11.一瞬の出来事
冒頭の部分の視点が違いますが、すぐ、莉桜の視点になります。
静まりかえっている理事長室。聞こえてくるのは眠っていると思わせる寝息だけ。
そんな中、1人ふっと意識が覚醒し、目を開ける人物がいた。
学園の生徒会長であるノクトだ。
「…………」
状況を確認するため起き上がろうとしたが、自分に寄り添うように。━━というよりほとんど抱きついている感じで莉桜が眠っている姿があった。
つまり起きられない状況だった。
けれど。それでも良かった。起きるには早すぎる時間だったからだ。
莉桜の頭を撫でてみると莉桜はくすぐったそうに。けど幸せそうな顔をして眠っていた。
その顔をずっと見ていたいとノクトは思っていたが、再びきた睡魔に勝てそうになく、ゆっくり目蓋を閉じて眠りについたのだった。
*****
「……ん」
眩しさを感じて、私、莉桜は目を開けた。
ハッと意識が一気に覚醒するとばっと飛び起きようとした。
でもできなかった。がっちりとノクトに抱きしめられていたから。
「う……」
(うぎゃああぁぁぁ!!)
私はなんとか抱きしめられている状況から逃れようともがいてみるがそうするとますます私を抱きしめる腕に力が入った。
(おお、落ち着け。おお、落ち着くのよ、私。ええと。何がどうしてこうなったんだっけ?)
もがくことをやめて。状況の整理をすることにした。
昨晩、私はノクトの言いつけを破って帰って来なかった梓紗を捜しに学園に来て。けど、ノクトに学園に来たことがバレて。そんな中で裏生徒会の活動中だったクリスが誰かと一緒に学園から出てきて。クリスにバレて、感じの悪いレンっていう人と知り合いになり、理事長室まで行くことになって……。
(で、今に至る……)
理事長室にはアリオス先生がまだ残っていて仕事をしていて、私たちが来ることを予想していたみたいだったな。
その後、何か話していたようだったけど……。
(うわぁ……。全然記憶がない……)
話の内容が思い出せないとなるとあの後眠ってしまったのかも。
(不覚……!)
「ふわぁ〜……。あ?莉桜?起きたのか?」
机に突っ伏していたアリオス先生が起き上がり私の様子に気づいたようだった。
「お、おはよう、ございます」
「ああ。おはよう。それにしても……」
アリオス先生がそう言うとニヤリとした笑みを浮かべた。
からかわれる!?と私は構えたけど。アリオス先生は何も言ってこなかった。
「?」
私は首を傾げた。アリオス先生は何も言わずに立ち上がり、何も言わずに私に近づき、何も言わずに私をノクトから引き離した。
「ぐえっ!」
引き離された際、変な声を上げたことは許していただきたい。
「莉桜」
ふと、アリオス先生に声を掛けられた。
「はい、なんでしょう?」
私はそう返事した。アリオス先生は何も言わず、くしゃっと私の頭を撫でた。
「??」
私は訳が分からずされるがままだったけど、私の頭を撫でるアリオス先生の手とそして表情が優しげだったので胸がドキリとした。
「コーヒー飲みたい」
(頭撫でた後に言う台詞ですか!?)
淹れますけど!と私はそう思いながら理事長室から出て行った。
「どうぞ」
私はそう言ってアリオス先生の前にコーヒーを置いた。
「サンキュー」
すでに仕事を始めていたアリオス先生は私のほうを見ることなく返事だけしてくれた。
私はまだ眠っているノクト、クリス、そしてレンに毛布を掛けようと近づいた。
クリスやレンは毛布を掛けてもまだ起きる気配はなかった。
ノクトに近づいた時だった。
「お前が淹れてくれたコーヒーって美味いんだな」
アリオス先生が言った。
「インスタントですよ?」
私は苦笑してそう返した。そんな時だった。
『━━が淹れるお茶は美味しい』
そう頭の中で聞こえた。
(……え?)
