あらすじ
魔法少女ものが書きたかったです。
私は『魔法少女』が大好きだった。可愛くて、それでも強くて、みんなの注目の的だったみんなの憧れで、私の憧れだった。七夕の短冊には毎年好きな魔法少女のキャラクターになりたいと書いていたし、なりきりコスチュームや変身ステッキといったグッズも全部揃えていた。年月が過ぎ、小学校を卒業するころには友達のほとんどが魔法少女にあこがれることに飽きていた。数年ほどまでお誕生日プレゼントやサンタさんのプレゼントの権利を使ってまで買ってもらっていたグッズはいつの間にか服や化粧品やファッション雑誌などに使うようになり、昔のように全部揃えていたのは自分だけだった。親も「うちの娘はまだ子供っぽいところがあって…」という感じにどことなく自分を馬鹿にしていた。中学2年生に過ぎるころには、共感者は数人だけとなり、その数人も自分と同じようにグッズを買っているわけではなく、ただ単に自分の趣味を『個性』として見てくれるだけであった。
やがて、そんな私を『異物』として見る存在も現れ、私はいじめられていた。机に花瓶が飾られ勝手に死者として扱われたり、課題のプリントが破られていたり、遊ぶときも私をハブることが当たり前であった。親には『いじめられるのなら、そんなことをするのをもうやめなさい』と言われ、自分の趣味を否定されたこともあった。そんな毎日が私は大嫌いだった。そして、そんな毎日に対して何も変わろうとしない自分が嫌だった。でも変わる勇気もなかった。
だが、そんな毎日はある日崩れ去った。
本当はなんてことない普通の日のはずだった。何事も起きず、ただいじめられるつまらない人生を送るんだと思いながらリビングに入ると、両親の視線は起きた自分ではなく、テレビに釘付けであった。
私は目を疑った。今日は自分も知らない番組の放送日だったのかとすら思った。都会のど真ん中という現代の場所にそぐわない『異様なもの』が存在していた。体は何とも表現しがたい不気味なデザインで2mほどの怪人と、それと戦う可愛くて、それでも強い女の子…、まるで『魔法少女』のような人物が怪人と戦っていた。
手から発生したまばゆい光とともに現れたファンシーな弓を手に持ち、光の矢を構え、怪人を射抜いた。怪人は体液を出すわけでもなく、ピンクの光を放ち、まるでカートゥーン作品のように可愛らしく消えていった。そう、私が思い浮かべていた世界が、テレビの向こうとはいえ、現実として映っていたのだ。実写ではなかった。いつもであれば放送されていたニュースのテロップが現れ、それまで絶句していたアナウンサーが現場の状況を実況し出す。
『信じられません!私は今夢を見ているのでしょうか!?突如として現れた謎の生物は、今我々の目の前に立っている女性の手によって打倒されてしまいました!一体彼女は何者なのか!?』
そんな同様の混じったアナウンサーの実況に気づいたのか、魔法少女はカメラマンの元へと軽く飛び上がり、華麗に着地する。そしてアナウンサーの持っていたマイクを手に取り、カメラ目線でこういった。
『私は魔法少女、この世界を救う救世主よ!』
その日から、私の人生は変わっていないようで、どこかが変わったのであった。