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1話『今日から魔法少女、始めます。』その①

1話は3つに分けて投稿すると思います。

 その日はまだ、ここ最近の『相生山 友香』にとっては何気ない日常であった。鳴り響く目覚まし時計の音を止め、睡魔に少しやられて10分遅れで起床する。完全に起きたと実感したのは、ベッドの上にある物置きの板に置いてある眼鏡を取ろうとして、間違えて目覚ましを頭の上に落してしまった時である。

 友香の容姿はそれほど特徴を得ているものではなく、他と違う個性といえば、少し赤みがかった茶色い髪だけであった。肩にぎりぎりかかるぐらいの髪と、小ぶりな胸、高校2年生にの平均的な身長ぐらいの女子であった。着痩せするタイプなので見た目は問題ないが、実はこれ以上自堕落な生活を送るとビキニが着れないぎりぎりである。

 今日の朝は焼きたてのトースト2枚にマーガリンを塗って食べるというシンプルな食べ方であった。そこまで料理の技術が高くない彼女は、忙しい朝は基本的にトーストに前日に買っておいたサラダを合わせるのが基本的な朝食だった。

 食べ終わったら、ぼさぼさした寝ぐせを整え、パジャマを脱ぎ、つい先日クリーニングに出したばかりの制服に着替える。そして、一杯の牛乳を飲んだら学校に登校する。

 「いってきまーす!」

 その言葉に、誰かが返事をすることはない、なぜならここは彼女が通う学校の学生寮であり、彼女は家族の住む街を離れ、この『陽昇市(ひのぼりし)』へと引っ越してきたからである。

 学生寮から学校までは距離があり、友香はいつものようにバスで通学していた。バス車内での待ち時間をつぶすため、彼女はバックからスマホとワイアレスイヤホンを取り出し、それを耳にはめてネットの動画ニュースを見ていた。見出しには【今話題の魔法少女!!《スカーレット・プリンセス》を追う!!】と書かれており、アナウンサーたちの間に置いてある大きなスクリーンには、一人の魔法少女が映し出されていた。

 おそらくは肩までかかるであろう長く赤い髪を一つにまとめており、華やかな赤いドレスを身にまとうその姿は、まさに『真紅の姫』の名にふさわしい姿をしていた。

 『その圧倒的な強さと魅力的な姿から、多くのファンを持つ魔法少女ランキング1位の《スカーレット・プリンセス》さん、今日は彼女のこれまでの活躍を振り返っていきたいと思います!』

 アナウンサーがそういうと、画面では彼女が初めて公に姿を現した日の映像が映し出されていた。

 『2年前、私たちの前に初めて現れた謎の生命体インフェルトと共に現れ、私たちを救ってくれた救世主、それが《スカーレット・プリンセス》さんです。彼女はそれからも《インフェルト》を数多く退治し、その姿は多くの人々の憧れとなりました。そんなある日…』

 と、そこから先に言っていることは全く聞き取れなかった。

 なぜなら、謎の揺れと同時にバスが大きく揺れ、近くの街路樹に衝突してしまったのである。

 「おい、何が起こったんだよ!?」

 乗客の男性が強く打ったのであろう頭を押さえながら叫ぶ声を聞き、友香は窓の外の景色が気になり、衝撃で開いたドアから外に出た。

 十字に交わる道路の中心、本来であれば絶えず車がそこを通り、人ひとりいることすらあり得ない場所に居座るように、2m以上の体躯の怪物がいた。大きなかぎ爪、緑の肌に邪悪な角を持ったヤギのような怪物が立っていた。

 「《インフェルト》…」

 友香が思わずその名前を呟く、友香自身本物に出会うのはこれが初めてであった。

 インフェルトは人の乗っていない車を軽々と持ち上げ、20m先の車に向かって思い切り投げる。二つの車が激しくぶつかり、爆発が起こる。先ほどまでの出来事とは打って変わって、完全にここは恐怖渦巻く空間となってしまった。

 「このままじゃ…」

 と思い、携帯電話を取り出した。しかし、そこでふと気づいた。

 「っていったいどこに通報したらいいの…?」

 慌てて携帯を取り出したものの、インフェルトの存在は魔法少女が対処するため、そこに伝えるのが最優先ではあるのだが、優香は魔法少女の携帯電話の番号を知っているわけではなかった。

 どうしようといろいろな考えを浮かべていた時、突如空中からピンクな光と共に、光の矢がインフェルトの居た場所へ降り注いだ。

 「おい!あれ!」

 近くを通りかかっていた男性が、空を指さし言った。優香もその声につられて視線を上に向ける。そこにいたのはいつも映像で見ていた存在であった長い赤い髪に可憐なドレスの女性がそこにいた。背中には普段はついていない羽が存在し、その姿はもはや天使にすら思えた。

 「間違いない…《スカーレット・プリンセス》!!」

 思わず、その名前が口に出る。今までテレビの向こう側の存在だった彼女を生で見ることができたことに、先ほどまでの恐怖感と緊張感はかき消され、心の感情は安堵と、高揚感であった。

