俺に興味なさげだった幼馴染が、俺がクラスの子から告白された途端様子が変なんだが
幼なじみというのはどうも物語では優遇されがちな気がするが、現実は別にそんなことはない。
小説やドラマの中では、幼馴染と主人公がすれ違いながらラブコメディーをしていても、あくまでそれは作られた物語。全く現実味がない。
俺にはなんも関係がないのだ。
「そうは言ってもさ、来太。お前幼馴染いるじゃん」
机を合わせて一緒にお昼ご飯を食べている目の前の男が、お弁当のおかずを頬張りながらそう言った。
彼は友達の流星だ。無駄に格好いい名前だと思ったことだろうが、実は顔面も無駄に格好いいのがこいつのムカつくところである。
「馬鹿、お前はなんもわかってねえなー流星。いるからこそ、物語は所詮物語だって思うんだろうが」
俺は玉子焼きを頬張りながらそう答えた。
そうさ、幼馴染っていったって別に何のことはない。アニメや漫画のように幼馴染の裸を偶然見るラッキースケベがあるわけでもないし、家が隣同士なわけでもない。
では毎朝起こしに来てくれるわけでもないそんな幼馴染に対して、俺は何をもって幼馴染としているのか?
それは簡単だ。一緒にいる年数としか言えないだろう。俺も今年で高校二年生になるが、幼馴染とは幼稚園の時からずっと一緒だ。
「でもお前それってすげえ贅沢なこと言ってるよ。だって霞ってすげえ美人じゃん」
「ま、まあな……」
流星の指摘に俺は反論できなかった。
霞凛奈が俺の幼馴染の名前だが、彼女はこの高校の中でも屈指の美女として知られている。
本人は全く気にしていないようだが……。
「ま、けど来太の言う通りかもな。あの美女がお前とくっつくわけもねーし、そりゃ現実味もねーわな、ははは!」
愉しそうに笑う流星。痛いところをつきやがって。
俺はなんとなく敗北したような気持ちでお昼ご飯を食べたのだった。ちなみに凛奈は同じクラスなので、なんとなく恥ずかしくてその日は目を合わせられなかった。
そうして下校時刻を迎えた俺は、下駄箱から靴を取り出してさっさと下校しようとしたところ、少し前に長い黒髪をなびかせて凛奈がとことこと歩いているのが見えた。
普段から別に一緒に帰ったりするわけではないから、今日も別に一人で帰ろうと思っていたのだが、何やら凛奈が一人の男に絡まれているのを見てしまったため立ち止まった。
物陰から様子を伺っていると、どうやら凛奈に告白して玉砕した男子が、諦めずに凛奈にアプローチしているらしい。
「さ、さっき断ったじゃないですか」
凛奈は弱々しくそんなことを言っている。
男は押しどころだと思ったのか凛奈に更にアプローチをかけはじめた。
ああ、強がっているようだがあの凛奈の顔は本気で嫌がっているようだ。
あいつは昔からの癖で、緊張したり、恥ずかしい時、左手で、右ひじをつかむ癖がある。
こんな癖、たぶん俺しか知らないだろう。これもまた、俺が凛奈の幼馴染だと言える一つの所以である。俺にもあんな癖があったりすんのかな。
まあとにかく、あいつもお人好しだからな、本気で嫌だとは言えないんだろう。
仕方ない……。
俺は物陰から顔を出して、すたすたと男の前に歩いて行った。
「どうも」
俺はただ一言そうつげる。
「ら、来太」
凛奈は俺のほうをみて少し驚いていた。
「ん? うげっ、阿見来太……!」
男は俺の顔を見るとバツが悪そうにそう言った。
「うげっとは酷いな、俺あんたになんかした?」
「べ、別に」
「悪いけど、霞さんへの告白は3か月に一回だけって決まってるから。それ以上のアプローチは厳禁な。これ霞凛奈ファンクラブ第3条ね」
「わ、わかってるよ、じゃあな」
男はそそくさと去っていった。
うーむあの様子だとファンクラブには入っているようだな。あとでファンクラブ会長からキツイ制裁が下るだろう。
凛奈を見る。相変わらず可愛い。黒く艶がかった長いストレートヘアー。背が小さめだがちょっとつり目なところがこれまた似合っている。
「ら……阿見君。何してんの?」
凛奈がわざとらしく俺の苗字でそう呼んできた。まあ来太って呼びかけてたけど。
いつの頃からか、俺たちは学校では名前で呼ばなくなった。理由は思い出せない。大したことではなかったと思うが。
「別に。お前が嫌そうにしてたから、気まぐれだよ」
俺もなんとなく気恥ずかしかったので、そんな感じでごまかした。
