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欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
27/112

魔術大学2

「雪、大丈夫!?ナンパ!?連絡先とか渡してないでしょうね」


 雪が友人達の元へたどり着くなり待っていたのは、そんな凛からの言葉だった。

 言葉だけでも随分な勢いだったのに加えて、雪に抱きつかんばかりに詰め寄ってきた為、雪は凛を面倒臭そうに両手で押し返した。


「……普通に世間話していただけだよ」


「その割には随分と親しげに話してたじゃない!」


「どこをどう見て親しげに思ったの?」


「どう見ても距離が近かったわよ!」


 過保護モードに入って面倒な凛に、雪は呆れた様子でため息を吐く。

 幼少期はむしろ雪が大人しい凛の面倒を見ていた程なのだが、気が付いた時にはその立場は逆転していた。


「凛、うるさい。周りに迷惑」


「まぁまぁ、凛は落ち着いて。あの人は上條家のご子息だから、変なことはまずしないよ」


 そんな凛に浩也は困った様な表情を浮かべ、雫はジト目を向けた。

 五人がいるのは講義室の後方だとは言え、凛のよく通る声で騒げば周りにも十分聞こえる。

 それにしても自分達は目立つのに、これ以上悪目立ちしたくないと言うのが二人の気持ちだ。


「それで?彼とはなんの話をしていたわけ?」


 真は机に肘をつきながら、雪に尋ねる。


「本当にただの世間話しただけだよ?あ、あとは魔術師について詳しいって言っていたから師匠について聞こうと思って」


「あー、雪の師匠問題ね。それで何か分かったのか?」


「名前は聞いたことがある程度みたい」


「上條のとこも知らないか。浩也の方はどうだった?」


 真が続けて浩也に尋ねると、浩也も首を横に振った。


「ごめん、結局思い出せなかった。ただ、何かしらで名前が上がっていたとは思うんだけど」


「うーん。師匠に直接聞いた方が早いだろうけど、教えてくれなさそうなんだよね」


「仕方ない。魔術師に秘め事はつきもの」


 雫が平坦なトーンでそう言う。

 魔術師に秘事(ひめごと)は付き物だ。

 しかも、それは技術や知識に限った話ではなく、あまり表沙汰に出来ない様な話であることもある。


 ただし、徒弟制度に選ばれる師匠達に関しては必ず厳しい身辺調査が行われる。

 それをパスしている訳だから、素行が悪かったり、悪人であったりする可能性は低い。

 そもそも、もし身辺調査を何らかの方法でくぐり抜けられる程の魔術師なら、当然、雪達でも見抜きようがないため、心配しても仕方ない。

 そのため、雪もそう言った観点では師匠のことを疑ってはいなかった。


「あ、そういや、私も雪の師匠について聞いてたんだった」


 話が行き詰まったタイミングで、凛がふと思い出した様にそんなことを言った。


「へ?凛が?誰に?」


「ウチの師匠。いい魔術師だよー、とか言ってはぐらかされたから、何か知ってると思うんだけど、この感じだと教えてくれなさそうよ」


「長崎さんが知ってるって事は真っ当な魔術師ではありそうだな。雪的にはどうなんだ?実際に会ってみて」


「凄くいい人だよ。ただ、やっぱり謎は多いと思う。何でもないように魔道具をポンと渡してくるし」


「まって雪。その魔道具を見せてほしい」


 そんな雪の言葉に敏感に反応したのは雫だった。

 今まで無言だった雫が凛を押しのけて、ずいっと雪に詰め寄る。


「ちょっと、雫……」


「凛そこをどいて。魔道具が見えない」


 雫にしては珍しく、そのまま凛を押し退けると雪の隣に陣取る。

 その姿を見て、あぁ、そういえばこの子魔道具オタクだったなと雪は思い出した。


「えっと、一つはこの指輪で、もう一つはこのブレスレットなんだけど」


「その指輪をもう少し見せてほしい」


