カナリアの1日
7時13分
あの日以来、毎晩同じ夢を見る。あの雨の日の悪夢、やめてもうやめて!いつもそれで目がさめるのであった。
起床、歯を磨くと取り敢えず備え付けのシャワーへむかった。こうしてシャワーを浴びているとあの時の事を思い出す、そう雨が降っていたあの時の事を、私はすぐに浴室を出た。
「おはようございます、マスターカナリア今日の天気は晴れ、気温は24度、暑くもなく寒くもなく外に出られてはいかがでしょうか」
「私は遊びに来てる訳じゃないの、その必要はないわ」
「申し訳ありません」
「謝る必要はない、貴方は貴方の役目を果たしてくれればいいの白雲」
「心得ています」
この子は私の目的を果たしてくれるためのツール、もっと強くなってきっと見つけ出す。
「これからのご予定は?」
「午前中は特にないわ、昼からは訓練所にいって少し体を動かしたい」
「承知しました」
時間を見るとまだ7時41分、好きな読書をすることにした。最近読み始めた本、ここには大きな図書館があってそこから借りてきたものだ。題名は人は何故生きるのか、そして死ぬのか。人はいつか必ず死ぬ、それは何故なのか人は皆死を恐れ少しでも生きたいと願う、しかし人は死んでしまうのだ。この矛盾、この本によれば人は生きるために死ぬらしい。人とは個人の事ではなく人類そのものを指している。人類が生き残る為には、人は生まれただけ死んでいかねばならないそう書かれている。確かにそれは間違ってはいない、だけどそれじゃあ生きていてほしいという思いは人類にとっては思ってはいけないことなのか、少なくとも私の中では違っていた。
「マスター」
「マスターカナリア」
「何」
「そろそろ12時をまわります」
気がつくともうそんな時間になっていた、本を閉じると食堂へと向かった。お昼時と言うのに食堂には人影はない、それもそのはず、この宿屋には私たちルナトマ以外はいないのだから。食券売り場の前で足を止めるとメニューを見る。
「色々あるのね」
「何かお好きなものは有りましたか?」
「別に」
お金を入れると一番上にあるハンバーグ定食に手を伸ばす、が届かない。
「ん、んんん」
「マスター、私が押しましょうか」
「余計なことしないで」
椅子を持ってくるとその上に乗ってようやくボタンを押した。
「流石ですマスター」
「馬鹿にしてるでしょ」
「…」
「まぁいいわ、さっさと済ませて訓練所へ行きましょう」
しばらく待つとハンバーグ定食が出されてきた。食堂というから、期待はしていなかったけど、なかなかのクオリティである。溢れる肉汁、キラキラと光るハンバーグはまるで料亭出たされるもののようだった。
「はぁー」
凄く美味しそう。
「マスター」
「っは」
「な、何よ」
「いえ、目がキラキラとしていたもので、余程お気になされたのかなと」
「余計なお世話よ、別に期待なんかしてなかったし」
「そうですか」
「そうよ!」
フォークを手に取ると一口サイズに切り口へと運ぶ。
「んー♪」
お、美味しい口の中に溢れる肉汁中には大好きなチーズが入っている。
「っは!」
「べ、別にそんなに美味しくはないんだからねっ」
「私は何も言っておりませんマスター」
しまった、あまりの美味しさについ動揺してしまった。
「私の事は気になさらずどうぞ召し上がって下さい」
「言われなくてもそうするわ」
「ところで前から気になってたんだけど、そのマスターって言うの止めてくれない?」
「ではどのようにお呼びしたらいいのでしょうか」
「カナリアでいいわ」
「了解しましたカナリア」
13時00分
一度部屋に戻り歯を磨いて、動きやすい服装に着替えてから訓練所へと向かった。どうやら先客がいるようだ。あれは確かアンリエッタとか言ったかな昨日隊長と口喧嘩してた。別に興味もないし、私は私の事をするだけ。
「白雲、訓練戦闘準備」
「了解、通常モードから訓練モードへと移行します」
アーマーが装着されスコープが取り付けられた。
「仮ターゲット数8、3時方向に4、6時方向に3、12時方向に1出現カナリア指示を」
「敵の攻撃をかわしつつ9時方向に移動しターゲットをまとめ次第捕捉開始、ロックオン次第攻撃を開始」
