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欠陥魔術師見習いの育て方  作者: すいぃ
旧版
106/111

ソーサリーラウンズ4

「全員集合!」


「はーい」


「はい!!」


 グラウンドの中、一人だけ混じっていた大人の男性が燈の姿を見て声を張り上げる。

 その声に子供たちの個性豊かで元気な返事の声が上がると、子供たちはその男性のもとへと一斉に集まり、整列する。


「なんだか雰囲気がいいですね」


「そうだな。俺も話にはちらっと聞いていたが、想像以上だ」


 子供たちの返事や動きは、礼儀やクラブのルール的な部分も含めてしっかりと統率が取れているように見えた。

 その一方で、所謂軍隊式と言われるような硬い雰囲気は感じられず、子供たちも和気あいあいとしていて、いい意味でリラックスしている。


「まぁ、燈がクラブのトップの時点でお堅いクラブにはならないか」


「楽しく、真剣にをモットーにやっているからな。まずは魔術を好きになってもらわないと」


 子供たちの様子を見ながら、燈は楽しそうな笑顔を浮かべている。


 ――魔術を楽しむ。

 雪はその言葉に、少し懐かしい気持ちになった。

 確か、魔術を使い始めた当初は、魔術と触れ合うのが、学ぶのが楽しく仕方なかった記憶があった。

 それがいつの間にか、義務になっていき、酷い時には苦痛になっていった。

 今でこそ、魔術を学ぶことに苦痛は感じていないが、義務感というのは拭えずにいる。


「とりあえず、私たちもいこうか」


「そうだな。葛西さんも」


「は、はい」


 燈の言葉で雪は思考の海から浮上する。

 雪は慌てて返事をして、少し離れた距離を詰めるように足早に追いかける。

 燈はフェンスの扉を潜ると、二人もその後に続く。


「すまない葛西さん。扉を閉めてくれるかな?」


「はい。……あ、これって」


「そう。このフェンス全てが対魔術用の素材とコーティングがされているん。閉め忘れると私が大目玉を食らうからな。気を付けてくれ」


 燈が笑いながら軽く言う。

 扉が開けっ放しで、魔術が外に漏れたら大目玉どころでは済まないと雪は思うのだが、燈にはそんな深刻さは見えない。


「燈さん……。大目玉を食らうのは俺じゃないっす」


 三人がそんな事を話しながら足を進めていると、先ほど子供たちに集合をかけた男性が、三人の方へと歩み寄ってきながらそんな事を言った。


「現場担当は君なんだから仕方ないだろう」


「燈さんが閉め忘れなきゃ問題ないんですよ……。っとすみません。自己紹介が遅れました。常田元気つねだげんきといいます」


 そう言うと常田は会釈する。

 ツーブロックの黒の短髪、焼けた肌といかにもスポーツマンといった見た目の大柄の男性だ。

 雪の印象としては若い体育教師といったところだ。


「常田君はウチでコーチをやってくれているんだよ。まだ大学生だから、年も近くてやりやすいんだよ。それでこっちの日比谷修。私の腐れ縁だよ」


「はじめまして。日比谷です。燈の下は大変でしょう」


「そうではないというと嘘にはなりますが、楽しくやらせてもらってますよ」


 そう言って修が握手を求め、常田もそれに応える。


「それで、この可愛い子が今回参加する葛西雪ちゃんだ」


「よ、よろしくお願いします」


 突然の「ちゃん呼び」と「可愛い子」という紹介で、雪が少しワタワタしながらお辞儀をした。


「こちらこそ、よろしくお願いします。子供たちもいい子ばかりですので、一緒に頑張りましょう」


「それで、どの子と一緒にやるかは決めてくれたんだろ」


 自己紹介が一通り終わったところで、燈が常田に尋ねる。

 その言葉に常田は準備運動をしている子供たちに目を向ける。


「咲ちゃんと、大地と可憐ちゃんと組んでもらおうかなと」


「へぇ……。常田君にしては面白いチョイスをするじゃないか」


「一言多いですよ」


 その常田の言葉に燈がにやりと笑う。

 一方で、そんなやり取りを目の前で見せられた雪としては不安な表情というか、苦笑いを隠せない。

 そんな雪の様子に面白がった表情を隠さないまま、燈がその肩を優しくたたく。


「ま、葛西ちゃん、安心してほしい。あの子たちは間違いなくいい子だよ。ただ、ちょっと自分たちの世界にこもる傾向があってね。そこを葛西ちゃんという新しい風が入ることによって変わればと思っているんだよ」


 ――それと、今回の参加費は、あの子たちの問題を解決する、ということで代わりにしよう。


 そんなことを最後に付け加えられた雪は、積もり積もる不安の中、その子供たち三人との顔合わせをすることとなった。

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