初の戦闘
ルナトマに配属されてからは様々な研修を受ける。メイルコアの扱い方や敵対するアンノウンの情報、決まり事などその内容は様々だ。出撃の命令が出るまではそれが我々ルナトマの仕事となる。配属されてから数日、出撃の命令はなく穏やかな日々が続いていたが、そんなある日アラームが鳴り響く。
「緊急事態、各員は出撃の準備に移ってください、繰り返します…」
「お、やっときたか!面倒くさい講義には飽き飽きしてたんだ」
「初出動…、緊張してきました」
「大丈夫、皆訓練通りに動けばなにも問題ないはずだ」
「リザ少尉、現状報告を」
「はい、偵察部隊からの情報によりますと敵アンノウンは北北東にある死海から、時速60㎞というスピードでこちらに一直線に向かって進行中です。数は27、個体は全て小型アンノウンのブラギドです。彼らの目的は不明、このスピードだと今日の17時頃にはこの都市に侵入します」
「成る程、ではその前に奴等を迎撃する。これより作戦を説明する、まずアンリエッタ少尉は機体の防衛に、それの援護をリザ少尉、艦の周りにいる敵は僕とアンリエッタ少尉で排除、カナリア少尉は敵を捕捉次第撃墜してくれ」
「了解」
「ちょっと待てよ、なんで俺が艦の護衛なんだ?」
「それが一番適任だからだ、これは命令だ」
「っち、分かったよ」
「よし、では作戦に移る」
目的地はかつて漁が盛んだった場所、しかし今ではアンノウンの汚染が進み生物が一切生息しない死の海となってしまった場所、やつらを殺すと黒いヘドロのようなものを撒き散らすのだ。
それは生き物を腐らせやがてその土地では住めなくなってしまう、だからこそ奴等を都市に近づけさせる訳にはいかない。
小型の戦闘機を使い目的の場所へと向かう、この輸送機も対アンノウン用に開発されたもので、普通の輸送機と違い甲板のようなものがあり、その場に制止する事もできる。まるで空中戦艦のようだ。輸送機に乗り込むと1時間程で目的地に到着した。
「間もなく対象と接触するポイントです」
そのアナウンスとともに五人は甲板に出る。辺りは波もない、まるで血のように赤い海と生ぬるい風と生臭い嫌な臭いが鼻をついた。
「私、死海って初めてまさかこんな感じなんて…」
「生物が生きていけるような場所ではないな」
「海水を分析…、生物反応0、酸性濃度が高く浸かると人体に影響を及ぼします」
「おっと、奴さんだちのご登場だぜ」
海の向こう側、多くの浮遊物がこちらへ向かってくるのが見えた。
「各員戦闘準備!」
その言葉を合図にメイルコアを装着する。
「それでは作戦通りに…」
「一番いただきー!」
「アンリエッタ少尉!」
アンリエッタはサリドが止める間もなくその群れに突っ込んでいった。と同時に今までただ真っ直ぐに浮遊していたブラギドは一斉にアンリエッタへと群がる。
「まずい、リザ少尉アンリエッタ少尉の援護を、私は艦周りの敵を排除する、ドロシー少尉は作戦通り艦の護衛、カナリア少尉は敵の数を減らしてくれ」
「了解」
一番に飛び出していったアンリエッタは、ブラギドに囲まれるも素早い動きでかわしながら武器を振りかざす。機動性に優れたアンリエッタの黒死は、強引ながらも華麗に敵を交わしながら攻撃を繰り出した。
「どうだ!」
しかし、攻撃が浅く入ったブラギドはすぐに再生し再び襲いかかってくる。
「っち、出力を上げろ黒死!」
「了解、出力70%」
「そーーらよっ!」
大きく振りかざされた鎌はブラギドの肉に食い込むとその体を引き裂き真っ二つに両断した。
「よっしゃまずは一匹」
直ぐに別の個体が襲いかかってくるがリザのメイルコアから放たれた弾丸がブラギドを貫くとその身を消し飛ばした。
「アンリエッタ少尉突っ込みすぎだ引け」
「俺に指図するんじゃねー、こんな奴等俺一人でも十分だ」
彼、いや彼女の放った言葉は強がりでも見栄をはっているわけでもなく、確かに敵の数を減らしていった。しかし、手薄になった艦がブラギドに囲まれる、サリドのメイルコアでは一対一が限度のため全てをカバー仕切れないが、ドロシーのバリアに阻まれ弾き返される。
「カナリア少尉いけるか?」
「はい、白雲」
「了解、ターゲットロック完了、出力安定個体13体まで捕捉いつでも打てマス、マスター」
「いっけー!」
カナリアの周りに魔方陣のようなものが出現し、その中から一斉に青い複数の閃光が放たれる。それはブラギドに命中するとまるで空気を入れすぎた風船のように破裂した。
「1から13までのターゲットに全て命中、対象の消滅を確認しました」
「す、すごいカナリアちゃん一気にあの数倒しちゃった」
近くでみていたドロシーも呆気に取られている。
「敵残存勢力4」
「よし、一気に畳み掛けるぞ」
大群だと脅威のブラギドも数が減るとそこまでの難敵ではない。
「敵アンノウンを全て撃墜」