 少し声のトーンが変わり、圧が強くなった雫に苦笑しながら雪は指輪のついた手を雫へと差し出す。


「本当は外して見せてあげたいんだけど、外せないからこのままね」


 雫は雪の手を取り、近くで指輪を観察していたが、突如指輪の一部分を凝視したまま固まった。


「え、嘘。雪、これはすごい。人に貸せるような物じゃない」


「え?え?それはどう言う意味で?」


「雪が今すぐ外して金庫に入れたくなるほど高い」


 雫のその言葉に雪の顔が強張る。


「ちなみに……おいくらくらい?」


「数千万円」


 あまりの高さに雪からヒュッと変な息が漏れた。


「えぇ……。嘘だよね雫。私そんなの預かりきれないんだけど」


 百万ならなんとか雪もギリギリ耐えられるが、流石に一千万を超える魔道具をホイホイ渡されては精神が持たない。


「この赤い石だけど、これは多分ディープレッド」


「ディープレッド!?」


 そんな雫の解説に真も思わず体を乗り出すようにして雪の指輪を覗き込む。

 そして凛と浩也も唖然とした表情をしている。


「え?何そこまで凄い石だったの!?」


 雪もその名前くらいは聞いた事があったが、そこまで皆が驚くようなモノとは知らなかった。

 高級品やブランドに無頓着で、魔道具に頼る事を好まなかったのがこんな所に影響を及ぼすとは考えもしなかった。


「ディープレッドは今現存する中で一番魔力と親和性が高い宝石。加工もしやすいから魔法陣も刻めるし、その効果を増幅させることもできる。一番凄いのは魔力のバッテリーとして使える所」


「勉強は出来るのにディープレッドをよく知らないってあたり、雪はたまに抜けてるな」


「そこが雪のいい所ではあるけどね」


 指輪の価値とその石の正体にまるで気がつかなかった雪に少し呆れた様子の真に浩也がそうフォローする。

 確かにディープレッドについては学校では習わないし、滅多にお目にかかれない物ではあるが、魔術師名家の者なら一つや二つくらい家にあってもおかしくはない。


「雪、その指輪の機能は何?」


 ディープレッドの話題もそこそこに雫は食い気味に質問を続ける。

 雫が好きなのは素材ではなく魔道具そのものだ。

 いくら希少な素材を使われていようとも、魔道具そのものが大した物で無いのなら雫の興味の対象からは外れる。


「えーと、まずはサイズの自動調節かな。あとは、フィルターの様な機能なんだけど」


「フィルター?具体的に何をしてくれるのよ」


 興味があるのか無いのか、凛は机に肘をつきながら、雪に気だるげに聞く。


「えっと、魔術を使う時に、魔術毎に構成の速度と正確さを設定できて、その範囲外だと魔術を行使出来なくさせるってモノだよ」


「すごいねそれ……」


「おいおい、随分大そうなもの付けてるな」


 真と浩也は驚きを隠せない様子でそう言う。


「なに?それってそんなに凄いこと?」


「凛、考えてみてよ。魔術毎って簡単に言うけど、この世に魔術が幾つあると思う?仕組みは分からないけど、その指輪は無数にある魔術を網羅してるってことだからね?」


「付け加えると、カメラでもセンサーでも無しに、指輪一つで、どうやって魔術の構築精度やらを認識してるのかも謎だな」


「んー。そう言われると確かに凄い気はするけど、それって魔道具としてどうなの?雪の役に立つの?」


 その凄さがイマイチ理解出来ていない凛に真は呆れた様子で、雫に指を向けた。


「それ隣の雫を見ても同じこと言える?」


「雫がどうし……雫!?」


 凛が雫に目を向けると、今まで見たことのない様な表情を浮かべた雫がいた。

 目を大きく見開き、雪の指にはまっている指輪に触れそうで触れない微妙な位置で手を震わせている。


「え、あんたどうしたの……。怖いんだけど」


「魔術の構築精度とかの計測とか数値化ができたのはここ数年の話だし、色々な機材が必要なんだよ。しかも、魔術の全てを網羅している訳じゃない。そんな中で、指輪一つでそれが出来てしまっている訳だから、その凄さはわかるだろ?」


