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002 人間界転送

【現在】


「――それでは鈴木翔太。準備は良いか?」


 同僚の死神どもに見守られ、俺は人間界への転送儀式を受け入れ、目を瞑る。

 ――約十年ぶりの人間の世界。

 そこで俺を召喚し使役する人間の願いを叶え、俺は見返りを得る。

 『見返り』とは、すなわち『命』だ。

 死神の成績は召喚者から得られた寿命の一部を報酬とし、それを魔界に上納することで階級が決まる。

 召喚者が人間である場合は一日分の寿命を『1pt』とカウントし、1000000ptを上納すれば最下級死神から下級死神へと昇進が可能だ。

 

 つまり、昇進を望むのであれば人間の寿命換算で『約2740年分の命』を報酬として得なければならない。


「――最下級死神、鈴木翔太を人間界へと誘わん――」


 暗黒が俺の全身を包み込み。


 そして俺はそこに溶け込むように消えた。





 目を開ける。

 俺はまず首に掛けられた懐中時計の蓋を開ける。

 魔界文字で幾何学模様に示された針は人間界でいう夜の0時を指していた。

 次に若干飛び出た眼球に死術を込め周囲の状況を確認する。

 どうやら俺が転送された場所は人間界の日本。そして東京都内だと確認できた。

 耳を澄ますと地下鉄を走る電車の音が聞こえてくる。

 次に俺は翼に死術を込め、その場から上空に羽ばたいた。

 ちょうど良い場所に避雷針を発見し、そこの頂上に止まる。


 下界を眺めるとこんな時間でもかなりの数の人通りを確認できる。

 仕事帰りのサラリーマン、学生の集団、酔っ払いなど、俺が生きていた頃と何の変化も無い日本がここにあった。

 俺はしばらくそれらを眺め、思考する。


 ――三十五年、人として生きてきた。

 そして死神となり十年の歳月が流れた。

 つまり俺の精神は四十五年の歳月を費やしたことになる。

 『神』になったら何かが変わると思っていた。

 しかし人間として生きていた頃となんら変わらぬ世界がそこにはあった。

 階級社会。上司との関係性。同僚との距離感。

 良い成績を出さねば馬鹿にされ、地方に飛ばされてしまう。

 『死を司る神』である死神は決して死ぬことは無く、永遠に他者の命を奪うことで己の生計を立てていくしかない。


「……あーあ、どの世界もブラックだな。本当に」


 ボサボサの長い黒髪を掻きむしり、一人そう呟く。

 あの女神が言っていたとおり、俺の人生なんてゴミみたいなものだ。

 そしてそれは死神に転生してもずっと変わらない。

 ゴミは何をしてもゴミ――。どの世界に行ってもお荷物でしかない。


 あの女神の仕事は不慮の事故で死んだ者の転生先を与えるのが主だということを最近知った。

 人間には『幸福値』というものがあり、それは皆平等である。

 俺のように生きている間ずっと不幸なまま不慮の事故で死んでしまった者に救済措置を与えるのが彼女の本来の役目だ。

 しかし、俺の場合は違った。

 あまりにも不幸な人生を送ってきたため、規定の幸福値まで上げるためには『神』への転生しか方法がなかった。

 しかし神職は人気のためほとんどの枠が埋まってしまっている状態だった。

 ――ただ一つ『死神』の職を除いては。


「あの女神……。いつか出会う日があったら、その時は――。!」


 女神に対して憎悪が膨れ上がろうとしていた、その瞬間。

 俺の全身の毛が逆立ち、ピリピリとした静電気にも似た不快感が全身を覆う。

 これは、まさか――。



「おいおい……。もう『召喚』かよ。今来たばっかだぜ、まったく……」



 ――次の瞬間、俺の姿はその場から消えていた。




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