 やがてインフェルトがいた場所の土煙が晴れる。インフェルトは出血などといったリアルな損傷は一切ないものの、体のふらつき具合から先ほどの攻撃でかなりのダメージを受けているのだと、友香には理解できた。

 『ギャブシャアアアアアアアアアアアアア!!』

 インフェルトがこの世の生物とは思えない鳴き声をあげ、地面に着地したプリンセスに向かって自身の鋭いかぎ爪で切りつける。しかし、寸前のところで赤いバリアによって完全に弾かれてしまう。その後も何度も切りつけるが、バリアは傷一つつかなかった。

 「————」

 何と言ったのかは聞こえなかった。いや、友香以外の人間には今彼女が何か喋ったのかすらわからなかった。遠目からであったし、眼鏡をかけなければ視力の悪い友香であったが、なぜだか知らないがはっきりと今彼女は『何か』を呟いたのだけ、それだけ理解できた。

 その時、プリンセスが纏っていたバリアが前方に移動し、インフェルトは弾き飛ばされ耐性を崩してしまう。インフェルトが立ち上がる頃には既に『詰み』の状態であった。プリンセスは持っていた弓を引き絞る。赤とピンクの入り混じった光が、矢の一点に集中する。放たれた矢は流れ星のごとく、インフェルトの胸を貫いた。まるでファンタジーのような魔法の矢の溢れ出す光と共に、インフェルトはシャボン玉のようにポンと四散する。その光景は別にむごたらしいものではなく、コミカルな感じであった。

 「ふう」と安堵の一息をついたプリンセスは辺りを見回し、少し高いビルの屋上へと跳躍した。直線距離で50mのところに存在する5階建てのビルに向け、彼女は助走をつけるわけでもなく、スキップのような軽やかな足でその場を蹴る。残された空間には戦闘での破壊の跡は残っておらず、先ほどのインフェルトが破壊した車などが残るのみであった。

 「あとは警察に任せるとしますか」

 そう言いながら、プリンセスは一回転しつつ華麗にビルの屋上に着地した。と同時に屋上のドアがバン!!と大きな音を立てて開く、友香が肩で息をしながら、20mビルの階段を上ってきたのだ。

 プリンセスは少し驚いたものの、すぐに冷静を取り戻し、友香に話しかける。

 「どうして、ここにいるってわかったの」

 「え、えっと」

 彼女には、友香がなぜここにこんなにも早く来ることができたのか、理解ができなかった。現在の場所は先ほどの戦闘のあった場所から直線距離で50mであり、それを彼女は一瞬の跳躍でたどり着いたのである。並大抵の人間では彼女がその場を離れてからこの場所に到着するのに約8秒、さらにこのビルは5階建てほどであり、エレベーターも無いため、上がりきるにはさらに時間がかかる。つまり、彼女の着地とほぼ同時なのは自分とは無関係のこのビルの人間以外ありえないのである。だが、学生服を身に着けた友香の見た目はとてもこのビルの関係者とは関連付けることはできない姿であった。

 「私、《スカーレット・プリンセス》さんのファンなんです。それで、あなたの活躍をいっつもテレビで見ていたんですけど、《スカーレット・プリンセス》さんはいっつもその場から去る時に近くの一番高いビルに向かってジャンプすることが多かったので、この辺りで一番高いこのビルかなって思って…」

 と、友香の説明を聞いたプリンセスはため息をついた。確かに彼女は狙って高いビルに意図的に飛んでいるところはある。

 だが、まさかその行動から場所を特定されるということは、彼女にとっても初めての経験であった。

 「なるほどね、それであなたは一体私に何の用なのかしら?サインならお断りなんだけど…」

 「い、いえ!サインとかじゃなくて…いやサインを貰おうかなとかは思ってたりもしてましたけどそっちが第一じゃなくて…」

 「じゃあ何の用?」

 「えっと…私もあなたみたいな魔法少女になりたいんです!!」

 勇気をもって、彼女は自分の胸の内に秘めたことを口に出した。

 「私、中学の頃に『あの日のニュース』を見てから、今日までずっと魔法少女に…あなたにあこがれていたんです!」

 その言葉のあと、数秒の間が空き、彼女は呟く

 「やめておきなさい」

 「え?」

 「あなたは、私のようになるべきじゃない」

 そう言うと、彼女は屋上の柵を乗り越え宙に身を投げた。

 「あっ!!」

 慌てて友香が身を投げた彼女のほうへ視線を向けると、既に彼女の姿はなかった。残った友香の心には先ほどの彼女の言葉だけがもやもやと霧のように広がるだけであった。

 『私のようになるべきじゃない』

 その言葉の真意を、今の彼女は理解することは出来なかった。


改めて初めまして、なろう投稿は初心者ですが、最後まで完走できるよう頑張りますので、どうか温かい目でご覧ください

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