「ふーん」
凛奈は笑っているような、というか小馬鹿にしたような顔で俺を見てそう言った。
「まあいいや、俺は帰るわ」
「あ、ちょ、ちょっと待ってよ。せっかくだし一緒に帰ってよ」
「珍しいな、そんなこと言うなんて」
「別に! また告白されたら面倒だし、あんたは盾みたいなものよ。じゃなきゃ一緒になんて帰らないでしょ」
やれやれ、幼なじみを盾扱いかよ。
当たり前だが俺たちは一緒に帰ったりしない。変な噂を立てられても凛奈が困るだろうし。
とはいえ凛奈本人の申し立てだ。別に無理に断る理由もないわけだから、一緒に帰ることになった。
久々に、田んぼばかりの帰り道を二人で歩いて行く。
「ねぇ、来太」
「何」
「なんであんたがファンクラブの条約なんて知ってんの」
そう訊いてきた凛奈は、どこか楽しそうだった。
「流星から聞いたんだよ。あいつ凛奈のファンだからな」
「なーんだ。あんたがファンクラブ入ったのかと思った」
「誰が入るかよ」
「べーっだ。私だって来太なんかに入って欲しくないもんね!!」
凛奈は舌を出して怒ったようにそう話す。
実は俺は一度、入会を検討したことがあったが、見事に書類落ちした。
ファンクラブ会長曰く、幼なじみという属性を持っているだけで俺は死に値するらしい。生きるって難しいね。
「そんなことより、凛奈はいつまで告白を断り続ける気だ?」
不意に俺は、凛奈にそう尋ねた。
凛奈はほぼ毎日誰かしらから告白されている。だがそれを彼女が受け入れたことはない。
中には女子に大人気のサッカー部のキャプテンなんかもいたが撃沈していた。
凛奈の好みはよくわからない。
「んー、別に。好きでもないのに付き合う気がないだけ」
「じ、じゃあ凛奈って好きなやつはいるのか?」
俺は少し食い気味でそう訊いた。
う、今のは少し怪しかったかな。
凛奈に好きな人がいるのかどうかは気になる。いたらたぶん俺は……落ち込む。
俺のその問いに対して、凛奈はこっちを見た。ジト目で、まるでアホな犬を見るように俺を見ていた。
「馬っ鹿じゃないの。なんであんたにそんな事言わなきゃいけないの。だいたい何、あんた私の恋愛について、き、興味でもあるわけ?」
俺を小馬鹿にした様子だった凛奈は、何故か後半は少し気恥ずかしそうになっていた。
恋愛の話はやっぱり恥ずかしいんだな。
「べ、別にお前の恋愛なんて興味ねーよ! これっぽっちもな!」
俺はなんとなく強がった。
すると凛奈の顔はみるみるうちに赤くなっていく。
「かっちーん! ああそうですか! まぁそりゃそうでしょうね。全くモテない来太には恋愛の話なんて早すぎるもんねぇ!?」
「モテないのとは関係ねーだろうが!」
「だって事実じゃん!」
「なんだと! 俺だって昨日女子から手紙貰ったんだぞ!」
「え……?」
「あ……」
喧しかった俺たちは一瞬にして静まり返った。
やべ……言うつもりのない事を言ってしまった。
そう、昨日俺の靴箱に女子からの手紙が入っていたのだ。
凛奈は宇宙人でも発見したかのように、口を開けたままだ。
「あ、あんたに手紙? あり得ないでしょ、あり得ないわ」
「い、いやそう言われても貰っ「あり得ないって言ってんの!!」
いきなり凛奈が大きな声を出したのでびっくりした。
ここが田舎道じゃなかったら犯罪に巻き込まれたかと思われるだろう。
「な、何怒ってんだよ。つーかなんでそこまで否定されなきゃなんねーんだよ」
「……ご、ごめん。けど、本当なの? その手紙」
「まぁ……うん」
「誰から! どんな!」
「いや、言いたくねえよ」
なんか恥ずかしいし。
「いいから! それとも何? 本当はそれ誰かのいたずらなんじゃないの?」
「いたずらじゃねーよ! ……たぶん」
わざわざいじりがいのない俺に、いたずらするもの好きはいないだろう。
「じゃあ教えてよ。いいじゃん、“幼なじみ”でしょ、私たち」
「都合の良い言葉だな全く」
「いや、ピッタリの言葉でしょ」
「……まぁいいか。同じクラスの坂東さんだよ」
「……へぇ……意外」
自分から聞いといて浅い感想だな。
坂東さんは、クラスではあまり目立たない人だ。俺もほとんど喋ったことがない。眼鏡をかけてて、いつも一人の印象がある。いわゆる地味なのだ。
「俺だって意外だよ。あんま話したことないし」
「あんた坂東さんに何したの」
