メイルコア
「よし、全員揃ったな」
「たいちょー殿、今から何があるんですかー?」
「キアリー・アンリエッタ少尉メールを送ったはずだが…、今からメイルコアの譲渡とその説明が行われる。決して上官殿に失礼のないように」
「はーい」
時間になると同時にドアが開き上官らしき人物が入ってきた、それと同時にヨハネを先頭に起立し敬礼をする。みた感じ60過ぎと言ったところだろうか、胸には勲章らしきものが多く飾られている。
「集まったようだな楽にしてくれて構わない」
初老の男性はそう言うと座るように促した。
「私の名前は、シュバルツ・ランドルフ中佐だ。まずは諸君らが栄誉あるルナトマに選ばれたことを心から歓迎しよう。さて、これからメイルコアを譲渡するわけだが、その前に我々の目的は何か分かるかね?」
「はい、正体不明の侵略者アンノウンから人々を守ることです」
「その通りだサリド・ヨハネ中尉、では奴等が何者か知っているかね?」
「数百年前、コアが人々に普及し始めたと同時に発生しだしたと聞きました。奴等の目的は不明で、周期的に現れては被害を及ぼすと聞いています」
「うむ、その通りだ。これがその写真だ」
スクリーンに一枚の写真が写し出される、私も見るのは初めてだった。写し出されたそれは、まさに怪物と呼ぶに相応しい姿をしていた。剥き出しの歯、全身腐っているかのような姿に思わず一同息をのんだが、カナリアだけは反応が違っていた。彼女にとっては初めて見る化け物と言うよりは親友を殺したかもしれない仇だからだ。
こいつがマナを…、カナリアはその画像を睨みつける。
「我々はこの敵対生物の名をブラギドと呼んでいる。ヨハネ中尉が言ってくれた通り、奴等が具体的にいつ現れ目的は何なのかは未だに分かっていない、ただひとつ言えることは我々人類の敵だと言うことだ」
「その為の対アンノウン組織と言うことですね」
「その通り、しかし普通の武器では奴等には歯が立たない、生半可な攻撃では、せいぜい動きを鈍らせる程度、それも凄まじい再生力でほとんど無意味だろう、そこで我々政府が開発したのがこのメイルコアだ」
そう言うと箱から球体を取り出した、カナリアは以前それを見たことがある、昔親友が見せてくれたものと同じもの。
「このメイルコアは、装着した者の身体能力を飛躍的に上昇させるだけでなく、奴等への決定的な攻撃手段になる。半端な攻撃をしても直ぐに再生してしまう奴等だが、それを上回る攻撃をすれば息の根を止めることが可能だ」
「それじゃあ皆それ使えばいいんじゃないですかー?」
「キアリー・アンリエッタ少尉、上官殿に失礼だぞ!」
「はは、よい確かにその通りだキアリー・アンリエッタ少尉、だが誰も彼もメイルコアを扱えるというわけではないのだ、メイルコアは、装着者の精神状態や意思の強さというものにひどく左右されるという性質があるのだ、装着者の波長が乱れればメイルコアも本来の力を発揮できないであろう、それともうひとつ、恥ずかしいことにまだ量産できるほどに至っていないのだ、数年に数台完成出来るかどうか、今回、君たち5人全員分のメイルコアは準備することができたので喜んでくれていい」
「それでは話はこれくらいにしておいて、早速譲渡へと移る」
一人一人手渡しでメイルコアを受けとる、まだ起動していないようで持った感じただの鉄のかたまりといった感じ、ずしりと重い。
「それでは今から一斉に起動するがそれぞれのメイルコアには人工知能が搭載されている、起動させたらまずは名前を決めるのだ。メイルコアはそれを読み取り君達の命令を聴いてくれるだろう」
「なんか、生まれたてのヒヨコに名前をつける感じだな」
「はっはっは、確かに間違ってはいないな、おっと動かす前に演習場へと移動する」
作戦会議室から演習場へと移動すると同時にピピっという機械音とともにメイルコアに動力が宿った。鉄の球体はどういう原理なのか、カナリアの手を離れると空中へと浮遊した。液晶にはPreas enter a new nameと表示されている。
「…」
しばらく考えたがなかなか決まらない、マナのメイルコアは赤雷だった…。
「白雲」
ポツリとそう呟いた。
「了解、コードネームを白雲で登録します。よろしいですか?」
「うん」
「初めましてマスターカナリア、私は白雲あなたの盾であり剣です。ご自由に命令下さい」
「ふむ、それぞれ名前は決まったようだなそれでは試しに武装命令を下して見るがいい」
「武装、昇龍」
「武装、黒死」
「武装、六太」
「武装、守理亜」
「武装、白雲」
「了解これより、通常モードから武装モードへと移行します」
メイルコアはその球体を変形させあるものは剣と盾に、あるものは大きな鎌に、あるものは銃にそれぞれ異なる形へと姿を変えた。
「はは、すげぇ力が溢れてくるぜ」
「あぁ、物凄い力を感じる」
「うまく適合したようだな、メイルコアは装着者のイメージにそって変形する。だから見た目も形もそれぞれ異なるのだ」
「あ?カナリアなんだそれ本か?それ武器になんのか?」
確かにカナリアの目の前に浮遊しているのは本だった。他の者たちのメイルコアを見ると到底武器とは思えない物だった。
「安心したまえ、どの様なものでもメイルコアはメイルコアだ、いざというときは、必ず君の役にたってくれるだろう。それではこれで譲渡は終了したものとする、各自、次の任務があるまで精進するように」
「はい!」
無事にメイルコアの譲渡が終わり一同は部屋に戻ることにした。これでやっと、正式な任務に付くことができる。そう思うと期待と緊張が心臓の鼓動を早める。
「早く実戦したいよなー」
「次の命令がくるまでは待機だ」
「はいはい、でもその前にもう一度だけ…、装着、黒死!」
「……」
「あれ?」
「演習場以外での装着は、上官の命令がない限り制限されています、マスターアンリエッタ」
「当然だ、ここは政府の施設内だぞ」
「んだよつまわんねーな、もうシャワー浴びて寝よーっと」
「僕は今日のレポートを書くかな」
「隊長殿は真面目だな」
「リザとドロシーはどうする?」
リザ「このあと特に用事はないなら、私はやりたいことがあるので失礼します」
ドロシー「この守理亜と少しお喋りしてみたいな」
「お前、機械とお喋りとか変わってんな」
「そ、そうかな?」
「カナリア、君は?」
「私が何をするか貴方に関係有りますか?」
「隊長としていざというときのために各員の行動は把握しておきたいのだけど」
「監視されたくありません」
「まぁまぁ、いいじゃん今日は特に何も無いんだし各自自由行動ってことで」
「それはそうだが…」
「失礼します」
「あ、またか…」
「隊長も大変ですね」
「地道にやっていくしかないかな」
部屋に戻るとベッドに腰かける。昨日と同じ光景、ただひとつ違ったのは目の前にメイルコアがいたことだった。