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26.

 整地され土が固めらている、学校の校庭のような広場。それが、辺境伯の屋敷にある練兵場だ。

 見事に何もない、ただ単に、土が踏み固められた空き地のような場所。

 そんな辺境伯の屋敷にある練兵場に、俺は、自然体で立っていた。


 養父様による無言の圧力を受けて、俺は不本意ながら、騎士団の小隊長二人との立ち合いを行う事にした。

 まあ、あくまでも訓練の一環としての立ち合いなので、条件付きだが...。

 攻撃魔法は、なし。防御系の魔法は、基本あり。

 武器は剣。ただし、刃は丸めた訓練用の物を使用。

 勝負は、相手の武器を奪うか、相手の急所に剣を突き付ければ、勝ち。

 制限時間は、特になし。即ち、勝敗がつくまで、徹底的に。


 訓練時の個人戦としては、一般的なよくある方式、だ。

 我が国の騎士団に属する騎士は、攻守ともに魔法を使うのが普通らしいので、攻撃魔法もあり、とするのも一つの選択肢としてはあった。

 あったのだが、残念ながら、ここ、辺境伯屋敷の練兵場には、攻撃魔法の訓練を前提とした設備がないため、攻撃魔法はなし、となったのだ。

 ここ、辺境では、攻撃魔法をぶっ放したければ、荒野に行けばよいので...。


 閑話休題。


 この勝負、防御系のみとはいえ魔法に制限をかけなかった時点で、俺の負けは無くなった。

 とは言え、確実に勝てるとも言えない状況、ではある。

 見た目というか他者からどう見えているかに重きを置く格好付けなイケメン様たちではあるが、騎士団の小隊長になっているからには、剣の腕は一流だ。

 冒険者の自己流で尚且つ力押し一辺倒になりがち俺の剣では、かなり分が悪い。

 ここ数年はご隠居様にスパルタで鍛えられてはいたが、残念ながら、基礎から叩き上げの騎士の剣には及ばない、と思う。

 全くの魔法なしでの勝負であったならば、たぶん勝てなかった、と思う。

 だから。適当に誤魔化して、時間切れの引き分に持ち込みたい、などと考えていたのだが...。


 目の前で、赤髪の俺様イケメンが、吠えていた。

 呆れる程に、と言うよりは、思わず感心してしまうレベルで、猪突猛進。

 俺が展開する魔法障壁を、大剣で、唯々ひたすらに攻撃し続けている。

 一見すると我武者羅に、よくよく見ると正確無比に、様々な剣筋で全く同じ個所を、そうと見せずに一点突破ねらいの集中攻撃を、延々と繰り返している。

 脱帽、だった。

 いやはや、唯々感心するのみ、といった心境だ。


 一方で。

 青髪のクールなイケメン様は、剣を構えたまま、ピクリとも動かない。

 俺が展開する魔法障壁の状態が見えているのか、少し離れた後方で、目を細めてジッと佇んでいる。

 と思ったら、いきなり、殺気を放出。

 赤髪の俺様イケメンが、間髪入れずにスッと下がる。見事な連携。

 と同時に。青髪のクールなイケメン様が、気合いと共に前へ飛び出し、剣を振り切る。


 ピシッ。


 おお!

 俺の防御障壁が、一枚割れた。

 流石、騎士団の小隊長さん達、だ。

 一枚とはいえ俺の魔法障壁が割られた事など、俺の記憶には無い。

 無意識だとは思うが、剣に多少の魔法が付与されていた点を差し引いたとしても、大したものだと思う。

 ただし。俺の魔法障壁は、多重構造なのだ。

 つまり。一枚割れたとしても、あまり、大勢には影響が無かったりする。


 赤髪の俺様イケメンが、悔しそうに、ご隠居様を見た。

 青髪のクールなイケメン様も、無表情のまま、横目でご隠居様の様子を伺う。

 と。ご隠居様が、ニヤリ、と笑った。


「アル」

「はあ。分かりましたよ」


 イケメン様二人の剣筋など、ある程度は見切れた、と思う。

 勿論、彼らにも隠し玉の一つや二つはあるのだろうし、回避の動作については全くと言って良いほど見れていないので、ある程度の雰囲気が分かっただけ、とも言える。

 けど、まあ。訓練の一環という建前もあるので、剣を飛ばしてしまえば勝ち、という条件を上手く利用すれば取り敢えずは何とかなるだろう。たぶん。


 俺は、多重構造の魔法障壁を周囲に展開し防御力を維持したまま、俺の剣が通る空間に剣が通過する瞬間のみ隙間を開けるという使い慣れているがある意味では曲芸的な技を使いながら、剣を打ち込んでいった。


 * * * * *


 腐っても、騎士。

 いやいや、腐ってませんでしたね、この二人。失礼しました。

 若気の至り、って奴ですよね。可愛い子には、格好よく見られたい、という。

 仮に、このイケメン様二人がデキている場合でも、腐っているとは言わない。

 そうそう、このイケメン様二人がデキていると妄想する女子の方が腐っている、と言うのだそうだ。腐女子って奴?


 まあ。特殊な用語(?)の意味は、兎も角。

 流石、騎士団の小隊長さん達、だった。

 いつものように剣を魔法でブーストすればぶっ飛ばせた、とは思うが、人並み程度しかない俺の通常時の筋力では、筋肉モリモリと細マッチョな二人の剣を弾き飛ばすには役不足だった。

 かと言って、剣術など技で圧倒するには、圧倒的に俺の鍛錬が足りていない。

 と、色々なことを実感させられる状況、だった。

 つまり。攻撃は喰らわないけれど、こちらの攻撃も決定打に欠ける、という膠着状態。


 では、どう決着をつけたのか、というと...。

 日没による、時間切れでの引き分け、という奴だった。


 いや、はや、疲れた。

 もう、勘弁して欲しいよ。まったく。

 けど、まあ。容姿と服装で赤と青が入り乱れるイケメンなお二方は、取り敢えず、スッキリした顔をしていたので、良しとすべきなんだろう。

 筋肉モリモリな赤髪の俺様イケメンは、思う存分に暴れ回れて発散できたようでスッキリ。

 細マッチョな青髪のクール系イケメンは、何やら新発見と手応えを感じられたようでニッコリ。


 ご隠居様とリチャードさんは、何やらご満悦、だった。嫌な予感もするが、まあ、たぶん、及第点は貰えたのだと思う。

 アレクは、途中からいなくなった。が、特に小言を言われることは無い、と思う。思いたい。

 ラヴィニアさんは、途中から用意された女性向けのお茶席に座って、完璧な令嬢スマイル。うん、たぶん、怒ってはいない、と思う。

 侍女の二人は、対称的な表情だった。ミッシェルは、不甲斐ない、とお怒りの模様。エカテリーナさんは、楽しいものを見れてワクワク、と満足そうな感じ。

 パトリシア公女も、エカテリーナさんと同じく、わくわく顔だった。ご満足して頂けたようで何よりである。


 と、いう事で。

 骨折り損の草臥れ儲けと思っていたのは俺一人だけで、皆さん、それなりにお楽しみ頂けたようだった。ので、まあ、よかった良かった。と、思う事にする。

 こうして。辺境の地では今日も、平和な一日が終わったのだった。合掌。


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