魔術クラブ4
少し重く、低い音がグラウンドに響く。
打ち合わせられた木剣から響いている音は、それが木でできているとは思えないような音だった。
それもそのはずだ。
今二人が握っているのは、ただの木剣ではなく、魔力が付与されている木剣だ。
その強度は普通の木剣とは比較にならず、ほとんど鉄の剣を打ち合わせているのと変わらないのだ。
何度かの打ち合いの後、鍔迫り合いになった木剣は柊の方に傾く。
魔力の付与量が多いことは、シンプルにその武器の重量や硬度、そして圧力が上がっているのと同じことだ。
つまり、魔力量が圧倒的に多い雪の方に軍配が上がるのは当然の理だ。
――ソーサリーラウンズの力量を測るための要素の一つである、武器への魔力の付与技術は、目立つものではないが、勝敗を左右するほどに重要なものなのだ。
「……ぐ」
柊はなんとか押し返そうとするものの、逆にどんどんと押し込まれていく。
しかし、柊もやみくもに力比べをするほど頭の固い魔術師ではない。
柊はただの力比べでは雪に敵わないと判断すると、器用に剣を引いてなんとか距離を取る。
「あっ……」
急に剣を引かれた事で雪は体勢を崩し、今度はそれを好機とみた柊が雪を攻め立てる。
しかし、雪は慌てることはない。
すぐさま体勢を整えると、冷静に柊の剣に自身の剣を合わせる。
柊はそれに構わず何度も剣を打ち込むも、まるで剣の型に沿っているかの様に、雪はその全てを難なく弾いていく。
そして、何度目かの打ち合いを終えたところで、急遽、雪は剣を振るうスピードを上げた。
「なっ……」
いつの間にか、自分が攻め手として打ち込んでいたはずであるのに、今度は自分が相手の剣を防ぐ形になったことに柊から驚きの声が漏れる。
反転攻勢。
今度は雪が一気に優位に立った。
雪の剣は実直かつ丁寧だ。
上段から斬り込んだかと思うと、次は下段、そして次は左右からとなるべく同じ場所からの攻撃を避けるように剣を振るう。
「くっ……」
フェイントなどない攻撃ではあるが、シンプルな分だけ攻撃の速度が速く、柊の剣はどんどん遅れをとっていく。
そして、追い詰められる寸前のところで、柊は賭けに出た。
雪の剣に合わせる事をやめて、感覚的に雪に向かって強く剣を振るい、それと同時に魔術を構築する。
そして、その賭けに柊は勝った。
雪の剣とちょうど合わさる様に振られた剣は、力的にも拮抗し、互いに弾かれる。
しかし、柊にはもう一手ある。
「『氷弾』」
氷の弾丸が柊の手から放たれる。
氷の弾丸は体勢を崩しながらの攻撃とは思えないほどの精度で雪に向って飛ぶ。
「ッ……!」
雪はとっさに剣を氷の弾丸に向って翳し、なんとかその軌道を変えることに成功したが、無理な体勢であったため、たたらを踏んだ。
お互いが体勢を崩したことで、戦いは仕切り直しとなった。
二人は、お互いとも相手の様子をうかがいながら剣を構えなおす。魔術を使うには近く、剣を振るうには僅かに遠いそんな距離感だ。
数秒の間をおいて、同時に動いた二人の選択は真逆のものとなった。
魔術が苦手な雪は、近接戦に持ち込む為に足に魔力を込め、魔術を得意とする柊は距離をとって魔術を構築する。
そして、柊の魔法陣の構築が終わり、魔術の発動の際に現れる虹色の燐光を視界に収めながら、雪は力強く足を踏み込んだ。