ソーサリーラウンズ1
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更新再開します。
「はじめまして。柊咲といいます。葛西さん、よろしくお願いします」
背中まで伸びた艶のある長髪が特徴の少女がペコっと雪にお辞儀する。
切り揃えられた前髪からは真面目さが、そしてそのハキハキトした口調と目元からは、しっかり者という印象を雪に与えた。
「葛西って、もしかしてあの葛西さん?」
その少女の隣、頭の後ろに手を組みながら、ブラウンの短髪に髪を立てるようにセットしている少年だ。
口調は雑だし、見た目からしても悪ガキといった印象は拭えないが、どこか親しみやすさがあり、どこか憎めない印象があった。
「年上の人にそんな口調はダメでしょ!」
「いって!なにすんだよ……」
「失礼でしょ!」
そう言ってその悪ガキの頭を叩いたのは、こちらもショートカットの活発そうな少女だ。
結構な強さで叩いたのか、悪ガキの方は痛そうに頭をさすっている。
「すいません葛西さん。私は如月可憐です。こっちのは西宮大地」
「よ、よろしくね」
雪はそんな特徴的な三人の姿を見ながら困ったような笑みを浮かべた。
(なんでこんなことに……)
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「対抗戦で葛西さんに求められる役割は何だと思う?」
着替えをすませ、外界のテスト場へと足を踏み入れた雪は修からそんな質問を投げかけられた。
「求められる役割ですか」
雪は頭を捻る。
先ほどの話で言うと、雪がこなす予定の役割というのは非常に複雑で難易度の高いものだ。
そして、魔術師としての実力で言うと、雪はそれをこなせる程の技量を持ち合わせてはいない。
つまり、修が求めている事はそれ以外の事だといえる。
「今から魔術面鍛えるのには時間が足りないから……。サポートとか指示をする役割ですか?」
「うん。その通りだ。葛西さんは視野も広いし、判断力もある。チームのブレイン役として頭を働かせるところを中心に鍛えていけば、十分戦力になるはずだ」
「本当ですか!……あれ、でもどうやって鍛えればいいんでしょう」
頭を働かせる。戦いながらチームの動きを操る。
チーム戦において指示役は非常に重要な役割だ。それこそ、指示の一つで勝敗が左右するほどで、雪がそこをマスターすればチームの戦力を大幅にアップさせることだって可能だ。
ただ問題が一つ。
どうやって鍛えるのかという所だ。
「私、競技の経験もないですし、そもそも見たこともほとんどないような素人なんですけど」
「見たこともないか……。どんな競技かはだいたい知っているよな?」
「それは、はい。よくニュースで取り上げられていますから」
ソーサリーラウンズの競技人口は他のスポーツ――魔術を使わない競技――に比べると、かなり少ない。魔術師の総人口自体が少ないのだから仕方ないのだ。
しかし、その競技の独自性、エンターテイメント性から、人気は他の競技に全く引けを取らない。
そのため、ソーサリーラウンズがニュースにならない日はないといえる。
「それじゃあ、座学の方は、ネットでも動画とかは上がっているから自己学習してくれ」
「はい」
「あとは実技の方だが、それももう手配済みだ」
「へ?それはどういった……」
雪は驚いた表情を浮かべる。
なぜなら、ソーサリーラウンズがそう簡単に体験できるものではないことを雪は知っているからだ。
魔術を使って戦う競技である以上、魔術的に設備が整った施設でしか行えないのが一番の要因だ。
ここ数年でその人気が認められ、施設も競技人口も増加傾向にあるがそれでも少ない。
そのため、社会人リーグなんてものもあるが、その数も当然少なく、企業所属で真剣にやっているところばかりだ。
「知人にソーサリーラウンズの指導者をやっている人がいてな、そこにお邪魔する予定だ」
「お邪魔ですか……」
雪が不安そうな声を漏らす。
そんなソーサリーラウンズを教えている場所にお邪魔するということは、少なくとも高校年代、下手すると社会人の可能性もある。
雪の知っている限り、高校時代のソーサリーラウンズの部活は気軽に邪魔できるような雰囲気はなかったし、社会人もそうだと聞いている。
そんなところに魔術もまともに使えない自分が入っていいのか不安しかない。
「そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫だ。その人もチーム自体も雰囲気がいいからすぐ馴染めると思うよ」
「そうですかね……」
雪は微妙な表情を浮かべる。
雪を安心付けるような修の言葉を、雪はあまり信用できなかった。
人としても、師匠としても信頼しているし、尊敬もしているが、修の基準が非常に高いことが分かっている。
今回は何事もなく終わるといいなと思いながらも、そうならないことを予感して小さくため息をついた。