魔術クラブ 2
「……あ、あれ?」
時間がかかったとは言え、思いの外きれいに出来てしまったのその掘立小屋に、それを作った雪自身が首を傾げる。
「へぇ……。葛西ちゃんも意外とやるんだね」
燈が感心した様子を見せる。
他の子供たちと違って、雪が一人で作ったからと言うこともあるが、その掘建小屋はきちんと枠通りに作られており、暑さや高さも割と揃っている。
「私も少し驚いているんですが……」
「あぁ、もしかして『結界』を教えられたりしてる?」
「はい。毎日のノルマにしてますので」
「なるほど。それなら納得だ」
燈は腕を組んで頷いている。
その燈の様子を見て、確かに『結界」とやっていることは似ているなと、雪も納得する。
指定した位置に、指定した大きさで物体を作り出す魔術である『結界』はその発展形ともいえる。
「燈さん、今日は燈さんがそっちを見ますか?」
「葛西ちゃんもいるからね……。そうしようか」
「それじゃあ、魔術練習組は俺の方に集合!ソーサリーラウンズ組は燈さんの方だ!……それじゃあ葛西さん、頑張ってくださいね」
そういって常田は子供たちを引き連れてグランドの端の方へと移動していく。
魔術練習組――常田に付いて行っている子供たちは燈の魔術クラブの中でも年少のメンバーばかりのようだ。
そして残りのソーサリーラウンズ組は指示を待つまでもなく、各々が一般的に「簡易結界」と呼ばれるデバイスに魔力を込めている。
「この準備も子供たち自身でやるんだ。二等級を一度防げる程度のものだが、実は少し改良してある」
「改良?」
「ああ。補充する魔力量を制限できる回路と荷補充を抑える機能を切ってある」
「それって大丈夫なんですか……?」
安全装置的な部分を全て切っているようにしか雪は思えず、ジト目で燈に尋ねる。
「何も問題はないさ。補充が出来ているかの確認は必ずするし、失敗したとしても補充した分が無駄になるだけだからね。それに、こいつに魔力をうまく補充するにはコツと技量がいるからいい経験になる」
燈はそう言うと、「ほら」といって雪に簡易結界を手渡す。
グレーの長方形のそれは、手から少しはみ出すほどの大きさだ。に持って重さを感じる程度には重量があるが、疲れを感じるほどではない。表面の一部にはパネルがついていて、そこには「100%]の表記がされていた。
「ありがとうございます」
「今回はおまけで魔力を込めておいたが、次からは自分でやるように。壊してくれるなよ?」
「あはは……」
魔力の扱いが上手くなったとはいえ、過剰に魔力を送り込んで壊しかねない自分に、雪は空笑いをする。
「ということで今から手合わせ――組手をやるんだが……」
そう言って燈はそばで準備を終わらせて立っていた、柊、如月、西宮の三人に目を向ける。
「そうだな……。柊さんと手合わせしてもらおうか。いいかな?」
「もちろんです。よろしくお願いいたします」
柊は全く先ほど同様にハキハキと燈に返答すると、雪にお辞儀をする。
雪もそれに会釈で返したところで、こっちだと、燈が手合わせの場所に案内する。
「この子はうちのクラブの中でも実力者だから、いい戦いになると思うよ」
今回は、いつも挑戦者だった雪が、今回は胸を貸す立場になるのだ。
移動のさなか、燈から告げられたその言葉に雪は少し体を固くした。