「了解」
「警告、右翼に被弾飛行制御40%低下、囲まれます」
「左翼の制御を20%まわして、そのまま上昇、その後高エネルギーで一掃するわ」
一気に上昇すると、敵はそれを追いかけるように下にまとまった。
「いまよ!」
「エネルギー解放、チャージ出力90%発射」
「敵完全に消滅、ミッションクリアです」
「ふぅ」
一息つき、スコープをはずすとどこからか拍手が聞こえる。
「やるじゃねえか」
見るとアンリエッタがこちらに歩いてきている。それを軽くスルーし再びスコープを被ろうとしたところで、それをさらわれた。
「ちょっと、返してよ」
「まぁそう邪険にするなよ、お前さ前の戦いでもかなりの数倒してたよな」
「別に大したことじゃないし、お前じゃない」
「あぁ、わりぃわりぃ、カナリアっつったっけ?俺はアンリエッタ宜しくな」
今さら自己紹介されても、ましてや興味もない。
「やっぱ、実力が全てなんだよ、なのにあの隊長ときたら味方を守れだの命令違反だのやになるぜ」
「私は別に他人の評価なんて興味ないし」
「そうだよなぁ、カナリアとは気が合いそうだ」
「はぁ」
なんでそうなるのよ、私はなんの興味もないのに早くどっか行ってくれないかな。
「アンリエッタ少尉、カナリアは今訓練中です。話はまた後でお願いします」
「そうだったな、邪魔したな」
ナイス白雲。
アンリエッタはさっきいた場所に戻ると再び何かし始めた。アンリエッタのメイルコアは、黒く鋭くその大きな鎌はまるで死神のうだ、その見た目からはアンリエッタらしい孤高さを感じられる。
「どうかされましたか?」
「なんでもないわ、続きを」
その後、数時間程訓練メニューをこなした。訓練所を出るとベンチに腰かける。ふと頬に冷たい物が当たる。
「ひゃっ」
「ほらよ」
どうやらアンリエッタの仕業らしい、その手にはジュースが握られている。
「あ、ありがとう」
アンリエッタはジュースを手渡すと横に腰かける。それにしてもでかいな、身長何センチあるんだこの人は。
「からだ動かすとスカッとするな、早く実戦したいよな体がなまっちまうよ、あー早く戦いてー」
「貴方は何のために戦うの?」
そういったあとにカナリアは後悔した、興味もないのに何でそんなことを聞いたのだろうか、ただ何も話さないのは気まずいからふと疑問に思ったことが口に出てしまったのであった。
「戦う理由か、そうだなもう何もできずに見ているだけっていうのが嫌だから…かな」
普段は荒い言葉遣いのアンリエッタだったがその時の横顔は何故かとても美しく見えた気がした。
「なーんてな、まぁあいつらをぶっ殺したいからだよあはは」
「そう、その図体ならブラギドの方がびびって逃げ出すんじゃないかしら」
「なんだ、カナリア体が小さいこと気にしてんのか?」
「別にそんなこと言ってないでしょ」
「でかかろうが、小さかろうが関係ねーよ、要は何をなしたかだ
結果が全てなんだよ」
「それに、あと一年もすりゃ俺みたいになるって」
バンバン
「痛いんだけど」
「おお、わりぃわりぃ、じゃあまたな」
アンリエッタは立ち上がるとその場を去っていった。何なのよあいつ。
「それにしても疲れたわ、戻ってシャワー浴びよ」
「それでしたら大浴場へいってみてはいかがでしょうか」
大浴場か、人がいるとこは嫌いだけど、どうやらここには私たち以外いないみたいだし。
「そうね」
9時14分
「あ」
大浴場へ向かうと人影が見えた。誰もいないと思っていたのに。どうやらリザのようだ。
「こんばんは」
リザは昨日のことが気になっていたらしく聞いてきた。あまり話す気はなかったけど、リザの情報は確かに有用だ。今後仲良くしていればもっといい情報が得られるかもしれない。
「今度また一緒に来ない?」
その言葉にリザはこころよく答えてくれた。
部屋に戻ると、時計を見る。既に10時を回ろうとしていた。
「もう寝よう、白雲電気を消して」
「了解しました」
10時1分あまり寝たくはなかった、またあの夢を見るから、今日は違う夢を見られますようにそう願いながらカナリアは眠りについた。