きく「外界実習1」と記載されていた。

 目次、スケジュールカレンダーに続いての四ページ目の項目であり、これが基礎クラスでの最初の大きなイベントになる。


「みなさんもご覧の通り、最初の実習は外界探索です。実習にあたって、皆さんには四班に分かれて班を組んで頂きます。それでは、次のページの班分けをご覧ください」


 そういうと佐伯はプロジェクターを起動し講義室のスクリーンに班分けを映し出す。雪達に配布されたテキストと同じ内容である。

 組み分けを見た各生徒たちで講義室がざわつく中、雫がチョンチョンと雪の袖を引っ張った。


「雪、わたしと一緒」


「あ、ほんとだね!」


 用紙の一覧表には雪と雫の名前が並んで記載されている。

 人見知りとかではなく、魔術師としての実力面で不安を抱いていた雪だが、雫がいると非常に心強い。


「あとは……全員別々みたいだね」


 言わずもがな、だ。実力的に雪の友人四人が同じ班に入るのはバランスが悪いと言わざるを得ない。


「雫、ちゃんと雪を守るのよ」


「うん。わかってる」


「……」


 雪はその二人のやり取りを聞き流したが、それに何も感じないわけではない。

 彼女たちの気遣いであるとはいえ、同い年、同じ魔術師見習いである親友たちからここまで厚く庇護対象とされているのだから、雪にも思うところがある。



 そんな雪の内心を他所に班分け表を眺めていた真が雪に声をかける。


「例の上條さんだが、雪と同じ班だな」


「……あ、本当だ。全然気が付かなかった」


「言われなきゃ気が付かない。つまり、脈なしってことね。雪の事は諦めなさい」


 雪の言葉になぜか凛が勝ち誇った様子で言った。

 脈もなにも、雪からするとつい先ほど初めて会話したくらいなのに何を言っているのかという感じだが、いつものことでもあるのですぐに気にしないことにした。

 そしてそれは他の三人も同様だ、凛を無視して話は進む。


「上條さんだけど、結構な実力者らしいからたぶん頼りになると思うよ」


「そうなんだ。私としてはすごく助かるな」


「なによ!浩也はどっちの味方なの!?」


「どちらでもないけど雪の味方だよ」


 上條に対して謎の対抗意識を抱いている凛は浩也にかみつくが、浩也もその対応には慣れたものだ。凛を軽くあしらう。

 そんな何時ものやり取りをしていた所で、佐伯の声が再度講義室に響く。


「では班を確認してもらったところで、今から班ごとに分かれて頂きます。スクリーンに各班の座席表を映しますので、皆さんそちらに移動して下さい」


 佐伯の言葉とともにスクリーンに班ごとの席割りが映し出され、雪達をはじめ、学生たちは自分の荷物をまとめて移動し始める。


「雪、いこう」


「うん。それじゃあみんなあとでね」


「雪!あいつには気を付けるのよ!!」


 何やら騒いでいる凛を気にもせずに、雪と雫は自分たちへ席へと足を進める。

 既に席についていた上條を含む班員達に軽く会釈をして雪と雫は席に着く。

 それから少しして、全員の席移動が終わったところで佐伯が説明の続きを進める。


「それでは、早速詳しく説明をいたします。班員同士の挨拶や質問に関しては後ほど時間をとりますのでご安心下さい。まず、内容を説明いたしましょう。今回、皆さんには特別に本物の依頼を受けて頂きます。依頼内容はこちらで選別いたしますが、野営を含めた一泊二日程度で終わる内容となります」


 その野営という言葉に講義室内がざわめいた。

 魔術師育成の制度がある程度整った現在では、魔術師見習いであっても、ほとんどの者が外界に出て魔獣を討伐するという経験がある。

 各卒業のためのある種の儀式のような物であり、相手は低級の魔獣であるし、万が一でも事故がないように国が設けた厳しい安全基準の下、徹底した安全管理がされた上で行われているものである。

 そんな物々しいともいえるほどの安全管理が必要な場所である、ということを見習いたちは肌感覚で知っている訳である。

 そんなわけであるから、ここにいる見習い達は皆、外界での野営の危険性は語るまでもなく分かっているわけだから、その衝撃は大きい。


 大学側は恒例行事であるため慣れたものであるし、安全管理もばっちりである。

 恒例行事であるため、生徒達の中には事前に情報を知っていたりする者も居たりするが、それでも驚きは小さくない。


「スケジュールは配布した用紙の通りです。まず、GW前に今の班で外界で予行演習を行なってもらいます。勿論そこでもある程度の目標は設けますが、こちらは本物の依頼ではありません。本番は六月に行われます」


