表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/43

033 事件の詳細

「「えっ!? 観光旅行……!?」」


 遥風と今日子は同調し、全く同じ反応をしている。

 俺は頭を振り深く溜息を吐くしか出来ない。


「……ひとっっ言も、そんなことは言っていないんだが。ていうか三日前に旅行に行ったばかりだろうが、お前らは」


 この二人は一体、何をどう聞き間違えたら『観光旅行』に聞こえるのだろうか。

 俺はただ、八神と所縁があるという天神村に調査に行きたいと言っただけだというのに。


「プラチナローズウィップの件はもはや旅行とは言わないわよ……。馬鹿なんじゃないの、翔太は」


「誰が馬鹿だ! 誰が!」


「まさか翔太君は、あんな酷い思いをした幼気な少女二人を置いて、たった一人で観光旅行に行くとか言わないよね……?」


 遥風に続き、今日子までもが俺の腕を掴んで放そうとしない。

 別に俺は最初から二人をここに放置して、勝手に一人で天神村に行こうなどとはこれっぽっちも思っていないのだが。


「『調査』だ、『調査』。魔界からの連絡も途絶えたままだし、このマンションにずっと閉じこもっていたって仕方がないだろう? 勿論お前ら二人を放っておくのはまだ危険だろうし、八神の過去や『落ち神』の情報も多少は集めておいたほうが、後々のためになると思わないか?」


「思う思う~! ね、遥風?」


「うん。仕切り直しの観光旅行かぁ……。ねえ、今日子。あっちに行ったらバーベキューとかやろうよ!」


「うっわ、天才! 遥風、遊び方知ってるぅ~!」


「…………はぁ」


 ……駄目だ。この二人に説明した自分を呪うしかない。

 しかしまあ、これぐらい軽い感じで行けば、現地の人間にも怪しまれる可能性は低いだろう。

 仲の良い二人組の少女が観光旅行をしているように見せかける手間は省けるわけだし……と自分に言い聞かせよう。


「今日子。天神村の場所はどこだか知っているんだよな?」


「うん、もちろん。山形県の最北、秋田県との県境にある、超のどかな村だよ。すぐ近くに『天神山』っていう、日本百名山にも選ばれてる超でっかい山もあるんだよ」


「へー、さすが詳しいわね、今日子」


 遥風に褒められ、胸を突き出して人差し指で鼻を擦るポーズをとる今日子。


「じゃあ明日の朝の時間帯で新幹線の予約を取って――」


「新幹線? 車で行こうよ、三人乗りで」


「……車?」


 俺は一瞬、今日子が何を言っているのか理解が出来なかった。


「あれ、言ってなかったっけ。私と今日子、二人とも車の免許持ってるんだよ? じゃあ、いつものレンタカーを予約しておくから、明日の朝取りに行って、その足で山形に向かおうー」


「おー!」


「……マジかよ」


 遥風はまだ十八歳。そして今日子はまだ十九歳になったばかりだ。

 どう考えても免許取りたてだろうに、本当に大丈夫なのだろうか……。


 ――その後も二人は、明日の旅行の計画を結局深夜まで立てていたわけで。





「……眠いわ」


「……うん、そだねー……ふわあぁぁ」


「前見ろ、前! あぶねっつうの!」


 眠そうな顔でレンタカーを運転する遥風に、大欠伸をして助手席のシートを倒す今日子。

 俺は後部座席で居ても立っても居られず、東京を出発してから小一時間、ずっと二人に声を掛け続けている。


「もう、さっきからうるさいわよ、翔太。運転に集中できないじゃない」


「お前が寝そうになってるから注意してやってんだろうが!」


「Zzz……」


「おい今日子、寝るな! お前が寝たら遥風まで寝ちまうだろうが! ……ったく、だから昨日さっさと寝ろっつったのに……」


 川口ジャンクションから東北自動車道に乗り、そこから延々五時間の車の旅。

 今日は平日のためか、比較的高速道路が空いているのが命拾いという感じだ。


「あ、そうそう、はい、これ。昨日遅くまで今日子が調べ上げてくれた『八神祐介』の情報よ。今日子だって別に観光旅行だからって、はしゃいで夜遅くまで起きていたわけじゃないんだから」


