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008 殺害の条件

 自宅に無事に帰った遥風は、そのままずっと自室に籠っていた。

 窓のカーテンは閉まったままなので部屋の中の様子は確認できないが(確認しようと思えば出来るのだが)、俺はしばらく屋根の上で時間を潰す。

 夜の23時を過ぎた頃に母親が帰宅し、遅い夕食を済ませた彼女は再び自室へと戻って行った。

 時刻はすでに0時を過ぎている。

 小さく溜息を吐いた俺は壁をすり抜けて彼女の部屋へと入る。


「……え?」


「よう。元気かクソガキ」


 部屋に入るや否や驚いた表情を浮かべる遥風。

 しかしそれは一瞬で、特に取り乱した様子も見受けられない。

 俺は勝手に床に座り胡坐を掻いて彼女を見据える。


 彼女と視線が交差する。

 俺の飛び出した眼球がベッドに座る彼女の全身を映し出している。


「……また来ると思ってた。だって貴方、ずっと私のことを見ていたんでしょう?」


「へぇ、気付いていたのか。そりゃすげぇな」


「だって、これ」


「?」


 彼女は今しがた熱心に読んでいたであろう古びた呪術書のあるページを俺に見せる。


「『死神は召喚者から提示された契約内容を実行・完了するまでは魔界に戻ることはできない』、『死神は何時、いかなる時も、契約者から半径1km以上離れることはできない』。……つまり貴方はずっと私の側にいた」