 その佐伯の説明に対する学生たちの反応は様々だ。

 まだ本番までは2ヶ月ほどあるから安堵する者、たった二ヶ月しかないのかと焦る者。その反応の差が生まれる理由には人付き合いの上手さと魔術師としての実力の面が大きい。

 例外と言えば、どん底スタートで、将来の希望が生まれたばかりの雪くらいだろう。雪は安堵の表情を浮かべている。

 修と出会ってすぐに成果を出せた雪としては、二か月という時間はそれほど悲観する様なものではなかったのだ。


 とは言え、現在の雪の実力は、危険性が外界生物の中では下から数えた方が早いケロべロスと同等だ。

 外界のゲートは、外界の中では比較的安全な位置に開かれているため、危険な生物を見かけることは稀だ。しかし、野営をしなければいけない場所での依頼となると、ケロべロスでは比較にならないほどの、危険な魔獣が出る可能性も十分ある。現実問題、雪に余裕があるかと言われるとそうではない。


「細かいルールや当日のスケジュールについては配布した資料を見て頂くとして、今日重要な所だけいくつか説明いたします。まず、この実習にあたって、無線と一部魔道具だけはお貸しいたします。その他の道具や武器などは皆さんご自身でご用意下さい。特に持ち込み物に制限は設けておりません」


 またしても、講義室から少しの騒めきが起こる。

 それもそのはず。費用対効果を考えなければ、外界での活動に有用な道具など山ほどある。

 例えば車両などもそうだろうし、高度な結界を張るような魔道具もある。

 つまり、やりようとお金のかけ方によっては依頼なんて簡単に達成できる可能性があるのだ。


 どうする、何を持ち込むと、騒めく生徒たちを見た佐伯は柔和な笑みを浮かべると、そのよく通る声で生徒たちに釘を刺した。


「持ち込みに制限をかけていない理由は、皆さんに自由な発想をしてほしいからです。この実習は依頼を達成することが目的ではなく、外界での戦いや過ごし方を経験して頂くことが目的です。それを努努忘れないようにしてくださいね」


 そんな佐伯の言葉で講義室が静まり返った。

 雪からすると仰る通りでといった感じで、楽をするだけの道具など持ち込むつもりはなかったが、どうやら雪の隣にいる雫は違うようだった。

 ただ、雫の場合は楽するというより、単純に色んな魔道具を現地で使いたかっただけと言うわけではあるが、そんな気持ちで外界演習に臨んだらどんなことになるのかくらいは、先ほどの佐伯の言葉ではっきりしている。


「それと、最後に一番大切なことを。この共通クラスを履修する前に誓約書を書いて頂いたかと思いますが、それを踏まえて改めてアナウンスします。本校は外界探索における、重大な怪我やそれにまつわる後遺症、そして死亡時に一切の責任は負いません。つまり、外界での活動は全て皆さんの責任で行ってもらいます」


 あまりにも簡潔に言い切ったその言葉で講義室の空気が張り詰め、静寂に包まれる。

 普通の大学であれば問題になること間違いなしだがここは魔術大学である。

 個人主義的が色濃く残る界隈にいる魔術師達が実質無法地帯である外界で活動しているのだ。良くも悪くも自己責任という言葉が重視される。

 この道に進むということは自然とこれから先も命懸けの仕事をする事になる可能性は高く、それが嫌なら魔術師などなるべきではないのだ。


 それに、大学側も誓約書こそ書かせるものの、外界演習のみならず、生徒達が参加する様々な行事では、多額の費用を払い出来る限りの安全対策を行っている。

 重大な怪我や死亡のリスクを大幅に減らして、見習いに実際の依頼を受けさせてくれるこの行事は、彼等の保護者からしても非常にありがたいものであり、抗議の声など上がりようがないのだ。


 静まり返った学生たちを前に、佐伯は静かに話し始める。


「この大学に入った皆さんはもう魔術師の世界に足を踏み入れています。魔術師たるもの全ての選択の責任は自分にあります。決して無責任に他人に預けてはいけません。魔術師として活動する中で、いかに命を守る選択肢を増やすことができるか。それを見習いの間に培ってもらえればと思います」


 三十年近くも現役で戦い続け、生き残った佐伯の言葉には確かな重みがあった。

 その言葉をどの生徒もしっかりと心に刻んだ。


「さて、肩肘の張る話はここまでに致しましょう。ここからは皆さんのコミュニケーションの時間にあてます。その後は休憩を挟み、第一アリーナに再集合です。そこで各自で魔術や戦術や手合わせなど、様々な打ち合わせを行なってください」


 それではどうぞ、という佐伯の声とと共にそれぞれ生徒達が自らの班員と顔を合わせあう。


「それじゃあ、僕達も始めよっか」


 柔らかな表情を浮かべながらそう言ったのは、色々な面で話題の人物である上條だった。

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