28. と【お知らせ】
仲良く並んだ、瓜が二個。じゃなくて、瓜二つ。
光沢ある深い緑色にも見える綺麗な黒髪の、サラサラでストレートな長髪と綺麗に切り揃えられたパッツンな前髪。
瓜実顔といったタイプではないが、将来は間違いなく美人になるであろう愛らしいお子様。
まだまだお子様ゆえに、身長差も体格の差異も殆どない発育途上のスラリとしてよく似た容姿。
そんな、お揃いの髪型をして双子と見紛う程にパッと見はそっくりな可愛らしい女の子が、二人。
俺の目の前に、仲良く並んで座っていた。
「...で、ね。私、最近の王都の社交界は、少し変だと思うの」
「うん。そうだね」
「あの女狐が王都に来てから、変に浮ついちゃって、ちょっと気分が悪いわ」
「あはは。キャサリンは、手厳しいね」
「だって、そうじゃない。馬鹿な殿方たちが鼻の下を伸ばしちゃって、見てられないわよ」
「あはははは」
「もう。真面目な話、シャルロットは、どう思う?」
「まあ。それは、確かにそうだね」
「そうでしょ。ホント、王国の重要機密を漏らしていないか、心配になって来たわ」
「う~ん。それは無いと、思うよ」
「そうかしら?」
「うん。キャサリンのパパは、優秀だよ」
「ま、まあ、そうだけど。でも、お父様だけで政治を全て動かしている訳ではないし...」
「我が国は、少数精鋭で政を動かしているから、貴族でも大多数の下っ端には大した情報を与えていないの。だから、大丈夫」
「そ、そうかな?」
「うん。大丈夫」
「でも...逆に言えば、一人でも重鎮を誑し込まれたら、駄目ってことじゃない?」
「キャサリンは、心配性だなぁ。我が国の重鎮は、皆、身持ちが固い人ばかりだよ」
「うぅ~ん。そうなのかも、だけど...」
他人の空似。では、ないな。他人が偶然に似ている、とは少し違うと思う。
女の子は化ける。とは、言えなくもないが、この場合はそれとも少し違う。
似ている所は、髪型と髪質と髪飾りと、軽くお化粧が施された肌色と髪色のコントラスト。
服装は、似た様なデザインだが同じではなく、色は違うが何となく似た配色で相似性がある。ので、敢えて雰囲気を揃えている、と考えるべきだろう。
所作や振る舞いが二人とも優雅で洗練されているのは、王族と高位貴族のご令嬢なので当然と言えば当然だが、これまた何やら申し合わせて意図的に双子感を醸し出しているに違いない。と、感じされる何かがある。
うん。年季の入った、二人で双子のフリごっこ、だな。
「...じゃない?」
「そうかな?」
「そうよ。私は、まだ十二歳だもの。十八歳のベアトリス公女と張り合うのは、少し荷が重いわ」
「そうかなぁ。キャサリンは、美少女だよ?」
「ま、まあ、否定はしないけど。あと、二年か三年あれば、たぶん、お色気でも勝てると思うの」
「うん、うん」
「でも、今の私では、社交界の全ての男性陣を虜にするには力不足。無理だわ」
「ええ~、そうかなぁ」
「そうよ。あっ、でも、シャルロットなら、出来るかも」
「あはははは。ボクには、無理ムリ。そんな柄じゃないよ」
「あら、そんなことないと思うけど」
「ホント、無理ムリ。ボクは、キャサリンと違って、万人受けするタイプじゃないし」
「ええー。私が美少女なら、シャルロットも美少女だと思う」
「あはは。ありがと」
「もお。私は真面目に言っているのよ!」
「まあ、まあ。けど、確かに、我が国の社交界には、アイドル的な女性の存在が足りないね」
「そうなのよ。私たち以降の世代と、お母さま達の世代は、割と華やかなんだけど」
「うん、うん」
「ライバルが少ないものだから、ベアトリス公女が増長しちゃうのよね」
「そうだね」
「でも。男性の方は、見た目だけなら、それなりのイケメンが何人か居るわね」
「おお~。厳しい審美眼のキャサリンちゃんのお眼鏡に叶う人材が、我が国には居ると?」
「そうね。見た目だけ、なら」
「あはははは。見た目だけ、なんだ」
「だって、あの人たち、脳筋なんだもの」
「うん、まあ、そうだね」
「そうでしょ。けど、まあ、脳筋からの情報漏洩はあり得ないから、良いのかな?」
「う~ん。まあ、持ってる機密情報は少ない筈だけど、小隊長クラスだと、それなりの権限は持ってるから野放しにはできないね」
「そうよね。だから、やっぱり、私たちがしっかりしないとダメ、なんだよ」
「うん。ボクも、キャサリンと同意見だよ」
「ありがと。でも...」
お揃いの髪型をしてパッと見はそっくりな、双子と見紛う程の可愛らしい女の子たち。
けど。よくよく見ると、二人は、全く違うタイプの女の子だと分かる。
元気溌剌の生意気盛りで「動」の王女様と、基本的に「静」だが吃驚箱のようにユニークな言動を繰り出すボクっ子の侯爵令嬢。
ご隠居様の孫にあたるキャサリンちゃんと、ご隠居様から親友だと紹介されたタウンゼンド侯爵家の末娘であるシャルロットちゃん。
俺は、目の前で、同じテーブルについてお茶している二人の三歳年下のお嬢ちゃん達を、ほけっと見るともなしに眺めながら、もはや自身の得意技として完璧に修得した感のある現実逃避の思考を展開していた。
ご隠居様の唐突な指示で、俺は、つい先ほど、またもや騎馬を飛ばして急遽の王都入りして、慌ただしく国王陛下との謁見を済ませたところだった。
しかも。翌日に開催される王家主催の夜会に必ず参加せよとの王命を受け、その準備に色々と課題山積み状態なので、全く余裕がなく追い詰められている。
にも拘らず。
これまた最近の決まり文句と化している、何故だか、という奴になるのだが...俺は、第一王女様とそのご学友である侯爵令嬢の二人だけで催されていた筈のお茶席に、強制参加させられていた。
偶然、庭でお茶している二人の近くの渡り廊下を通ったばっかりに...。
「ねぇ、ちょっと、アルフレッドおじ様?」
「...」
「アルフレッドおじ様、聞いています?」
「あ、ああ。勿論」
不運だ。理不尽だ。災難だ。
即座の開放を懇願したい心情一杯の俺は、無理矢理に着席されられて以降、全く会話に加わる事すら叶わず退席を乞う隙さえも見つけることが出来ずに、唯々只管に相槌を打つ首振り人形と化していた。
安定の、諸行無常、だった
何と言うか、もう、成るようになるさ、と乾いた笑いを垂れ流しながら開き直るしかない状況だ。
ははは。
いや~、今日も良い天気だなぁ...。
俺は、良く晴れた青空を見上げて、そっと溜息をつくのだった。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
ブックマークと評価、ありがとうございます。もの凄く、励みになります。
また、的確で親切な誤字脱字のご指摘に、感謝です。ありがとうございます。
お待たせ致しました。続編の掲載を、開始させて頂きます。
大変恐縮ですが、今後の更新は【改訂版】の方に掲載を一本化させて頂きたいと思います。
【改訂版】( https://ncode.syosetu.com/n4400fv/ )
お手数ですが、【改訂版】の方にもブックマークを、お願い致します。
引き続き、気長にお付き合い頂ければ幸いです。よろしくお願い致します。