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001 最下級死神

「――最下級死神、鈴木翔太。貴様の異動先は人間界だ」


 突如言い渡された魔界人事。

 最上級死神の命令は絶対。

 逆らえば尽きることのない永遠地獄へと突き落とされ、奴隷以下の生活が待っている。

 当然俺は首を縦に振ることしかできない。


「(ぷぷぷ……! あいつまた異動だってよ! しかも今度は人間界……!)」


「(あーあ、可哀想だねぇ翔太は。でもまあどこに行ったってまともに仕事できねぇんだから、当然と言えば当然だよな)」


「(ホント翔太はどんくさいもんなぁ。死神付き合いも悪いし、上司に媚の一つも売れない。新人の死神にも営業成績ですぐに抜かれるし、才能無いんなら死神辞めりゃいいのに)」


 同僚の死神どもがわざと俺に聞こえるように小声で喋っている。

 死神に転生して早十年。

 確かに俺はこの魔界で最も『成績』の悪い死神だ。

 そもそも死神になりたくてなったわけじゃない。


 それもこれも、全部あの女神・・・・のせいなのだ――。





【十年前】


 ――目を覚ます。


 周囲は暗黒に包まれていて何も見えない。

 俺は死んだのだろうか?

 ……そうだ、確か爺さんの畑で手伝いをしている時に――。


「あー、はいはい。照明照明っと。ええと、こんにちは。……いやこんばんわ、かな? ようこそ転生の間へ。このクソニート」


「…………はい?」


 急にスポットライトのようなものが点灯し、俺の目の前にソファで寛いでいる女の姿が映し出された。


「あんたさぁ、爺さんの畑の手伝い中に農業用のトラクターに轢かれて死ぬって、どんな死にざまなのよ。ないない、ないわー。悲惨。これ以上ないくらい惨め」


「…………」


 女はソファから気だるそうに立ち上がり、上から俺の全身をぐるりと見回す。

 ……死んだ・・・

 そうか、俺は爺さんの運転するトラクターに轢かれて――。


「あたしは見ての通り女神様。本来であればあんたの魂は地獄にも天国にも行かずに消滅。でもそれじゃあまりにも可哀想じゃない? 可哀想よね? だってあたしがそう思うんだもの」


 女は俺の周囲ゆっくりと歩き、話す。

 地獄にも、天国にも行けない――。

 このまま俺は何もない人生をあっけなく終え、魂までもが消滅する――。


「――鈴木翔太。享年三十五歳。高校中退、職歴無し。彼女は……いるわけもないわね。両親にも見捨てられ、田舎に住む祖父に引き取られ、以下略。あんたの爺さんも可哀想だわ。あんたみたいなお荷物を娘夫婦に押し付けられてさぁ。そう思うでしょう? 思うわよね? あんただって」


「…………」


「あーはいはい。無視ね。それともコミュ障なのかしら。女神様が話しかけているってのにその態度、逆に凄いわ。尊敬する。……まあいいわ。本題に入りましょうか」


 何も返答しない俺を見下しているのか。

 女は鼻で笑いながら先を続ける。


「これまでのあんたの人生って、ホントゴミみたいなものだったじゃない? さすがにあたしも女神様として可哀想に思ったわけ。あんただってこのまま何も無い人生のまま魂まで消滅したくないでしょう? だから……このあたしが、助けてあげようかなって」


 俺の目の前にしゃがみ込みニコリと笑顔を見せる女。

 その顔は女神というだけあって綺麗ではあるが、それよりも遥かに不気味さが勝ってしまう。

 俺は生唾を飲み込み、掠れる声でようやく口を開いた。


「……た、助けるって、どういう……」


「あらようやく反応。じゃあご褒美に教えてあげる。あんたを――『神』にしてあげる」


「え――」


 次の瞬間、俺の身体は宙を浮きだした。

 そして徐々に全身に亀裂が走っていく。


「!!! ……いっ……が……!!! 苦っ……し、い……!!」


「そりゃそうでしょう。あんたバラバラになって死んだんだから。今からあんたを『神』に転生させるために、一時的に蘇生させた身体から魂を抜く作業をするの。つまり……もう一回・・・・バラバラになって・・・・・・・・死ぬ痛みを味わう・・・・・・・・ってことなんだけど」


 女神の声が聞こえてこない。

 もう俺の耳はあるべき場所に無いのだから。

 腕が裂け、臓腑が零れ、足が捥がれ、頭蓋が割れる。

 眼球がつぶれると女神の姿も見えなくなった。

 でも痛みだけは消えない。


 苦しい。苦しい、苦しい。

 苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。

 苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい………………。



「あはは! 花火みたいに弾けたわ! あーお腹苦しい。……じゃあ、そういうことで、頑張ってね。『神様』?」




 ――次の瞬間、俺の意識は彼方へと消えて行った。




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