 浩也は未だについていけていない凛をフォローするようにそう補足した。


「師匠はなんで気軽にそんなヤバい魔道具渡してきてるんだろ。返そうかな……」


 一方、雪はそんな恐ろしいものが自分の指に嵌っている事に乾いた笑いを浮かべていた。


「雪、いらないなら私がもらう。雪の師匠に直談判してもいい。命をかけて大切にする」


 雫が迫真と言った様子で雪に詰め寄る。


「え、いや、流石にそれは」


「大丈夫。私に任せて」


「そう言う問題じゃ」


「まって、雪の師匠はそんな指輪を貸し付けて、雪をどうするつもりなの!?」


 急にわちゃわちゃしだした女性陣を横目に、男性陣二人は至って冷静に話を続ける。


「それにしても本当に雪の師匠は何者なんだろうな」


「少なくともかなりのコネかツテがある魔術師だとは思うけど、ここまで正体不明なのは何かありそうだよね」


 雪の師匠問題はしばらく話題のタネになりそうだなと、浩也と真は感じていた。



 ======



 結局雪と雫と凛のわちゃわちゃは随分続いたが、始業のベルが鳴ると同時に一瞬で落ち着いた。

 一応、三人とも名家出身であるため、授業中に騒ぐ様な事はない。


 そうして、始業のベルが鳴り終わる頃にはざわめきも落ち着いた講義室だったが、教壇に上がった人物の姿に再度教室がざわめくこととなった。


「皆さんこんにちは。まず、自己紹介をさせて頂きます。これから二年間こちらのクラスを担当することとなった、佐伯稔(さえきみのる)です」


 歳の頃は六十に近いだろうか、しっかり生え揃った白髪頭に柔和な表情を浮かべた優しそうな男性だ。

 しかし、姿を見せただけで騒めきが起こる様な人物がただの講師な訳がない。

 彼は魔術師であれば、その名と顔を知らない者はいない程の有名人だ。

 何せ、日本で最初に特級魔術を使えるようになった天才魔術師なのだから。


「このクラスの魔術師が教員に就くってどうなってんのよ……」


「すごいよね……」


 凛が呟き、雪がそれに同意する。

 ただ、その二人を除く全員が、何となく佐伯が講師になった理由を察していた。

 有名な魔術師見習い四人のせいだと。


 事実、それは大いに関係する訳ではあるが、何も彼ら四人だけが、佐伯が選ばれた理由ではない。

 実はこの世代は黄金世代であり、非常に優秀な魔術師見習いが揃っていた。

 だからこそ、魔術省も力を入れて教育するように大学へ通達していたし、大学側も優秀な魔術師を多く輩出するいい機会だと思っていたからこその今回の采配だ。


「さて、まずは皆さん徒弟制度合格おめでとうございます。この共通クラスでは、それぞれ皆さんが師匠から教わる物とは別に、ほぼ週三日、魔術に関わる非常に広い範囲を基本的には実技ベースで講義または指導していきます」


 年の功というべきか、その少し低く芯のある耳触りの良い声と、滑らかで緩急のついた話し方は、全ての生徒の耳を傾けさせる力を持っていた。


「皆さんはこのクラスを例外を除き八割以上出席することで、二年間分の単位が付与されます。その為単位のために他の授業を取る必要はありません。勿論、他の授業を履修する事も可能ですのでご安心下さい」


 そう説明した後に、佐伯は薄い冊子を魔術で全員に配り始めた。


「今皆さんのお手元に配布した冊子には徒弟制度と我が校のスケジュール、いわゆるイベント事を記載されています。少し時間をあげますので、皆さんご覧ください」


 佐伯の指示通り、生徒達は手元に配られた冊子を開く。


「嘘だよね。こんなにイベントがあるの……」


 雪は予想以上に多くあるイベントに驚きを隠せない。前半はまだしも後半は本当に様々なイベントがある様だった。


「大学独自のイベントは別として、徒弟制度のイベントは師匠との顔合わせの日に説明されてたし、用紙も配られてたけどね」


 浩也が小声でそうツッコんだ。


「なんか雪ってそういうところが抜けてるわね……」


「確かに。しっかりしてる風」


「うっ」


 思い当たる節がありすぎて、雪は全く否定できなかった。

 顔合わせ当日は、自身の師匠のことで頭が一杯でそれどころではなかったのだ。


「それにしても、外界での実習って具体的には何をやるんだ?」


「さて、学生の皆さんも気になられているようですので、外界実習について説明をしましょう」


 まるで雪達の話を聞いていたか様なタイミングで佐伯は外界演習の説明をはじめた。

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