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034 一時の休息

 村田ジャンクションに入り、東北自動車道から今度は山形自動車道へと乗り換える。

 ここまで到着すれば残りの道のりはおよそ二割。

 懐中時計で時刻を確認すると、時刻はちょうど正午を指していた。

 この調子で進めばあと二時間ほどで酒田市には到着するだろう。

 そこで今夜は宿を取り、明日はさらにそこから一時間ほど山に向かい県道を走って行った先にある『天神村』へと向かう予定だ。



「あーーー、もう疲れたぁ! お腹空いたぁ! お昼食べたいー!」


「我慢しろ。あっちで宿をとっているんだから、旨いモンなんかいくらでも食えるだろ」


「翔太は良いわよね。女の子二人に運転させて、自分は後部座席でのんびりしてたらいいんだから」


「……いや、死神が自動車を運転してたら色々と駄目だろう。お前ら、そんなに死にたいのかよ……」


 文句を言い続ける女子二人をそれとなくかわし、俺はカーナビに映るニュース番組を視聴する。

 やはり話題はプラチナローズウィップ号でのテロ事件一色のようだ。

 一夜明けた今日でも、まだ『テロリスト八神祐介』の名は報道されていない。

 遺体は国際テロ対策班により回収されたとの報道は数日前にあったはずだが、そこから一切犯人の動機や目的が表に出てこない現状に、警察も番組のコメンテーターもやきもきしていることだろう。


「……八神さんの過去の事件は、私が知っているくらいだから警察も当然知っているはずなのに、どうしてテロの犯人が八神さんだと公表しないのか不思議だよね」


「うん、それは私も思ってた。だって過去にDNA鑑定までやっているんだもの。テロの犯人の身元が不明だったとしても、すぐに照合すれば八神さんだって判明するはずよね」


 今日子の言葉に同調する遥風。

 確かにそのあたりはキナ臭い感じがする。


「まあその辺の理由は調べていけばおいおい分かってくるだろう。だからあと二時間、安全運転で頼む」


「はーい、まっかせてー!」


 そう元気よく答えた今日子はアクセルペダルを踏み込む。


「俺は今『安全運転』って言ったはずだぞ!?」


「大丈夫よ、空いてるんだからちょっとくらい飛ばしたって。今日子、どんどんいっちゃって」


「了解ー」


「……駄目だ、全然聞いてねぇ」


 大きく肩を落とした俺は、無事に現地に到着するよう祈ることしか出来なかった。





 山形県酒田市。

 総面積およそ六百キロ平方メートル、人口約十万人と山形県の中では三番目に多い市である。

 日本海に面した自然豊かな街並みは観光地としても申し分が無い。

 そして、そこから見える広大な山が『天神山』だ。


「『天神山は標高2236メートル、日本百景山にも選出された名山であり、多くの登山客が訪れる名所でもあります。山頂にある越智守神社は文政五年に仁孝天皇の命により建設されたという記述があり――』」


「あーもういいわよ、そういうのは。二時半よ、二時半? さっさと宿でチェックインを済ませて、ご飯食べようよー」


「賛成ー。ずっと運転してて腰も痛いし、畳の部屋でゴロゴロしながら海鮮丼とか食べたーいー」


 酒田市のコンビニでトイレ休憩がてら、ついでにロードマップを購入してもらったのだが二人ともすでに疲労困憊のようだ。

 今日はもう宿に向かって、旅の疲れを癒したほうが良いだろう。



 コンビニを出発し、三十分ほどで目的の宿に到着。

 事前に連絡を入れていたからか、少し遅い昼食だったが宿の女将さんは嫌な顔を一つせずに部屋まで料理を運んでくれる。


「遠いところから良くおいで下さいました。お食事が終わったらまたお声がけくださいませ」


「うわ、超美味しそう~!」


「女将さん、ありがとうございますー。じゃあ早速……いっただっきまーす!」


 今日子と遥風の様子を見て、軽く微笑んだ女将はそのまま部屋を後にした。

 俺は食欲旺盛な少女二人を見守りながら、先ほどのロードマップと睨めっこをする。


 天神村がある遊佐町まではここから車でおよそ四十分ほどの道のりだ。

 先ほど今日子が女将に確認していたが、かなり険しい一本道を延々と山に向かい走るらしい。

 そこを抜ければ見晴らしの良い盆地があり、人口約2000人ほどの天神村が見えてくる。

 村で暮らす人々のおよそ三分の一が、昨日テレビで放送していた尾長製薬工業という製薬会社の工場で働いているというから驚きだ。


「ほーいえは、はっひほんひひのひゅうやひょうのはえへみはんはへほ」


「……遥風。何言ってるかさっぱりわからんから、とりあえずその口に咥えたままのエビ天を食べてから言え」


 幸せそうに天丼を頬張っている遥風は、俺の言う通りエビの天ぷらを美味しそうに食べ終わったあとにもう一度言う。


「……ゴクン。そういえば、さっきコンビニの駐車場の壁に貼ってあったポスターを見たんだけど、山形県の知事さんも『尾長』っていう名前らしいわよ」


「尾長……。天神村にある製薬会社の名前と同じ、か……。今日子、スマホで山形県知事の写真を検索してくれるか?」


「はーい」


 食事の手を止めた今日子はスマホで山形県のホームページを検索した。

 そこに掲載されている県知事の顔写真の横には『尾長室美津おながむろみつ』とあった。

 俺は『死神の目』を発動し、男の情報を調べ上げる。



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【本名】尾長室美津おながむろみつ

【国籍】日本

【年齢】67歳

【性別】男

【身長】172cm

【体重】81kg

【血液型】AB型

【概要】現職の山形県知事。当選は三回連続。四期目。

    山形県の最北地にある天神村出身の男性。

    祖父である尾長健三郎は尾長製薬工業の創業者である。

    三代目社長として名が挙げられていたが、個人の意思により会社を外部の人間に預け、

    政界へと進出。

    国民統括党の秘書を経て二十五年前に山形県知事に初当選。

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「うーん……。特にめぼしい情報は無いな」


 俺は空間に表示された尾長の情報を頭に入れ、データを消去する。

 しいて言うならばこの尾長という男も天神村の出身らしいが、あの村に工場を建設していることから、土地勘のある場所に工場を建てたとみてほぼ間違いは無いだろう。

 今は少しでも八神の情報に紐づくようなものが欲しいのだが、そう簡単にいくわけもない。

 やはり明日、実際に天神村へと向かってみて、そこに住む住人に聞き込みをするのが手っ取り早いだろう。



 ――俺は幸せそうに食事を頬張る二人を横目に、再びロードマップに視線を戻した。




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