「何もしてねーよ! 本当に心当たりがないんだって」
「じゃあやっぱ何かの間違いに決まってるわ。手紙には何が書かれてたの?」
「それは別に……なんでもいいだろ」
思わず俺は手紙に書かれていたことを思い出してしまい、顔が熱くなるのを感じた。
手紙には俺への想いが綴られていたのだ。今まで女子にそんなことを言われたことがなかった俺は恥ずかしくてしょうがない。
俺の顔をじろじろと見る凛奈は、鼻を鳴らすと不機嫌そうな顔になった。
「それで? あんた返事は?」
「明日、する、つもり」
「……オッケー、するの……?」
そう聞いてきた凛奈は、まるで子猫のように、弱々しく、声が少し震えていた。
俺はなんて言おうか考えていると、凛奈は急に早歩きになった。
「もういい。家着くし。じゃね、馬鹿来太!」
「ばっ……えぇ……?」
凛奈は走って帰ってしまった。
なんで急に俺は馬鹿呼ばわりされたのか。まぁいいや、帰ろ。
そんなこんなで次の日。
朝っぱらから俺の鼓動はずっと早い。当たり前だが手紙の主の坂東さんも同じクラスな訳で。そうなってくると必然と意識してしまうというものだ。
時間は刻々と過ぎていく。手紙の返事は放課後、体育館裏でだ。
早く時間が来てくれないと、俺の心臓がもたん。緊張で死んでしまいます。
そんなことを考えながら俺はその日をなんとか過ごし、遂に放課後になった。
体育館裏に向かうと、大きな木の下に坂東さんが立っていた。立っていたのだが、驚いた。よく見なければ坂東さんだとはわからなかっただろう。
いつも一つに縛っている髪の毛を解いて、爽やかな雰囲気になっているし、なによりも眼鏡をかけていない。
眼鏡をかけていない坂東さんは、正直いってかなり可愛かった。
「あ、あの……阿見くん」
坂東さんが俺に話しかけてきた。
「う、あう。え、えーっと、はい、阿見です」
とんでもないきょどり方をしてしまった気がする。
そんな俺を見て緊張が和らいだのか、坂東さんはくすりと笑った。
「来てくれて、ありがとう」
「……坂東さん、なんかいつもと雰囲気違うね」
「こっちが素なの。内緒だよ」
そんな感じで、俺たちは少しの間談笑を楽しんだ。そして、坂東さんが俺の事を好いてくれている理由も教えて貰った。
それは結構驚きのものだった。けれど納得に足る理由だとも思えたから不思議だ。
「阿見くん。改めて言うね、好きです、付き合ってください」
面と向かって告白されてしまった。
これで俺もちゃんと答えなきゃならない。
ふと脳裏には、凛奈の笑顔がよぎった。
「ありがとう。けどごめん」
俺は断った。理由は敢えて言うなら坂東さんの事を全然知らないからだろうか。
それとも、さっきちらりと脳内に浮かんだ幼馴染みが関係しているのだろうか。
坂東さんには勿論前者を伝えた。
「……そっか。でも私、諦めないよ。友達からならいい?」
「勿論」
そんな感じで俺と坂東さんは友達になった。
ドキドキしたけれど、貴重な体験をしてしまった。
次の日俺は、いつものように家を出て学校に行こうとしたのだが、何故か家から出た少し先の電柱に凛奈がいる。
「何してんだお前」
俺がそう尋ねると、凛奈は、不安げな目をしている。
「来太、昨日、ど、どうだったわけ?」
「昨日? ああ、そうだな。断ったよ」
「やっっ……たっ!」
見たこともない雄叫びとガッツポーズを見せた凛奈。
な、なにこれ。
凛奈は雄叫びを上げたあと、我に帰って真っ赤になっていた。
「ち、違うからね今のは別に」
「何が。というか意味わからん。俺に彼女が出来ねーのがそんなに嬉しいのか?」
「違うって言ってんだろーーがー!」
「うっ」
ケツをバッグで叩かれた。
俺にいつまでも彼女が出来ねーのを馬鹿にしてんのかと思ったらそうじゃないのか。
「そ、それでなんで断ったの? ねえねえ」
「別になんでもいいだろ」
「なんでよ、ねえねえ、教えなさいよ」
「なんだこいつ急に元気になりやがって、めんどくさ」
登校はそんな感じで終始だるがらみされていた。
凛奈は上機嫌のようだ。
学校に着いて、教室に入ると自然と席に座っていた坂東さんと目が合ってしまった。
「おはよう、坂東さん」
「おはよう、阿見くん」
どこか気恥ずかしいがそう挨拶して俺は席に着く。
するとその様子を見ていた凛奈は、さっきまで上機嫌だったのに急に俺を睨みつけて、