 運転席から後ろを見ずに数枚の印刷用紙を俺に手渡してくる遥風。

 俺はそれを受け取り、内容を確認する。



----------

『平成25年12月14日 山形中央新聞』

 平成25年12月13日未明。山形県と秋田県の県境にある天神村出身の男性(20)が、同じく天神村出身の妻である八神唯やがみゆいさん(21)を殺害した疑いにより山形県警により逮捕された。男性は黙秘をしており、県警は慎重に捜査を進めている。


『平成25年12月19日 山形中央新聞』

 平成25年12月13日に起きた八神唯さん(21)殺害容疑で山形県警に逮捕、起訴された夫・八神祐介やがみゆうすけ容疑者(20)が18日の深夜、同県警の留置場から脱走し行方を眩ませている。同容疑者は同じく天神村出身である蓮常寺定宗氏に対し殺害予告をしているとの情報もあり、県警は天神村役場とも連携し定宗氏の保護と容疑者確保のため捜査員を30名に増やし今もなお懸命な捜査を続けている。


『平成26年11月30日 北陸山陽新聞』

 平成26年11月29日の午後二時頃、去年の12月13日に山形県で起きた殺人事件の被害者、八神唯さん(当時21歳)の姉、八神仁美さん(27)、父の八神幸三さん(56)、母の八神妙子さん(55)、祖父の八神慎之介さん(83)、祖母の八神芳江(79)さんの計五名が何者かに殺害されているのを、近所に住む高校生三名が発見し110番通報をした事件。

 遺体の損傷は激しく、県警は八神唯さんの元夫であり、今もなお逃走中の八神祐介容疑者(21)を殺人・殺人遺棄の容疑で捜査員60名体制で捜査を開始した。

 

『平成30年5月6日 山形中央新聞』

 平成26年に起きた八神一家惨殺事件(※八神家連続不審死事件)が本日、急展開を迎えた。同一家殺害容疑で逮捕状が出されていた八神祐介さん(24)の行方は未だ判明していないが、被害者から検出された容疑者のものと思われるDNAと、八神祐介さんのDNAを科捜研で再調査したところ、全く別のDNAであったことが判明。県警は同容疑者の逮捕状を棄却し、捜査は振り出しへと戻った。また容疑者とされた八神祐介さんの行方の詳細は分かっておらず、県警は何らかの事件に巻き込まれたと見ており、今もなお捜索中である。

 ※『八神一家惨殺事件』は県警の意向もあり、『八神家連続不審死事件』と呼称を変更

----------



「……これが八神の言ってた『死神契約』の詳細か」


 俺は今日子が用意してくれた記事を何度も読み返し、頭の中に叩き込む。

 大方予想していた通りの内容だが、新たに得られた情報もいくつかあった。


 まず、八神と蓮常寺定宗という男が、共に『天神村』の出身であること。

 となれば、八神が育った孤児院とやらもその村にある可能性が非常に高い。

 また、蓮常寺定宗に殺害予告を行ったとあるが、その後、八神は県警から殺人容疑を外されている。

 つまり殺害予告の情報はダミーだった・・・・・・という可能性があるわけだ。


 八神が二件の事件の両方とも死神を召喚し、殺害を依頼していることはすでに本人の口から聞いている。

 問題は『何故、八神家全員を殺さねばならなかったのか』の一点に尽きる。

 俺はどうしてもあの八神が、理由も無く妻とその家族を殺すよう、死神に依頼するとは到底思えないのだ。


「あいつの、あの身も凍るような『黒い瞳』……。『呪い』とか言っていたが、そもそもあいつは何時・・どこで・・・あの能力を・・・・・手にしたんだ・・・・・・……?」


 まだ俺は八神に対し、分からないことが多すぎる。


 だからこそ、これから向かう天神村で、全ての謎を解明しておきたい――。



 俺は後部座席で揺られながら、魔界にいるであろう八神祐介に思いを馳せていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