ソーサリーラウンズ3
練習開始時間が迫っているということで、三人は立ち話をやめて、練習場へと足を進めていた。
スタジアムの外周にその練習場はあるようで、先ほどの場所からは少し歩く必要があったのだ。
そうやって歩き始めてすぐ、雪は燈に声をかける。
先ほどの話の中で、疑問点があったのだ。
「あの、先堂さん……」
「ん?どうした?」
「さっき、中学生以下の子たちを教えているとおっしゃってましたよね?」
「あぁ、そうだよ。まぁ、中には少し上の年代もいるけどね」
「ソーサリーラウンズは高校生からしかできないと聞いていたのですが……」
「あれ?修から聞いていないのか?」
そんな雪の言葉に燈は首を傾げて修に目を向ける。
「そういえば言ってなかったか」
「相変わらず、お前は変なところが抜けているな」
燈はあきれたような表情を浮かべるも、修はどこ吹く風だ。
気にした様子の無い修にため息を吐くと、燈は雪に向き直って話を進める。
「ソーサリーラウンズは高校の年代にしか魔法省に認可された競技団体がないからな。その都合で公式大会は高校生からしかないんだが、それ以下の年齢でも競技自体は出来る」
「そうなんですね。全く知りませんでした……」
雪が知らないのも当然である。
雪やその友人たちの様にお家柄がよく、裕福な家庭であれば、家庭教師として個人に魔術の先生がつく形がほとんどだ。
勿論、その場合は優れた魔術師が指導に当たるため、間違いはないが、いかんせん値が張る。当然、一般の家庭に支払えるような額ではない。
では、そうではないものはどうしているかという話だが、燈がやっているような魔術クラブやらに所属して魔術の扱い方、かかわり方を学んでいく者がほとんどだ。
魔術師の素養があるものは、魔力を扱うことは大体の場合可能である。正しい扱い方を知らなければ、人を傷つける可能性もある。
「まぁ、ほとんど魔術教室に近いよ。魔術を使って戦うってところまでやりたい子は半数に満たないからね」
「は、はい……」
気楽に参加してくれ、という燈の気遣いではあったが、雪の返事の歯切れは悪く、表情にもすこし緊張が浮かんでいる。
理由はいつも通り、自分の実力に自信が無いからだ。
雪としても、同級生や先輩と比較して自分が劣っているという状況には慣れたものではあるが、年の離れた後輩達と直接比較された経験はない。
雪にも最低限のプライドは当然あり、中学生に負けてられないというやる気と負けたらどうしようという不安が胸中を渦巻いていた。
そんな雪を横目に見ていた修は雪の胸中をなんとなく察していたが、精神的な部分での心配はほぼしていなかった。
この程度の逆境は、雪が今まで経験してきた辛さに比べれば生温いどころか、比較するのもおかしいくらいだ。
むしろ、雪が経験できなかった、同じレベルの者たちと切磋琢磨ができる、という部分を取り返せるいいチャンスだと考えており、成長の方に大きな期待を寄せていた。
それに、修は人間としても指導者としても燈の事を信頼している。
事実、燈には雪は魔術を学びたての素人だと思って接してくれ、と伝えているだけで、細かくは伝えていない。
そして、燈もその修の言葉に「任せてくれ」と何も聞かず一言で返した。
その意図は、他の子供たちと同じような形で指導してもらう為であり、変な先入観を燈に与えたくなかったからだ。
「よし。ついたぞ。ここだ」
そう言って燈が足を止めたのは、フェンスに囲まれたサッカーコートほどの広さがある広いグラウンドで、そこでは、多くの子供たちが準備運動をしていた。