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040 不明な成分

「どうした今日子! 何か見つけたのか!」


 民家を飛び出た俺は慌てて今日子の元へと戻る。

 俺の姿を確認した彼女は民家の先、今は使われていない山道を指差していた。


「翔太君……これ」


 金網で厳重に封鎖された山道の入り口に立ててある古びた看板。

 そこに記載されている文字は風化しておりほとんど読むことはできないが、どうにか『越智守の庵』とだけ読むことができた。


越智守おちのもりの庵……。へえ、こんな場所にもそんなのがあるんだな」


 確かこの天神山の頂上にも越智守神社とかいうのがあったはずだ。

 文政五年に建てられたとガイドブックにあったから、今からおよそ二百年前に建てられた神社なのだろう。


「違うよ翔太君……。ここだよ・・・・八神さんが・・・・・家族を連れて・・・・・・向かった山道って・・・・・・・・


「はぁ? どういう意味だ? だってあいつが家族と向かった山道って、『落ち神』の食事場所――」


 そこまで言って俺ははっと口を噤んだ。

 

 ――そして『全て』が一つに繋がったのだ。


「そうだよ……! どうして今まで気付かなかったんだろう……。『越智守おちのもり』じゃないんだよ!越智守おちかみ――つまり『落ち神』!」


「ああ……! くそ、どうかしてたぜ俺も……! 文政五年って言えば今から約二百年前――。『落ち神・・・が現れた・・・・っていう時期と・・・・・・・一緒じゃねぇか・・・・・・・……!」


 俺はそう叫び金網を拳で叩いた。

 『越智守』は『落ち神』――。

 つまり奴は今から約二百年前に魔界から追放され、この地に降り立ったのだ。

 そして当時の権力者に『神』として崇められ、天皇の命により天神山の頂上に社が築かれた。

 俺が天神村に到着してからずっと感じている神の気配は、八神の目的である『落ち神』のものであるということ――。


「今日子、今何時だ?」


「え? あ、ええと……もうお昼になったけど」


「民宿に戻るぞ。遥風もそろそろ戻ってくる頃だろうから、そこでこれまでの情報をまとめよう」


「あ、ちょっと……! もう少し調べてから――」


「駄目だ。これ以上は危険だ。……いや、もう気付かれてるかもしれねぇがな」


「? ……って、ちょっと!」


 俺は嫌がる今日子の腕を掴み、民宿へと向かって歩き出した。

 これ以上ここにいたら二人に危険が及んでしまう可能性が高い。

 一旦民宿で合流して、日が落ちるまでにはこの村を降りた方が身のためのだろう。


 俺は周囲の気配に気を配りながら農道を慎重に進んでいった。





「『越智守』が『落ち神』……」


 民宿へと到着した俺と今日子は無事に遥風と合流。

 そして昼食を頼んだ後に周りに誰もいないことを確認し、部屋で情報をまとめた。


「ああ。一つずつ情報を整理していこう。まず、八神のターゲットである『落ち神』は今から二百年前に、魔界から人間界――つまりこの天神村に追放された元死神だ。そこで蓮常寺定宗の先祖に匿われ、この土地で『神』として崇められるようになった」


 テーブルに並べられた食事に毒が盛られていないことを確認し、俺は遥風と今日子の前にそれらを並べる。

 そして開いている俺の前の席に紙とペンを用意し、一つずつ情報を書き足していく。


「奴の好物は人間の血肉だ。この二百年の間に奴は何十、何百という人間の肉を喰らってきただろう。しかし喰えば喰うほど、肉の味への『探求心』が増していく。そして奴は気付いたんだ。牛や豚を育てるのと同じく、大切に育てられた人間のほうが肉質が良くなり旨くなるということを、な」