「断ったんじゃなかったの」
そう言ってきた。
「友達になったんだよ」
俺はそれだけ言い返した。
むぅ、と唸ったような声を出した凛奈は納得してなさそうなまま席戻っていった。
そんな感じで、俺の新しい友人が出来てから一週間が経った。坂東さんは思ったよりも積極的で、毎日一緒に帰ろうとするし、隙あらば俺と話に来る。
こんな性格の子だったんだ……。
そんな風に驚いていた俺だったが、ある異変に気付いた。
「お前、今日なんで眼鏡してんの」
ある日、凛奈はなぜか眼鏡をしていた。特に目が悪い訳ではないと思うが……なんだか坂東さんの眼鏡と似た形をしているような。
「別に。似合う?」
「んー、そうだな」
「これじゃないのか……」
凛奈はそう言って考え込んだ。
何言ってんだこいつ。
また別のある日。凛奈はいつも下ろしている髪を一つに縛って垂らしていた。
「どう」
「どうって……似合ってるんじゃないか」
というか眼鏡も髪型も凛奈に似合わないものなどない。なまじ顔が完璧だと褒めようがない。
「うーん、違うっぽい……」
また凛奈はぶつぶつと言っていた。
そういえばこの髪型も坂東さんに似てるな。
そんな感じで凛奈は見た目をコロコロ変えてきた。何がしたいのかさっぱりわからんが、一つだけわかったのは坂東さんに似せてきてるってことだ。
気になってきた俺は、ある日家の近くで凛奈を見かけたので、とうとう本人に聞くことにした。
「なぁ、凛奈」
「あら、何かしら阿見くん。私に何か用でもあったのかな?」
「なんだその話し方……」
今は周りに誰もいないのに、なんで名字呼びなんだ……しかも話し方もなんかいつものトゲがある感じじゃないし……。
「何言ってるの? この話し方なら元からだよ」
「いつもなら、『何。来太』の一言で終わりだろ」
「そんなことないよ〜。ふふ」
不自然に笑う凛奈に俺は寒気がした。
この話し方、やっぱりそうだよな。
「意味わからんが……お前なんで坂東さんの真似してんの?」
「ばっ、ばばばば、馬鹿! してないわよ!」
アワアワし始めたぞ。
ようやくいつもの凛奈っぽくなった。
「なんかここ最近いつも坂東さんの真似してるよな、なんで?」
「してないっての! それよりあんたこそ、今日はその坂東さんと一緒に帰ってないのね」
「まぁ流石に毎日一緒に帰るのはな……」
周りにも流石に噂され始めてるし、恥ずかしくなってきたので今日は一人で帰ることにしたのだ。
「とかなんとか言って、あんた満更でも無さそうじゃん。来太ってああいうタイプが好きだったんだ」
凛奈はそう言ってくるが、それは当たり前というものだ。今までモテたこともない男が急に、女子からアプローチされたら悪い気はしない。
「別に。悪い気はしないけどな」
「えっ……」
「えっ、ってなんだよお前から聞いといて」
「じゃあまた告白されたら次はオーケーするの?」
「うーん、しないかな」
「なんでよ」
「そうだなぁ。別に好きな訳じゃないし付き合わなくていいだろ」
「ふーん……あっそ」
夕焼けのせいか、凛奈の顔が少し赤く見える。何を照れてんだこいつは。
「じゃ、じゃあさ、来太って好きな人は、いるの?」
珍しく凛奈がそんな事を訊いてきた。
やれやれ、なんて困った質問だ。なんて答えるのが正解なんだよ。俺まで恥ずかしくなってきた。いっその事全部吐き出してしまおうか。
そう思っていたが、俺は喉元まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
腕を組み、余裕があると見せかける。
「だ、誰が凛奈にわざわざ教えるかよ!」
「何をー!! 来太の癖に生意気な! ……ていうかあんた好きな子いるんだ! へー! へー! 誰! 誰!?」
凛奈はいつの間にやら汗を滝のように流していて、詰め寄るように俺に尋ねてくる。
「い、いるなんて言ってねーだろ。もうこの話は終わりだ」
「いいから言いなさいよ!」
これもう恐喝だろ……。
どう答えようか。こんな時凛奈ならなんで返してたっけ……あ、そうだ。
「馬鹿、なんでお前に言わなきゃいけねーんだよ。凛奈は俺の恋愛に興味でもあるのか〜?」
俺は以前凛奈に言われた事をそのまま言い返してやった。ニヤニヤと余裕のある感じで言ってみたら、なんと凛奈が恥ずかしそうに顔を赤らめて俯いているではないか!
