番外編3 梓紗の親友 〜レン目線〜
久しぶりの投稿は番外編からです。
「……。初めまして。レン。莉桜です。初対面の人間に挨拶もできないような人に敬意なんて必要ないよね?」
(こいつのどこがいい子なんだ?)
ぽかんとしながら俺はぼんやりとそんなことを思った。
俺はレン。生徒会役員で副会長をしているシンの双子の弟。
一卵性双生児であるため見分けがつかない俺とシンだが、頭の良さはシンにだけいってしまったようで俺はただの凡人だと思っていた。
『あなたがレンね?』
ほとんどの人間が俺を見てシンだと言う人間がいる中で梓紗だけは俺をレンと呼んでくれた。
その時から俺にとって梓紗は特別だったのに……。
いつだって俺が欲しいと思ったモノはみんなシンが持っていった。
無自覚なくせにシンは頭の良さだけでなくいいモノを引き寄せる力まであったようだった。
梓紗の気持ちまでも……。
シンを羨ましいと思わなかった日などない。今でも羨ましいと思っている。
だけど。
楽しそうに話をする梓紗との時間は嬉しかった。
そんな梓紗との会話で出てくる人物はシン以外にももう1人いた。
『莉桜』という梓紗のルームメイトで親友の存在だった。
『莉桜はね、とってもいい子なの!!』
自分のことのように自慢気に話す梓紗を可愛いと思ったが……。
(俺への態度はまったく可愛げがないじゃねぇか)
莉桜の俺に対する態度はいい子とはまるで違い、可愛げも何も感じなかった。
「ノクト。梓紗を捜しに行きたいんだけど」
(俺の存在をガン無視するつもりだな)
「そいつならいねぇよ。あといなくなった奴らもな」
莉桜の態度にムッとしながらも俺は答えていた。
「学園中を捜してくれたの?」
莉桜はようやくそこで俺の存在が無視できないものだと思ったらしい。
「ああ。アリオスの命令でね」
俺がそう言うと俺が何者なのかを見極めようと莉桜のエメラルドグリーンの目が俺のほうを見ていた。
(……へぇ?)
見られている俺自身も莉桜という人物を見ていた。
可愛げのない態度だなと思っていたが、莉桜自身も俺の態度に不満を持ったことが原因なのかもなと頭では理解した。
(理解したからと言って素直になれるかと聞かれれば否だがな)
ノクトの邪魔が入り、莉桜の観察はすぐに終わりを迎え、またしても莉桜にチクリと嫌みを言われたり、理事長室で共に(と言ってもノクトやクリスやアリオスも居たが)朝を迎えて、クリスの秘密や俺がシンの双子の弟であることを他の生徒会役員たちにも打ち明けた。
「レン」
ふいに莉桜に呼び掛けられた。
俺に対しての嫌悪感はなくなったようだが、まだ俺に対して警戒心はあるようだ。
(別にとって食ったりとか何かする訳ないのにな)
苦笑する俺を前にして、莉桜は決意したように顔を上げて言った。
「その……。ありがとう」
「…………は?」
礼を言われるようなことをした覚えがまるでない俺は反応するのに遅れてしまった。
「梓紗のことを捜してくれて。あっ、でも!初めて会話した時のあのバカにしたような態度はまだ許してないんだからね!!」
梓紗のことを捜してくれたことに感謝はしているものの警戒している相手に礼を言った恥ずかしさを誤魔化そうとして言った台詞に俺は笑った。
「わ、笑わなくていいじゃないっ!ホント失礼な人ね!!」
そう言ってプイっとそっぽを向く莉桜の横顔を見て。
(可愛いと思うなんてな)
そんな風に思った自分に顔が赤くなるのを感じた。
(俺は梓紗のことが好きなんじゃなかったのか?)
己の変わり身の早さに呆れながらも莉桜から目が離せないでいた。
(…………。いや。いくらなんでもないだろ)
梓紗から莉桜に傾きそうになる気持ちを頭を振って切り替えた。
(梓紗に対する思いをそんな簡単になかったことにできる気持ちだとは思いたくない)
梓紗の気持ちが俺になかったとしても。
ふと、俺は莉桜自身は梓紗をどう思っているのかが気になった。
「なあ」
「何よ?」
俺の呼び掛けに莉桜は反応した。
「お前にとって梓紗ってどういう存在だ?」
俺の質問に莉桜はぽかんとした表情をした。
「なんだ?その顔」
俺はムッとした表情を隠すことなく莉桜に見せた。
「梓紗を知ってるの?」
(そこからかよ)
莉桜は自分の知らないところで梓紗と俺が会っていたことに驚いていたが。
「いや。けど梓紗ならあり得るか」
などと小さく莉桜が言ったことは俺には聞こえなかった。
「梓紗のほうから声を掛けられて知り合った」
簡単にそう言うと莉桜はなるほどという表情をした。
「私にとって梓紗はどういう存在か、ね」
改めて聞かれるとは思っていなかったなぁと莉桜は苦笑しながら言いつつ少し考えていた。
「恩人、かな」
ポツリと莉桜は言った。
「恩人……」
(俺と似てる?)
「唯一無二の親友であり家族でもありルームメイトでもある大事な存在」
「……そうか」
「時々振り回されることもあるけど、憎めないんだよ」
莉桜の言葉に俺は苦笑した。
「お前がそれを言うのか?」
俺は苦笑しながらそう言った。
「?なんのこと?」
莉桜は気がついていないのか首を傾げた。
「振り回されるじゃなくて、お前が振り回しているんじゃねぇの?」
「は!?」
心底驚いて目を見開いている莉桜に俺は更に苦笑した。
(無自覚かよ。たちが悪いな)
「振り回してなんて……っ」
「いない。とは言い切れないよな?昨晩の行動では」
「…………。うぅ〜。やっぱりイヤな人間ね!」
もう、知らない!とでも言うようにそっぽを向いて行ってしまった莉桜に俺は笑いが止まらなくなった。
(いい子かどうかはともかく。見ていて飽きないヤツかもな)
そんな印象を莉桜に持ちながらもまだこの場所にいない梓紗のことも思った。
絶対助けてやるから。と固く胸に誓った。
お読みいただきありがとうございました。