『毎日飲みたい』
知らない誰かの声が頭の中で聞こえるとズキッと頭が痛くなった。でも気づかないふりをしてノクトに毛布を掛けようとした。
ノクトが目覚めようとしているのか、何かを手探っているようなしぐさをした。
そんな中での一瞬の出来事を私は見逃さなかった。
ノクトに重なるように“誰か”がノクトから見えた。
(え!?)
私は驚き、ノクトに近づいた。
「ノクト?」
私が声を掛けるとノクトがハッとしたように目を開けた。
私の顔を見て驚いたような表情をして。その後すぐに安堵したような表情を浮かべ、そのまま抱きしめられた。
(なな、何事ー!?)
私は驚き、カチーンと身体の動きを止めた。
「おいノクト。俺がいることを忘れんなよ」
後ろからアリオス先生の声が聞こえた。その声は不機嫌なように聞こえた。
「忘れていませんよ」
そう言ったノクトは私から離れた。
いつものノクトに戻って安心したけど。ノクトが起きる前に出てきた現象のほうが気になった。
「これは牽制です」
ノクトの声が聞こえてきてさっきのことは自分の中に留めておくことにした。
「牽制、ね。無駄だと思うけど?」
ノクトを挑発するようにアリオス先生は言った。
いつの間にかノクトとアリオス先生の間にはピリッとした緊張感が漂った。
(えっと?)
この状況について行けてない私はぽかんとするしかなかった。
(一体、何が始まるの?)
そんなことを考えているとポンッと肩を叩かれた。
ビクッと驚いて隣を見るとクリスが立っていた。
「クリス。お、おはよう」
「おはよう莉桜。今日も可愛いね」
「……は、はい!?」
突然の付け足し台詞に言われ慣れてない私は顔を真っ赤にしてしまった。
「顔を真っ赤にしちゃって。ホント可愛いね。いつも思ってて言いたいなって考えてたんだけど、女子の制服を着てる時は言えなかったからさ。言えて嬉しい」
嬉しそうに言うクリスを前にして私は情けないことにあわあわとするしかなかった。
(この人誰ですか!?ホントにクリスですか!?)
そう考えてはたっと我に返った。
そうだった。私は彼?に確認をしなくてはならなかった。
「あの、クリス」
「うん?どうしたの?莉桜」
私の呼び掛けにクリスは嬉しそうに言った。
「クリスがアリオス先生の弟って本当のことなの?」
ノクトが嘘を言ったとは思ってない。けれど、やはり本人の口から聞いておきたいという気持ちもあった。
「本当だよ」
クリスはあっさりとそう言った。
「でも。勘違いしないで。俺はちゃんと女が好きな男だから。女の姿になっているのは……訳あり」
クリスはそう言って遠い目をした。
(アリオス先生の弟さんなら、無茶ぶりか何かをさせられたんだろうな)
そう考えて。よしよし。とクリスの頭を撫でた。
身長差があることを忘れてついつま先立ち状態での頭撫でだったけど。クリスは顔を真っ赤にしていた。
「ヤバい。何コレ。なんでこんなに可愛いんだよ」
クリスがボソッと小さくそう言った。
「え?何か言った?」
私には聞こえなかったから聞き直してみた。でもクリスには聞こえていなかったようで顔を両手で隠しながら何かを我慢しているようにも見えた。
「???」
私はクリスから離れて首を傾げるしかなかった。
案の定、私は気づいていなかった。
クリスの頭を撫でている時にノクトとアリオス先生の背後から不穏な空気が出ていたことを。
そして。
「……目を覚ますタイミングを見失った俺はどうすればいいんだ?」
存在すら忘れられてしまっているレンの言葉が誰の耳にも入ってなかったことを。
私を巡るバトルが私の知らぬ間に始まったことすらも気づくはずなかった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。ブクマをしてくれた方、ありがとうございます。
また不定期投稿になります。