ま、まさかとは思うが、もしかして!? 凛奈は俺に気があったりするのか!?
夕焼け、なんだか良い雰囲気な気がする。凛奈とは長い付き合いだ。勿論普段は何でもないように接している俺だが、凛奈は可愛いし正直タイプだ。
気になっている人がいるか、だって? ああ、目の前にいるよ。これが好きなのかどうかはまだ俺には判断できないが、間違いなく特別な感情だ。
なら俺は、俺は――
「ぷーっ、あっはっはっは!」
突如、俺の目の前にいる幼馴染は腹を抱えて笑い出した。
その瞬間、俺は全てを悟った。や、やられた。
「何その真剣な顔! 笑い過ぎて、おなか痛い……! ねえねえ、もしかして何か勘違いしちゃった? ねえねえ来太」
つんつんと俺のお腹を指で刺しながら、凛奈は愉快そうにそう言った。
くそ、急激にほほに熱が集まるのを感じる。恥ずかしい、俺は何一人で真面目モードに入ろうとしてんだ。
「う、うっせー、なんでもねえよ! くそ、早く帰るぞ!」
俺はどうにかこの恥ずかしさを紛らわしたくて、そう言ったが、その後凛奈は帰る間俺をからかい続けた。その地獄のような時間を乗り切った俺は、凛奈の家との分かれ道でやっと解放されると安心しきっていた。
明日以降もからかわれるとかないよな……?
そんなことを思いながら、凛奈と別れて自分の家のほうへと歩いてくと、背後から俺の声を呼ぶ凛奈の声に呼び止められた。
なんだよ、またからかい足りなかったのか? そう思って、俺は振り返ると、
「そういえば、私にも気になる人、いるよ!」
凛奈は一言そう言った。
彼女はそれだけ言うと、背を向けて自分の家のほうに行ってしまった。
ぽかーんとして俺は道に突っ立っていた。
どういう意味だ? いやいや、簡単だろ。凛奈に好きな人がいる!?
え!?
俺はかなり動揺しながら、頭を働かせた。
なんで、こんなタイミングで凛奈はそんなことを?
全然わからん……ていうか相手誰だよ。まさか俺ってことは、ないよな……。
でも、わざわざ俺の前で言うってことは……ああ、わからん。
そういえば、近頃の凛奈、様子が変だった。坂東さんの真似してたし、やけに俺に絡んできたし、もしかして、坂東さんに嫉妬してたとか!
俺はそこまで考えたところで、自分の頬っぺたにビンタを入れた。
危ない、またあいつのからかいに引っかかるところだった。
そうだよ、だいたい「幼馴染」ってだけで世の中そんなに上手くなるようにできてねーんだよな。小説やドラマの中では、幼馴染と主人公がすれ違いながらラブコメディーをしていても、あくまでそれは作られた物語。全く現実味がない。
俺にはなんも関係がないのだ。
どうせさっきの凛奈のも、演技で嘘に決まってる。
そうだ、そうに決まってる。俺は自分にそう言い聞かせながらも、頭では去り際の凛奈を思い返していた。
なーんか最後の凛奈――左手で右ひじ掴んでたような……。
「いやいや、まさかね。」
久々の投稿でした