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037 聖地の巡礼

 孤児院の見学が終わり、俺達は堤に連れられ民宿で宿の予約を取る。

 その頃には時刻が午前の十一時に迫っていたので、遥風らは一旦堤と別れることになった。

 明日からはまた孤児院で仕事があるということで、仕事終わりにでも再び彼女と会えるかもしれない。

 その時は麓の湖で花火でも一緒にやろうという約束を、二人は堤に取り付けていた。


 そして、俺はというと――。



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【本名】田子浦五郎たごうらごろう

【国籍】日本

【年齢】64歳

【性別】男

【身長】167cm

【体重】58kg

【血液型】A型

【概要】山形県にある児童相談所を管理する所長を務める男。

    天神村の出身であり、二十五年前に初めて地元に孤児院の建設を立案した人物でもある。

    正義感が強く、物腰が柔らかであり、若い世代からも信頼を集めている。

    定年後は後続の児童福祉司の教育に力を注ぐつもりであるらしい。

----------



 今日子のスマホを借り、山形県にある児童相談所の所長の顔写真をネットで調べ『死神の目』を使い情報を空間に表示した。

 二十五年前に天神村で孤児院を建設するときに、この田子浦という児童相談所の所長が建設の立案を出したとある。


「蓮常寺定宗が『落ち神』のための人肉牧場として孤児院を作ったのだから、この田子浦という男も一枚噛んでるってことか……?」


 俺はそのままスマホで児童相談所のサイトへと飛んだ。

 そこで業務内容や各資格を持った人材の情報を洗いざらい読んだ後に、児童養護施設へのリンクに飛ぶ。


「『児童養護施設を建設するには、児童相談所の所長の判断と、都道府県知事の許可が必要』、か……なるほど」


 これまで『死神の目』で調べてきた人物像が、少しずつだが一つの線へとつながっていく。

 現職の山形県知事である尾長室美津と児童相談所長である田子浦五郎は共に天神村の出身だ。

 先ほど孤児院の看板に記載されていた情報でも、設立は今から二十五年前の1997年とあった。

 その頃に尾長は県知事に初当選をしている。

 つまりあの孤児院は『田子浦五郎が立案し、尾長室美津が許可を下し、蓮常寺定宗が出資』して出来上がったものなのだ。


「そうなってくると、あの工場で働いている大垣とかいう男も臭ってくるな……」


 大垣の働く工場の親元は尾長製薬工業という上場企業だ。

 尾長知事の祖父である尾長健三郎が創業者であり、大垣は村おこしのPRという名目でテレビ番組にまで出演している。

 蓮常寺定宗は蓮常寺家の当主としてたびたびメディアでも取り上げられていた人物だと八神は言っていた。

 この『村おこしPR』そのものが蓮常寺定宗が計画したものだと仮定すると、その目的はやはり『落ち神』のための食料集め・・・・というのが濃厚になってくる。


 そして、あの蓮常寺佳代子――。


 隠しても隠し切れないほど濃厚な、血肉のこびり付いたような臭い。

 普通の人間ならば気付かないかもしれないが、あの女が殺してきた人間の数は十やそこらじゃ済まないだろう。

 どうやって殺人の痕跡を消しているのかは、簡単に想像が付く。

 

 ――そう。『落ち神』だ。


 奴に骨や皮まで喰わせれば、遺体は何一つ残らない。

 失踪したと見せかけて殺され、喰われた者が一体どれだけいるのか想像も付かない。


「……思った以上に危険かもしれねぇな、この村は。観光客に紛れちまえばいけると思った俺の判断ミスにならなきゃいいが――」


「しょーーうーーーーーーたっ!」


「うわビックリした!! ……何だよ、遥風かよ」


 民宿の近くのベンチに座り考え事をしていた俺に、突然後ろから声を掛けてくる遥風。

 俺はため息交じりに周囲を見回すが、今日子の姿がどこにも見えないことに気付く。


「何だよとは失礼ね。レディに向かって」


「はいはい、レディレディ。で、今日子はどこに行った?」


「今日子? あー、ほら、例の『あれ』が始まっちゃって」


「例の……『あれ』?」


 遥風は農道の先にある民家の方角を指し示す。

 確かにそこに今日子の後ろ姿が見え隠れしているのだが、彼女は一体何をしているのだろうか。


「今日子、最初に言っていたでしょう? この天神村が『聖地』だって」


「聖地……あー……」


 その言葉を思い出し、俺は頭を抱えて蹲った。

 今日子は恐らく、今頃民家を含めた様々な場所で一眼レフカメラを構えているのだろう。

 どおりで俺にスマホを貸したままにしているわけだ。

 今、彼女はきっと、『八神家連続不審死事件』の発端となった現場写真をフィルムに収めることしか頭にない。


「あれが始まっちゃうと、もう誰の言うことも聞かないわよ、あの子」


「マジかよ……。こんな事件を調べて、一体何が面白いのかさっぱり分からねぇんだが」


「そんなの私だって一緒よ。でも今日子はこの日のために張り切ってたから。……ねえ、翔太。あの子が迷子にならないように、ちゃんと見張っててくれる?」


 遥風はそう言い、リュックから自身のスマホを取り出した。

 そして自身の携帯から俺が持っている今日子の携帯へワンコールを鳴らす。


「うん。ちゃんと繋がるわね。ここ山奥だから、ちょっと電波が悪いけど大丈夫みたい」


「見張るって……お前はどうするんだよ」


 リュックにスマホを仕舞う遥風に質問する。

 どうやら彼女は俺や今日子と別行動をするつもりのようだ。


「私はあの工場の見学に行ってこようと思うわ。昨日テレビで放送してたから、結構見学に来ている観光客も多いし、危険も少ないだろうから」


「うーん……。まあ、確かにあの人ごみの中で何かしようって言っても出来ないだろうからな……。分かった。今日子のほうは任せろ」


「うん。何かあったらすぐに連絡する。今が十一時十五分だから……お昼過ぎには民宿で合流しましょうか」


 そう言った遥風は手を振り、その場を後にした。

 

 そして俺は今日子を振り返ったが――。



「あ! もういねぇ! ……ったく、面倒臭いのを押し付けられたぜ……」



 俺はそう吐き捨て、慌てて今日子の後を追って行った。




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