「んだよ、捨てろって警告したのにまだ持ってたのかよそれ」


「燃やして捨てたところで私と貴方の契約は破棄されないのでしょう? 私を騙そうとしても無理よ。ここに書いてあることは何度も何度も読み返して覚えちゃったもの」


「……ちっ。本当に面倒クセェなお前……」


 頭を抱え、そのまま悪態を吐く。

 このガキはすでに俺との契約で『主従関係』が構築されていることを理解しているのだろう。

 となればもう騙すことも、契約を破棄することも俺にはできない。

 死神は死神としての職務を全うするしかないというわけだ。


「教えて。今日一日で貴方はどれくらいのこと・・・・・・・・を知ったの?」


「何のことだか」


「『死神の目』のことを聞いているの。ある程度の情報を得る能力があるのでしょう? 死神の貴方には」


「あー、もう分かったよ! メンドクセェメンドクセェ……! ホレ!」


 俺は半分自棄になり今日一日集めた情報を空間に表示させた。

 一瞬だけ驚いた遥風だったがすぐにその情報を一つ一つじっくりと確認する。


「これで満足か?」


「……意外に大したことないのね、死神って」


「んだとコラ!!」


「本当に簡易的な情報しかリサーチ出来ていないのだもの。これで本当に対象を殺すとかできるのかしら」


 ベッドから起き上がった遥風は脚を組み、俺を見下すような恰好で言葉を発する。

 目の前に死神がいるっつうのに、この横暴な態度。

 さっさと大友とやらを殺して魔界に戻ったほうが百倍いいだろこれ。


「仕方ねぇだろ。俺は最下級死神なんだから」


「……は?」


「だーから、『最下級死神』だっつうの。階級が上がれば死神としての能力もどんどん上がるんだが、俺が今持ってる能力は死神として最低のものだってことだ」


 俺は隠しもせずにそう答える。

 死神には階級が五つ存在する。

 『最下級死神』、『下級死神』、『中級死神』、『上級死神』、『最上級死神』。

 最上級ともなれば女神や魔神、創造神や破壊神などとも対等に渡り合える力を有するが、一握りの死神にしかなれないと言われている。

 俺みたいに死神になってから十年やそこらだと、せいぜい中級ぐらいが関の山だろう。

 ……まあ十年やっていて未だに最下級なのも俺ぐらいかも知れないが。


「チェンジ」


「……はぁ?」


「チェンジよチェンジ。他の死神と変えてくれる?」


「出来るわけねぇだろうが。もう契約が済んでるんだから」


 はっきりとそう彼女に告げると、深く溜息を吐いて頭を抱える遥風。

 俺だって別に好きでクソガキの側にいるわけじゃないんだからお互い様なのだが。


「……仕方ないわ。この際出来損ないの死神でもなんでもいい。今夜また『ここに来た』ってことは、殺してくれるんでしょう? 大友を」


「出来損ない……まあいい。殺してやるぜ、そいつを。俺もパパっと仕事を終えて帰りたいからな」


 俺は立ち上がりベッドに座る遥風を見下ろす。

 そして『死神の書』を発動し、殺しの実行内容の入力画面を遥風に向けて表示した。


「……これは?」


「『死神の書』だ。ここにどうやって殺したいかお前が入力しろ。それと『対価』の件は理解しているな?」


「……ええ、もちろん」


 顔色を変えずに遥風は首を縦に振った。

 そして表示された入力画面に殺害条件を入力していく。


 ――『対価』。

 すなわち対象の人物を殺した際に死神に支払われる寿命のことだ。

 実行が完了したら召喚者は問答無用で『残り寿命の半分』を死神に奪われる。

 例えば遥風は今十七歳で、天授を全うするのが百歳だとしたら。

 計算式は『(100-17)÷2=41.5』。

 これを死神ポイントに換算すると『41.5×365=15147.5』となる。

 小数点以下は繰り上げになるため、俺が得られる死神ポイントは『15148pt』というわけだ。

 一回の契約で一万ポイント以上稼げるのは稀であるため、今回の殺しはかなりオイシイ仕事と言えるだろう。


「入力したわ」


 遥風の言葉を聞き、俺は入力内容を確認する。



ーーーーーーーーーー

【殺害対象】大友輝明/男/平成15年4月17日生まれ     

【殺害条件】①この世で最も苦しい死に方(焼死、溺死など何でも)

      ②親しい人間が全員見ている前で大恥を掻いて死亡

      ③死んだことを嘆き悲しむ人がいれば、その人にも様々な不幸や災いが起こる 

ーーーーーーーーーー



「……お前さ、死神舐めてんの?」


「何がよ?」


「『何がよ?』じゃねぇよ! 殺害条件は『一項目』しか入力できないようになってんだろうが!」


「じゃあ書き直すわ」


 不貞腐れた表情のまま遥風は入力をやり直した。

 そして再び俺は画面を確認する。



ーーーーーーーーーー

【殺害対象】大友輝明/男/平成15年4月17日生まれ     

【殺害条件】この世で最も苦しい死に方(焼死、溺死など何でも)を、親しい人間が全員見ている前で大恥を掻かせて死亡させ、死んだことを嘆き悲しむ人がいればその人にも様々な不幸や災いが起こるようにする 

ーーーーーーーーーー



「……」


「何よ、その目は。貴方は私に召喚されたんでしょう? だったら言う事を聞くしかないじゃない」


 あくまで強気の遥風に俺は何も言わず、そのまま画面を閉じた。

 そしてそのまま踵を返す。


「どこに行くの?」


「……やっぱ気が変わった。大友の殺しはやめだ」


「そんなことできないってさっき貴方が言っていたじゃない」


「お前さぁ、ムカつくんだよ。自分の命も安く考えてるみたいだし、何があったか知らねぇけど殺意ばら撒き過ぎだし」


「……じゃあ殺害の動機を話したら殺してくれるの?」


 今までの威勢はどこにいったのか。

 急に声を震わせてそう言いだす遥風。


「んなもん聞きたくもねぇな。どうせくだらないことだろうから」


「……くだらない、こと」


「ああ、くだらないだろうねぇ。お前みたいなガキが殺害を計画するとか、アニメの見過ぎなんじゃねえの? 付き合う死神の身にもなってみろよ。ホントクソみたいな人間に使役される俺の立場とかも含めてよ」


「……」


 急に黙り込む遥風。

 しかしガキにはこれぐらい言っておいたほうが良いだろうし、俺も見下されてイライラしていたから丁度いい。

 もう少し追い込んでやろうかと遥風を振り向いたが、俯いている彼女から雫が落ちてきたのを確認して俺は口を閉じた。



「……だって……これしかもう、方法が……」


「……あー、ダリぃ。分かった、聞いてやるよ。そのくだらない話を」



 ――そして俺は遥風の殺害に至るまでの話を聞いた。




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