ソーサリーラウンズ2
「あ、師匠!お待たせしました」
雪は待ち合わせ場所で師匠の姿を見つけると、手を挙げて駆け寄り、修は手を挙げてそれに応えた。
二人は対抗戦についての話をした数日後、二人はソーサリーラウンズの練習に混ぜてもらう為にとある場所で待ち合わせをしていたのだ。
「お疲れ。みんなの反応はどうだった?」
「私の役割についてですよね?皆んな賛成してくれました」
「お、それはよかった」
「皆んなあっさりOKを出してくれました。……それより、師匠。ここってプロが使うスタジアムですよね?」
雪は目の前にそびえたつ大きなスタジアムを見上げて、修にそう尋ねる。
他の競技のスタジアムなどと比べると、少しコンパクトなサイズではあるが、それでも数万人は収容でき、競技自体も比較的歴史が浅いことから、最新鋭の技術が投入されたハイテク施設でもある。
「そうだけど……。どうした?」
修は不安そうな表情を浮かべている雪に首を傾げる。
「いえ……。まさか、プロのチームの練習に参加するとかじゃ無いかな、と思いまして」
「流石にそれはないから安心してくれ」
そんな雪の不安を修は笑って否定する。
「安心しました……」
雪はほっと息をつく。
修だったらやりかねない、と雪は割と真剣に心配していたのだ。
「ソーサリーラウンズの練習を出来るような施設は多くないからな。スタジアムに併設されている練習場を使うのは普通のことなんだよ。まぁ、最近はもっとコンパクトな施設も出てきているようだけど」
魔法から施設と使用者を守るシステムを構築するには結構な費用が掛かる。
最近では研究開発が進み、かなり安価になったとはいえ個人が簡単に手を出せるような値段ではないことは確かだ。
「それじゃあ、今回はどんなチームに参加するんですか?」
「そういや、言ってなかったな。今回は……」
「お!修、来たか。随分と久しぶりだな」
修が説明しようとした瞬間、突然、二人の背後から声が掛けられた。
「ちょうど良いタイミングだな。久しぶりだな、燈」
二人が振り返ると、そこに居たのは雪より頭一つは背の高い、長身の女性だった。
背中まで伸びる長髪をポニーテールに結び、スポーツウェアを身につけていることから、ソーサリーラウンズの関係者なんだろうと雪はあたりをつけた。
「お、その隣の子が例の弟子ちゃんか?」
燈と呼ばれた女性は爽やかな笑みを浮かべながら、修に問いかける。
「そうだ。葛西さん自己紹介を」
「はじめまして。葛西雪と言います。よろしくお願いします」
雪は燈に深々とお辞儀をする。
「こちらこそ、葛西さん。私は先堂燈だ。今日から葛西さんが参加するチームの監督兼コーチをしている」
燈はそういうと雪に握手を求める。
雪は自己紹介に少し驚いたため、目を丸くしながら、その握手に応える。
ソーサリーラウンズの監督が、まさか若い女性とは全く予想していなかったから、その驚きを隠せずにいた。
それに、そのスラっとした手足と手のひらに収まりそうなほど小顔はモデルをしていると言われてもなんの違和感もない。
顔も美しい、というよりはカッコいい部類ではあるが、整っており、誰も彼女が監督やコーチとは想像できないだろう。
「なんというか、名家らしく無い良いリアクションをしてくれるな。うん。気に入った」
そんなことを笑顔のまま言う燈に修は少し笑う。
「その慧眼っぷりは相変わらずだな」
「褒めても何も出ないぞ。それに、修が認めているのだから間違いはないだろう」
「まぁ、事実いい子だからな。良くしてやってくれ」
雪は頭上を飛び交う自身への褒め言葉に、恥ずかしさから少し顔が赤くなる。
「うん。やはり良いな。素直な子は良く伸びるからな」
「おい燈。あまり、虐めてやるな」
ついに分かりやすく顔が真っ赤になって俯いた雪を見て、燈は申し訳なさそうに頭を掻く。
「あぁ、すまない。そんな意図はなかったんだ。どうしても職業柄、褒める時も叱る時もはっきりという癖がついていてな」
「い、いえ。お褒めいただき、ありがとうございます」
燈は今まで雪があまり出会ったことのないタイプの人間に思えた。
見た目は美しく、凛とは違うベクトルでかっこいい女性だが、その口調は少しぶっきらぼうで、仕草もどちらかといえば男らしさというものを感じる。
恐らく修と彼女から異性という関係性に見えないことも理由の一つだろう。
そして、年上ということもあってか、雪は燈とどの様な距離感で接すれば良いのか掴めていなかった。
「話を戻すが、今回、葛西さんには燈のチームに参加させてもらうことになった。今後しばらくは燈は葛西さんにとってのコーチということだな」
「まぁ、チームと言っても、社会人チームでも、大学生や高校のチームでもないから気軽に参加してくれればいいよ。私も楽しくをモットーにしているしね」
雪の方をポンポンと軽く叩きながら、燈はゆるい雰囲気でそう告げる。
雪はその燈の距離感に少し困惑しつつも、ふと、疑問が浮かんだ。
「えっと……。社会人でも学生でもないって言うのはどう言うことでしょう?」
そんな質問に燈はニカっと笑う。
「私は中学生以下の子達を中心に魔術とソーサリーラウンズを教えているんだ」