「周りに他の敵がいないか調べて六太」
「了解……、半径10㎞以内に敵影なしクリアです」
「よし、任務完了だこれより帰還する」
こんな雑魚を相手にしてもなんの意味もない、マナと最後に戦ったアンノウンをなんとしても突き止める。
そのためにはもっと情報がほしい。カナリアが一番に思い付いたのは、先の戦闘でもあらゆる情報を解析していたリザの存在であった。
彼女なら何らかの情報が手にはいるのではないか、帰還したカナリアは直ぐにリザの部屋へと向かうことにした。
コンコン
部屋をノックするが返事がない、帰還してから彼女が部屋に入るところを見たのでいるのは間違いない、もう一度ノックをしてみる。
コンコン
やはり返事はない。
「居留守をつかうき?」
しかし、ここで諦めるわけにはいかない、私はなんとしてでもマナの所在をしりたいのだ。今度はノックと同時に声をかけてみる。
「あの、カナリアだけどリザいる?いるなら返事して!」
「…カナリア?驚いたあなたが訪ねてくるなんて開いてるわどうぞ」
ドアをゆっくりと開くが部屋の中は電気が付いてなく真っ暗で部屋に足を踏み入れた途端に何かに躓いた。
「いたた」
「あーごめん散らかってるから」
「さっきからノックしてるのになんで居留守使うのよ」
「ノックしてたの?音楽聞いてたから気づかなかった」
そう言う彼女の首には大きなヘッドホンがぶら下がっている。辺りは真っ暗で、唯一いくつものモニターの明かりだけが部屋を照らしていた。
「変な機械が一杯ね」
「機械が好きなの、機械は人と違って嘘はつかないし言われた命令は正確にこなす」
「そう、私にはよく分からないわ」
「まぁ分かってもらおうとも思わないけど、それより何?用事があって来たんでしょ?」
「一年前の事件の事が知りたいの何か情報は持ってない?」
「一年前の事件?あぁ、アンノウンとの戦闘で多くの被害がでたってやつ、そんなの調べてどうするの?」
「あなたには関係な…、いえ、少し気になることがあって」
「ふーんそう、まぁいいわ私が知ってることは教えてあげる」
そう言うと椅子をモニターの方へと回転させキーボードを叩き始めた。
「西暦2751年4月3日西にあるアドル山脈地帯で突如出現したアンノウンを迎撃するため出撃したが思わぬ反撃にあい、負傷者27名死亡者14名、行方不明者3名のルナトマ創設以来の大惨事となった」
「そこまでは知ってる」
「とはいってもこれ以上は公には公表されてないけど」
「他になにかないの?何でもいいの」
「なんでそこまで知りたいのか分からないけど、いいわちょっと待って」
数分何やらキーボードを叩いた後一言。
「よし、成功」
「何したの?」
「いや、ちょっと軍のコンピューターを覗き見するだけ」
「そんなことしたら、只じゃすまないわ」
「足がつくようなへまはしない、それにどうしても知りたいんでしょ?」
もし軍にこのことがばれればルナトマを解任されかねない、しかしせっかく掴んだチャンスを逃すわけにはいかない。カナリアは静かに頷く。
「えーっと何々、死亡したのはいずれもルナトマを援護する護衛部隊で行方不明となった三名はいずれもルナトマの隊員だった、1人カーナス・リスナー少尉、1人ユキナ・コトブキ少尉、1人トラマナ・リーツィア大尉」
「その3名についてもっと詳しく」
「カーナス・リスナー少尉、主に後衛で護衛する任務にあたっていた、父親が医者と言うこともあり彼女自信の医学に関する知識も高かった。ユキナ・コトブキ少尉、次席で卒業した彼女は特に格闘センスに優れており現場での活躍も大いに期待された。トラマナ・リーツィア大尉この年主席で卒業した彼女は、あらゆる教科でほぼ満点を叩きだし、彼女のメイルコアは普通のメイルコアの数倍の機能を備えていた、歴代ルナトマの中でもトップの実力者であったため、この事件での彼女の損失は大きい。負傷者の話を聞くと彼女らは負傷者を逃がすため最後まで残って戦ったとのこと」
「そんな…」
「尚、この戦闘で確認されたアンノウンはブラギドだけでなく巨大な個体が目撃されたらしい」
「巨大な個体?」
「えーっと、今までにも何体か目撃されているこの個体は非常に狂暴で、普通のブラギドとは比べ物にならない、画像は添付ファイルに付属しておく」
「見せて!」
画像ファイルを展開すると、ピントがあってないのか少し二重にボヤけてしまっているが巨大な何かが写りこんでいた。
「うそ、こんなものが存在するの?」
「我々はこの個体をXと名付けた。これらの個体はブラギドの母体とも言える存在で、この母体が発生源ではないかと推測される」
「Xこいつがマナを…、ありがとうリザ」
「あ、うんどういたしまして」
カナリアはそこまで聞くと部屋を出た。個体X私が倒すべき敵は見つけた、必ず見つけ出して見せる。