「う……」


「げぇ……」


 食事中だった遥風と今日子はあからさまに嫌な顔を俺に向けた。

 しかしそれを無視し、俺はメモに内容を追加していく。


「奴は今から二十五年前に蓮常寺定宗に命令し、この村に孤児院を建設させた。それに関わったのは同じく天神村の出身の山形県知事である『尾長室美津』と児童相談所長の『田子浦五郎』の二人だ。この二人は昔から蓮常寺定宗と深い親交があったのは裏が取れている。……いや、親交よりも『信仰』と言った方が正しいのかもしれないな」


「ちょっと……何『上手いこと言った』みたいな顔をしているのよ。早く先を続けてよ」


 箸を置いてそう言う遥風。

 どうやら先ほどの人肉の話のせいで食欲を無くしてしまったらしい。

 今日子はと言えば、それでも箸を置かずに食事を続けている。


「孤児院を建設するためには児童相談所長の判断と都道府県知事の許可が必要だ。そこに蓮常寺家の豊富な資産が加わり、孤児院は何の問題もなく開設された。――そして、人肉牧場が出来上がったんだ」


 その後のことは簡単に想像できる。

 天神村の孤児院は身寄りの無い子供を全国から集め、大切に大切に育てていく。

 そして『幸福値』が高まった頃に、落ち神へと献上する。

 行方不明になったとしても警察は動かない。

 元々身寄りの無い子が孤児院を脱走することは良くあることらしいし、奴らが口裏を合わせれば容易いことなのだろう。

 ――証拠は全て、落ち神の『腹の中』なのだから。


「うぅ……。さすがにちょっと気持ち悪くなってきた……。私ももういいや。ご馳走様でしたー」


 残りあと一割ほどを残し、茶碗を下げる今日子。

 そして自分の分も含めて三人分のお茶を淹れてくれる。


「ここまでは分かったわ。でもあと『G2』の件と八神さんのテロの件、それに彼の過去二回の死神召喚の件もあるわよね? 翔太はそれらも全部理由が判明したって言うの?」


 今日子からお茶を受け取った遥風は真剣な面持ちで俺に視線を向けた。


「……ああ、多分な。真相は本人が降臨してから確認するしかねぇが、恐らくほぼ間違いはないと思う」


 俺は再びペンを持ち、蓮常寺定宗、尾長室美津、田子浦五郎の三人の名前の横に四人目の名前を記載する。


「『大垣良太』――。俺が最初にテレビ番組を見て『死神の目』を使った男だ。尾長製薬工業の子会社である製薬工場の工場長であるこいつも、この三人の息が掛かったクズ野郎さ。あの工場で製造されているのは村おこしのための漢方薬や新薬なんかじゃない。――『麻薬』だ」


「え――」


 お茶を飲む今日子の手が止まる。

 彼女がこの話を聞くのは今が初めてだからだろう。


「『G2』――正式名称は『Gift of the fallen god』。直訳すると『落ちた神の贈り物』だ。最初に県警にこの麻薬が押収されたのは今から二十三年前の1999年。ちなみにあの製薬工場が村おこしの一環として建設されたのはその一年前の1998年だ。そして孤児院が建設された日は1997年」


「あ……」


「余談だが、その頃から大垣は副工場長として異例の若さで大抜擢されている。そして翌年の1999年には元工場長だった男が退職届だけを残して行方不明になるという事件が起きている。これがその時の記事だ」


 俺は今日子から借りたままのスマホに取り込んでおいた新聞記事の画像を二人に見せる。

 地方新聞の小さな記事だが、この元工場長の行方は今でも判明していない。


「『G2』の主成分のうち三割は芥子の実だ。これは阿片でも使われている麻薬成分なんだが……残りの七割は未だに成分が『不明』――。これだけ科学が進歩している現代で、どうして成分が不明なのか。答えは簡単さ」


 俺は麻薬の成分をメモし、『不明』と書いた部分に二重で丸を囲む。

 そして今度は一番最初に書き記した『落ち神』にも丸を囲み、大きく矢印をそこに向けた。


「……え……これって、まさか……」


 今日子と遥風が絶句しているのが分かる。


 これで・・・全てが繋がる・・・・・・――。



 俺はぬるくなったお茶を飲み干し先を続けた。




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