番外編2 クリスティーナの憂鬱
「はぁ。めんどくさいな」
思わず出た言葉に周囲に誰もいないことを確認した。
つい先程までアリオス先生と共にいたのだが、何を思ったのかアリオス先生はふらりとどこかに行ってしまった。
失礼。紹介が遅れてしまった。私はクリスティーナ。生徒会の広報を担当している。
広報と言っても私の場合はもっぱら情報集めを中心にやっている。
学園内の不穏な空気にいち早く気がついていたアリオス先生は私に調べるよう言ってきた。
私の……。俺の女顔は女子生徒の警戒心を解くには打ってつけらしい。
(誰も俺を男だと認識してくれない)
まぁ、男であることを言っていないのは確かだけど。というよりあの人、アリオスのせいで隠されていると言ってもいい。
(あの男と兄弟とか本当に面倒だな)
年が離れているがアリオスと俺は兄弟だ。
俺の本当の名前はクリス。クリスティーナは後づけされたもう一つの名前だ。
俺が生まれた時に女顔をしていたせいか、母親が女の子が欲しかったせいなのか俺は何故か女として暮らすはめになってしまった。
成長していくにつれて女として暮らすのはイヤになってきていたのだが、俺を唯一男として認識してくれたのがアリオスだった。
両親の目を盗んで遊びに連れて行ってくれたり、母親がいない時はクリスと本当の名で呼んでくれたりとアリオスは俺を気に掛けてくれた。
(それに対しては恩義を感じているが。それとこれとは話が違うだろ)
裏生徒会の話が出た時には嫌な予感はしていたが。
誰もいなくなったところにアリオスが俺に言った。
「お前には裏生徒会を中心にやってもらうから」
「は?」
「兄の仕事を弟のお前も手伝えって言っている」
「今まで散々手伝ってきたのにまだ手伝えと?」
「当然だろ。お前のことをわかっているのは俺だけで俺のことをわかっているのはお前だけだからな」
「……俺は別に男であることを隠す必要は……」
「俺が嫌なんだよ」
アリオスは俺の頬に手を添えた。
「お前の秘密を知っているのは俺だけでいい」
「……!」
アリオスにそう言われると胸がぎゅっとなってしまう。……何も言えなくなる。
「それに。アイツを傷付けたヤツを野放しにはできない」
アイツとは生徒会庶務の莉桜のこと。アリオスは莉桜のことを気に入っているのかよくからかいに行っている。
「お前だって気に入ってるだろ?」
俺の考えはお見通しだと言わんばかりにアリオスは言った。
(そう言われるとそうだが)
莉桜のことを考えると別の意味で胸がぎゅっとなった。
莉桜は何も知らないはずなのに俺をクリスと呼んでくれる存在。
(けど。この気持ちは気づいてはいけない)
アリオスは自分のために俺を縛り付けようとあんなことを言ったのだ。少なからず恩義を感じている俺が自分から離れないように。
だけど莉桜は……。
(莉桜は何も知らないけど俺をクリスと呼んでくれる。でも莉桜には……)
「クリスティーナ、残っていたのか?」
その声を聞いて胸がざわっとした。
「会長。ええ、少しやり残したことがあったので」
私はすぐに女のクリスティーナとなった。けれど彼、ノクトは……。
「クリスも面倒なことに巻き込まれたみたいだな」
「……!?」
本当の名前を呼ばれ、身体がびくりとした。悟られないよう気をつけたが。
「俺の莉桜に本当の名前を呼ばれるのはどんな気分だ?」
(まだお前のじゃねぇだろ)
「なんのことかしら?」
私はすっとぼけることにした。アリオスも面倒な男だが、ノクトも面倒な男なのだ。
「知らないとは言わせない」
ノクトの雰囲気が変わる。けれど私は動じずにいた。莉桜のことに対してはノクトは本当に面倒な男だ。
(それでいて莉桜には全く好意が伝わっていないのだからヘタレもいいとこだよな)
「アリオス先生に頼まれたことを思い出したから失礼します。会長」
ノクトを残し教室を出るとため息が出た。
「本当に面倒くさい」
自分はこれからも面倒な男たちに絡まれながら生きなければならないと思うと本当に憂鬱だった。
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